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ベンジャミン村で、俺達は新しい一歩を……。



次回は視点を変え、魔王軍シーンに入らせていただきます。

 セト達の家はこの村の薄ら高い場所にある。

 二階のバルコニーからは村の外を一望でき、セトはサティスと共に眺めていた。


「山脈の上にはずっと雪が積もってるんだな」


「上空の気温は地上より遥かに低いですからね。飛行の出来る魔物達の中には寒さに慣れていない者もいます。ですのでそういうときは魔術で加護を付与したりするんです」


 そういった他愛のない話をしていると、スカーレット村長がこの家までやってくるのが見えた。

 バルコニーにいる2人を見て、手を振りながら微笑みかけている。


 すぐさま下に降りて、彼女を出迎えることに。


「ふぅ、歳を取るとこんな小さな坂道もきつくなるわ。……で、どうかしらこの家は」


「すごく気に入りました。なにより景色が綺麗だ」


「こんな豪勢な空き家まで貸していただいて、村長自ら出向いてくださるなんて……恐縮です」


「いいのよ。久々のお客様だもの。さぁ、村の中を案内しますわ。ついてきてください」


 こうしてスカーレットはセトとサティスを後ろに、村の中を案内し始めた。

 

「畑仕事はもちろん、村の外れにある森へ狩りへ出かける人もいるわ。中には魔術の研究にずっと打ち込んでる魔術師だっている。鍛冶職人もいて主に村の外からの依頼を受けたりね。後はキリムさんの詰所くらいかしらねぇ」


「もっと過激なことばかりやってるかと思った」


「フフフ、変わり者の村ってことを考えればね。やってることは皆普通よ。でも、性格に少し難があったりするから大変だろうけど」


 そう言いながら、スカーレットはある人物の家まで案内してくれた。

 そこには茶色い髪と髭を生やした筋肉質な体躯の男がいる。


 斧で薪を割っている最中で、汗水を流しながら仏頂面で黙々と作業を行っていた。


「彼は『リョドー・アナコンデル』。古くからの付き合いでね。私の相談役でもあるの」


「リョドー……まさかッ!」


 彼の名前を聞き、セトが大きな反応を見せる。

 セトはリョドーとは面識はないものの、その名を知っていた。


「伝説の暗殺弓兵スナイパーじゃないかッ! なんでここに……」


 そう言いかけたとき、リョドーは作業を止めて、セトの言葉を制止した。

 表情は曇っていて、げんなりしている雰囲気を漂わせている。


 彼は英雄と言っても過言ではない存在。

 少年兵だったセトにとっては、一種の憧れでもあったのだ。


 だが、彼は静かにセトに語る。


「俺はそんなにいいもんじゃない。陰にコソコソ隠れながら他者の命を奪ってきた殺戮者だ」


「え……、でも……」


「小僧、この村では他人の過去を勝手に詮索しないというのが暗黙のルールだ。これ以上の詮索はやめろ。わかったな?」


 そう言ってリョドーはその場に腰掛けるや、水筒の水を飲む。

 仕事の汗で、濁ったような肌に無数の滴りが太陽光で反射して見えた。


「……で、村長。この2人は新規入居者か?」


「短期間だけ空き家を貸すことにしているんです。なんでも2人で旅をしてらっしゃるんですって」


「ほ~ん。若いのによくやるな」


 そう言ってセトとサティスを一瞥する。

 歴戦の戦士から村人へと変わってもその眼光はまるで衰えていない。


 セトは英雄との遭遇で緊張を露わにしていた。

 そんな彼をリョドーは新兵を見る上官の目で観察しているようにも見える。


「こんな風に無愛想な人だけど、根は良い人だからね」


「村長、余計なこと言わんでくれ」


「あら、本当のことでしょう? 村の人達を家族ファミリーのように見てくれるアナタがいて、私すっごく助かってるのよ」


「……フンッ」


 そっぽを向いたリョドーは立ち上がり、切った薪をまとめて家の裏へ運んでいった。

 

「……ごめんなさいね。ちょっとシャイなのあの人」


「いや、いい。俺はあの人に出会えただけで満足だ」


「でも、随分と疲れた顔をしてらっしゃいますね。彼も戦場が疲れたっていうクチでしょうか」


「まぁそうね。色々あるのよ。……さて、案内はここまでね。後は自由にしていただいて……あら?」


 スカーレットがふと空を見上げる。

 一匹の鷹がこちらに飛んできて、ゆっくりと舞い降りてきた。

 

 足には書状を入れる小さな筒が備えられている。


「速達かしらねぇ。こんな時期に珍しい。……まぁ、なんてこと」


 スカーレットが筒から書状を取り出し、書かれている内容に静かに驚く。

 悪いニュースなのか、それとも……。


「……御二方、少しの間の滞在だったんだろうけど、しばらくはこの村にいた方がよさそうよ」


「え、それはどうしてです? なにか問題でも?」


 サティスの表情に曇りと焦りが見える。

 彼女の中で嫌な予感が巡ってならなかった。

 

 だが、そんなサティスを諭すようにスカーレットは優しく答えた。


「心配しないで、遠い場所のことよ。……魔王軍が勢いを少しずつ盛り返してきてるみたい。周辺諸国も緊張が高まって、国境や関所を閉じてるらしいわ。どれぐらい掛かるかわからないけど、事態が落ち着くまで滞在なさい」


「いいんですか? 俺達は今日来たばかりなのに……」


「それでしたらせめてなにか村のお手伝いでも……」


「フフフ、無理なさらなくてもいいのに。でも、自分からなにかをしたいっていうその気持ちは素晴らしいことね。……その辺も少し考えておきます。それまでどうぞごゆっくり」


 そう言って一先ずは解散。

 スカーレットは「なにかわからないことがあればいつでも聞きに来て」と言い残し、そのまま自宅へと戻っていった。


 セトとサティスも用意されたあの家まで戻ることに。


「しかし、このタイミングで魔王軍が勢いを盛り返すなんて……なにかあるのか?」


「他の幹部連中で、あの情勢から一気に盛り返すのは難しいかと。……ただ、1人を除いてね」


「ん? 誰か強い奴がいるのか?」


「いますね。恐らく魔王軍最強の……。ふぅ、やっぱり止めましょう。こんな長閑な村にまで来て戦争の話は」


「……そうだな。俺も村の生活ってのを味わってみたい。サティスと一緒に……」


「私もです。セト」


 道中2人は手を繋ぎ家まで歩く。

 戦争中とは思えないほどに緩やかな風と陽光が2人を包んだ。


 ここでは穏やかな時間と感情が、2人を安寧に誘う。

 もしかしたら、ここは自分達の新天地になるかもしれないとセトは思いを巡らせた。


 ここで一緒にサティスと暮らし、ゆくゆくはまた旅へと出てまだ見ぬ世界を彼女と共に見る。

 そんな未来を思い描くと、心になにか温かいモノを感じた。


 これまでに何度も感じた彼女への未知なる感情。

 これが、"愛おしい"という感情なのだろうかと、セトは慣れない心を抱える。

 

次回は魔王軍シーンとなります!

こう御期待!

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