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4人は運命に導かれる。

 4人は部屋へと入り、各々ベッドやイスに座る。

 さてどこから話すべきかと、しばらくの沈黙のあと、サティスが重い口を開いた。


「まず最初に言わせていただくと、セトとヒュドラは勇者一行のメンバーでした」


「え、セトも!? いや、少年兵が勇者一行の中にいただなんて」


「それだけではありません。私は、その勇者一行と戦っていました」


「戦ってたって……え? アンタ敵だったの?」


「えぇ、元魔王軍幹部です」


「……アンビリ~バボ~」


 スキットルを取り出し、中の酒を呷るように飲むグラビス。

 そしてベッドの上でふたり並んで座るセトとサティスを見ては、奇なる現実に関心を寄せた。


 殺し合う間柄がこうして愛し合うようにしているのだから無理もない。

 彼女の中にある動揺と関心に目を配りながらも、サティスは冷静にこれまでのことを話した。


「なるほど、ベンジャミン村に辿り着いたけどそこにヒュドラが現れて……あ~、そういう風に繋がっちゃうわけだ」


「そしてアンタはあのリョドー・アナコンデルの知り合いってわけか。なぁ、やっぱり気になるんだが、アンタとリョドーってどういう関係なんだ? 親子じゃないみたいだけどさ」


 ずっと気になっていたことだった。

 セトは勿論、サティスも純粋な興味があり、ヒュドラに至っては師も同然の人間であるから知りたくもなる。


「わかったわよ。────アタシの母さんとおじさんはね、一緒に戦った仲なのよ」


「アンタの母親は、兵士かなにかだったのか?」


「兵士ではない。だけどそれに近いことはしてた。母さんはおじさんのこと好きだったみたいだけど、家の都合で結婚はできなかった。だけど、そのあとも良き友人としておじさんは母さん、そして父さんとも仲良くしてくれた。……生まれてきた私ともね」


 グラビスは酒を飲みながら過去を語る。

 リョドーと関わる中で様々な武勇伝を耳にしただけでなく、実際にその腕も目の当たりにしたこともあった。


 森で遊んでいたときに魔物の群れに襲われ、間一髪のところでリョドーが魔道ボウガンを駆使して助けてくれた。


 まさにこの瞬間こそ、グラビスの方向性を決定づけることになる出来事だ。

 身近な人の強さとかっこよさに強い憧れを持ち、自身も力を持とうと奮起し始める。


 もっとも、リョドーからすればそれは望まぬ未来であった。

 戦士としてでなく、ただの村娘として幸せになって欲しかったがそれは叶わない。


 母親が病死し、リョドーが旅に出てしまってからは父親と折り合いが悪くなり、彼女は自分の力で食っていく道を進んでいった。

 当時18歳で、幼馴染であったレイドは大分前に王都へと移住していたこともあり、特に村に残ることに未練はなかった。


「……────とまぁ、軽~く説明するとこんな感じよアタシの過去は。面白かった?」


「ハードだなぁ」


「アンタほどじゃないわよセト。少年兵って初っ端から人生ハードモードじゃない」


「恐らくな。で、俺は赤砂漠の民ってアンタから聞いた。自分のルーツには少し興味がある」


「なるほどね。だけど砂漠は今立入禁止区域に指定されてるから確かめに行くのは無理よ。今じゃあの砂漠は、ウェンディゴが大部分を占領してるって噂もあるし、行かないほうがいいわ」


