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セトの1日 グラビス編

 セトたちは白銀都市に赴いていた。

 アダムズの命により、都市の探索や調査を徹底的に行うとのこと。


 セトたちはその手伝い並びに、この都市に巣食う呪縛を解放した当事者としてアダムズが組織した調査隊に加わり、再度内部へと入っていったのだった。


 都市内はあの妖しい霧が晴れたせいか、陽の光が行き渡るようになって随分と雰囲気が変わっている。

 化け物と怪異の巣窟に感じたはずのこの場所は、穏やかな風と陽光、そして小鳥たちのさえずりに包まれた古代遺跡となっていた。


 怪異と戦闘の気配は完全に消失している。

 見晴らしも良く、陽光によって照らされる高層の建物が、知識のないセトにも歴史の重みというものを感じさせた。


 無数の摩天楼は、白銀都市という今は灰色の遺跡の中で、荘厳に佇み、来る者を迎えている。

 それはセトも例外ではなく、どうせなら走り回って色々見て回りたいという欲求が溢れたりもしたが、遊びで来たわけではないということを当然のことながら前提として、仕事へと移行することに。


 一方のサティスはメガネを直す仕草をしながら溢れ出る知識欲で目の奥を密かに輝かせており、他の魔術師や学者たちとともに、学園らしき場所へと赴く。


 当時の医療や科学、それに伴う生活水準がどれほど高いものだったか。

 そして今の時代と比べ、どれほどの異能による技術が存在していたのかなども専門的な観点から調べ上げるのだ。


 セトも一緒に行きたかったが、未知の言語を解読したりと他の専門家たちと知識を共有し、高度な作業を連携して行うようなインテリジェンスな仕事にはまったく無縁であったため、別の仕事を手伝うことになった。


 調査隊の隊長に指示されたのはグラビスと一緒にかつて彼女が宝を見つけた場所へ行って、宝を回収することだった。

 グラビス曰く、まだ宝は残っているとのことだ。


 大分人員を割いているためか、セトとグラビスたちのほうへの応援が遅れているとのこと。

 応援が来るまでにひと通りやっておいて欲しいというのが仕事だ。


 簡単に見えて重労働なのは言うまでもない。

 アダムズから宝は盗まぬように釘を刺されているため、グラビスの機嫌もやや悪かった。


 だが作業になれば鼻歌交じりに宝を袋に詰めたりの作業に勤しんでいる。

 セトでさえも少し疲れが出る作業なのだが、グラビスは宝を見るやウキウキとした様子で作業に没頭していた。


「お宝貰えないってのに凄い嬉しそうだな」


「まぁお宝見るのは好きだからねぇ。だって見てみなさいよこの輝き、このツヤ! この宝を愛でてた奴は相当センスあるわ」


「ふぅん……」


 宝に対してそれほどまでに執着のないセトには、あまり理解できない感情だった。

 

(グラビスは宝が好きなのか……)


 確かに金品はあればあるだけ良いだろうが、持ち過ぎるのは毒ではないだろうか。

 などと、無知ながらにもぼんやり考えるセト。


「ホラ、手ぇ動かしな! 頑張り次第じゃもしかしたら山分けしてくれるかもしんないでしょ!」


「そ、そういうもんか?」


「そういうもんよ。ま、そうじゃなかったらご愛嬌。一々クヨクヨしない。じゃなきゃ冒険者なんて危ないことやってないわ」


 セトを焚きつけて、またせくせく働くグラビス。

 出会ってまだ間もないが、意外に仕事への姿勢は真面目そのもの、……なのかもしれない。


 そう思ったとき、セトはふと考える。

 あの船乗り場で出会って、この白銀都市で共闘し、そして今はクライファノ家のもとで一緒に働いているのだが、セトは彼女のことをあまり知らなかった。


 というよりも、ほとんど繋がりがないのだ

 サティスやヒュドラのような因縁があるわけでもない。


 つい先日に、ベンジャミン村でリョドー・アナコンデルと知り合いで、あの勇者レイドと幼馴染であったということを知っただけで、セト自身に直接関連することはなかった。


 セトはグラビスのことをもう友達だと思っている。

 だが、よくよく考えれば接点があまりないのだ。


 人間関係の構築、と考えるとややこしいくなるのだが、友達なのに少し距離があるようでセトは少しばかりの違和感と寂しさに似た感情を抱いた。


 そこで、セトは話題を振ってみることにした。

 彼女が食いついてきそうな、自分でも話せる話。


 これまでの出会いを思い出しながら、セトはシンプルに話題を切り出した。


「なぁグラビス」


「ん、なぁに~?」


「グラビスはさ、魔剣を持つならどんなのが欲しいんだ?」


 それは魔剣に関する話題だ。

 グラビスはリョドーのように強い存在に憧れを抱いている。


 そのために情報を集め、白銀都市に眠る魔剣を手に入れようとしたのだ。

 彼女の過去の言葉から、『強い魔剣』を求めているのはわかる。


 だが、魔剣は形状や能力によって強さの度合いはマチマチだ。

 魔剣使いの先輩として、ほんのちょっとした好奇心からグラビスに聞いてみる。


「どんなのって……そう言われてもねぇ」


「強い魔剣が欲しいのはわかってるけどさ。魔剣によってでかかったり小さかったり色々ある。能力も勿論違う。そうだなぁ。簡単に言うとだ、ナイフみたいなのか、それもとも大剣みたいなのか。そういうのだ。魔剣適正があるからって、自分に合わない魔剣を使うと逆に命を縮めるって、そう言う噂があるらしいんだ」


