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世界一の大都会、王都『ラーウ・ホルアクティ』

 もうすぐで着くということで、3人は再度集まり、その間に他愛のない話に花を咲かせる。


「へぇ、サティスって物知りなのね。呪弓術知ってるなんて今どき珍しい」


「えぇ、聞いたことがあります。ある部族に伝わる呪いの術の一端だとか。矢に呪いをかけることで、たとえ掠り傷であっても、相手を死に導くことのできる術で、別名『死神の狼煙』とも言われてますね。人間は勿論魔物にも効果テキメンだったはずですので、たとえ急所じゃなくとも当たれば……」


「そう、当たればポックリあの世行きってわけ。ただ、弓はアタシの趣味じゃなかったから、お手製の魔道ボウガンを作ったのよ」


「お手製って……アンタ、自分で武器を造ったのか? すごいななんでもできるんだな」


「なんでもってわけじゃないけど、昔から手は器用だったしね。通常の魔道ボウガンと比べて軽量化は勿論、呪いの棘を装填してキチンと発射できるように口径も小さくしてあるから、素早く抜いて撃つにはうってつけなのよ。普通の弓矢よりも早く、既存の魔道ボウガンよりずっと精密な射撃ができる。どーよセト、アタシ超カッコいいでしょ?」


「……アンタみたいなの、プロって言うんだろうな」


「お、わかってるじゃん色男。あとでお姉さんがハグしてあげる」


「え、ハグって、こうギュッてする……────」


「セト、そういうのにいちいち反応しないように。アナタもセトをからかわないで。本気にしちゃいますからこの子」


「アッハッハッハッ! いーじゃんハグくらい。あれ? もしかして妬いてるんじゃ……あ、ごめんごめんごめんごめん、殴ろうとしないで。アンタめっちゃ怖いんだけど!?」 


 そして昼が近くなった頃に王都が見えてきた。

 巨大な城塞都市であり、世界一の大都会だ。


 河川港に停泊した船から降りるセトたちは、馬車に乗って王都まで行く。

 セトが所属していた王国よりもずっと栄えており、都市を囲む城壁は天高く、近づくにつれてそれは大きく映った。


「さ、サティス! でっかい壁だ! すごいぞ、俺のところよりずっとデカい!」


「ほらセト、騒がないの。もうすぐで着くんですからお行儀よくしてください」


「そう固いこと言わなくていいじゃない。────この王都『光の主人の船(ラーウ・ホルアクティ)』は世界で最も文明が進んでる場所。観光名所は勿論、グルメに娯楽となんでもありよ。色んな冒険者や商人たちも訪れるから流通なんかはほかの国の比じゃないわ」


「そうなのか……ぐ、グルメ……食い物……ッ」


「フフフ、セトったら食い気が強いこと」


「し、しょうがないだろ……想像してたらなんか腹減ってきて」


「お、じゃあ食事? 食事しちゃう?」


「なんでアナタまでウキウキなんですかね?」


「だってアタシ、ホラ、無一文! それにぃ~、手伝ってくれるんでしょ? だったらさぁ」


「いや、王都まででしょ!?」


「そんな薄情なこと言わないでさぁ~。お金、いっぱい持ってんでしょ? 誤魔化してもダメだからね。アタシ、金持ちには鼻が利くの。ねぇ~いいでしょ~? 宿代だってひとり分増えるだけじゃ~ん」


 グラビスが向かい側のサティスにすり寄る。

 それを暑苦しそうにしながら表情を歪めるサティスは、それを手で押しのけた。


「あのですね。私たちは、ゆっくりしてたいんですよ。……そりゃあ、それが中々できない理由も確かにありますが、それでも、荒事を好んで引き受けたいとは思っていないんです。アナタのように荒事に向かおうとするのは好みません。魔剣探しはきっと危険なものでしょう。ならご自身でどうぞ」


「……そういうことだったら、しゃーないか。じゃあアタシは魔剣探し、アンタらは王都でゆっくりと。それでいい?」


「大変よろしい。それと王都にはどれくらいいるかはまだ決めてませんから、私たちが宿を去ることになっても、お金の工面はしませんからね?」


「ん~、キツイけどしゃーないか。でもさぁ、アンタらはどうなの? 今はお金たっぷり持ってんだろうけど、やっぱり稼いどかないと不安にならない? 日雇いの仕事をするって雰囲気でもなさそうだけど」


