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こうして一連の件は終わり、外ではまた新たな出来事が待ち受ける

 生存装置があった部屋から出ると、数名の人間がいた。

 あのケースの中に囚われていた冒険者たちだ。


 事情を説明すると、彼らは歓喜の声を上げてセトたちに礼を言う。

 

「アンタらが助けてくれたんだな。感謝するよ」


「そうよ。このまま永遠にあの中で生きてなきゃいけないって……今から思えばゾッとするわ」


 安堵と感謝の念を口々に述べながら、再び起き上がれたことを喜ぶ冒険者たち。

 ただ長く眠らされていたせいか、歩行にやや難がありそうだ。


 どれだけの時間をあの中で過ごしてきたのか。

 その間にも、白銀都市の外では時代は移り変わっている。


 彼らはその自らの空白と外界との摩擦に耐えれるだろうかと、ふとセトは考えてしまった。

 

(戻って来たと思ったら、いつの間にか何十年何百年と経ってたってなると、家とかどうするんだろうな……)


 そんなことを考えていると、心が寂しいような感じがしてくる。

 彼らに帰るべき家があればいいのだが、冒険者という立場上、きっとそれはないのかもしれない。


 だが、もしもこの中に帰りを待つ人がいたとすれば……。

 そんなことを延々と考えてしまうのだ。


 こういった細かなことが気になる自分に不思議な感覚を覚えながらもセトは、念のためにと皆に回復を施しているサティスのほうへ行こうとしたそのとき。 

 

「……失礼、貴殿らが私たちを助けてくれたのか?」


 ひとりの女性騎士が剣を杖代わりにして、セトに尋ねてくる。

 かなり豪華な造りの重鈍な鎧に身を包んだ美しい女性だが、かなりしんどそうな面持ちであった。

 

 駆け寄ったヒュドラに支えられながらその場にゆっくり座らされる。


「大丈夫ですか? ひどく弱ってらっしゃる。ここでお待ちを、すぐに回復魔術をかけてもらうように……」


「いや、いい。まずはほかの者たちを優先してくれ。少し休めばどうとでもなる」


「なぁ、アンタは? その鎧の紋章を見るに、由緒正しい騎士の家系って感じだが」


「うん? あぁそうだ。私はこの白銀都市の調査を王国より任されたものだ。……だが、部下もろとも……」


 女性騎士は周囲を見渡しながら生き残りを確認する。

 その中に自分の見知った顔がいないことにひどく落胆した。


「なぁ教えて欲しい。……私が派遣されてからどれくらいたった?」


「え?」


 セトはその質問に困惑し、思わずヒュドラと視線を合わせる。

 

「あの、失礼ではありますが、アナタ様は?」


「おお、私としたことが……。私はクライファノ家の者だ。ラネス・クライファノと言えばわかるかな?」


「クライファノ家……ってオイオイ、『戦獅子いくさじし』の家系か!?」


「知ってるのかセト」


「知ってるもなにも……そうかその紋章、どっかで見たことあるなって思ったら……そういうことか」


 なにを隠そう、セトは9歳の頃にこのクライファノ家率いる軍と戦ったことがあるのだ。

 セトにとっては初の魔剣導入戦でもあった。


 しかしその圧倒的戦力と術策によって自軍はボロ負け。

 セトはもう少しで大将首を狙えたのだが、結局退くしかできなかった。


 その後も自国はこの家系率いる軍勢と戦うことはあったが、どれも勝てた試しはない。


(あんまいい思い出ないんだよなぁこの家系。でも、妙だな。こんな女の人は見たことない)


 セトは記憶を辿り、クライファノ家の人間の顔を思い出してみた。

 実際の面識はなくとも、偵察や隠密などで顔を見る機会は数回あった。


 だが、ラネス・クライファノという人物には覚えがまるでないのだ。

 

「あの、なにか?」


「いや、なんでもない。クライファノ家のことを聞いたことがあるんだ。多分それで知ってるんだと思う」


「そう、か」


 セトは自分が少年兵として戦ったことは伏せておいた。

 ヒュドラもそれを察して黙っていてくれる。


 ラネスもに立てるようになり、全員を外へと誘導しながらこの白銀都市をあとにすることに。

 

「そういえば、グラビスはどこ行きました?」


「ホントだ。ここを出てから急に姿が……」


「もしかして、お宝を探しているとかそんなんじゃ……」


 ヒュドラの予想は当たる。

 大きな袋に大量の金銀財宝を詰めたグラビスが出口付近にいた。


「なにやってんですかアナタは……」


「いや、ほらだって、ねぇ? ここまで苦労しといてなにも得られませんでしたってのは悔しいじゃん?」


「だからってねぇアナタ……」


「まぁいいんじゃないか? 俺魔剣壊しちゃったし]