「あ、そっち系の話ねハイハイ」


 グラビスは一旦作業を中断し、軽くストレッチをしながら瓦礫の上に座った。

 銀のキセルを取り出そうとしたが、セトがジッと見ているのに気付いて溜め息交じりにしまう。


「アタシはねぇ、強い魔剣だったらなんでもいい……って思ってた」


「思ってた?」


「うん、アンタとここにいたゲス野郎の戦いを見るまではね」

 

「あぁ、アイツか……」


 地下での兵士長との激闘。

 彼の操る魔剣の脅威は今でもセトの魂の奥底に染みついている。


「確かにアタシは人様に胸張れるような真っ当な生き方はしてないし、勝つためなら騙し討ちでもなぁんでもやるような女よ。でもね、あの魔剣だけはどうも、なんていうか……気に入らなかったのよ」


「……あぁ、そういえばあのときも言ってたな。あんな趣味の悪い魔剣はごめんだって」


「へぇ、よく覚えてんじゃん。どうせ持つならこう、ドカッと派手にカッコイイのがいいでしょ? アンタの魔剣みたいにさ」


「俺の? そうかなぁ?」


「そうよ。実際さ……アンタ、あのとき超かっこよかったし」


 グラビスはにこやかに微笑む。

 足を組んで右肘をついてその手を顎に当てながら、普段のガサツな態度からは考えられない柔和な笑みをセトに向けた。


「か、かっこいい、かぁ。なんか、照れるな」


「アハハハ、照れるな照れるな! 事実よ。……最初は人の情事を堂々と見てくるクソガキと思ったけど、あんなの見せられたらサ、見直さざるを得ないじゃない」


「く、クソガキって……」


「あんときは悪かったわ。イライラしてたし、今から思っても大人気なかった感パないし。兎に角さ、アタシはアンタを認めてんだから。んで、さっさとアタシ好みの魔剣見つけて、アンタを追い越す」


「アハハ、すぐに追い越されそうだな」


 その後も他愛のない話をしながら仕事を続ける。

 こういう魔剣があったらいいな、魔剣を持ったらこういうことがしてみたい。


 ただの夢想でしかないとわかっていても、ふたりは楽しかった。

 ときに笑い飛ばしながら話すグラビスに、セトも自然と笑みが零れる。


 ひと通りの作業が終わると昼食の時間となった。

 グラビスが食事をとってきてくれたのだが、セトの分だけ量が多い。


「あの、これ……」


「いいのいいの。育ち盛りなんだから食っときな」


 グラビスが気を利かし、交渉して持って来てくれたらしい。

 彼女と親睦を深めようと話し、こうしてグラビスはセトに気を遣ってくれた。


 それがセトにはとても嬉しかった。

 その親切が、目の前に転がる金銀財宝よりも輝いて見えたからだ。


「ありがとうグラビス」


「どーいたしまして。そのかわり昼からもキビキビ働くのよ」


「わかった! なにかあったら俺をいっぱい頼ってくれ」


「言われなくても。アタシ人使い荒いから覚悟しなさいよ」


 再び午後の仕事に取り掛かる。

 午前中とは違い、黙々と続ける中でも、気まずさや居辛さは感じない。


 スムーズな作業の中、人員がセトたちのほうにも回ってきて、大人数になった。

 先ほどより騒がしくなり、仕事の進行スピードが格段に速まる。


 その光景を見ながら、セトは晴れやかな気持ちでひとつひとつの袋を運んでいく。


「あ、こらセト! そっちじゃない!」


「え゛!?」




 一方、サティスのいる現場でも着々と作業が進んでいた。

 サティスは今ある文書を読み解いていた。


「……死を司るウェンディゴ『アハス・パテル』、それを支える『副王』と呼ばれる複数名からなる強大な力を持つウェンディゴの存在。……そして、副王と人間を繋ぐ巫女……。この世界のことみたいですね。しかもウェンディゴ絡みの」


 以前訪れた図書室で、サティスは他の魔術師たちと一緒に本を持ちだしたり、解読したりと仕事に精を出していた。


 仕事がひと段落ついたときだ。

 サティスは本棚に、とても興味深い本を見つける。


「これって……魔剣に関する本?」


 手に取った本は魔術書かと言わんばかりに分厚く、古臭い匂いとずっしりとした重さが歴史の重さを象徴している。

 サティスは俄然興味が湧いた。


(中身は図鑑のような感じがしますが……それだけじゃない気がする。なんていうか、研究のデータのような) 


 胸に抱く違和感を視線と一緒に文字から逸らし、ふと外のほうへと向けてみる。

 陽光が遠くに差し込んでいるのに、やけに眩しかった。


 一瞬、鳥が飛び去ったような錯覚を覚える。

 それはきっと緩やかに吹き込んでくる風のせいだろうか。


 不安ほどではないが、サティスの胸には妙な感覚が残っていた。

 


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