98.屍界狂想 ネクロノワール 12
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一ヶ月が経ち、改修が完了したシグルドは、修行を始めて以来初めて工房を訪れた。
師匠と名乗る男性は、いつからだったかシグルドの修行から離れ、何処ぞへと旅立って居たのだった。
故に、その後は一人で練度を上げる為に修練を積んで居たのだが…一ヶ月経った頃に、リンムレに寄って呼び出されたのである。
急かすリンムレに腕を引かれて工房に任せ切りだった本体前にやって来たシグルドは、以前より一回り程大きくなっていたその戦闘機を下から眺めて居た。
「シグくんシグくん、これが私達の新しい身体ですよ!」
はしゃぐ少女に無表情で溜め息を吐きながら対応するシグルドは、横から掛けられた声に振り向いた。
「よぉニイちゃん。これが俺様と嬢ちゃんの共同作品ってヤツだ。どうだい?」
シグルドはリンムレの頭を片手で抑え込みながら静かに答えた。
「悪くない…が、大きくなればなるほど的になり易く、脆くもなるのだが…何か対策はあるのだろうか?」
「はっはっは!あったぼうよ!コイツにゃあ現在の技術じゃ机上の空論ってヤツだったシステムが組まれてる。俺様は其奴を利用してある装置を取り付けた訳だ。まずはお前さんの屍喰機動核は…」
レオンが自慢気に語るその横で、いつの間にか開放されたリンムレがシグルドの耳元で囁くのだった。
「分かりやすく説明すると、本機には武器の自動精製機能が搭載されていました。シグくんの右腕と連動されていたのですが、精製機能のデータは奪われ無かった事が幸いしたので今でも使えます!…それから、本体に射撃武器が搭載されました!…これは支援用で、主に私が使いたいと思います!」
ふむふむと腕を組んで頷くシグルドに、レオンは「そりゃ無いぜ…」と、少し項垂れるのだったが、まぁそこはスルーと感謝の方向性で。
とにかく、シグルドは一回り大きくなった自分の身体を撫でると、ギラリとした表情を浮かべながら言うのだった。
「これなら……これなら腕を…炎を取り返せる!!……レオン、有り難く使わせて貰うぞ!」
意気込むシグルドに首を横に振って項垂れるレオンは、気を取り直してこう尋ねたのだった。
「おっと、ニイちゃん!一応ニイちゃんは共和国の所属になるんだ。コイツのコードはどうする?前のままか?それともコッチで決めちまって良いか?」
シグルドはふと、その言葉に少し考えるも、やがて諦めたのかレオンへと委ねた。
「前のままだと皇国が俺の所有権を主張するだろう。それを理由に襲撃もあり得る…が、現状は余り変わらないか。……だが、それでもレオンに名付けて欲しい。俺にはセンスがないからな。」
リンムレが地味に恨めしい視線を向けて来るが、もう一度頭を片手で抑え込むと、レオンが新しいコード発行の手続きを行ってくれた。
「へっへっへ、ニイちゃんは今から「穿孔式機動戦機『シグルド』」だ。ずっと近接戦闘を訓練して来たんだろ?お似合いだぜ?」
「いや、話を聞いて居たか?…前と同じ名前は…」
その言葉にリンムレがシグルドの腕を煤けた右手で触れて居た。
「ニイちゃんよぉ、名前ってのは意味の無いもんだって思ってねぇか?……まぁ確かに一度失っちまったニイちゃん達にゃそう思っちまうかも知れねぇが、そこの嬢ちゃんの気持ちも組んでやったらどうだ?」
レオンの言葉に、リンムレの潤む瞳に、シグルドは…。
「……分かった。どの道襲撃は免れ無いからな。……ならばせめて皇国からも帝国からも、守る為にこの力を振るおう。」
シグルドの言葉にリンムレはキョトンとしていた。
つい先日まで、シグルドは皇国も帝国も、自分達をこんな風にしたこの世界の全てを滅ぼすつもりで居た筈なのに、一体どう言った心変わりなのだろうか?
その理由の一つが自分自身である事も分からないまま、少女は青年の決意に寄り添ったのだった。
「………とは言え、ジークフリードから炎を取り返さない限り、この国はいつでも焼き払われる危機に在る事は事実だ。……出来れば首脳陣にジークフリード討伐の許可を得たいのだが…」
共和国、王が居ないとは言え最終的に決定力を持つ者が必要なのは当然の事である。
かと言って民主主義国家と言う訳でも無いので、首脳陣を立てて国の方針を示す人物達は必要なので、こう言った機関も存在する。
最も、地球に於いても共和国で世襲などによる君主が存在する国は在るのだが…。
それはさて置き、シグルドはこの国付きの戦機となったのだ。
故に勝手な行動は国を滅ぼす事になる。
そうなると、シグルドには今後とも自身の改修や修理を行ってくれる寄る辺が無くなってしまうのだ。
だからこそ、指示を受け入れ戦う事を視野に入れて、進言という形でレオンに伝えたのだが…。
「上が何を考えてるのか、自由にして良いらしい。ニイちゃんよぉ…どんなまじないをしやがったんだ?」
ーーーー知る訳がない。
「どうやら世界は俺に戦えと命じているらしい…。それならば応えるだけだ。」
シグルドの決意を余所に、レオンは軍用トラックの様な物に乗り込んで居た。
「レオン…?なんのつもりだ?」
シグルドが訪ねると、半機の中年男は工房内に大きなエンジン音を轟かせてニカリと笑って居た。
「そりゃお前、ニイちゃんがやられっちまったら誰が回収するんだ?そうじゃ無くてもお前さんの修理が出来んのは俺様だけよ。………分かったら俺様と通信は常に開きっ放しにしときな!」
「……監視のつもりですか?」
リンムレの質問に同意し、思わず溜め息を吐いてしまうのだが、レオンは構わず豪快に笑っていた。
「ガッハッハ!そうカリカリすんなや!俺様はニイちゃん達に死なれんのが気に食わねぇだけさ。」
この男の暑苦しさにはどうにも着いて行けないのだが、気の所為だろうか?