「お、さすがセト! わかってるね」


「セトの良心につけ込むとは……」


 サティスもヒュドラも呆れる中、一行は白銀都市の外へ出ることが叶った。

 夕刻らしい空色に、優しく頬を撫でる風。


 ────()()()()()()()()()()()()()()


「あれぇ? これどゆこと?」


「王都の兵士たちだ!」


「まさか、どういうことですかこれは……ッ!」


 サティスはこれ以上ないくらいの緊張を抱く。

 まさか自分という存在がバレて、捕らえるためにやってきたのではいかと。


 そうなればセトにも危害が及ぶ。

 そう考えると胸が激しく痛んだ。


 しかし、対するセトは極めて冷静な視線で兵士たちを見ていた。


(あの紋章は……)


 兵士たちの掲げる旗に描かれている紋章を、目を細めながら眺めていたとき、ひとりの老将がこちらへとやって来た。


 兵士たちは黙って道を開き、馬に跨る歴戦の武将をセトたちの前に通す。

 

「今朝、この白銀都市に侵入者が入ったという情報を手にしておってな。念のため来てみれば、まさか生きて帰ってくるとは。貴様ら、ここをクライファノ家の管轄地区と知っての狼藉か?」


 白髪の老将が雷のようなしわがれ声で、一同を一喝する。

 鋭く睨みつけるさまは、まさに護国の鬼とも言えるオーラを醸し出していた。


「この白銀都市は何人なんぴとの立ち入りも禁ずという触れが出ているのを知らぬのか? いや、知らぬとは言わさぬぞ。特にそこな娘。袋の中にあるのは、宝だな?」


「ゲッ!」


 老将に凄まれ、思わず手放してしまったグラビス。

 サティスもヒュドラも、その勢いに吞まれ動けないでいた。


(あのじいさん……間違いない。あれは……)


 沈黙の中、セトは確信を得ていた。

 目の前の老将は、かつての戦場で大将をしていた人物その人。


 しかし場の空気は尋常でないほど悪い。

 突破口を開こうとセトは必死になって思案をしていたそのとき。


「……アダムズ、か?」


 セトたち一行の最後尾。

 ラネス・クライファノが老将を見て呟いた。


「む? ────お、お前はッ!!」

 

 アダムズと呼ばれた老将から覇気が消えた。

 馬から降りて、こちらへと歩いてくるラネスに、ワナワナと震えながら対面する。


「まさか……信じられん。お前は、あの日……」


「アダムズ……なのだな?」


「わ、わかるのか? この儂が」


「わかるとも。一体どれだけの時間をお前と過ごしてきたと思っている。『我が夫』よ。あぁ、もうそんなに歳を取ってしまったか。……そうか、そういうことか。私は……随分長い間眠っていたのだな」


 伏し目がちに溜め息を漏らしながら笑むと、ラネスはセトたちのことを弁明した。

 彼らは助けに来てくれたのだと、ここにいる者たちはずっとこの白銀都市に囚われていたのだと。


 それを聞いてアダムズは一考する。

 この奇跡のような現象を前に、彼の心は大きく揺らいでいた。


 これを好機と言わんばかりに、サティスとセトはアダムズに提案する。


「勝手に入ったことはお詫びいたします。ですが、どうかご慈悲を。この白銀都市でなにがあったか、話せる範囲ではありますがご報告いたします」


「俺もアンタに話したいことがあるんだ。この白銀都市にいた魔剣使いだ」


「なんじゃと……? ふむ」


「アダムズ、どうか彼らの話を聞いてやってはくれないだろうか。その、長い間留守にしていた私が言えた話ではないが」


「ふぅ、わかったわい。皆の者、この者たちを保護せよ。ラネスに、そこな4名は儂の屋敷へ案内せよ。丁重にな」


 交渉成立。

 一時はどうなるかと思ったが、ラネスのお陰で苦難は免れた。


 セト以上にサティスは胸をなでおろす。

 こうしてアダムズ・クライファノの屋敷へと赴くことになった一行であった。


「あ、宝は没収せよ。それはそれ、これはこれじゃ」


「ん゛な゛ッ!?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] それはそれこれはこれですが、全部と言わずとも宝物の一部を褒賞として授けられるチャンスはあっても良さそう
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