100.屍界狂想 ネクロノワール 14
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「貴公を主軸にして皇国の悪魔を葬る作戦だが…」
宙を舞う巨体と、その周囲を飛び交う影の中の一つが巨体に近付き、泥水の様に淀んだ空に凛とした声を響かせた。
その影は少女の物であり、青髪であり、…そして碧い眼差しで冷たい視線をジークフリードへと向けていた。
「私の部下が早くも落とされた様だな。全く、情け無い。」
少女の声は、とても少女の物とは思えない程に冷たく辛辣であり、そして卑下に満ちていた。
その言葉に何を感じたのか、ジークフリードはフォローするかの様に答えた。
「仕方ないさ、突然与えられた技術を僅か数週間程度で物にして、しかも完璧に使い熟せだなんて土台無理な話だろう?」
ジークフリードの言葉に少女は舌打ちすると、あからさまに嫌気が混じった溜息を吐きながら答えた。
「ふん、私はこの通り使い熟しているが?……どうせ武勲を上げようと無茶をしたに違いない。」
そう言ってジークフリードの甲板に腰を下ろす少女の様子に、ジークフリードは乾いた笑い声を上げるしか無かった。
しかし、それでもジークフリードは前を真っ直ぐに向いて右腕の兵器錬成機構から撃ち出される雷の槍を撃ち続けていた。
「良いかい?これは聖戦の為の準備なんだ。…必ず奴を鹵獲し、僕では使い熟せ無かった『炎操作』を使い熟す手掛かりを得なければいけない。」
ジークフリードの言葉とは裏腹に、秘めたる覚悟や決意が存在する事を青髪の少女は見抜いていた。ーーーだが、感情で動けば死期を早める事もまた少女は知っていたのだ。
ーーー故に。
「ーーー分かった、貴公を失う訳には行かないからな。次は私が向かおう。」
少女が肩から離れると、背中に背負った飛行制御ユニットを動かして足や腰に位置する噴射器から波動の様な物を蒸して宙を自在に舞い始めた。
機能としては噴射器から放たれた魔力の膜が世界を掴み、移動の際に位相をズラしている…と言った物なのかも知れない。
全く、科学技術と魔導技術の融合とは恐ろしい物である。
そんな思考を隠したまま、ジークフリードは号令を掛けた。
「目標は『皇国の悪魔』の鹵獲!!全員進軍せよ!!」
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「……あね様を……殺したんですか?」
シグルドはその言葉に答えられずに居た。
ーーーと言うのも、そもそもシグルドが彼女から聞いた限りでは姉妹は既に死んでいた筈だが、今この少女が語る言葉はそれと矛盾していた。
自分は担がれたのか?いや、今それをする意味がない以上それは無いだろう。
では、先程からのリンムレの反応から察するに、恐らくは姉妹に似た何かが襲って来たのだと言う事。
そう推理するものの、シグルドには現在それをリンムレへと伝える暇が無かった。
何故なら…
「クッ!!……攻撃がまた激しく…ッ!!」
そう、先程一人撃破した事で上空からの砲撃こそ無くなった物の、より一層激しい雷撃が前方から、左右から、下から斜めからと襲い掛かって来るのだった。
「あっああぁ……嫌だ……いやだいやだいやだいやだ怖いやだ嫌嫌嫌嫌ぁ…」
コクピットの中から聞こえてくる声は、恐慌。
自身の死への恐怖故か。
はたまた知り合いの誰かが死んで行くこの世界への絶望故にか。
それとも両方か。
今まで必死に忘れた振りをして目を逸らし続けて来た恐怖が、狂気が、今まさにリンムレの心を蝕み、食い潰そうとして居たのだった。
ーーーシグルドは…、少し前の彼ならここで少女を切り捨てる道を選んだだろう。
しかしそうはならなかった。
一度本機の操作を自動回避に切り替えて、前方の連結器から放たれた青年は、コクピットへと這い上がり、風防を開いて無理矢理中へと押し入り、そしてリンムレの肩を掴んで揺すったのだった。
「聞け!!アイツは死んで無い!!………だから目を覚ませ!!」
青年の怒号の様な声掛けに、虚ろな瞳で視線を泳がす少女は…震える右手で青年の左腕を掴みながら言った。
「それでも…怖い…怖いんです…。」
