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第7話_ハニートラップは妖艶なり

=リリーの視点=


急がなきゃ。急いで王都に向かわなきゃ。

王都には、聖女騎士団のリアトリス様がいる。レベル230の生きた伝説。彼女なら、この状況を何とかしてくれる。お母様が文字通り身体を張って(・・・・・・)悪魔を止めてくれている間に、応援を呼ばなきゃこの王国が危ない。

「あの悪魔――絶対に殺してやるっ!」


絶対に。そう、絶対に殺してやる。

お母様がその身体を差し出して悪魔を止めている間に、シクラの貞操を守ってくれている間に――聖女騎士のリアトリス様を連れて帰らないといけない。

王国の危機だと言って、女王様を説得しないといけない。


早く! 早く! 早く!

腰に差した家宝の青色水龍剣ディープ・アクア・ドラゴンが揺れるのも構わずに、私は馬に鞭を打った。


=山下三青の視点=


領主の城の広い庭。

花園の中にあるテーブルで、僕とラズベリとシクラは三角形に向かい合うように座って、お茶をしていた。そう、僕は今、現在進行形で「リアルメイドさんが入れてくれるお茶を飲む」という貴重な体験をしているのだ。


「うふふっ♪ それで今の話に、どんな感想を持ちましたか?」

「それは――」


良かったですね、とは口が裂けても言えない。

とりあえず、言葉を濁しておこう。

「――何とも言えないですね」


何の話題かって? 元当主様(ラズベリの元夫)の話だ。

ここまでの流れを一言でまとめると、「ラズベリは愛の無い政略結婚と浮気性の元当主のラム・レイシ氏とのすれ違いの毎日に飽き飽きしていたけれど、Yウイルスで世の中の男が死んでくれたおかげで、ラム・レイシ氏が女王命令で種馬(公爵)にされることになり、晴れて離婚と子爵の地位の譲渡が成立して自由の身になりました」なんていうカオスで重たい内容だった。


なお、話の中に出てきたラム・レイシ子爵は、現在ラム・レイシ公爵を名乗っているとのこと。そのことに加え、現在のメーンという姓はラズベリの旧姓で、離婚時に子爵家の当主の座を譲り受ける時に「ラム子爵家を名乗りたくない」という理由で変えたのだということも、笑顔(・・)のラズベリが教えてくれた。


詳しくは聞かなかったけれど、後継ぎの長男を産んだ第二夫人とのいざこざがあったらしい。なお、第二夫人や第三夫人が産んだ男子は全てYウイルスで死亡して、その結果、女子で一番年上のリリーさんが次期当主候補に決まった。

ラズベリは「元々第一夫人であったこともあって、あまり波風を立たずに(・・・・・・・・・・)子爵家当主に収まることが出来ました」――と笑っていたけれど、第二夫人や第三夫人がその後どうなったのかは、怖くて聞けなかった。


ちなみに、元当主さんは1ヶ月ごとに女をとっかえひっかえ楽しくやっているそうだ。「馬鹿ですよね」って嬉しそうな顔でラズベリは笑っていたけれど、その言葉の裏に「実質、ハーレムという名前の男版人間牧場ですよ?」という暗いニュアンスを感じてしまった僕がいる。


