99.屍界狂想 ネクロノワール 13
ーーー走る、疾る、奔る!!
空中を稲妻の網で囲うかの様に光の線が走る。
当たれば必殺の威力を誇る雷が空中を舞う巨大な影を襲うのだった。
巨大な影は反撃をしようとパルスレーザー・ランスを構えるも、それ自体がまるで避雷針の様に雷を吸い寄せて直接受けてしまう。
故にシグルドは武器を迂闊に構えられずにいた。やはり長物は雷相手には不利な様だった。
撃ち放たれた雷が真横を通り過ぎる度に肝を冷やすが、その大元である大型ビットを撃ち抜こうと時折構えたレーザーを放つシグルドだったが、どれも手応えを感じられず、寧ろ無駄撃ちをする度に此方の位置を絞られ雷を浴びせられる感覚を覚えるのだった。
実際、何度かショートしたのか意識が飛び掛けた。痛みを感じない身体と言うのはこう言う時程実に不便だ。
要するにだ、はっきり言って打つ手がない。
「クッ!!リンムレ…何か有効な…手段は無いか?」
反撃の手段が見付からず、青年は少女に向けて提案を呼び掛けるのだが…しかし、シグルドの頼みの綱からの答えは返って来なかった。
ーーーまさか、雷に打たれて気絶をしてしまったか!?
シグルドが後ろを気にしそうになったその時、声が聞こえた。
「信じてください!!私達は……リンムレ達は一連托生です!!」
その声を聞いたシグルドは、即座に前を向き、それならば自分に出来る事に全力を尽くす事とした。
それにしても、この短期間でこうも空戦能力を向上させるとは、やはり奴は帝国に身を寄せているのか?
此方とは段違いに戦闘力が増しているでは無いか。
…この際、ビットの存在を気にせず最高速度で飛び回り、奴の姿を探すか?
いや、それでは態々雷の嵐に身を委ねる結果となるだろう。それに、いざリンムレの作戦があった時、それを阻害してしまうのは得策ではない。
では、前方に向けてひたすらにレーザーを放つか?
それも却下だ。
此方が奴の位置を把握出来てない事がバレて集中砲火を受ける事となる。
そもそも長物で二又に先端の尖ったパルスレーザー・ランスは雷を集中させやすい。
却って逆境を招く事になるのは先程実践済みだ。
ーーーでは、どうするか?
回避に専念し、雲に紛れる…!
運良く撹乱に成功出来れば御の字だ!!
シグルドは思い立ったと同時に上空へと飛び上がった。
上から降り注ぐ雷撃はこの際数発程度なら覚悟しよう。
それよりもまずは高度を上げ、ビットに寄る攻撃の進路を絞る事を目標とする。
それでも空から降り注ぐ雷の雨の方は防ぎ切れる物では無く、此方の巨体を砕いていった。
だが、高度を上げる度に明らかに光の束は上から横、横から斜め下からの物と段々と少なくなっている。
ーーー行ける!!
まずは上空のビットを削げば或いは制空権を確保出来るかも知れない。
そうしてシグルドが遥か上空、雲の上に出た時………
ビットの姿は見られなかった。
「……どう言う事だ?」
それでも尚、上空から降り注ぐ雷の柱に、シグルドは為す術も無くただ打ちのめされて居た。
「シグくん…」
震える声で、語り掛けるリンムレにシグルドは耳を傾けていた。
「どうやら、判断を間違えた様です…。」
少女の声を聞きながら、シグルドは眼前に迫る影に向けて槍を突き上げて居た。
「大型ビットに混じって、数機程…飛行する物体が居ます!!」
シグルドが打ち払った影は人の形をして居た。
人の形のまま空を飛ぶ部隊………。
機械のバックパックを背負い、魔力を介して宙に浮き、魔法に寄る身体制御とバックパックのブースターに寄る推進力で宙空を支配する脅威。その手に持った武器にはやはり魔力を通して威力の上昇や遠距離広範囲破壊等、自由の効く殺戮方法を披露してみせる空の王者。
魔導兵団……と言う非現実で仕上がった部隊だったのだ。
「………生きた人間……だと!?」
今現在シグルドが打ち払った敵の正体とは、科学と魔法を織り交ぜた部隊。
恐らく、ジークフリードに寄って持ち込まれた空戦技術から作り出したのだろうか。
生身の人間が空を飛び、一騎当千の実力が有るからこそ機械で出来た兵器にも勇猛果敢に立ち向かえる異常にして異形の存在。
非現実を信じられたのは、そもそも自分自身が非現実の産物であるが故にか。或いは屍喰機動核が語り掛ける知識故か。
現に、ひとたび振るえば分厚い鋼板を容易くへし折るだろうシグルドの槍の一撃を受けて尚、既に態勢を持ち直し、雄叫びを挙げて再度青年へと向かって来るのだ。防御的にも魔力と言った物で固めているのだろう。
魔導兵団の…人の大きさであるが故に、戦闘機と融合した戦機と呼ばれる今のシグルドの巨体と比べて遥かに小回りの効く動きを見せている。
空を自由に飛び回られては攻撃が中々当たらない。実に厄介な相手である。
機械に寄る支援を受け、自在に飛び回る敵の姿はリンムレと年の近い少女に見えた。
金色の髪に緑の瞳、血色の良い頰からは育ちの良さを感じさせる気品さが感じ取れた。
はっきり言って異常である。
この何もかもが終わった世界において、何も終わって無いかの様な、寧ろ別の世界から来た様な五体満足で健康的な様相はいっそ気持ち悪さすら催させるのだった。
そして皮肉にも、敵の少女は余裕を見せる表情でシグルドの側面を飛び回り続けて居たのだ。
「えっ!?あれ……どういう…」
………?