「俺がいる………それでは駄目か?」
シグルドの言葉にも怯えが引かない彼女は、彼の頰を…右眼を撫でながら今までに見た事が無い様な妖艶さを思わせる表情で囁いた。
「右目を…ください。……シグくんの右目を…食べたら、少しは勇気が出るかも知れません…。」
やはり狂気に呑まれたままだった。
シグルドは躊躇いなく右目を引き抜き、血と油を撒き散らしながら彼女の口へと運んでいた。
普通なら有り得ない行為ではあるが…躊躇いなく行えるのは、この世界の異常さ故にと言えるだろう。
きっと、自我を持ってしまった人形達は、失った身体を埋める為の何かを求めているのだから。
「……んっ、………シグ……くん。」
「欲しいならなんだってくれてやる。…右眼も、他の身体もいつか補充すればいい。………だが、お前は居なくなるな、リンムレ。……お前が居なくなると、俺が困る。」
シグルドの言葉は、いつの間にか包んでくれた両腕は、リンムレの心を引き戻すには足り得た。
「……ごめんなさい、シグくん。……リンムレはもう大丈夫です。」
「そうか。」
シグルドは短く言って離すと、直ぐに前方の連結器へと戻って行った。
「制御取得。リンムレ、対抗策とやらはどうなった!?」
自動回避中にすっかりやられていた本体に、シグルドは自己修復機能に全力を尽くして居たのだが、リンムレが言っていた例の考えとやらを充てにしてみた所。
「大丈夫です。タイミングさえ間違えなければ…行けます!!」
いつの間にやら正確無比な雷の弾丸となっていた敵砲撃を受けながら、シグルドはリンムレの考えに身を任せて居たのだが…。
「良いですか?これを使用すると直線だった雷が乱反射になります!!………ですので使用後、一気に突撃してジークフリードを早期撃退する事を勧めます。」
つまり…
「この作戦はシグくんの近接戦闘能力が鍵になりますので、もし…」
シグルドはそれに対して笑って答えた。
「気にするな、どの道近付けないならジリ貧だ。………俺が一気に仕留める!!」
こうしてシグルドとリンムレの作戦が始まった。
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前方から、後方から、左右斜めから襲い掛かってくる雷の雨は常に正確だった。
ーーー故に、規則性のある雷撃を仕留めるならば。
シグルドの機体から放たれたミサイルの様な物が空中で破裂したかと思うと、鱗粉の様な物が空中に舞い散ったのだ。
鱗粉の中に吸い込まれた雷だったが、急に方向を変え乱反射し始めたかと思うと、熱融解を起こし、外へと放たれた熱線が幾つかのビットを焼き壊した。
「な……にっ!?……そんな馬鹿な!?炎のレーザーだと!?『炎操作』は僕が持ってると言うのに!?」
ジークフリードは見るからに狼狽えていた。
それもその筈である。
自分が喰らった筈の力を使い、逆に炎熱のレーザーで襲撃するなど有り得ない話だ。
仮に右手に炎のレーザーを持っていたとしても、自分の雷に邪魔をされて機能不全ないし破壊されて使用など出来た物ではない筈だ。
それでは先程の謎の爆発が原因と考えるのが正しいのだろう。
それが何かを考える前に、仇敵が眼前に迫っていた。
そして赤い光の膜に覆われて居たのだった。
「よぉ、親友。………逢いたかったぞ!!」
サブアームに補助される程に巨大で、大きく振りかぶった漆黒の剣がジークフリードに迫った時、その剣を受け止める者が居た。
「さぁせぇるぅかぁぁぁ!!!!!」
そのまま漆黒の剣を弾かれたシグルドは確かにその目で見た。
見てしまった。
「逢いたかったぞ、皇国の悪魔。」
それは小さい人だった。
「……貴様をこの剣の錆に出来る日を…どれ程待ち侘びた事か。」
それは青い髪に碧い瞳の少女だった。
「滑稽だな、帝国を焼いて回った貴様が、まさかその程度の膂力しか無いとはな。」
それはとてもとても聞き覚えのある声だった。
「だが貴様の命運も此処までだ。…帝国の空に散れ、皇国の悪魔よ!!」
シグルドの目の前に居たのは………
六式歩行戦機『燐夢・令式』だった。
終わらせる気が無いな?作者…。
………と言った具合に設定がどんどん生えて来てます。
誰か助けて下さい。




