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感情シリーズ  作者: ザ・ディル
1章 嬉シノ感情
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7話 一人で問題ない


 「先輩、なんでですか! オレのことそんなに信用ならないっスか!?」

 

 護衛をゴキに依頼しないのは、信用していないからという理由ではない。

 

 「信用はしてる。だけど、同時にお前は友達だ。あまり巻き込みたくはない」

 

 本心から、心の奥底から想っていたことを僕は打ち明ける。

 それを聞いたゴキは少し、悲しい表情をしている気がする。

 

 「……先輩は事故犠牲が多いんスよ。いつも一人でどうにかしようとして、まぁそれが先輩の魅力の一つでもあるんスけど……。けど、分かりました、いいっスよ。……では後輩であるオレから最後の用件、というか約束事っス」

 

 諦めてくれたのは安心する。けれど、最後の一言が気になる。

 

 「約束事?」

 

 「はいっ! そうっスよ、約束事。先輩はいつも通り夢見さんと行動する。それ以外の場合は人だかりが多い場所、最低でも先輩自身を含めて三人以上いること、いいっスね?」

 

 恐らくこれは、敵が複数人いないと確信をもって言ったことだろう。

 しかし、僕は複数人来ると考えている。それは得策ではない。だが、それでゴキに迷惑がかけられないなら問題はない。

 

 「分かった」

 

 「しっかり守ってくださいよ、先輩」

 

 「あぁ。分かったから、そろそろ帰ってくれ」

 

 「――嫌っスよ」

 

 「えっ……?」

 

 その瞬間、ゴキは――蜚蠊(ごきぶり)智美は消えていた。さっき窓を閉めていて、その窓が開けていない。

 ということは、ゴキはまだ帰っていない。

 なら、この部屋にいるということだ。

 

 「気がつけばいて、気がつけばいない。それがゴキブリっスよ、先輩」

 

 声は聞こえても、その方向を見れば既にいない。これが『ゴキブリ』の為せる技。

 そして、もしかしたらゴキは、僕を学校に監禁して賞金を得ようとしているのではないかという、そんな考えが頭をよぎる。

 

 

 ゴキブリは――智美は人間が起こす微力の風で相手がどこにいるか、次にどこを向くのかを常人の約十倍早く感じて判断、即座に移動できる。しかも蜘蛛のように糸を使わずに感知できるので、なんら準備をしていない僕では歯が立たない。

 だから僕は糸を展開する。だが――、

 

 「遅いっス!」

 

 「くっ……」

 

 すでに首もとに何かを当てられる感触。

 この感触は……スタンガンか?

  完全に拉致するつもりか……!

 

 「先輩、約束事のもう一つの内容を聞いて欲しいっスよ~」

 

 「もう一つ?」

 

 この状態で逆らったら何をされるか分からない。

 そしてこれ以上、何を約束するのか? 拉致されて、起きたあとに何かアクションを取れとでも言うのか? 僕を辱しめに落とすような行為をしろと言うのか?

 しかし、この状況であれば従うしかない。

 

 「オレを家に泊めてくれっス!」

 

 「…………はっ?」

 

 あまりに突然の事態に、呆然とする僕がいた。

 

 「先輩はどうせ注意深いっスから、寝てる間も糸を巡らせて敵が来るかどうか見張るんスよね? それならオレが見張るっス! 先輩は学校とそれまでの行き来だけどうにかすれば、あとはオレがどうにかするっス! そうすれば先輩の体力は温存できるはずっスよ!」

 

 ……? 敵に成り下がったわけではない……? というか今、泊まるって……。

 

 「お前、泊まるのか? 親は心配しないのか?」

 

 「また、グレたんじゃないかと思うぐらいっスよ! ……多分」

 

 「そうか……。それは良くないが……、それならいい」

 

 ゴキが敵ではないことに僕は安堵する。

 

 「でも……その前に、一つオレの願いを叶えさせて欲しいっス!」

 

 「なんだ?」

 

 ゴキは少し顔を赤らめながら言った。

 

 「先輩の布団にある……枕を……その……クンカクンカしたいっス……!」

 

 「アホか! 誰がさせるか!」

 

 「先輩のいけず~。そのくらいいいじゃないっスか! そして一緒に愛しましょうっス~」

 

 「誰特だよ……蜚蠊と蜘蛛の恋物語とか……。どんな人間でも読まんぞ!」

 

 「それが世の中にはそう言うのが好きな人間もいるんスよ~。例えば……オレ……とか……」

 

 さすがに恥ずかしがっているのか、いつもの余裕が、ゴキにはない。

 なら、僕も恐いところではあるが、なるべく早く仕掛けるべきだ。

 

 「……じゃあ、枕クンカクンカするのか?」

 

 僕は枕をゴキに投げ渡す。

 

 「えっ……、ヒィっ……これが先輩の…………、……やっぱ自分には無理っス。……申し訳ないっス」

 

 やっぱできないよね……。内心すっげぇ焦ったけど。

 

 「なら、いいんだ。素直に僕が寝ているときだけ見張ってくれ……」

 

 「はい、承りましたっス! 命に変えようとも先輩は守ってやるっス!」

 

 「……フラグはやめてくれ……。お前が消えると困るし……」

 

 「せ……先輩…………! オレのことをそんなに心配して……!」

 

 「……まぁ、お前なら死なないだろうけどな……」

 

 自分もまた、フラグを立ててしまったなと反省する。

 

 これからは家に帰れば、ゴキと一緒の部屋で過ごすのか……。

 それは少し面倒くさいと思ったが、同時に、こんな僕を心配してくれる人間がいて嬉しいと感じた、そんな僕がいた。

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