SS_ウィロー準女男爵との顔合わせ
SSは各キャラの時間軸が同時に書けるのが利点です。
イベリスが帝国に戻るまでの3日間に、描写が必要なことが、たくさんありますので。
=メーン子爵領執政官_ユーカリの視点=
そう、何と言うのか。
星降りの女神_スプリン・グ・スター・フラワー様は、昔からウチが憧れていたイメージと全然違う。もっと大人の色気がある、妖しい雰囲気の美女だと思っていたのに……実物を見たら「食いしん坊な犬耳小娘」って感じだったから。
でも、その実力は本物だ。星降り、数々の魔法道具、転移魔法。
ラズベリ様に聞いた話になるのだけれど、今回の殺戮の女神達の討伐も、グスター様の能力が無ければ難しかったらしい。
本人は「やる時は、やれる娘なんだぞ(≡ω)v」と笑顔で言っていたけれど、威厳なんてものは一切感じられなかったから、ウチとしてはちょっと複雑な気持ちだ。多分、長老達も今のグスター様の様子を見たら、出兵は諦めるだろうなという自信がある。
……うん、それはそれで都合が良いからOKか。
そんなことを思い出しながら、ウィロー準女男爵との交渉へ意識を向ける。
ミオ殿の養殖を成功させるために、ひいてはこの世界の問題を解決するために、この第一歩は失敗が出来ない。幸いウィロー準女男爵はラズベリ様に協力的な法衣貴族の1人だから、上手に説明して取り込んでいこう。
元女騎士でもあった彼女は、41歳の実直な女性だ。
プライドは高いが、腐敗とはほど遠く、女王陛下に対する忠誠心も高い。
下手に小細工をするよりも、ストレートに協力を求めた方が良く働いてくれるだろう。
――さぁ、ウチの戦いはこれからや!
◇
「――ということで、非公式ながら女王陛下直々の公共事業やさかい、ウィロー卿にも今回の養殖に協力してもらいたいと思っているんや♪」
ウチの言葉に、ウィロー準女男爵が真面目な顔で首を縦に振る。
「もちろんです。非才の身ではありますが、わたしにできる限りのことは協力いたしましょう。まずは、わたしは何を協力すれば良いでしょうか?」
「そうやな、養殖を始めるための概要はミオ殿から聞いているから、それを説明するわ。まずはこの紙を見て欲しいんや」
バジルに預けておいた鞄から、羊皮紙の束を取り出してそのうちの1つをウィロー準女男爵に差し出す。余談だけれど、巻いてある紐の色でどんな内容を書いてあるのか区別しているから間違うことは無い。
ウィロー準女男爵が紐を外して中身を見て、表情を変える。
「これは――」
そう、その中身はこんなことが書かれていた。
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(事業名)
魚介類を利用した人口増加および国防に関する機密事業(表向きは『ルクリア養殖振興事業』と称することにする)
(初期目的)
・魚介類の養殖技術の確立。(育てやすい種類から)
・魚介類の周年安定供給体制の構築。
(最終目標)
・養殖魚を一般に普及させ、安価で安全な魚介類を市場に供給する。
・単為生殖魔法との組み合わせにより「人口増加」と「国への忠誠心向上」を図る。
・大陸間の人口格差で起こる世界大戦を未然に防ぐ。
(事業概要)
グラス王国は、神から授けられた「単為生殖魔法」を利用して、人口減少に歯止めをかけることを最重要級_国家機密課題に指定した。
単為生殖魔法とは、男性がいなくても女性が子どもを妊娠および出産できる魔法であり、現在の世界を覆っている人口減少問題とそれに付随する数々の課題を解決できる唯一の方法であると現時点では考えられる。しかし、妊娠した女性が健康な子どもを産むためには、定期的に一定量の魚を食べることが必須であり、現在の魚介類価格が高騰している状態では一般への普及は事実上不可能である。
しかし、逆の視点で考えると、魚介類の養殖(人の手で人工的に殖やしたり、大きく育てたりすること)を行えば――
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びっちりと書かれた詳細な計画書。
ウチらは事前にその内容を見せてもらっているのだけれど、何が必要で、何が不要で、誰がどんな行動を取ったら最善の手段が見えてくるのか? ということまで書かれている。
でもウチが驚いたのはそこでは無い。
この計画書に付随する詳細事項には、信じられないことが記載されているのだ。
養殖とはどういうことかという説明に始まって、「効率良く魚を殖やす方法」や「育成中の死亡率の低減方法」、「ローゼル湖から効率良く稚魚を採集し大きく育てる方法」や「普通の方法では稚魚が育たない原因の仮説と調査方法」、それに加えて「養殖が軌道に乗るまでの漁業の計画案」までもが現実的な方法で書かれている。
本当、自分の頭の良さには自信を持っていたのだけれど、ミオ殿の頭の良さには敵わない。でも、嫉妬する気持ちすら湧かないから、不思議なものだ。
「ウィロー卿、ミオ殿や女王陛下の期待に応えられるよう、頑張りいや?」
それはウチの本心。ミオ殿がこれからどんな世界を見せてくれるのか、作っていくのか、ウチはとっても楽しみにしている。
「もちろんです! 精一杯頑張らせて頂きます!!」
キラキラと目を輝かせているウィロー準女男爵。
年上に好かれる男は成長するって言うけれど、ミオ殿はどこまで大きくなってくれるのか、本当に想像するだけで心臓がドキドキしてくる。
「よろしゅうな♪」
思わず笑顔になっているウチがいた。