敵の姿が把握出来た途端にリンムレの様子がおかしくなったのを感じた。
明らかに呼吸がおかしく、両眼の焦点が合っていない。
………気にはなるが、今はとにかく敵に集中するしかない。
だが、流石にここまで真横に肉迫されてしまうと、さしものシグルドと言えど、容易に攻撃が当てられる物では無い。
敵の少女が手に持つコンバットナイフの様な物に、装甲を削られ、千切られ、更にはグレネードを投擲され、破裂し装甲を抉られ、大分押し込まれて来た事でシグルドは一つの賭けに出る事にした。
「悪いがリンムレ…暫く機体を任せる。」
「……!…何を…するつもりですか?」
「決まってる!迎え討つ!!」
前面部から離れ、右腕のパルスレーザー・ランスを本機サブアームに預けたままで飛び出したシグルドは、右腕に新たな武器を精製していた。
いや、正しくはその精製した武器を左手で抜き放ったのだ。
「精製…クロムブレード・セット!」
電気を通し難いニッケルクロム鋼の剣だった。二度焼き戻しの状態を再現しており、脆性を緩和した状態の為、多少の継戦効果は得られるだろう。
更に追加でもう一振り精製すると、今度はそれを右手に持った状態で二刀流の構えを見せた。
本機の上に立ち、襲い来る少女に向けて挑発する様に剣先を向けると、少女はどうやら誘いに乗ってくれた様だった。
「なんのつもりか知りませんけど…空中戦で私に勝てるとでも!?」
挑発する様に剣の先端をクイクイと縦に振るシグルドに、流石に生身での近接戦闘に関しては一日の長が有ると判断したのだろうか?
それとも余計なプライドが空中での接近戦に於いて敗北を許さないと駆り立てたのだろうか。
いきり立ち突進してくる飛行魔導兵の少女に対して、シグルドは剣を横薙ぎに振るった。
すると此方の頰を切られたのだが、少女の二の腕にも赤い線を作ってやれたのだ。
「中々やりますわね…それなら近付かずに牽制すれば良いだけの事!!」
「…遅い!!」
傷を負った事で頭が冷えたのか、一度距離を置き、冷静に対処しようとする敵の少女の背後には既にシグルドが飛び掛かって居たのだった。
シグルドが左の剣を一薙ぎすると、少女は反応が遅れたのかその一撃を受けてしまった。
だが、真面に受ける事だけは避けたのか、少女は攻撃が当たる瞬間に前方へと身体全体で屈むと、シグルドの剣撃は背中を覆う機械だけを、まるでバターを切るかの様に険呑な金属音を撒き散らしながらいとも容易く真っ二つに破壊したのだった。
「このっ!!……覚えてらっしゃい!!……悪魔め!!」
そんな悪態を吐きながら、少女は地面に向かって雲に吸い込まれて行ったのだが、途中、空から飛来した大型のビットが少女に向けて落ちて行った……いや、意思を持って飛んで行ったのを確認した。
恐らくは背中のバックパックでは無く、他に魔力を操る媒体が存在するのかもしれない。
つまり、殺せなかったと言う事は次期にまた敵対する可能性が有ると言う事だ。
シグルドはしくじった事を後悔しながら、そして反省しながら眼下の暗雲を見守って居たのだった。
「しかし…俺にこんな事が出来たとはな…」
腰に推進、または飛行用のブースターを、肩と足からは推進用のスラスターを生やして燃料を焼き尽くしながら宙空を自由に飛び回って居たのだが、再度放たれた雷の帯を避けた事で現実へと引き戻された。
先程までは空気を読んでくれたつもりか、または同士討ちを避けたのか、雷の嵐は止んでいたのだが、現実は甘くない。
すぐにリンムレが待つ本機へと向かったシグルドは、本機に接続したと同時にリンムレから問い掛けられた。
「……シグくん……あの人は…?」
「今はそんな事より戦闘準備だ!」
リンムレの意図が分からないシグルドは、とにかく継戦の意志を示したのだが…
「答えて下さい!!」
少女の気迫に気圧された。
「あの人は……殺したんですか…?」
少女の声は雷の轟音の中においても凛と響いて聞こえて来た。
「……あね様を……殺したんですか?」
リンムレの瞳は、恐怖と悲哀と、…絶望に彩られていた。
本当なら巻きまくってここで終わる筈だったセシル君こと、シグルドの過去編、ネクロノワール編
まだまだ続きます。
本当にごめんなさい。