さて、このまま沈黙が続くのは不味いから、現状を整理しよう。


ラズベリは笑顔でお茶を飲んでいる。

どことなく、僕のどぎまぎとした反応を楽しんでいるような印象。


ローリエという、スレンダーな無表情の美人メイドさんは、ラズベリの斜め後ろに立っている。いつでも命令が有ったら動けます、というような出来る雰囲気。


シクラはずっと黙っている。僕やラズベリが話を振っても、出来の悪いロボットみたいに、「はい」か「そうですね」しか返事を返さない。しかも、ちょっと涙目。


……うん、シクラには悪いことをした。

目の前でラズベリが僕にキスをしてくれたことや、その後に僕がラズベリと仲良く話してしていることは、年頃の娘としてショックだろうなと思う。

シクラ、めちゃくちゃ僕に懐いてくれていたし。


正直、ものすごい罪悪感を覚える。ラノベの中の主人公が鈍感系なのが理解できるくらいに。

まともな神経なら、三角関係に巻き込まれると胃潰瘍になりそうだ。


僕はシクラのことが嫌いじゃないけれど、年齢的に恋愛対象にしたらいけないと考えている。保護回路がブレーキをかけてくる。

それに、母娘相手に二叉をかけられるほど器用な人間じゃないし、僕はラズベリが僕のことを好きだと言ってくれている間は、ラズベリ一筋でいきたいと思っているから。


……と、大切なことを聞き忘れていたことを思い出した。あまりに色々とありすぎて、頭の中から抜けていたのだ。

「えっと、シクラ? 大丈夫?」

「はい、大丈夫デスヨ、ミオサマ」

語尾がおかしい。でも、会話を続けよう。

「シクラが、僕を勇者召喚しようとした理由を聞いても良いかな?」

シクラのことを恋愛対象には見られないけれど、シクラの願い事――つまり、召喚された理由――くらいは、無理のない範囲で叶えてあげたいと思ったのだ。「お腹パンパン」はダメだけれど。


僕の言葉で、シクラの目に光が戻った。

「それは、勇者さまに会いたかったからです! ミオさまも知ってしまったとおり、この世界には男の人の数が絶対的に足りません。だから、ミオさまと一緒に旅をして、世界の人口減少問題を解決したかったのです。さっきは興奮して恥ずかしいことを言ってしまいましたが、私の、いえ、私達『女の子の行き詰った未来を壊して欲しい』んです!」


いや、何と言うのか「女の子の行き詰った未来を壊して欲しい」とか言われても、ちょっと引く。結婚に焦っている30代の先輩女子みたいだ。

――とか言ったら、シクラが悲しそうな顔をするだろうから口には出さない。


とりあえず、具体的な内容を聞くために、話を進めよう。

「そうなると、僕という勇者の敵はYウイルス――じゃなくて、人口減少という社会問題かな。それを解決することが勇者の使命だと」

「はい。Yウイルスとの戦いは、人間の敗北ということで収束しましたから。全世界の女性がYウイルスに感染している以上、Yウイルスと共存する道を模索するしかありません。ミオさまには、その共存する方法を探してもらいたいのです」


……正直に言おう。

魔王を倒すよりも難しそうな問題だと思う。

っていうか、医者でも手に負えない極小のウイルス相手に、素人の僕にどうしろと言うのだろう?


「ねぇ、シクラ。人口減少の解決方法で1番簡単なのは、ハーレムを――」

そこまで口にして、ふと、気が付いた。アレ? もしかして、ハーレムを作ると、今の僕の立場もヤバい? このままずるずると僕の存在が王族や他の貴族にばれたら、第二の種馬にさせられてしまう可能性が高い。

ハーレムひゃっほ~と言えるような若さは僕には無い。身体は若返ったけれど、精神的には、まったりと、ゆっくりと、好きな人との愛を確かめる行為だけで良い。人間牧場なんて勘弁だ。僕、童貞魔法使いだし。

「――作るのは無しの方向で。せいぜい人口が2000人くらい増えたとしても、焼け石に水だから」


「はいっ♪ ミオさまならそう言ってくれると思っていました。それに、今は良くても近親交配は将来的に不具合の元ですものね! 先生が言っていました」

ここで言う不具合というのは、劣性遺伝子の表現型や致死遺伝子のことを言っているのだろう。

遺伝子とかいう概念が無さそうなこの世界で、シクラが遺伝のことを理解しているということは、僕の前の召喚者のミクニ先生は、とても優秀な教師だったんだろうな。


「僕がハーレムを作るのがダメとなると、他には……うん、今は良い方法が思い浮かばないから後回しにしようか♪」

「ぇえっ?」「もぅ、ミオさん!」

期待の眼差しで僕を見ていたシクラとラズベリが軽くこけた。

そして非難の視線で僕を見てくる。


あれ? 何か悪いことした?

