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感情シリーズ  作者: ザ・ディル
1章 嬉シノ感情
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1話 僕の名前は嫌われている


 突然だが、僕の名前は――正確に言えば名字だけど、その名字は往々にして忌み嫌われ、疎まれている。

 そのせいで小学生の頃は(いじ)られ、中学生では虐め(いじめ)まで受けている。

 だけど、それでも、いやそれなのに、僕はその名字を誇りに思っていて、そして手離したくはないと思っている。

 その名字を家族から引き継いだ、その名字が自分のもの、ということは僕には『あるもの』がある、ということになる、必然的にそうなってしまう。

 

 メタフィクションらしい話になってしまうが本来ではあり得ないような『能力』がこの世界にはあって、能力をもっている人を能力者と呼ぶ。

 能力は『あるもの』のお陰で使用可能になっている。

 このことは現在、世界の研究課題として、大々的に調べ上げているというニュースは流されてはいる。しかし、それらしい成果は出ていない。

 噂では、あまりに能力の実態が不透明な為に、『能力者たちを解剖している』研究者たちもいるという、そんな噂話もたっている。これが事実かどうなのかは判然としないが、能力者というのはそれほど興味深く、そして危険なもの。それ故に、能力者には別の法を定められているほどだ。

 それほど、現実に能力者がいるというのは危険である。

 しかしながら能力者になるのは比較的簡単だ。名前(・・)に『あるもの』が入ればいい。

 さて、ここで『あるもの』の正体を明かそう。

 

 『あるもの』とは感情、虫、機械などにちなむものが該当しやすい。その類いに該当する名前が付けられるだけで、人は能力者になれる。

 しかし当然のように例外もあって、名前にそれらを付けても能力者になれない人もいるし、逆にそれらに由来する名前を付けなくても能力者になれる場合もある。これも研究者たちの間では研究対象にされているらしい。

 さて、そろそろ僕の名前を紹介しよう。

 

 

 僕の名前は蜘蛛(くも)正真(しょうま)

 

 蜘蛛。この名字によって僕は他人から忌み嫌われた。

 

 

 でも、差し伸べてくれる手があった、あり続けていた。他の人に嫌われようともその手は、彼女の手は取り続けるように努力したい。

 彼女の温もりはどんな人にも負けないような、まるで幻想的な、夢でも見ているような温もり。僕はそんな彼女を護りたいと、心に決めている。

 その彼女とは――

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 今日も授業は終わり、皆はワイワイと騒ぎながら友達と帰る。それは自然であり、当然僕自身もその仲間である……そう言いたいけど、僕の場合、一緒に帰る人は友達ではない。

 

 「ねぇ正真、一緒に帰ろ!」

 

 一緒に帰るのは僕の幼馴染――柿原(かきはら)夢見(ゆめみ)だ。

 

 

 突然だが、僕にはコンプレックスがある。

 僕は顔付きだけで見れば普通の男子と見てとれる。しかしその反面、女子のような体躯を持っている。それが一種の差別を呼ぶことになり、中学生時代にはイジメを体験した。

 

 だけど、僕の幼馴染の夢見は、女子とも言っても判然つかない僕の体躯に対して、なんら差別感を持っていなかった。しかもイジメを受けていたとき、彼女は僕と一緒にいてくれた、居続けていた。それは僕からしてみればとても嬉しい。

 しかし、同時に僕と一緒にいることが多かったので、彼女はあまり女子同士の友達もいない……そう思える。いや、多分一人もいない。中学時代はそのせいもあって、彼女も虐められた。もっとも、虐められた原因というのは、蜘蛛()の隣にいつもいるからという、そんな酷く醜く外道な、クソみたいな理由で虐められた。一般人であれば耐えられないような苦痛に、彼女は耐えた、耐え続けていた。

 僕だけであれば虐めなんて特に問題ではない。しかし、クソみたいな理由で彼女が虐められていたことを知って、僕はその日、狂った、怒り続けた。

 

 

 

 話がシリアスになりすぎたので、夢見(ゆめみ)の話でもしよう。

 

 夢見の体躯と容姿は美少女と呼べるほど綺麗で可憐、おまけに頭脳明晰な、まさに理想を体現したかのような少女だ。

 そんな彼女と僕が仲がいいのは、どう考えても幼馴染だからとしか言えない。恐らく、僕は夢見と幼馴染になったことで、人生すべての運を使いきっているといっても過言ではない。

 そして、彼女は僕と幼馴染になってしまったから未だに友達はできていないと、そう思ってしまう、考えてしまう。

 

 っと、彼女にとってみればくだらないと言われる与太話はこれくらいにしよう。

 

 

 

 幼馴染が一緒に帰ろうと言っているんだ。

 だから肯定する。

 

 「いいよ、帰ろうか」

 

 だから、明るい彼女の笑顔に応えた。

 

 一時期、その笑顔は嘘なのかもしれないと疑心暗鬼になったこともあるが、嘘なワケがないのだ。嫌いなら僕と距離を置けばいい。たとえ幼馴染だろうがなんだろうが。

 そして嫌いでないと分かれば、分かってしまえば嬉しくて安堵する……そう思ってしまった過去。そう思っていた過去の自分をぶん殴りたい。

 

 彼女は、僕というどうでもいいような存在に時間を、気を使いすぎている。

 彼女は同性の友達も、異性の友達もほとんどいない。しかし美少女なのだ。

 そして美少女で、性格に難がないのに友達ができない理由は、恐らく……僕のせいだ。

 僕が存在して、幼馴染である僕のことを考えてくれているから……だから放っておけず、僕と一緒にいてくれる。

 でも、僕は蜘蛛という名前によって忌み嫌われているのだから、そんな(ヤツ)と一緒にいれば美少女の彼女でも友達ができない。

 それが本当に申し訳なく、謝りたいけど、彼女はそんなことは絶対に求めていない。長年幼馴染であるから分かっている、分かりきっている。

 

 「……正真、元気なさそうだけど大丈夫?」

 

 「いや、いつも通り(・・・・・)元気がないだけだ。気にするな」

 

 「そう? まぁいいや。早く帰ろ!」

 

 僕は適当な相づちをして彼女――夢見と、いつも通り教室から出ていく。

 いつも通りの帰り道を歩いて、いつも通り適当な会話で盛り上がるんだろう。

 

 

 

 

 僕はこのとき、これから始まる事件のことについて何も知れなかったし、知る由もなかった。

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