ーーー嫌いではない。
「まぁいい…行くぞ、リンムレ!」
「はい!お任せください、シグくん!」
リンムレが本体へと乗り込み、シグルドが前身部に身体を装着させると、その金属の塊は大きく唸りを上げて大空へと飛び上がったのだったーーー。
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「なるほど、奴からの宣戦布告が有った…と。」
空を飛ぶシグルドとリンムレは接敵迄の間、少し会話をしていた。
共和国での出撃が容易だった理由は、単純にジークフリードからの宣戦布告と、断った場合、空中から共和国内へと絨毯爆撃の用意がある…と言った脅迫が有ったからだった。
ジークフリードの存在が国力の低い共和国から見て、内容の正確性を高めていたのだ。
「……シグくん、これが終わったら……リンムレに教えてください。……彼と、何があったのかを…」
その声は、切ない影を潜めて居たのだが…シグルドは短く返した。
「奴を討たねば聞けなくなる。」
シグルドの不器用さに多少は慣れた少女は、大人しく自分の役割へと戻る事にした。
リンムレはシグルドの右腕の位置情報を、『炎操者』の波形を、見失っては居なかった。
地平からの追跡だったので、距離感に不安は有るものの、近付いて来たら流石に気付かないと言う事は無かった。
問題はーーー。
「シグくん、悪い情報と良い情報が有ります。聞きますか?」
相棒からの問い掛けに、シグルドは頷き返した。
「悪い情報…ですが、腕はどうやら帝国に渡ったみたいです。」
シグルドは聞きながら右腕を巨大な二又の槍とライフルを合体させた様な武器へと変化…否、精製させた。
それは熱光線を放つ事が出来る光子線戦槍、パルスレーザー・ランスだった。
リンムレが操るサブアームと繋がっているのだが、これは過重による動きの制限を避ける為に、補助として彼女の協力を得た事でより正確に空中での照準を向上させている。
彼女云く、「初めての共同作業ですね?」だそうだが、そもそもシグルドの核にリンムレの核を横付けで固定し、同調させ、これまでも共に戦って来た事を指摘すると顔を真っ赤に染めて拒絶されたのはどう言った意図が有るのかをシグルドは未だに理解して居なかった。
さて、話を戻そう。
リンムレの悪い報告に無言を貫くシグルドだったが、更に少女は続けた。
「次に、良い情報ですが…」
リンムレの言葉に顔を上げ、続く言葉に胸の鼓動が高鳴るのを感じた。
「ジークフリードが高速で真っ直ぐに此方に向かって来ます!!」
次の瞬間、相手の機影も見えない内にシグルドは遥か遠方へと右腕の槍を向けて、光の線を撃ち放った。
そして数秒後、雷の槍が自分目掛けて飛来したが、間一髪のところで避ける事が出来た。
リンムレの反応が実に良い。
大まかな動きは自分が、周囲の状況に合わせた細かな姿勢制御をリンムレに委託したのが功を奏したのだが、彼女はどうやらシグルドの動きを阻害しない様に立ち回ることが出来る様だ。
これは以前から度々本機制御を任せていたからだろうか?
とにかく回避に関しては彼女に委ねても良さそうだ。
しかし、現実はそう甘くは無かった。
自分へと飛来する数多の雷の線は、シグルドを撃ち墜とそうと何度も何度も何度も何度も、轟音を立てて、光は音を置き去りにして、四方八方から縦横無尽に殺意の光が襲い掛かったのだ。
そして何より………
突然、ジークフリードの反応が複数に増えたのだった。
「槍をやめて雷の放射に切り替えた…?……リンムレ!!」
「分かってます!!現在索敵中!!」
前方から来る筈の雷が上から下から、横かと思うと背後から。
シグルドは何が起こっているのか理解出来て居なかった。ただただ回避と防御に専念する事しか出来なかったのだ。
何度か雷に撃ち抜かれて、遂にリンムレは発見した。
「シグくん!!分かりました!!」
ーーーリンムレが発見したなにかとは…。
「敵は高性能の支援機………念動式大型ビットを複数機用いて雷撃を放って来ます!!」
………なるほど、此方と相性の悪い武器を使ってくれる訳だ。