「シクラ、ラズベリ、とりあえず『今は』まだ思い浮かばないってだけです。きちんと情報を整理してから、後でまた考えますのでそんな目で見ないで下さいよ」

「そうですか、良かったです」「諦めるのかと思いましたよ」

シクラとラズベリの言葉が重なる。

でも、この反応じゃ、早めに打開策を考えた方が良さそうな雰囲気だ。

「そんなことはしません――あ、良いこと思い付きました」

僕の言葉に、シクラとラズベリが反応する。


「良いことですか?」「何です?」

「ラズベリ、一度、ラム・レイシ公爵に会うことは出来ないですか? 彼はYウイルスから生き残った男性ですし、これからの世界のことについてどう考えているのか、一度会って話をしてみたいんです」

「……。そういえばこのクッキー、美味しいからミオさんも食べてみて下さい」

白くて細い指先に摘まれたクッキーを、ラズベリが僕の方に向けてくる。

「あ~ん、して下さいなっ♪」

嬉しそうな顔で悪戯っぽい笑みを浮かべるラズベリ。その横では、シクラが再び固まっていた。


「……ラズベリ、あからさまに話題を変えないで下さいよ。何か理由が――「気が進まないのですよ」――え?」

冷たくて無機質なラズベリの言葉に、少しだけ驚いてしまったのは事実。

そして、僕はやっとソレに気が付いた。最低だ。


「ごめんなさい。嫌ですよね、元旦那さんと会うなんて」

僕の言葉にラズベリが苦笑する。

「そういう意味じゃないですよ? わたくしとラム公爵の場合、関係も感情も完全に吹っ切れていますから、そこはちょっと気まずい程度で別に問題は無いんです。ただ、ラム公爵がミオさんにちょっかいを出してこないかが怖いんです」

ラズベリの言葉に、固まっていたシクラが再起動する。

「私も反対です。お父さまは嫉妬深い人ですから!」


2人に言われて初めて気付いたけれど、そういうことは考えていなかった。


「言われてみると、ラム公爵に不用意に近付くのは、良い手とは言えないですね。元妻ラズベリの領地に居候している爵位の無い平民の少年に、Yウイルスの件について話を聞きたいっていきなり言われても、あまりにも胡散臭いですし、ラム公爵に意地悪されても仕方ないです」

僕の言葉に、ラズベリが頷きを返してきた。

「ええ、ラム公爵は心が狭いですから、ミオさんと会ってしまったら絶対に何かしらのアクションを取って来ると思います。金品の要求ならまだ可愛いです。下手したら、ミオさんが男だと分かった時点で暗殺者を放ってくるかもしれないですし」

「お母さま。さすがにそこまでは――「する人ですよ? 必要があれば」――そう、です、か……」

シクラはラズベリの言葉に凹んでいるけれど、僕もラズベリと同意見だった。

僕は自分のことを、かなりお人好しだと自覚している。

だけど、自殺願望は無い。


「僕は、グラス王国で2人目の生きている男になりますので、ラム公爵の立場を脅かす存在ですものね。こっちにはその気がなくても、あっちには目の上のたんこぶだと絶対に思うでしょうし」


うん。今、ここは僕の異世界生活の分岐点だと思う。

残り寿命じかんは、あと1年。


表社会にしゃしゃり出て、暗殺に怯えながら種馬になる爛れた人生を選ぶか。

ひっそりと生きて、1年後に人体自然発火現象で灰も残さず死んでいく人生を選ぶか。

Yウイルスの治療法を探す、どちらでもない人生を選ぶか。

――考えるまでもない。


僕は感染症の専門家じゃないけれど、何もせずに諦めることなんて出来ないし、死ぬのを待つというのも性分じゃない。あっちの世界に残してきた借金も気になるけれど、もっと人生を楽しみたい。

