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感情シリーズ  作者: ザ・ディル
1章 嬉シノ感情
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4話 ともかく


 今さっき分かったこと。

 夢見の妹――狂魅(くるみ)は、どうやら研究者の人から手紙をもらって僕を骨折にしようと、バイク野郎を『狂わせて』操っていたことが発覚した。

 いくら十万円をもらっているからといって、名前も知らない研究者、下手したら研究者という話も嘘かもしれないけど、そんな人の肩をもつのはあまりにもリスキーだ。

 だから、自然と出た言葉は「バカか……」だった。

 

 「我を愚弄するな凡愚よ! ……いや、バカって言わないで……」

 

 両目を隠し、いや、右目は眼帯で隠されているので実質左目だけ隠して少し泣き顔になっている狂魅。

 それを見て、当然、僕は何かを感じるから、

 

 「あっ、悪かった。すまない」

 

 「……フッ……フフッ、謝るなら許すのが我だ。寛容(かんよう)に許してやるぞ」

 

 機嫌はコロッと直る。情緒不安定、そう言っても過言ではない気もする。

 ともかく、聞きたいことは聞いておきたい。

 

 「寛容に許されたからついでに聞くけど、その研究者には会っていないってことだよな?」

 

 「勿論だ、凡愚よ」

 

 ってことは収穫はゼロ同然……か。

 なら、また敵から危害を加えられることは何度か来る可能性があるな。そのときに、敵の尻尾を掴む、これが最善だな。

 まぁ、状況はある程度把握できた。感謝は……、言っとくべきだな。

 

 「ありがとう狂魅。状況がいろいろ分かったよ」

 

 「そうか、(こうべ)を垂れよ凡愚よ」

 

 「……、ははー」

 

 棒読みで言って、そして頭も下げてはいないが、どうやら狂魅はお気に召したようだった。

 

 「うむ、我は気分がよい。褒美をやろう」

 

 「ん? 褒美ってなんだ?」

 

 「褒美は我の……我の従僕になることよ」

 

 「丁重にお断りする」

 

 「じゃあ仕方ない……、我の下僕になるがよい、ククッ」

 

 「ご遠慮しときます……」

 

 「ククッ……、クッ…………、それは(さび)しいぞ……正真(しょうま)ぁ――じゃなくて、凡愚」

 

 明らかに中二病の影が無くなってきているけど、そこに突っ込むのは無粋だな。

 

 「まぁ、気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとな」

 

 「カカッ、くるしゅうない」

 

 「……そうだ、狂魅。今日は夢見と遊ぶんだ。良かったら狂魅も来るか?」

 

 「いいのか! あっ……、コホン。我は姉上と遊びたいからな。一緒に行くとしよう。しかし……」

 

 「しかし……、どうしたって?」

 

 「我が凡愚に怪我をさせようとしていたのは内密にしてほしいのだ。構わぬか?」

 

 普通であれば、怒るだろう。

 しかし僕は蜘蛛(・・)だ。蜘蛛は所詮、蜘蛛だ。それ以上でもそれ以下でもない。だから、

 

 「ああ、分かった――」

 

 承諾する。だが、問題は少し別のところにある。

 

 「――でも、問題がある。夢見にはバイクの件をなんて言うつもりだ?」

 

 夢見は当然、妹である狂魅の能力を知っている。だから、バイク野郎を狂気に陥れた犯人が誰か分かっている可能性がある。

 

 「う……、それは……」

 

 か……考えてなかったのか……。

 さて、どうしようか。

 正直なところ、夢見は自分の妹が僕を襲うことなど微塵も考えていないだろう。しかし、恐らく多分きっと問題はないだろうけど一応考えておくべきではある。

 

 「しょうがないな、考えてやるよ。例えば……、さっきのバイク野郎は興奮ぎみで、たまたま偶然、僕たちの帰り道でバイクを走らせていただけ、ってのはどうだ?」

 

 今、適当に考えたものはコレだ。

 

 「うむ。良い気はするが、如何(いかん)せん姉上にはバレやすい。それは凡愚も分かっていると思うが……」

 

 夢見は、人をあり得ないほどと言ってもいいぐらい、人の観察に()けている。

 自分がどんなに感情的になっても、自分が怒り狂っても、いつでも人の観察を怠らない。それを無意識でしているからゾッとしない。

 飽くまで人のみの観察に長けているから、それ以外が弱点になってしまうけど、それでも人だけの観察であれば間違いなく学校一だ。

 だから狂魅が忠告したのは、それを知っているからバレるということだろう。

 まぁ、それは当然僕も知っているが、

 

 「それはその場の流れでなんとかする、というか僕ならできる。それも狂魅は知っているだろ?」

 

 「まぁ、凡愚だけは可能だな……」

 

 しかし、彼女は、ある一人だけ観察をすることができない。その人物は、僕だ。

 何故か、僕にだけは観察を行わない。それは狂魅とゴキ(蜚蠊)、そして本人の僕だけが知っている。

 

 「あぁ、僕ならできる。だからこの件は、僕が受けもつ」

 

 「うむ……把握した。我の手出しは無用、無粋だというのよな?」

 

 「もちろんだ。狂魅は先に僕の家で待っててほしい。もしなにかアクシデントがあったら帰ってもいい。そして僕たちが来なくても帰ってくれ、というか帰らないとマズイ状況に陥るかもしれない」

 

 「忠告、感謝する。我は今からそのように行動するが、凡愚はどうするのだ?」

 

 「夢見と合流して家に帰る。……下手したらこの件を知ってしまった夢見にも被害が出かねないからな」

 

 「ククッ、なら仕方あるまいな。我は凡愚の家で待っているぞ。では、また会おう! カカッ!」

 

 そんなことを言って、狂魅は僕の家に向かっていく。

 

 「さて、僕は夢見のもとに戻りますかー」

 

 そんな気軽さを持ちながら、もと来た道を歩いてもとの場所にたどり着く、たどり着いたのだが、正真は失念していた。こっちには風や振動を感知する糸を使用していなかったから、なんの変化もまったくもって知らなかった。

 

 「うっ……、これ家に帰れないかも……」

 

 僕の目の前に見えたのはパトカー、そして警察官が二人、さらに警察官と会話している夢見がいた、そんな最悪の光景だった。

 なぜ、これが最悪なのかと聞かれれば、こう答える。警察官が集まっているのはバイクとそれに乗っていた男が、蜘蛛の糸に絡まっているのを確実に見られているからだ。これはもう、僕以外ができる芸当ではないから、犯人にされるわけではないとしても警察のお世話になってしまう。それがとても嫌だった。思わず考えをネガティブに進めようとしてしまう。

 

 「あっ! 正真! こっちこっち!」

 

 しかし、そんなネガティブさをもっていても、彼女の明るい感情に敵わない、僕がいた。

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