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感情シリーズ  作者: ザ・ディル
1章 嬉シノ感情
6/17

6話 陽キャみたいなゴキブリ


 警察沙汰の後、僕は急いで家に帰った。というのも、今は夜10時。

 高校生にとっては、下手したら補導されかねない時間。とはいえ、警察官から言質は既に取ってあるから問題はない。それでも面倒なことに巻き込まれたくないので急いで家に帰った。

 そして帰ったあと、親に今までのことを説明した。

 

 階段を上がって自分の部屋に行き、電話で狂魅(くるみ)に「遊べなくてごめん」と言い、夢見(ゆめみ)には、警察に何を聞かれたのかという話をした。

 そして訪れる自由な時間。

 

 「今日は勉強しなくていいよな」

 

 僕は自称進学校の高校に通っているので小テストが週二回程度ある。

 しかし、明日は小テストはない。

 だから、適当に部屋でくつろいでいた。

 

 

 ――コンコン。

 

 窓を誰かが叩いている。

 恐らく、アイツだろうな、そう思いつつ窓を開ける。

 

 「先輩! 大丈夫っスか?」

 

 僕の後輩である――蜚蠊(ごきぶり)智美(ともみ)だ。

 

 「あぁ、大丈夫だ。というか、僕に何かあったのかを知っているのか?」

 

 ゴキは別に、今回の事件において何も関わりをもっていないはずだ。

 

 「ええ、粗方は知ってるスよ。少し臆測もありますけど……。先輩は誰かに襲われて蜘蛛の能力を使って対処。んで、夢見(ねえ)が警察に電話。そんで、蜘蛛の糸が見つかったんで、夢見姉と先輩は警察署まで同行された。当たってますか?」

 

 「……確かに合ってるな。なんだ? 尾行でもしてきたのか?」

 

 「いくら好きな先輩だからって帰りまで(・・・・)そんなことしないっスよ! それに――」

 

 「とりあえず、部屋の中に入ってくれ。他の人がこれ見てたら強盗でもしているようにしか見えないぞ……」

 

 ゴキの姿は今、家の外、窓の下の壁に張りつくようにして話している状態。これを(はた)から見られれば強盗に入られていると思われていても仕方ない。

 

 「いいんスか!? 先輩、マジリスペクトっス~!」

 

 そんなことを言いながら僕の部屋に入る。

 

 「靴は裏っ返しにしとけよ。そんで、適当にくつろいでくれ」

 

 「了解っス!」

 

 そう言いながら、ゴキはあぐらをかく。

 

 「じゃあ改めて話してもらおう。なぜ、僕が襲われたことを知っているんだ?」

 

 「簡単っスよ。オレが帰り道歩くのは先輩と同じ少し暗い道で、しかも学校で居残りさせられましたから自然と事件終わったあとに通ったんスよ~。そんで、先輩とおぼしき蜘蛛の糸と警察官を見つけたんで――」

 

 「あー、だいたい分かった。それで警察署に行ったって分かったんだな」

 

 「まぁ、そう言うことっス!」

 

 ゴキがなぜ、今日のことを知っているのかは分かった。

 だけど、別の部分で少し引っかかることがある。それは、

 

 「お前が僕の部屋に来るのは珍しいな?」

 

 「そうっスよ。先輩の部屋に来れるなんて夢のようですわぁー」

 

 とりあえず、どうでもいい最後の一言には突っ込まないでおこう。問題なのは別にある。

 

 「それなのに、警察に厄介になっただけで僕の部屋に来るのはおかしくないか? 警察の件だけなら別に電話で適当に話せばいいし」

 

 「さすが先輩! 着眼点がクリティカルっスねー。そうっス! 別の用件の方が大事なんスよ」

 

 やっぱりそうか。なら、当然訊くべきことは、

 

 「その別の用件を教えてくれ」

 

 「もちろんスよ! 先輩の頼みとあればどんな要求も受け入れるっス~。些細なことからとんでもないことまでなんでもオッケーっスよ~」

 

 「それはいいから……。早く用件を言ってくれ……」

 

 ゴキの悪ノリは結構酷い。まぁ、本当にそんなことを実行しないだけマシか。

 

 「じゃっ、用件を言うっス。用件はコレっス!」

 

 そう言いながらゴキは自身の胸ポケットからあるものを取り出した。

 

 「手紙……」

 

 「そうっス! 手紙っス!」

 

 手紙、なんか、どっかで聞いたような……、

 

 「あっ……、もしかしてその手紙、僕に怪我を負わせる関連の手紙か……?」

 

 手紙というワードは今日で二度目だ。一度が、狂魅が言っていた『僕に骨折レベルの怪我をさせれば報酬金額が合計で百万円』という手紙。

 二度目が今だ。

 だから、僕はゴキが持っている手紙も狂魅と同系統のものだと判断した。

 

 「さすが先輩、ご名答ってやつっス! しかしよくヒントもなしに分かったスね~」

 

 「ヒントはすでにあったよ。だから僕は襲われたんだよ」

 

 「ん? あっ、そういうことっスか。なるほど、オレは浅はかな人間っスね。この手紙はオレだけだなく、他の人間にも来てたってことなんスね」

 