だから、Yウイルスの治療法を探そう。

そうだな……まずは、ミクニ先生の残した研究資料を見てみよう。Yウイルスの治療法のヒントが隠されているかもしれないから。


この世界での目標が決まった。

①Yウイルスの治療方法を見つけて生き残る。

②勇者として人口減少問題を解決する。

③ラズベリを幸せにする。

この3つだ。


……もう、僕は元の世界(日本)に戻ることは出来ない。借金を返すことも、無理かもしれない。

Yウイルスに感染した僕が戻ることで、地球でもパンデミックが起こってしまうかもしれないから。僕が引き金になって人類が絶滅しました――なんていうのは、冗談でも笑えないから。

でも、だからこそ、こっちの世界で生き残ってやる。

異世界転移を後悔しないくらい、こっちの世界での新しい人生を楽しんでみせる!


「んふふっ、何を考えているのですか?」

気がつくと、じぃ~っとラズベリに、悪戯っぽい目で見つめられていた。

紫氷アメジスト色の瞳。心の中を読まれているみたいで、心臓がドキリとする。

「えっと、Yウイルスの治療方法が無いのか、考えていました」

「あら、どうりで素敵な顔になっていたんですね♪」

「その……厚かましいお願いだと分かっているんですけれど、ラズベリにも協力してもらえると嬉しいです。僕は、まだ死にたくありませんから」

僕の言葉にラズベリが口を開く。

「ここでの『協力』とは、具体的に言いますと、どんなことです?」

「ミクニ先生の部屋の資料を読ませてもらうとか、同じような資料を集めてもらうとか……あと、研究のための……資金提供とか……」

「そう、資金提供ですね?」


小さな沈黙が生まれた。


やっぱりダメだっただろうか?

沈黙を誤魔化すように、お茶を口に運ぶ。


そのタイミングを見計らったかのようにラズベリが言葉を発した。

「一つだけ条件があります。ミオさんが1ヶ月後――きっかり1ヶ月後に、わたくしの旦那様になってくれるのなら――結婚してくれるのなら、協力しますっ♪」

飲んでいたお茶を噴き出しそうになった。いつかラズベリと結婚したいなとは思うけれど、1ヶ月は早すぎる。

僕の隣では、シクラが完全にお茶を噴き出して、メイドのローリエにハンカチをもらっている。

「けほ、けほっ、お母さまっ!」

シクラが叫んだ。でも、それを無視してラズベリが言葉を続ける。

「あら? ミオさん、そんな反応するなんて――わたくしはミオさんの好みから外れているんですか?」

「いえ、何と言うのか……あまりに早く結婚すると、元の旦那さん(ラム公爵)に恨まれます」

「もう別れたのにですか?」

「でも――」

「……ミオさん、酷いです。わたくしが夫に捨てられた女だから嫌なんですよね?」

ラズベリの眉が八の字型に歪む。


こんな顔をするなんて、こんな言い方をするなんて、ラズベリはちょっとずるい。

僕は、ラズベリのことを1人の女性として見ている。

ラズベリは見た目も、ちょっとした笑い方や仕草も、話している感じも、頭の回転の速さも、大胆に頭を切り替えることが出来るのも、全部僕の好みなのだ。

「そんなことありません。ラズベリはとても魅力的な女性です。それは僕が保証します」


ラズベリが泣きそうな顔で、無理やり笑顔を作って、僕を見る。

「わたくし、32歳ですよ?」

申し訳ない、といった自信の無い顔。そんな顔はラズベリには似合わない。

「問題ないです。召喚前の、僕の年齢は28歳のおじさんでした」

「子どもが2人もいるんですよ?」

「良いことです」

「……処女じゃ、無いんですよ?」

「そんなの、気にしませんよ」

僕は童貞だから、逆にリードしてもらえると嬉しい。


「私のこと、好きでいてくれますか?」

「今までも、これからも、ラズベリが大好きです。だから――」

ゆっくり歩いて行きませんか? と言おうとした僕の言葉に、嬉しそうに笑うラズベリが声を重ねる。

「ミオさん、ありがとう。プロポーズしてもらえて嬉しいです。それじゃ結婚式はいつにしましょうか? 1ヶ月後の予定でしたが、やっぱりもう少し早くしても良いですか? 1週間後とかどうでしょう? それに――」

その先は、耳に入ってこなかった。


1週間後は、かなり早い。

っていうか、いつの間に僕はプロポーズをしたことになっている?

