SS_武装メイドのどきどき
=ロリっ子武装メイド_ライチの視点=
今朝、転移魔法でラズベリ様とシクラ様が戻られてから、ルクリア城は軽い興奮状態に陥っている。
これは極秘の情報、歴史の裏に隠れる非公式の情報になってしまったのだけれど――なんと、ラズベリ様率いる50名弱の騎士団が、グラス王国最強の聖女騎士団を迎え討ち双方死傷者ゼロで撃破。さらに突如現れたレベル800の悪魔を、ラズベリ様、シクラ様、勇者のミオ様、星降りの魔神グスター様が聖女騎士団と共闘して撃破したのだ。
ちなみに、ラズベリ様とシクラ様は、今は郊外の訓練場で魔法の特訓をしている。
お2人は夕方から行われる悪魔討伐祝勝パーティーに参加されて、その後、グスター様の転移魔法で再び王城へ戻るらしい。
「ライチ、手が止まっていますよ?」
クールな抑揚のない声は、誰なのか、振り返らなくてもすぐに分かる。
「すみませんっ、ローリエ様!」
「急がなくて良いです。慌てなくて良いです。着実かつ確実に仕事を進めなさい」
「はいっ! がんばります」
「よろしい」
そう言うと、ローリエ様は他のメイド達に指示を出すために行ってしまった。
ローリエ様は優しくて格好良い。とてもとても格好良い。
ラズベリ様の側近のメイドであり護衛。レベルは40台と元々高かったのだけれど、つい数日前にローゼル湖の水神――そう、水神様を――倒したことで大きくレベルが上がったと噂になっている。
私も武装メイドの端くれとして、ローリエ様を目標にしているのだけれど……うん、目標がちょっと遠くなってしまって悲しいと言うべきか、目標が大きくなって喜んで良いのか、ちょっと複雑な気持ち。
とはいえ、弱気なことは言っていられない。ローリエ様に追いつけるように、日々の訓練を頑張ろうと気持ちを新たにしている。
そうそう、噂といえば勇者様。
執政官のユーカリ様がミオ様のことを勇者だと公表したことで、加えて女性だけで子どもを作ることが可能になる方法を知っていると発表したことで、お城の噂話の約80%はミオ様の話題になっている。噂の残り20%が聖女騎士団や悪魔に勝ったという内容だから、ミオ様の凄さが実感できる。
ミオ様の正体は異世界の勇者様。
とても可憐な容姿で、シクラ様やラズベリ様のお気に入り。星降りの魔神を配下に従える程の猛者。そして、これはごく一部のメイドや側近しか知らないことだけれど、ミオ様は男性である。
でも、今のところ噂話の中にミオ様が男性であることを確定させる話題が無いところから推測するに、真実を知っている人はみんな、ラズベリ様の罰が怖くて口を固く閉ざしているのだろうなと思う。
いや、みんなの「保護意識」が強いというのかもしれない。
そう、例えるならば、希少な可愛い「クリスタル・にゃんこ」の生息地を見つけたら、あえて他の人に言うことは無いと思う。自分の胸の中にだけ秘めて、たまにモフるのが美味しいのだから。
うん、なんというのか、ミオ様はどこか可愛いという認識は間違っていないな♪
ラズベリ様に弄ばれて、シクラ様に振り回されて、ローリエ様にも遊ばれて。うん、見ていて微笑ましい感じだから。
「――っと、いけない。お仕事しなきゃ!!」
とりあえず、悪魔討伐祝勝パーティーの準備をしている、他の子達を手伝うことに決めた。
「トレニア~、何か手伝うこと無い?」
◇
あっという間に夕方になった。
お城の中庭には料理が並べられ、上級騎士やルクリアに住む貴族の人達が集まっている。ここには入れないけれど、一般騎士や兵士のみんなも、訓練場でそれなりの料理が振る舞われている。
人数が多かったから本当に大変だった。準備だけで死ぬかと思ったから。
「ライチ、これからが本当の戦場ですよ? 気を引き締めなさい」
「ひゃぃ!」
ああ、思わず変な声が出た。気が付けば、私の後ろにローリエ様が立っていた。
ローリエ様がいつもと変わらない無表情で言葉を続ける。
「これから、ラズベリ様のお言葉が始まります。不穏な動きをする者がいないか、監視に気を配りなさい」
「――っ、はい!」
私の返事に頷いてから、ローリエ様は他の武装メイドの子達の所に移動した。多分、私と同じことを言われたのだろう、同僚のトレニア達の顔も引き締まっていた。
◇
メイドの中に混じっている武装メイド全員が気を引き締めた直後、ラズベリ様とシクラ様が会場に現れる。その後ろには勇者のミオ様。魔神のグスター様の姿は無い。
主役の登場に場がざわめくけれど、ラズベリ様が歩みを止めると、ざわめきも消えた。
ゆっくりとラズベリ様が口を開く。
「まずは、みんなに感謝の言葉を贈ります。わたくし達が不在の間、このルクリアの日常を守ってくれてありがとうございます」
大天使の微笑み。場にいる全ての者の心をつかむ、魅惑的な微笑み。
小さな感嘆のため息がいくつも漏れた後、ラズベリ様が言葉を続ける。
「みんなのおかげで、ルクリアの日常は守られました。でも、それだけではありません。ルクリアの日常は、明日へ向かって進み始めます」
ラズベリ様の言葉の意味が理解できたのは、会場にいる半数程度。
残念ながら、残りの半分は理解出来ていない様子。その中に、私も含まれていた。
ラズベリ様が小さく苦笑する。
「ぅふふっ♪ みなさん、キョトンとした顔をしないで下さい。何のために、わたくし達が聖女騎士団と共に悪魔と戦ったのか、思い出して下さい」
そう、今回の戦いは、聖女騎士団との合同演習、そして合同悪魔討伐ということで公式には処理される。
でも、注目するのはそこでは無い。そんな些細なことではない。
うん、身体が熱くなって、小さな胸がドキドキして、興奮が全身を駆け巡る。
私の頭の中身を、肯定する言葉をラズベリ様が口にする。
「そう――わたくし達は、『子ども』という未来をつかむことができたのです!」
割れんばかりの大きな歓声が、会場を包み込んだ。
そして気付く。
ちらほらと怪しい人物が紛れ込んでいることに。
さて、お仕事の時間みたいです♪




