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第5話 御堂さんって意外と……

 授業が終わり放課後になる。女好きの新任教師がさっさとホームルームを終わらせようとしていた。多分、彼はこれから合コンなのだろう。あわよくば女の子をお持ち帰りしたいという欲望を抱いて。


 これからボクも女性と会う約束がある。まぁ、半強制的に一対一で対面するんだけどね。

 職員室によってから屋上へと向かう。後ろからコソコソと尾行しているクラスメイト数人には気付かないフリをしてあげる。声をかけるのも面倒だし。


「 待った?」

「 いま来たところよ。」


 屋上に着くと既に御堂さんはそこにいた。ボクは左手をポケットに入れながら彼女と初デートの待ち合わせみたいなやりとりをする。なんだかソワソワしているような気がしないでもない。不安なのだろうか?

 ボクの行動の理由、思考が読めない。よってなにをされるかも分からない。それはたしかに怖いだろうな。


 開けたままにいていたドアを閉め、さっき職員室で借りて来た鍵で施錠する。その音に御堂さんは肩を跳ねさせた。

 怖いのかな?でも、こうしないと困るのは御堂さんなのだから我慢してもらうしかない。

 ボクは鍵をかけたことを確認してから徐に彼女へと問いかける


「 どうしてあんな嘘をついたの?」

「 なんのことからしら?」

「 大方、昨日いってた通りにいじめようとしたんでしょ。」

「 なにを言ってるのかしら?」


 御堂さんは惚けるばかりで本心を話そうとしない。ボクは面倒なのは嫌いなんだ。あまり手間をかけさせないでほしい。都合のいい痴呆なんか認めないよ?


「 これを聞けば思い出すかな?」


 そう言いボクはスマホを操作して昨日撮影した動画を流す。ところどころ掠れているが、彼女が斎藤という女子を虐めていたという発言しているのはちゃんと録音されていた。そして、その後のやりとりも。すると御堂さんがドンドン顔を青ざめさせていくではないか。どうやら思い出してくれたようだ。よかった。


「 私をどうするつもり?」


 御堂さんが自分の体をかき抱いてそう言い放った。何を勘違いしているのだろう?ボクにとってキミはどうでもいいのだ。艶やかな黒髪とすっきりと整った顔立ちに均整の取れた肢体をしていようが欲情することはない。


「 そういうことはしないよ。」

「 じゃあ、なんとつもりで…… 」

「 お金をもらうためだよ。」


 ボクもここまでする気はなかった。しかし、流石に強姦魔の濡れ衣を着せられそうになったので遠慮するつもりにはならない。少し慰謝料を払ってもらうとしよう。

 御堂さんの瞳に軽蔑の感情が浮かんでいる。はは、お互い様でしょうに。


「 月に一万円、それを三年生になるまで。」

「 それだけでいいの?」


 それだけね……。たしかにイジメを暴露されて学校生活がめちゃくちゃにされるのを黙っておくには安いきんがくだろう。しかし、学生にとってはかなりの大金なのではないか?この学校には有名無実とはいえバイト禁止の校則もある。そん中で一年10万円はキツくないだろうか。もしかして御堂さんの家は裕福なのだろうか?もっととればよかったかな。


「 そのかわり弁当作ってくるから。」

「 はっ?どういうこと?」


 御堂さんが理解不能といった感じで聞き返して来た。仕方がないから一から説明する。


「 ボクが御堂さんに弁当を作って渡す。そしてそのお礼と材料費として一月に一万円を御堂さんがボクに渡す。そういう建前ができる。もし、御堂さんと頻繁にお金のやりとりをしていることがバレても余裕でシラを切れる。」

「 用心深いのね。」


 彼女が皮肉るように嘲笑う。警戒心の欠片もなくイジメ現場を見られ証拠を押さえられたおバカさんにそんなこと言われたくないのだが。左手でポケットの中を弄りながらそう思う。


「 それでお弁当を作ってくる代わりにお金をもらうってことでいいんだよね?」

「 ええ、それでいいわよ。」


 若干ウンザリした口調で肯定する。面倒とでも思っているのかもしれないがその面倒は自分が招いたことなので自業自得だろう。むしろ面倒なことに巻き込まれたボクの方が可哀想だ。

 左手でポケットの中にある物の出っ張りを押し込む。よし、録音完了。これで脅迫されたと彼女が誰かに泣きついたところで有耶無耶にできそうだ。


「 それで何かリクエストはある?」

「 まるで貴方が作るような言い草ね。」

「 そうだけど?」

「 料理なんてできるの?」


 御堂さんが疑わしそうに訊ねてくる。そんな料理できなさそうに見えるだろうか?親友からはカップ麺にお湯を注ぐのは料理じゃない、と言われて全く信じてもらえなかった。


「 毎日もってくる弁当は自分で作ったものだよ。」

「 うそよ!」


 そんなに信じられないの? 酷くないかな?ボクだって望んで身につけたスキルではないのに。

 テレビを見ていた母親がイクメンのことを知った結果、今時の男子は料理が出来なければモテない、などいって強制的に覚えさせられた。半年ほどで親より美味しいものが作れるようになり母親は涙目になっていたのには正直スッキリした。そしてそんな料理できるなら朝食と自分の昼食は自分で作れと言われ余計な面倒が増え、とんでもなく後悔した。

 ちなみに料理ができるようになってもモテなかった。多分、イケメン限定なのだろう。 これが顔力格差か。


「 肉じゃが…… 」

「 っえ?」

「 肉じゃがが食べたい。」

「 それはいいけど…… 」

「 作れないの?」

「 いや、作れるけど…… 」


 なぜに肉じゃが?定番の唐揚げとかくると思っていたが和食をご所望のようだ。まさかボクの主夫力を測ろうとしているのだろうか?もはやこれは遠回しなプロポーズなのでは?


「 ごめんなさい、ボク、御堂さんのことをATMとしか見てないの。だから結婚はちょっと…… 」

「 あなたの頭はどうなっているのかしら?そんな奇妙奇天烈で不愉快な返しがくるとは思ってもみなかったわ。」

「 ちょっとした冗談だよ。真に受けるなんて冗談通じないね。」

「 …… 」


 半分くらい本気で言った冗談のせいで御堂さんの機嫌が悪くなってしまった。口の端がピクピクと微痙攣し、組んだ腕を指先で叩いている。ああ、怖い怖い。意外と短気なんだね。


「 明日の昼ここで渡すからちゃんと来てね。」

「 皆んなにはなんていうの?」

「 お詫びとして毎日お昼を一緒にすることになったとでも言えば?ボクが御堂さんに気があるからアプローチしてると勘違いしてくれるでしょ。」

「 じゃあそうするわ。」


 話は終わったとばかりに御堂さんはクールに去ろうと屋上から出ようとした。がしかし、何かが挟まるような音がしてドアノブを回す動作がとまった、そして何度かリトライしたのち、ようやくあることに気がついたようだ。


「 さっさと鍵を渡しなさい!」


 彼女はそう顔を真っ赤にして言ってきたので投げ渡すも、下に落としてしまった。さっきからダサい……。

 御堂さんは軽く涙目になりながら鍵を開け屋上を飛び出した。

 この一連の出来事からボクは彼女は警戒心が足りないのではなく抜けているのだと考えを改めた。漂ってくる残念臭が半端ではないのだ。見た目はしっかりしているようなのに。

 うっかり口を滑らしたらなんかしないだろうか?ボクは猛烈な不安に駆られた。

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