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vs.白銀都市兵士長

「不思議なモンだぜ。かつて時代の最先端を生きてた俺が……、超古代生物になっちまうとはなぁ!!」


 兵士長の太刀筋は、まるでハンマーや棍棒を振り回すかのように豪快だった。

 先ほどの鎌剣二刀流のようなトリッキーさはなく、魔剣の威力をふんだんに活かした剛撃を繰り出している。


 刀身が宙を薙ぐたびに乱流する剣圧は、容易に体重の軽いセトたちを吹っ飛ばした。

 地面に魔剣を叩きつけようものなら、クレーターほどの威力からなる衝撃波でセトたちの攻撃をいなしてしまう。


 何合も交える内に、兵長の戦意は上昇していき、生前の血の飢えを思い出していた。


「ハッハー、たぎってきたぜ! さぁて、俺のIDはまだ使えるかな?」


 そう言うや宙に立体的な幾何学模様の画像を映し出し、指で操作する。

 すると彼の肉体をアーマーのようなものが現れ包み込んだ。


 オシリスの魔装具と似ているがこちらのほうは銀色に照り輝く美しい造形であり、兵士長や部下たちがまとっていたあの軽装甲とは別次元の代物だとわかる。


 そのほかにも、左手に方天画戟のような形状の槍を召喚した。


「な、なんだコイツ。鎧や武器を召喚したぞ」


「槍と魔剣の二刀流ってやつですか。得意げにしているあたり、普通に使いこなせそうですね」


 だがこれで終わりではなかった。

 今度は足元に宙を浮く金属製の板状の乗り物を召喚し、それにひょいと両足を乗せる。


「エアグライダー……つってもわかんねぇか。超高速で空を飛べる乗り物だって、地獄でも覚えておいてくれ」


 そして甲高い歓喜の声を発しながら宙を縦横無尽に飛び回る。

 まさに地上の獲物を狙う邪悪な猛禽類だ。


 下手をすれば本当に餌になりかねない。

 セトは冷静に目や耳、そして風の感覚を掴んで兵士長の位置を確認した。


「くっそ、速い、速すぎよ! なんなのよコイツゥ!」


 グラビスは見たこともない兵装とその性能に狼狽し、冷静さを見失いかけていた。

 サティスはセトにアイコンタクトし、彼女の守護に回る。


 ヒュドラは気配を追いながらも呼吸を整え、円を描くような足捌きでいつどの方向から攻撃がきても迎撃できるように備えた。


「ヒィィイハァアアアアアアッ!!」


 宙を飛びながらの連続攻撃に活路が見出せない。

 近づいて攻撃しようにもエアグライダーで逃げられ、遠距離からの支援攻撃も高速移動で躱されてしまう。


 槍を用いたリーチの長い薙ぎ払いやエアグライダーの速さを利用した魔剣による連続斬撃。

 空を飛ぶと言えばオシリスもそうだったが、敵に対する殺意のレベルがまるで違う。


「特殊な電磁波を感知しました。……あれで魔術の軌道を逸らしているようです」


「あんだけ速いんじゃ棘が当たらない。これじゃジリ貧よ!」


 サティスやグラビスの後衛組の攻めが封じられる中、兵士長は作戦を変えてそのふたりに襲い掛かる。

 当初の狙い通り女を力でねじ伏せようと考えているらしいが、ヒュドラが彼女らの守護につくことによりなんとか凌いだ。


「ちぃ、拳法って奴か」


「私に構っていていいのかな?」


「なに?」


 セトがいないことに気付いた兵士長がハッとする。

 迂闊なことをしたと再度舌打ちし周囲を見渡した。

 

 この空間に隠れるような場所など存在せず、影に紛れようともこのかつての文明の武具機能ですぐに見つけられる。


「────後ろか!」


 エアグライダーごと身体を返して、背後から跳躍して斬りかかってきたセトの攻撃を魔剣で弾き返そうとするが、あっけなく空振りする。


 攻撃を躱せるようやや低めに飛んでいたセトの狙いは兵士長が乗っているエアグライダー。

 渾身の一刀が、真っ直ぐにそれを斬り裂いた。


「こんの、ガキ!」


「これで空は飛べない」


「ぬかせ! テメェら如き地上でも十分だッ!!」


 エアグライダーを破壊したことにより形勢が逆転したかに思えた。

 現に4人の猛攻に押され気味になっている。


 セトが直線的に攻め、ヒュドラがカバーするように曲線的な動きで攻めた。

 前衛から距離を開けようものなら、サティスとグラビスの遠距離攻撃でさらに追い詰められる。


 一見優勢に思えたが、一同は違和感を覚えていた。


 ────()()()()()()()()()()()()()()()


 怒るでもなく焦るでもなく、ただずっと表情に強い暗黒を宿していた。

 