 セトは素直に頷くが、内心少し諦めきれないでいた。

 ただ純粋に知りたいという思いが、心の奥底で光を放っている。


 それはセトの内側にある冒険心を細やかにくすぐっていた。

 観光もいいが、そういう謎を追い求めるのも悪くないかもと。


「こうして見ると不思議だな。ひとりひとりバラバラだと思ってた人生が、実は程度の差はあれ、結び合ったものになっているというのは」


 ヒュドラは少し嬉しそうな顔で呟く。

 ベンジャミン村で多くを学んだ彼女であっても、こうした外での学びは実に新鮮であった。

 そこはセトと気が合うかもしれない。


「ねぇ、ヒュドラ。アンタも村にいたのよね。おじさんとも話したみたいだけど、アタシのこととかなにか言ってなかった?」


「……いや、あまり多くを語らない御仁であった。必要なことだけを教えて、それ以上は話さない。少し気難しい人でもあったかな」


「そう……まぁいいわ。ちゃっちゃと魔剣ゲットして会いに行かないとね!」


「……そいう言えば、バーでも少し話してましたね。魔剣の情報を手に入れたようですが」


「そうなのよ! 王都から北東にある山の麓に『白銀都市』って場所があってね。そこにアタシの求めてる魔剣があるって噂よ!」


 グラビスは勢いよく立ち上がり、目を輝かせる。

 そこは今よりもずっと高度な文明を持った建造物が立ち並んでおり、長らく冒険者たちが目を付けている場所だ。


 しかし、白銀都市に足を運んで戻ってきた者は誰ひとりとしていない。

 凶悪な魔物がいるのか、それとも未知なるパワーが働いているのか。


 深淵なる危険を孕んでいる、まさに地上の異界であり、その雰囲気が多くの者を虜にしている。

 グラビスはそこへ乗り込もうというらしい。


「魔剣手に入れるついでにお宝あればごっそり持ってこうかなって。大丈夫よ。アタシには魔道ボウガンもあるし」


「ちょ、待ちなさい。ひとりで行く気ですか? そりゃ……危険な場所とは思ってましたけど、まさかあの白銀都市だなんて。たったひとりだなんて危険過ぎます」


「え、もしかして手伝ってくれんの?」


「う、それは……」


「いいんじゃないかサティス。俺も最強の魔剣って聞くとちょっと気になるんだ」


「セトまで……。ハァ、わかりました。ですが、本当に危ないとわかったらすぐにでも逃げること。それが条件です。ひとりで突っ走っても私たちは置いていきますからね」


「オッケーいいよ。ねぇ、ヒュドラはどうするの?」


「私か? 協力したいのは山々だが、まだ魔王討伐の旅の最中でね。明日にもここを発つんだ」


「俺たちと一緒に旅は無理なのか?」


「ごめんなセト。私の旅は旅行とは違う過酷なものとなる。一緒に観光を楽しめればよかったんだが……」


「そうでしょうか? 実を言えば、私たちも魔王軍と戦う宿命にあると考えているのですよ」


「なんだって?」


「バーでは話しませんでしたが、ウレイン・ドナーグの街で魔王軍との戦闘がありました。その際に我々はセベクというセトと同じ魔剣使いに出会っています」


「セベクだって!?」


 ヒュドラは驚いたように立ち上がり、その背筋に嫌な汗を噴き出させる。

 セトが勇者一行から抜けてから数日後に遭遇したゴブリン部隊にいた男だ。


 一度も刃を交えてはいないが、戦う前から感じたあの重厚な圧力に勝機を見出せなかった。

 そのセベクとセトが戦ったと聞いたときには思わず舌を巻く。


 セトの圧倒的な破壊力とスピードはピカイチであったが、それでも決定打は与えられず、次に持ち越されるように戦う宿命を背負ってしまった。


 もしかしたら今後セベクと戦うかもしれない。

 それは同時に魔王軍とも戦うことを意味する。


「……そうだったのか。まさか、ここであの男の名を聞くことになるとは」


「そのために俺は試練を乗り越えて強くなった。死に掛けたけどな」


「フフフ、死に掛けたか。私もだよ。ベンジャミン村で何度も死に掛けた。あれは今までで一番きつかったな」


「あー、和やかムードのとこ失礼。で、結局どうするのアンタ。行くの行かないの?」


 グラビスは真剣な目付きでヒュドラを見る。

 ヒュドラは考えたあと、自身も同行することにした。


「セト、君たちの旅に同行するかについては考えさせてくれ。明日発つ予定だったが変更しよう。とりあえず白銀都市には同行させていただく。いわゆる、お試し期間というやつだ」


 こうして、セトたち4人は明朝に白銀都市へと向かうことを決めた。

 セトからすれば、ダンジョンという概念に等しい場所だ。


 かつての勇者一行とは違うメンバーにセトは心を躍らせる。

 ヒュドラも自身の宿屋に戻り、明日の準備をしにいった。


「危ないところにまた首突っ込んじゃいましたねぇ私たち」


「でもほっとけないさ」


「さっすがセト。アンタの好感度今バク上がりよ」


(表情コロコロ変わるなぁ)


 こうして3人はベッドで眠り、明日のために身体を休めた。

 目指すは白銀都市という初のダンジョン。


 これまでもとんでもない敵とは戦ってきた。

 セトは勿論、サティスにも不安はなかった。


(おじさん、アタシ……おじさんみたいな英雄になれる、かな? 無理かなぁ。こんな性格じゃ。だけど……やっぱり諦めきれないよ)


 ただひとり、グラビスは内心に不安を抱えていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] > 君たちの旅に同行するかについては考えさせてくれ。 ~ 私も同行する。 なんだかモヤるんで、「私もとりあえず同行する。」とか「私もひとまず同行する。」とか、仮の同行であることを明示す…
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