「お構いなく。私たちは私たちでキチンとやっていきます」


「それならいいけどね」


「大丈夫だ。俺もサティスもこれまでずっとそうやってきたんだ」


 セトが間に入り微笑む。

 堅苦しい大人の会話はここで終わりにして、馬車が城門を潜ったので、街の様子を見てみた。


 どこもかしもも人だらけで、出店はこれまでに見た街とは比較にならないほどに並んでいる。

 行き交う人々の間を、楽し気な音楽が通り抜け、まるでお祭り騒ぎだ。


 剣や槍を持った冒険者の一団や、昼間から酒を飲みながら談笑する者たち。

 そして規律正しく整列し行進して街の見回りをする兵士や、はしゃぎながら走り回る子供まで。


 セトの見てきた世界が新たに更新され、それが頭の中で輝きを帯びる。

 クレイ・シャットの街に初めてサティスと来たときにも感じたこのときめきが、セトの心をさらに興奮させた。


「すごい……こんな場所があったなんて」


「今までの街とは違うでしょう? ベンジャミン村のような落ち着いた場所もいいですが、こういった賑やかで楽しい場所もいいかもですね」


「う、うん。なぁ、また一緒に……!」


「ウフフ、わかってますよ。宿を探したら、また一緒に歩きましょう。時間はたっぷりあるんですから」


「あ、あぁ!」


「あーハイハイごちそうさま。さぁ、そろそろ馬車降りるよ」


 馬車が停車し、御者によって扉が開かれる。

 外へ出てると、街の熱気と音が混ざり合い、自然とセトの心を踊らされた。


 地面に降り立って周囲を見回すと、これまで以上に建物が高い。

 何階建てかと言わんばかりに、首が凝りそうになるくらいに見上げた。


「セト! 早く行きますよ! 街はまたあとでもゆっくり見れますから!」


「あ、うん、わかった」


「で、どの宿にすんの? ラーウ・ホルアクティって結構宿多いから選ぶの大変よ? やっぱ泊まるのならお金がかかっても超イイ部屋のある宿でしょ」


「……もしかして、前の彼氏さんにもそういうこと言ったんですか?」


「うぐッ!」


「ハァ……、宿は私が選びます。ここへは来たことがありますので」


「……へぇ、じゃあサティス大先生にお任せしますか」


 サティスの案内のもと、これまでよりずっと豪華そうな宿に泊まることに決まった。

 セトは純粋に目を輝かせ、グラビスは嬉しそうに口笛をひと吹き。


「外観とは打って変わって、価格はリーズナブル。食事も美味しいし、ベッドも寝心地オッケー。きっと満足できるかと思います」 


「凄いなサティス。こんなでっかい宿見たことないぞ……ッ!」


「いいわねぇ。しかもバーまでついてんじゃん。ねぇサティス、アンタお酒は?」


「いけますよ勿論。ハァ、これも私の奢りでって言うんでしょ?」


「あったり~」


 酒のことに関しては一時保留とした。

 一部屋を取り、そこで少しの休息。


「セト、昼食はどうします? 観光ついでに外で食べませんか?」


「あぁ、俺もそのほうがいいと思ってる。……なぁ、俺リョドーから聞いたんだけど、ビーフシチューってのが食べたい」


「あ、おじさんの大好物じゃんソレ! 結構色んな店で扱ってるからすぐに食べれるわよ」


「本当か!」


「えぇ、王都のビーフシチューは天下一品って話だから。……さて、アタシは情報を集めながら食事しようと思ってるから……その、昼食代プリ~ズ」


「あら意外ですね。てっきりついてくるのかと思ったのですが……」


「そこまで不粋な真似しないわよ。ふたりっきりのデート、楽しんできな」


 グラビスが茶化すようにう言うと、セトの顔がほんのりと赤く染まる。

 伏し目がちの視線を泳がせ、少しモジモジとする仕草がなんともいじらしい。


「乙女かッ!」


 グラビスは思わず突っ込む。

 その姿を微笑ましく見ていたサティスは、少し興に乗ってみた。


「フフフ、ではでは、恥ずかしがりやなセトのボーヤのために、衣装チェンジしてきましょうかね」


 そう言って空間魔術で空間に入り込む。

 意地悪そうな表情をしていたあたり、久々に嗜虐心が湧いたようだ。


「お、なになに~? どんなの持ってんのサティスは」


「わ、わ、わ、わからん。全然わからんッ!」


「ん? なぁに動揺してんのよアンタは?」


 衣装チェンジと聞いてセトが思い出したのは、寝間着でよく着ていたチューブトップ姿のと、海で初めて見た水着姿のふたつ。


 サティスの惜しげもなく晒す肌を思い出し、セトの頭は久々に沸騰しかける。

 溢れだす妄想リビドーが止まらない。


 さすがにあそこまでの露出はないだろうが、気になりだすと貧乏ゆすりが止まらなくなった。

 グラビスは思春期特有のものとして、にんまりとした笑みで見守っている。


「ハイ、お待たせしました。どうですか? ちょっと頑張ってみました」


「────ッ!!」


 そしてついにサティスが着替えを済ませて姿を現した。

 

 キラキラとした様々な色の石の飾りに、上質な布とビーズを用いたワンピースドレス。

 幾何学模様に彩られたドレスの上から、カラシリスをまとっている。


 髪型も若干の変化を加え、眼鏡も外していた。

 そのほかにもイヤリングや腕輪など高価そうなアクセサリーを身に着け、まるで別人であるかのような風貌だ。


「あらセトったら見惚れちゃって。ホント、こっちから言わないと似合ってるかどうかの感想が貰えないですね」


「え、あ、……す、す、す、すっごく、にに、似合ってる。えと、その……」


「ウフフ、ありがとうございます」


 まるで神話の女神のようにも見えた。


 先ほどの衣装と比べて露出は減っているものの、ビーズ部分の奥にある肌の部分が、見えそうで見えないという絶妙な透明感を醸し出し、セトの心をくすぐる。


 彼女の豊満な胸は、チューブトップを下着代わりに身に着けており、それがまたセトの注目を引いた。

 スリットも入って生足も晒しているため、普段とはまた違う艶美さを感じる。


(そう言えばグラビスも結構身体つきもいいし、その、肌とかも見せてるよな……あぁクソ、頭がおかしくなりそうだッ! もうサティスに至っては、完全に俺を惑わす気でいるしッ! 耐えろ、耐えるんだ!!)


 プルプルと震えるセトの反応を愉しみつつ、サティスはセトと手を繋いで部屋を出た。

 そして、昼食代を手渡されたグラビスはゆっくり立ち上がり……。


「頑張れ少年、アタシがいないからって襲っちゃダメよん」


 グラビスはふたりが有意義な時間を過ごせるよう面白おかしく密かに祈り、部屋を出た。

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