「へぇ、なるほどなるほど……。おいガキ、お前のその魔剣。『豊穣と慈雨(バアル・ゼブル)』って言うんだな?」


「……ッ!」


 ずっと無表情を貫いていたセトだが、教えてもいない魔剣の名を言い当てたことにピクリと瞼を動かした。

 ヒュドラも足を止め驚きに満ちた表情をする。


 それもそのはずだ。

 この中で魔剣の名を知っているのはセトだけなのだから。


 魔王討伐の旅でさえも、その真名は口には出さなかった。

 だが、目の前の男がそれをピタリと言い得てた事実に誰もが絶句する。


「そういや言ってなかったな。『隠遁なる神秘(アメン)』は言わば情報を司る魔剣。その力をちょいと応用すれば、対戦相手の情報を少しばかり読み取るくらいは可能なのさ。……強けりゃ強いほど時間がちょいと掛かるがね」


 兵士長はニヤニヤと笑いながら魔剣にエネルギーを込めていく。

 突如放たれる空間を埋め尽くすような紫色に輝く刀身にセトたちは思わず一歩退いた。


「さらにもうひとつッ! ……────その剣、覚えたぞ」


「……ッ!! 皆避けろ!!」


 言葉と同時にセトが魔剣解放をして、3人の盾になるように立つ。

 そんなセトを打ち砕こうと兵士長が魔剣を振るった。


 それはセトと同じく、破壊と超速に特化した一撃だ。

 刀身同士がぶつかり合い、凄まじい衝撃波が空間に響き渡る。


 それと同時に爆発的な動きからなる超次元的な剣戟の応酬が繰り広げられた。

 壁際まで吹っ飛ばされた3人は、この魔剣使い同士の殺し合いに絶句した。


 特にグラビスに至っては顔面蒼白で息を吞んでいる。

 魔剣適正を持っているなら、この戦闘は一見の価値が大いにあるのだが、最早人間がしていい動きではないふたりの戦闘に圧倒されていた。


「こ、これが、魔剣使いの戦い……」


 セトの右薙ぎに対し、兵士長は槍を使って防御し、鋭い刺突を繰り出す。

 それを右半身になってやり過ごすと、槍の柄の部分に沿うように刀身を下に滑らせて、そのまま風車のように回転させながらの横薙一閃。


 狙うは魔剣を持つ右前腕。

 確かに切っ先は骨ごと抉ったが、魔剣の力なのかすぐに回復した。


「やるなぁ。じゃあ、もっと速度を上げるぞ!」


 次の瞬間、ふたりが各々の光に包まれ高速でバウンドするようにぶつかり合う。

 いくらこの広い空間とはいえ、ここまでの出力で戦われては、そのダメージは計り知れない。


 いくつもの斬撃が空間を光線のように煌めきながら交差する。

 兵士長の斬撃はセトと同じ太刀筋だ。


 さらに槍を交えた連続技で、ただでさえリーチや体格で差のあるセトを圧倒し始める。

 サティスたちも加勢したいところだが、魔剣の勢いがあまりにも強すぎて近付けない。


(く、セト……ここはセブンス・ヘブンを使って……)


 だが魔力を練ろうにも必要な魔力量がない。

 口惜しさの中サティスはセトの武運を祈るほかなかった。


 グラビスもヒュドラもこれには手の出しようがない。

 どちらにしろ、ふたりの超速世界での戦闘からの圧で動こうにも動けないのだ。


「そぉらまだまだぁ!!」


 セトの連撃を魔剣で弾きながら、槍を鋭く回転させてからの一撃。

 兵士長の膂力りょりょくと元々の槍の重さも合わさり、防御しても重圧が貫通してセトに圧し掛かる。


 セトは一旦距離を置き、静かにまた正眼の構えをとった。

 兵士長は槍を左手で抱えたまま、右片手で下段気味に魔剣の刀身を下ろす。


 しばらくの沈黙のあと、兵士長の槍による中段突きが迫った。

 片手であっても動作に乱れは一切なく、寸部違わずセトの頭蓋を何度も狙ってくる。


 凄まじい握力とコントロールだ。

 たとえこの槍を潜り抜けても、次はあの魔剣の猛威である。


(これ以上は埒が明かないな。リヴァイアサンで出力を上げて……いや、コイツ相手だとリスクが高い。あの魔剣のパワーは侮れない……だとしたら)


 セトは白銀のガントレットをその左腕に召喚した。


(使いたくはなかったけどなッ!!)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 100話おめでとうございます! ついに左腕の封印が…っ!(中二感)
[一言] 100話到達おめでとうございます。 今後ともよろしくお願いいたします。
[一言] 祝い・100部!。 作者様これからもお身体にはお気を付けて、セト達の冒険を綴って下さいね。
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