閑話_IFで日本な並行世界?
=(株)異世界トレジャーサルベージ部_春星花の視点=
ラズベリと一緒に、今日も異世界民間債権回収のお仕事。
ハードな部活だけれど、最近は、ちょこっと慣れてきた。
「グスターちゃん、今日の最初の債務者は、どんな方ですか?」
ラズベリの質問に、グスターは手元の資料を見て答える。
「山下三青という異世界転移者で、転移時点の年齢は28歳。熱帯魚のペットショップを経営していたが、4000万円の借金を残して昨年5月に行方不明。異常な高レベルとお魚チート? を使って、現在異世界で着々と基盤を整えている最中。債権回収は、まだ様子見をした方が良さそうな雰囲気――って書類には書いてあるが、債権の回収はしないのか?」
「そうですね、時期尚早です。異世界の魔道具や技術を収集するのでしたら、ある程度の地位や影響力を持つようになってからじゃないと、良いモノが回収できないのです。グスターちゃんも、サルベージのタイミングは、よく考えて下さいね?」
「うむっ、覚えておく♪ それじゃ、今回は『顔合わせ』ってことだな?」
「そういうことですね。ファースト・コンタクトですから、気を引き締めて行きましょう♪」
ラズベリと視線を交わす。お互いに、こくりと頷いていた。
「それじゃ、グスターちゃん、今日もお仕事、始めますよ?」
「ハイっ! あ~、あ~、テス、テス♪ ――こほんっ☆彡 異世界に転移した山下三青さん。あなたの債権、うちの会社が買い取りマシタ♪ 速やかに交渉に応じて下サイッ!!」
=三青の視点=
朝起きて、まだみんな眠っているみたいだったから王城の中庭でまったりしていると――グスターとラズベリが庭の入口から歩いてきた。
おはようと声をかけようとしたら、グスターが手に持っていた白いコピー用紙を丸めて、口に当てる。――って、コピー用紙が、なんでこの世界にあるの!?
「あ~、あ~、テス、テス♪ ――こほんっ☆彡 異世界に転移した山下三青さん。あなたの債権、うちの会社が買取りマシタ♪ 速やかに交渉に応じて下サイッ!!」
え? 何かの遊びなのかな?
いや、その前に、真っ白なコピー用紙の出所の方が気になる。
「グスター、ラズベリ、おはよう。そのコピー用紙、どうしたの?」
「? おはようございます、山下さん」「おはようゴザイマス」
ん? 何だろう?
二人の態度がよそよそしい。――ってあれ? ラズベリの髪が黒くなっている!!
「ら、ラズベリ……髪が黒くなってるよ? 染めたの?」
「はい?」
こくりとラズベリが首を傾げる。うん、可愛い。
……けど、何か違う。
微妙な沈黙が流れた後、ラズベリが口を開いた。
「異世界から転移した山下三青さんですよね? わたくしは、宇宙開発や深海開発のように、異世界を行き来することが技術的に可能になった日本からやって来ました『株式会社_異世界トレジャーサルベージ部』のメーン・ラズベリと申します。あなたの残した借金、うちの会社が全て買取らせて頂きました。つきましては、少しお話がしたいのですが……」
そう言われて、すぐに理解した。
このラズベリとグスターは、IFな並行世界の別人なんだろう。異世界があるのだから、並行世界くらい有ってもおかしくない。
さて、どうしようかな?
取りあえず、こっちの世界の2人にばれないようにして、この2人の話を聞いてみるか。僕が残した借金を、引き受けてくれた人達みたいだし。
「分かりました。ラズベリさん、グスターさん、お話しを聞かせて下さい」
「はいっ♪」「よろしく!」
にこっと2人が笑った。
並行世界の2人も可愛いなと思ってしまったのは、嫁さん達には内緒にしておこう。
多分、きっと、絶対に――怒られるから。
――ということで、短期集中_新連載『(株)異世界トレジャーサルベージ部』を投稿してあります。
IFな並行異世界で高校に通うグスターやラズベリ(!!)が出てくるお話で、7月末~8月いっぱいを目途に11万字程度で一区切りになる計画です。
良かったら覗いて見て下さい。