僕はただ、落ち込んでいたラズベリを正直に励ましていただけなのに。

……これが恋する乙女(早とちり)ってやつなのかな? いや、ラズベリにはめられたのかもしれない……と思ってもいいのかな?


「ラズベリ?」

「はい、あなた?」

嬉しそうな眩しい笑顔。

こんな幸せそうな表情を向けられると何も言えなくなる。


ラズベリは美人だし、頭の回転も速いし、笑顔も素敵だし、正直、僕の理想の女性だ。バツイチで子ども有りだけれど、それがハンデにならないくらい魅力的。でも――その横で悲しそうな顔をしているシクラのことを考えると、さっきのはプロポーズじゃないと言った方がいいのだろうか?


何も言えないでいると、ラズベリが言葉を続ける。

「あ。でも、わたくしとの結婚には1つだけ条件があります。絶対に守って欲しいことなのですが良いですか?」

「……どんな条件ですか?」

出来れば、それを破ることで結婚までの時間を稼げるような条件が良いな。

半年くらいは、ラズベリといちゃいちゃできる恋人関係でいたいなと思う。その後、結婚する予定であっても。


ラズベリが苦笑する。

「決まっているじゃないですか。わたくしと結婚するまでは、わたくし以外の女の子に手を出しちゃ、ダメですよ?」

「当然です!」

思わず軽く叫んでいた。

そんな、結婚前から浮気するなんて、婚約破棄されても仕方がない。


僕の反応が嬉しかったのか、ラズベリがにこっと微笑む。

「もちろん、シクラにも手を出しちゃ、ダメですよ♪」

「なんで、ここでシクラが出てくるんですか!?」

思わず叫んでいた。

母親と結婚しようとしているのに、その娘に手を出しちゃダメでしょ?


それなのに――

「ミオさま……えぐっ、うぐっ、ふぇぇぇぇ!」

いきなりシクラが泣き出した。


==シクラの視点==


「ミオさま……えぐっ、うぐっ、ふぇぇぇぇ!」


ミオさまの召喚から約1時間半。

お母さまにミオさまを寝取られ(・・・・)た。

――死にたい。


=ラズベリの視点=


良しっ! ミオさんから言質を取りました。

これで聖女騎士団がやって来るまでの時間が稼げます。

泣いているシクラには悪いのですが、ミオさんのターゲットは、これでわたくしに移りました。


ミオさんは好戦的で猥らなことが大好きな悪魔にしては珍しく、真面目な性格みたいですし、シクラが貞操の危機に陥ることはこれでほぼ無いでしょう。


――でも、少しだけ、ミオさんと話をしていて嬉しかったのは何故でしょうか?

愛の言葉を囁かれて心が躍った自分がいるのは何故でしょうか?

ミオさんがわたくしを一人の女として見てくれるのが嬉し――ううん、ダメです、わたくしが魅惑チャームにかかってしまったら、ダメです。


わたくしが、ミオさんを誘惑する方なのです。

これは聖女騎士団がやってくるまでの時間稼ぎの「演技」なのですから。

早くて往復4日。遅くて6日。それだけの間の「戯れ」なのですから。

出来うる限りミオさんを油断させて、聖女騎士団が確実にミオさんを討ち取れる状況に持っていかなきゃいけないのですから、ミオさんの好意を本気にしちゃダメです。


でも、何ででしょう? ミオさんの言葉が、正直、嬉しかったわたくしがいます。


ううん、ダメ、ダメっ!

本当にダメっ!


……。

……。……。

本当にダメなんです……。

そうですね、もう一押しする必要があるのかもしれません。


自分のために。シクラのために。そして――ミオさんを罠に嵌めるために。

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