第74話_美味しい朝御飯
=三青の視点=
今朝の食事はサンドウィッチ。
僕よりも前に召喚された人間が伝えたものらしく、高級料理に分類されるものらしい。
まぁ、おかげでナイフとフォークでサンドウィッチを食べるという、貴重な経験をしているのだけれども。
「ぅぉぅふ! こ、この肉は、A5ランクはある肉だっ!! あふれる肉汁、食欲を無限に引き出す香ばしいかほり。ふわふわな白パンとの相性も抜群で、間に挟まれた新鮮な野菜は芳醇な大地の生命力を感じさせ、肉のうま味を引き立てている!!」
お肉と野菜が挟まったサンドウィッチを食べながら、グスターが称賛の言葉を口にする。
でも、ちょっとだけマナー違反だ。
「はいはい。美味しいお肉だけれど、椅子から立ち上がるのは止めようね? ――っていうか、グスターはA5ランクとかいう単語はどこで覚えたの?」
「企業秘密だ、ご主人様♪ もぐもぐ♪」
「……話しかけた僕も悪かったけれど、口の中に物を入れた状態で、しゃべっちゃダメだよ?」
僕の言葉に、ラズベリもグスターに注意する。
「そうですよ、グスターちゃん。お行儀が悪いです」
「ん、んんんっ♪ もぐもぐ♪」
「ふふっ、グスター殿、おかわりも出来るから、一杯食べて下さいね?」
「マジか、レモン! 感謝するっ!!」
「グスター、ゆっくり食べなさい」
「うん、ご主人様、了解だ! もぐもぐ♪」
「……まぁ、マイペースなのは良いけれど、食事のマナーはもう少し練習が必要だね」
僕の言葉に、イベリスが小さく手を挙げる。
「では、我がグスターさんに教えましょうか?」
「良いの? 忙しくない?」
レモンとの打ち合わせがあるのかなと思っていたのだけれど、イベリスは首を横に振る。
「万国博覧会の開催が決まった以上、我がこの国でしなければいけないことは終わりましたから。あとはグロッソ帝国で皇帝になるための根回しが必要ですが、それは頭の中で考えるだけで、2日後に国に帰ってからで大丈夫です」
「ん? イベリスは、明後日になったら国に帰ってしまうのか?」
グスターの不思議そうな声に、イベリスが頷く。
「はい。やることが終わった以上、帰らなければなりません。ミオさんと離れるのは寂しいのですが、1日も早く皇帝にならなければなりませんからね」
「……そっか。んじゃ、今日はごはんのマナーをグスターに教えてくれ♪」
「はい♪ でも、1日がかりになると思いますから、覚悟して下さいね?」
「うぁ……でも、グスターは頑張るぞ!!」
ふと覚えた違和感。グスターが、面倒なことに対して、こんなにやる気になるなんて――ちょっとおかしい。
「グスター、妙にやる気にあふれているね? 何か理由があるの?」
「ん? グスターはご主人様のお嫁さんになるんだから、グスターが失敗したらご主人様が恥をかくんだろ? そんなのは、グスターは嫌だからな♪」
ぴこぴこ♪
「……グスター、本心は?」
「ちょっ、何で嘘付いたのがバレタ!?」
「ケモ耳が動いてたよ?」
「はぅっ! 我慢して、動かさないように気をつけていたのに!!」
「で? 本当の理由は?」
「マナー講座ってことは、美味しいごはんがいっぱい食べられるんだろ? お腹いっぱい食べられるんだろ? だから、楽しみなんだ♪」
きらっきらの笑顔のグスターに、みんなが同情する瞳を向ける。
いや、可哀そうな生き物を見る視線と言った方が適切かもしれない。
「「「……」」」
「え? みんな静かになってどうしたんだ?」
グスターの声に、シクラがゆっくりと口を開く。
「いえ、あの、グスターさん。期待しているところに水を差すようで悪いのですが……普通は、食事のマナーを覚える時には、最後の確認以外は空のお皿で練習します。お腹がいっぱいになってしまうと、マナーどころじゃないですから」
「え……うそ、だろ……?」
グスターの呟きに、イベリスが首を横に振る。
「我も、そのつもりですよ?」
「お肉は? お魚は? お肉は?」
「最後に少しだけ、出てきます」
「す、少しだけ……」
グスターの表情が絶望に変わる。
そのまま、5秒くらい固まっていた。――けれど、すぐに再起動する。
おお、意外と早いな、グスター。
「お肉が少しだけでも、グスターは頑張るぞ! 美味しい料理がたべられるのなら、食事のマナーくらい覚えてみせる!!」
グスターの言葉に、イベリスが笑顔になる。
「そうですか。それじゃ、今日は一日、頑張りましょう♪ そして、夕食の時にきちんと出来ているのか、みんなに確認してもらいましょうね」
「ん? ちょっと待て! その言い方だと――『最後の確認』は夕食になるのか? グスターだけの特別料理は無いのか!?」
「無いですね。食べ過ぎるのは、健康に良くありませんよ?」
「ぐはっ、それは無い! グスターは、美味しい特別メニューが欲しい……otz」
「ん~、グスターさんの頑張り次第ですね。早く覚えれば、もしかしたら夕食の前に、もう一食、食べられるかもしれませんよ?」
「うむっ♪ そう言うことなら、グスターは頑張るぞ! グスターは、やればできる娘なんだからな!!」
「はいっ♪ 我と一緒に、がんばりましょう」
そう言って、イベリスは良い笑顔で頷いた。……うん、何となくだけれど、グスターには同情する。
おそらく、きっと、多分――スパルタな指導が待っているだろうから。
◇
今日は、グスターとイベリス&ディルは1日食事のマナー講座。
レモンはリアトリスさんやヴィランさん達と昨日の事後処理。
ラズベリとシクラは、シクラが禁呪を覚えるための特訓。
さて、僕は何をしよう? ……。のんびり魔法書を読んだり、ミクニ先生が残した資料の解読をしたりしてみるのも良いかもしれないし、あるいは王都の図書館で調べ物をするのも良いかもしれない。
うん、決めた。今日は1日、読書の日にしよう!
999万分の1は久しぶりの更新。ハイ、ゴメンナサイ、そろそろ第2章を始めマス。初期のプロットから大きく外れてしまったため、お魚チートの使いどころが難しいのです……otz




