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ヒュドラとグラビスの報告

「うっひゃ~、濡れた濡れたぁ」


「途中で降ってくるものな。……あぁ、ありがとうございます」


 衣服が肌に張り付いて気持ち悪そうにするヒュドラと、雨に濡れても特に気にする様子はないような、むしろ気持ちよさそうにしているグラビスに、メイドからタオルが手渡された。


 丁度そのとき、気になってやってきたセトがふたりと遭遇する。

 肌を伝う雫をタオルで拭き取りながら、ふたりはセトを見るとにこやかに接した。


「ヒュドラ、グラビスまで……。おかえり。こんな遅くまで仕事だったのか?」


「あぁセト。ただいま」


「おい~っす。なぁんだ、アンタまだ寝てなかったの。お子ちゃまはおねんねの時間よ」


「こらグラビス」


 グラビスの茶化しを制し、ヒュドラはここ数日グラビスとともに調査団を引き連れて、屋敷を離れていたことをセトに教えた。

 というのも、行方不明となった勇者レイドの手掛かりが見つかったかもしれないとのことだ。


「なんだって!? それで手掛かりっていうのは……?」


「馬車に積んであるわ。感謝なさい、アタシがいなかったら"あれ"は回収できなかったんだから」


「あれってなんだ?」


「────呪いの残滓よ」


 お茶らけた性格のグラビスからは不似合いな台詞だった。

 彼女はこう見えても呪術師である。


 レイドと呪術になんの関係があるのか、セトには見当も付かなかった。


「わかりやすく言うとだ。実はレイドの目撃証言はチラホラ見つかっているんだ。そしてその周辺にある村や小さな町が壊滅している。……そして、その壊滅した場所にはグラビスの言う呪いが振りまかれた痕跡が見つかった」


「まさか! じゃあレイドが呪術を使ったって?」


「アイツにそんな大それた術が使えるわけないじゃない。……だけど、あれだけの濃度の残滓はちょっと異常ね。ひとりの人間に憑いていい呪いじゃない」


「うむ、正直現場におもむいたときは思わず吐き気を催したものだ。残滓だけでもあれだけの気配なのだからな。今でも悪寒が続いてる。うぅ、さぶ……」


「大丈夫かヒュドラ。雨にも濡れてるし早く休んだほうが……」


「大丈夫だ、ありがとう。私もまだまだ修行が足りないな」


「無理はしないほうがいい。……その、残滓ってやつはどうするんだ?」


「アタシの解析だけじゃ限界があるから、明日にでもある御仁に見てもらいたいんだけどね。……ん~、アポ取れるかなぁ」


 グラビスは困り顔で後頭部を掻く。

 なにしろ急な話なので、タイミングが合わないかもしれない。


「悩んでても仕方ないんじゃないか? アダムズ様に報告してふみを書いてもらって……」


「わかってるわよそんなこと。だけどそう簡単じゃないの! なにしろあの『鋼入りの(スティーリィ・)魔術師(メイガス)』だからねぇ……」


「私も名は聞いたことがある。最高峰の魔術師ではあるが、自分にとって興味のあることしか引き受けない気難しい御仁とも聞いたことがあるからな」


「それでも王立魔術学園の教師かってのッ!」


(ん……?)


 聞き覚えのあるワードが飛び交う。

 それもそのはずだ。


 今日行ったばかりの王立ファルトゥハイム魔術学園。

 そこで出会った、やたらとセトを気に入る魔術師。


「もしかしてそれって、シィフェイスって先生か?」


「え、なに、アンタ知ってんの?」


「あぁ、今日アダムズ様の孫のナーシアの護衛についてな。用事で一緒に学園に行ったんだ。そのとき出会った」


「……そういう偶然ってあるのねぇ」


 さらに詳しく言えばかなり気に入られてしまったとも。

 これを聞いたグラビスはチャンスと言わんばかりに笑みを零し、セトに頼み込んだ。


「もしもアンタの話が本当なら、ワンチャンあるかもよ。お気に入りのアンタの頼みなら……」


「確かに可能性はあるにはあるが……さすがに今すぐここで決めるというのは」


「善は急げよ。ホラ、早速アダムズ様に報告しに行きましょ!」


「ま、待て! 濡れたまま行く気か!? それはあまりにも無礼だろう! それに、君の判断はセトの意志を無視している。それは看過できない」


「ま、まぁまぁふたりとも……」


 セトがヒュドラたちをたしなめようとしたときだった。


「────我が屋敷の玄関でずぶ濡れのまま長々とおしゃべりとは、いやはやこれも若さゆえの無礼か」


 アダムズが使用人を引き連れてこちらへとやってきた。

 ヒュドラがすかさず片膝をついてひざまずき、頭を垂れる。


「も、申し訳ありませんアダムズ様! す、すぐにでも……」


「よい、構わぬ。ちょっとからかっただけよ。話は聞かせてもらった。あの魔術師への依頼状じゃろう。……セトよ」


「あ、は、はい!」


「明日、またナーシアが学園へと行く予定じゃ。このふたりを連れてお主もついていけ」


「わかった。学園へ着いたらシィフェイスに渡せばいいんだろう」


「その通り。聞いた限りであるとただの使用人に行かせるよりも、お主のほうが話を聞いてもらいやすいようじゃしな。ナーシアにもそう伝えておく。……これ、早うこのふたりに暖をとらせてやれ」


「ハッ」


 命令を聞き使用人はヒュドラとグラビスを案内する。

 アダムズも早々に去っていった。


 明日もまた忙しくなると、セトは軽く伸びをして部屋へと戻っていく。

 早く休んで明日に備えようと部屋に戻って来た。


 サティスは目を覚ましたのか上体を起こしたばかりだった。

 入って来たセトと目が合うと、まだほんのりと酔いの残っている顔でニコリと微笑む。


「あぁセト、ごめんなさい。寝ちゃってたみたいで」


「いや、ごめん、起こしたか?」


「うぅん、起きようと思ってたので……。ところでどこへ行ってたんですか?」


「あぁ、ヒュドラとグラビスが仕事から帰って来たから出迎えに」


「あ~、確か遠出されてましたね」


「それで、ちょっと気になることがあったんだ」


「気になること?」


 彼女の隣に座るようにして、セトは経緯を話した。

 サティスは酔いがさめたように、真剣な面持ちで事態を把握していく。


「なるほど、勇者レイドの足取りに、呪いの残滓がねぇ」


「あぁ、それでまた魔術学園へ行くことになったんだ」


「お孫様がいるとは聞いていましたが、そうでしたか……。ねぇセト、明日会いに行く先生って確か『シィフェイス』というヒトなんですよね? ……彼、あそこにいたんですね」


「……どうかしたか?」


 しばらく考えたあと、サティスはセトに身体を向けるようにして座る。


「セト、私も同行してもいいですか?」


 それは意外な提案だった。

 セトとしては一緒にいられる分構わないことだが、リスクなどを考えると学園に赴くのは危ないのではないかと。

 さすがのアダムズも反対するかもしれない。


「確かにそうかもしれません。でも、もしかしたら私たちの力になってくれる可能性があります。それに……」


「それに?」


 サティスはまたしても意外な発言をする。


「彼とは知り合いです。旧来のね」

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― 新着の感想 ―
[良い点] サティスとセトの仲いい様子が久々にちょっと見れた あそこまで堕ちてたヒュドラがここまでシミジミ [一言] 更新ありがとうござます
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