 「ああ。しかもその相手も能力者。恐らく、能力者に見境なくってほどではないにしろ、僕とゴキの関係にまで無頓着なヤツがこの事件の犯人だな」

 

 もしくは、わざと僕と接点のある人に手紙を渡しているセンも考えられるけど、それはできれば考えたくない。

 

 「そうっスね」

 

 だが、それはそうと――、

 

 「ゴキ、一つ訊きたいことがある」

 

 「ん? なんスか?」

 

 「手紙の内容を見せてくれ」

 

 「もちろんいいっスよー。先輩のためなら小さいことから凄いことまで――」

 

 「それはいいから渡してくれ」

 

 「ちぇー、先輩のいけず。はい、どうぞー」

 

 ゴキから手紙を受け取り内容を見る。

 

 「……やっぱ違うのか……」

 

 「どうしたんスか、先輩?」

 

 「今日の事件で、僕を襲ってきたヤツから手紙の内容を聞いたんだけど……、手紙に書かれている内容が違う」

 

 「えっ? 先輩を襲った人のこと知ってるんスか? ソイツ誰っすか?」

 

 あっやべ、失言した。

 まぁ、適当に誤魔化しておくか。

 

 「知らない下級生だ。名前は聞き忘れた」

 

 「先輩は優しいスね~。オレなら名前聞き出して、次の日には辱しめを受けさせたりするっスよ」

 

 「それはあまりに酷すぎないか……? まぁそれはいいんだよ。問題はその内容だ」

 

 「確かにそうっスね。んで、先の手紙の方はどう内容が違ったんスか?」

 

 「そっちは、僕を骨折すれば、前金と合わせて百万もらえるってヤツだ。それでも十万は先にもらっていたようだったけど……」

 

 「それってオレの方が報酬凄いじゃないっスか!」

 

 「そうだな……。しかし、人それぞれに与えている内容がここまで違うのか……」

 

 蜚蠊智美の所持している手紙に書かれている内容。

 それは僕を拉致もしくは誘拐し、手足を縛ること。そして、ある指定の場所に持っていき監禁すること。その場所は僕の通っている高校のある教室。これらの報酬を達成すれば報酬は一億。前金として十万は渡す。そんな内容だ。

 

 「オレの方がアサシン(暗殺者)として向いているからなんスかねぇ? オレみたくアサシンに長けた『虫』は多からず少なからずいるっスけど、やっぱり同じ学校にターゲットがいることが何よりのメリットなんスかね?」

 

 「それもある……と思う。けど、それより問題なのは差出人だ」

 

 差出人。これがおかしい。狂魅が言っていたのは研究者と言っていた。対してゴキの差出人は、

 

 「『学校に潜む者』ってヤツっスね。なんかメチャクチャ中二病感漂ってますけど、それがどうしたんスか?」

 

 「先のヤツの手紙は、研究者から来たと言っていた。それなのにお前のは学校に潜む者、だ。明らかに僕を撹乱(かくらん)しにきてる」

 

 さすがに、中二病感漂うとはいえ、狂魅は犯人ではないだろう。でも、狂魅に届けられた手紙は見ていない。それでも狂魅は犯人ではないと、僕はそう思っている。何より、中学生が十万は用意できないはずだ。

 

 「そうっスね。しかし、十万を渡すってのは、人を信頼させる材料として渡したものっスよね。これで交渉をしやすいようにしてる。こういうのなんでしたっけ? ナ……ナ……ナンシュー均衡を殺す――」

 

 「ナッシュ均衡を殺す、か。確かに、この手口でやれば疑心暗鬼自体は解消しやすいな」

 

 「それっス! ナッシュ均衡を殺す! ……相手は相当の手練れと見て間違いないっスね……」

 

 「そうだな。しかし、もしも毎日襲われるなら糸を学校や道路上に張らないとダメだな」

 

 僕はそう言うが、ゴキはそれが無茶だということは知っている。

 なぜ無茶かと言えば、集中力が足りなくなる。四六時中、糸で敵かどうか判断するのは難易度が高い。しかも今回は時間が無制限かもしれない。正直言って詰みかけているのが現状だ。

 

 「……先輩の為なら護衛してあげるっスよ。『消える』ように見せるのは得意中の得意なんで。違和感なく毎日を過ごせるように先輩のスクールライフを護るっスけど……」

 

 「大丈夫だ。それにお前は下手したら人を殺すかもしれないだろ。それに――」

 

 「それは大人数のときにその可能性があるだけっスよ! 今回は手紙で呼ばれている人たちだけだから協力してくる可能性は低いはずっス! 一人一人出てくるなら『見えない』ところからのスタンガン放って消し去りますよ!」

 

 『蜚蠊』という生き物は気がついたらいて、気がつけばいない、そんな生き物だ。それは風をいち早く感知して逃げることに()けているから。

 ゴキは、それを使って死角から攻撃できる。そしてその攻撃方法がもしも、ナイフであれば人を殺せる。だから、例えばスタンガンであれば敵を気絶させることができる。もっとも、複数人入れば死角ができず、最悪ゴキに何か被害が加えられるかもしれない。

 他にも理由はあるけど……。

 だから、

 

 「ダメだ。護衛はしないでくれ」

 

 なるべく、威嚇するように僕はそういい放った。

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