成功例と失敗例
遅くなってすみませんm(_ _)m
「黒の先には何がある?
黒の先には黒しか無い。
白の先には何がある?
白の先には白しか無い。
じゃあ、ここで問おう。
黒と白は混ざるのか?」 ー 『色澪伝』
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体が浮かび上がる感覚はそう間もないうちに消えた。
それと同時に、腰の辺りを鈍い痛みが貫いた。
「……ぐっ……」
くぐもった声が僕の口から漏れる。
ふと、音が耳から流れ込んできた。今まで聴覚が働いていないような、そんな考えが僕の頭をよぎる。
「ん? なんだこいつは」「見たことない族ねぇ」「通報した方がいいんじゃないの?」「暴れられたら困るしな」「こういうことはレヴィさんに任せるのがいいんじゃない?」「わかった! レヴィさん呼んでくるわ!」
目は未だ機能しない。ただ、真っ黒から徐々に白みを帯びてきた。
パチパチと瞬きをすると、ぼんやりと噴水のようなものが目に入ってきた。どう考えても、僕の家の周りにあるものではない。
「ほっほっほ。坊ちゃん、大丈夫かね?」
「え、あ、はい、大丈夫です……」
視界がぼんやりとした所に不意に声をかけられ、ビクッと方が震えてしまった。奇妙に思われていないだろうか。
「あのー、なんかすみません」
「いいんじゃよ。とりあえず、儂の家に来なされ。話はそこからじゃ」
レヴィと言われていた老人に声をかけられた直後からやっと目が見えるようになってきた。
僕は比較的理性を保ちやすい方だが、周りの景色に驚かざるを得なかった。
数十人はいると思われる野次馬の中には、耳のとんがったエルフのような見た目の美人や肌の黒い黒色人種、背が低く謎のアクセサリを身に付けている人。
見たことのない人、見たことのない景色に僕の脳はついていけなかった。
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「ほっほっほ。落ち着いたかね?」
「……はい。ありがとうございます」
レヴィさんの家はかなり広かった。自分が今座っている場所は家のど真ん中で、周りには暖炉や作業台と思われる机、どでかい棚がある。まるで自分がいた世界とは違う世界に来たような感じだ。
レヴィさんはかなり年老いた方だった。長い白髪は背中にまとめられないまま垂れており、下がった目尻からは優しい人柄が感じて取れる。「魔導師」という言葉がピッタリだ。
「あの……ここはどこですか?」
「ん? ここって……中心街じゃが?」
「えぇっと……多分ですけど、僕、別世界から来たんじゃあないかな……と」
僕は薄々感づいていた。見たことのない種族の人々が街中に跋扈している時点でそもそも「別世界」としか考えられない。
「ふむ……やっぱりか」
「レヴィさん? ど、どうしました?」
「いや、儂も詳しくはないんじゃが、今この国の王政が乱れておってのう。対立が拗れて戦争の勃発が懸念されとる」
「結構、大変ですね」
「その流れで伝え聞いたんじゃが、救世主を求めて召喚の儀式を行うとかなんとか……。坊ちゃんの言う通り、ここは坊ちゃんの世界とは違う世界だと思うわい」
「儀式にしては、雑すぎじゃないですか?」
僕は街頭に突然現れたのだ。召喚とは流石に言い難い。それに、召喚されるのが僕とは到底思えない。
ここで僕は、同時に「転移」されたはずの友人がいないことに気付いた。異世界に来たばかりで注意が色んなところに向けていたためか、記憶が混同していた。
「あ、あの!」
「ん? どうしたんじゃ?」
「もう1人、この世界に来たはずなんですが、そ、その人は知りませんか!?」
「んー、儂は知らんなぁ。そもそも、坊ちゃんがこの世界に来た時もたまたま居合わせただけじゃし」
「そ、そうですか……」
昂が行方不明であることを知り、落胆した僕にレヴィさんがふと思い出したように話しかけた。
「あ、そういえばじゃな、儂は『召喚』と言ったじゃろ?」
「は、はいそうですね……。それで、僕は召喚にしては雑すぎる、と」
「勿論、流石に坊ちゃんは召喚とは言い難いかもしれん。だが、儂は坊ちゃんは『召喚の失敗例』なのではないかと思うんじゃ」
「つまり、昂は『召喚の成功例』として召喚されたと……?」
「うむ」
確証はないが、とりあえず安心した。
と、不意にレヴィさんが目を見開いた。その視線の先を探ろうと、僕は斜め後ろを振り向いた。
そこには、禍々しい紫色に光る手のひらサイズのクリスタルがあった。
「ま、魔晶石が紫色になっとる……じゃと?」
「えっと……それはどういうことですか?」
「……魔晶石とはな、近場で『魔力』が流れた時に反応するもんなんじゃ。それが今光ってるということは……」
「坊ちゃんが『召喚の失敗』のせいで何かしらの異能を持っているんじゃないかのう?」
「色澪伝」を考えるので2、3日使いました(苦笑)