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グラビスの魔剣

 サティスの氷結魔術がスライムを襲うも結晶の力で阻まれる。

 セトの援護のもとヒュドラは軽業のように宙を舞いながら、一刃に気を込めてその醜い図体を抉った。


「先ほどと反応は同じだが……ダメージが通っているような気がしない」


「いっそ魔剣解放で斬り刻んでバラバラにするか?」


「それはそれで危険だろう。なにより……あの結晶は」


 ヒュドラは戦いの中であの結晶の中の女性が何者であるかを聞いていた。

 それがセトの母親であると知ったときはひどく驚いたものだ。


「だがここは高火力で一気に吹っ飛ばす方が……!」


「セト、それでは……」


「俺の母親は、もうこの世にいないんだ。助けられない。ましてやあのスライムに取り込まれたんじゃあもう無理だ」


 セトの冷淡ともとれる判断にヒュドラは閉口する。

 こんな状況でも非情になり切ろうとする彼を責めることはできない。


 セトの魔剣解放。

 一瞬にして姿が消え、様々な角度からの斬撃が無数にスライムに襲いかかる。


 ザクザクと肉片が飛び散るも、結晶にしがみつくようにへばりついているので瞬時に回復していった。


 セトがリヴァイアサンを右腕に出そうとしたとき、反撃とばかりにスライムもまたアクションを起こす。

 結晶を上に掲げると異様な輝きを放たせた。


「な、なんだ!?」


「強い魔力ではありますが……攻撃系のものではありません。これは一体!」


「おい、皆見ろ!!」


 ラネスが驚いたように声を張る。

 周囲からうごごと奇妙な音がした。


 まだ壊れていない石棺の蓋が開いたのだ。

 そこから巨人たちのミイラが上体を起こし、ともに納棺されていたであろう武具を手に取り立ち上がり始める。


「な、なん、だって……?」


 ヒュドラがあっけにとられているとセトは振り回されるドラゴンキラーから彼女を守るように飛びついた。

 お互い怪我はなかったものの、この異常な事態に言葉を失っている。


 数体の巨人のミイラがヨロヨロと立ち上がるとセトたちに向かって歩き始めた。

 明らかに攻撃の意志を持っており、巨大な武器を振りかぶろうと上へ上げている。


「巨人のミイラを、操っているんですか……? 死者を操るなんて、これじゃあ……」


「あぁ、白銀都市のときと一緒だな。だが今回はちょっと厄介そうだ」


 この現場にいるミイラだけでなく、どうやらこの遺跡にいるすべてのミイラを操っているようで、隊列を作りながらセトたちのほうへ向かっていた。


「このままだとジリ貧だ。援軍が来る前に結晶を砕いて奴を倒すッ!」


「だがセト! 多勢に無勢だぞ! ここは撤退したほうがいい! せめてラネス様だけでも遺跡の外へ避難させるんだ!」


 ヒュドラの提案にセトはほんの一瞬冷静になる。

 自分を含むヒュドラやサティスは超人的な戦闘能力を持っていても、ラネスはそうではない。


 もしここで死ぬようなことがあれば、アダムスはこれ以上ないくらいに悲しむだろう。


「……わかった。ラネス様の避難が先だ。……スライムと、巨人たちを相手にしながら、活路を見出す」


「私もともに戦おう。セト、君だけにすべてを背負わせはしない。友だろう?」


「あぁ、頼んだ。……サティス、ラネス様の警護を頼めるか!」


「言われなくても!」


 ラネスは「すまない」と零し、自らの無力に歯軋りする。

 ラネス撤退戦線の開幕の火蓋が落とされようとしたそのときだった。


「セトー! サティスー! ヒュドラー! すっごいの見つけた! アタシついに魔剣を見つけ……────う゛わ゛ぁぉお!?」


 なにも知らないグラビスがのこのこと入って来た。

 そして現場の状況に思わず飛び上ると早速魔剣を手に取る。

 

「えっと、これ……戦えばいいのよね?」


「わかってるならさっさと加勢しろこのたわけ!!」


 ヒュドラが青筋を立てながら怒鳴り、サティスがこめかみを押さえるような仕草をする。

 だが、セトにとって晴れて魔剣使いとなったグラビスが参戦してくれるのは、頼もしさを感じさせてくれて心強かった。


「周りの巨人どもは任せな!」


「わかった!」


「いいのか?」


「……グラビスがどんな魔剣を手に入れたか、気になるのもある。────来るぞ!」


 スライムと巨人ミイラ軍団が一斉に襲いかかってくる。

 すべての武器が巨大で一撃でも浴びればたちまち肉塊と化すだろう。


 だが3人は果敢に立ち向かう。

 セトやヒュドラの太刀筋にも勢いが生まれ、状況を盛り返そうと奮闘していた。


「サティス、アンタはラネス様を守りながらアタシを援護して」


「その剣がどんな効果を持つか知りませんが……使いこなせるんでしょうね?」


「大丈夫! 多分!」


 そう言って魔剣を軽くひと振り。

 次の瞬間には刀身がバラバラと崩れて、一本の鋼鉄の縄で繋がっているような形状になる。


「蛇腹剣……それがアナタの魔剣?」


「魔剣『蠍とともにあるもの(ヘルデスフ)』。派手にぶちかますわよ」


 ニヤリと口角を歪め迫りくる巨人を見据える。

 じっと動かずにやや脱力したような構え、それはまさしく魔導ボウガンでの早撃ちにも似た佇まいだった。


 そして巨人の一体が武器を振り下ろした直後だった。

 巨人の腕が宙を舞い、大きく弧を描いて後方へと飛ぶ。


 グラビスの魔剣捌きはまるで鞭でも扱うかのようで、伸縮自在とも言える魔剣の切れ味を見てご満悦のようだった。


「ん~、これならいいね。あとは、魔剣解放なんだけど……」


 とりあえずまずは数を減らすことが先決だ。

 増援が来る前にある程度片付けて、スライムのほうに加勢せねばならない。


「この魔剣のポテンシャルをさらに引き出すにゃあ、打ってつけの相手じゃないコイツら。パワーアップしたアタシの実力。思い知りやがれッ!!」

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