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仕事終わりのふたりっきりの部屋で明日の約束をする

 アダムズに雇われ数日が経過する。

 もっとこき使われるかと思ったがそんなことはなく、逆にメリハリのある生活を送るようになっていた。


「ただいま~」


 セトはサティスとの相部屋で、仕事は屋敷の雑務などを行っている。

 サティスはその頭脳を買われ、情報提供だけでなく魔術の研究などそのほか執務に精を出していた。


「お帰りなさいセト。お疲れさま、今お茶淹れますね」


「ありがとう。俺今日一日アダムズ様の護衛やってたんだ」


「護衛? へぇ~スゴいじゃないですか。あの人の護衛になれるのって屋敷にいる強者の中でもひと握りの者しかなれないって話なんですよ」


「そうなのか? なんか今日出会ってすぐに"お主は今から儂の護衛じゃ、着いて参れ"って言われてさ」


「大抜擢じゃないですか」


「俺みたいな子供って良いのかなって思ったけど、ほかの貴族にもそれっぽいのいたし、多分大丈夫だったんだろうな」


「あー、なるほど。今の貴族のプチブーム的なやつですね」


「プチブーム?」


 セトはサティスの隣に座って出された紅茶をすする。

 曰く、貴族の護衛には歴戦の者以外に、年若い少年少女を付けるのだとか。


 勿論、少年少女なら誰でも良いわけではなく、キチンと実力の伴った者を付ける。

 

 そこになんの戦略的優位性があるのかセトにはわからなかったが、貴族の趣向ということで片付けておいた。


 兎に角、こうした役目を与えられている以上、キチンとこなすのがセトの流儀だ。


 悪いようにはしないというアダムズの言葉を信じて、セトは次からも仕事に精を出すことに。

 

「そういえばさ、サティスは仕事どうなんだ? 書類仕事とか魔術の研究とかよくわかんないけど、大変なんだろ?」


「………えぇ、まぁ」


 サティスはにこやかに答えたが、職場での変化は触れないでおいた。


 当初仕事に就いたときは、周囲から恐ろしい者をみる目で見られたものだ。


 元とはいえ、魔王軍幹部の女がこの屋敷にいるということで使用人たちの息が詰まりそうになるのは、ある種の自明の理なのかもしれない。


 サティス自身、恐れられたりすることは慣れていたのでさほど気にもならなかったが、他者のことを考えるとあまりいい気持ちはしなかった。


 だが、この数日でその緊張も解れてきた。

 サティスの仕事に打ち込む姿勢や、人間への態度で、周りの者たちも理解を示してきたのだ。


 なにより、アダムズの妻ラネスを救いだした恩人ということもあり、その浸透率はずっと早い。


(セトに心配かけるのもなんですし、一緒にいるときはこうして安らぎを与えて上げたい)


 サティスは紅茶を飲み終わりひと息つきながらソファーにもたれるセトの頭を撫でながら、こういった理解ある貴族の家に仕えて暮らすという道を少しばかり考え始める。


 ベンジャミン村のように自然の中で、自給自足のような生活を送るのも良いが、こうした文明社会の最先端にある中で暮らすのもセトの成長にはいいのではないかと様々な考えを巡らした。


 仮にそれとは違う道に進もうと、サティスはセトの意志を尊重する。

 そう思いながら、この忌々しい戦いが早く終わることを切に願うばかりサティスであった。


「なぁいつまで撫でるんだ?」


「嫌ですか?」


「嫌じゃないけど……」


「撫でるなんていつもやってるじゃないですか、もしかして、恥ずかしいとか? うりゃりゃ~」


「どわっ!」


 さらに撫でられ狼狽えるセトを面白がっていたサティスだが、彼の髪の毛がだいぶ伸びていることに、今さらながら気が付く。


 ここまで様々な事情が立て込んでて、こういったことに目がいかなかったことに若干後悔を覚えつつも、サティスは微笑みながら提案した。


「セト、大分髪の毛伸びましたね」


「あー、うん、でもこのくらいなら……」


「ダメですよセト。髪はキチンと整えないと。明日はセトは仕事ですか?」


「いや、非番だ」


「なら丁度よかった! 私も明日は非番ですので、髪切ってあげますよ」


「え、サティスが……?」


「あら、嫌なんですか?」


「嫌じゃないよ。でも切るくらいなら俺にもできるし別にやってもらうほどのことじゃ……」


「もしかして、ナイフでバサッとやるとか?」


「お、よくわかったな。そうそれ」


「はいダメ。ちゃんとハサミで私がキチンとやります」


「えぇ~」


「えぇ~じゃないです。……あ、そうだ。折角だしいっそのこと髪の毛短くしちゃいます? ほらこうしてオデコ見せてみる風に────……」


 そう言ってサティスがセトの前髪を上げたときだった。

 なにやらじっと見つめるようにして彼女が動かなくなってしまったことに、セトは怪訝な表情を浮かべる、


「……どうした? じっと見つめられると、その、恥ずかしい」


「え、あぁ、ごめんなさい。じゃあ明日。髪の毛切ってあげますから」


「わかった。あの、変な髪型にはしないでくれよ? この髪型がいいんだから」


 サティスはプイッと向こう側を向いてソファーを立ち上がると、セトに入浴を促した。

 彼女の様子が気になったが、とりあえずもうゆっくりしたいと思い、部屋にある風呂場へと向かう。


(オデコ広げたセト……なんか可愛かった)


 ほんのりと頬を染めながらサティスは、脳内で色んな髪型をしたセトを思い浮かべてみた。

 この際かなり短くしてみるのもいいかとも考えたが、きっとセトは嫌がるだろう。


「ハァ、そう言えば、なんだかあの子ちょっぴり背ぇ伸びたかなぁ? 身体もがっしりとしてきた気もするし。あぁして大人になっていくんですね。人間の男の子って」


 それはそうとと明日を楽しみにするサティスは、カップに紅茶を注いで一口。

 ハサミと布とを用意してと準備するものを思い描きながらセトが上がってくるのを待った。



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[気になる点] こ、これが俗に言う「おねショタ」なのか!?
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