第73話_お風呂でさっぱり嫁さん会議
※本日、2度目の更新です。
=ラズベリの視点=
ルクリア城のお風呂とは比べるのもおこがましい程の広さを持つ、王城の女王専用のお風呂。その中は、霧の魔法を応用した「薬草の湯気」で満たされています。
ちょっと視界が悪いのですが、お肌にとても良い効果があるらしいので、ルクリア城に帰ったら試してみようと思います。
「あ~、生き返る~ぅ~ぅ♪」
タイル張りの巨大な湯船の中、幸せそうな表情でグスターちゃんが背伸びをします。
「本当です」「生き返りますね♪」「今日は、正直疲れました」
そう呟いたのは、順番にシクラ、イベリスさん、レモンさん。
ディルさんの思念体で記憶や思考を共有したおかげか、妻仲間全員が仲良しになれました。最初はツンツンしていたディルさんも、今ではわたくし達のことを「家族」と言ってくれています。
ちなみに、リアトリスさんとヴィランさんは、遠慮してここにはいません。兵舎の方にあるお風呂でシャワーを浴びると言っていました。
レモンさんの入浴の手伝いをするメイド達も今は退出していて、お風呂場にいるのは、わたくし達だけです。
ふと、シクラを見ると浮かない表情をしています。
「リリーの事、まだ気にしているのですか?」
「はい、お母さま」
「3番目の神様が洗脳を解いてくれるって言っているのですから、今は任せておきましょう。わたくし達が心配しても、どうすることもできませんし――今は、わたくし達が自分自身で出来ることを進めるべきです」
「……ですが、私は、ミオさまを刺したお姉さまのことが正直、許せません」
「それはわたくしも同じですよ」
「え? お母さまもですか?」
わたくしの言葉が意外だったのか、シクラの目が驚きで大きく広がっていました。
「当然じゃないですか。2番目の神に洗脳されたとはいえ、ミオさんを刺したのですから。その事実は変わりません。でも――リリーが帰ってきた時に、受け入れる準備だけはしておきたいと思います」
わたくしの言葉に、レモンさんが口を開きます。
「とても言いにくいのですが……あのままリリー殿が王城に残っていたら、普通に処刑コースが待っていました。謁見の間で、しかもわらわの前で、わらわの客人に剣を抜いたのです。目撃者が多すぎて、もみ消すことも不可能でした。そして、その状況は今も変わりません。リリー殿が帰ってくるまでに、その問題をどうにかしないといけませんね」
小さな沈黙が流れたけれど、イベリスさんがそれを壊した。
「レモンさんがそう言うってことは、レモンさん個人はリリーさんのことを処刑したくないと考えているのですよね?」
「そうなりますね。シクラ殿の姉であり、ラズベリ殿の娘でもあります。処刑することは極力避けたいと、わらわは思っています」
「ありがとうございます。レモンさんにそう言ってもらえると、母親としては助かります」
わたくしの言葉に、イベリスさんが微笑みを浮かべていました。
「とりあえず、みんなで解決策を考えてみませんか?」
シクラとグスターちゃんも頷きます。
「はい。お願いします!」
「グスターも賛成だ♪ とことん話し合うぞ!」
こうして、お風呂の中で、妻仲間だけの秘密会議が始まりました。
リリーのこと。
単為生殖のこと。
魚介類の養殖のこと。
イベリスさんが皇帝を目指すこと。
王国の政治とわたくし達の結婚の調整etc……。
色々と話し合わないといけないことがありますが、この場にいる全員で考えれば解決できないことはないでしょう。なにせ、伝説の中に出てくる殺戮の女神を、わたくし達は協力して退けることができたのですから。
そうそう、「ミオさんのどこがどれだけ大好きか」ということも、全員でしっかり話し合っておく必要がありますね。妻仲間なんですもの、ミオさんのことがもっと大好きになれるポイントは、共有しておきたいのです。
◇
……長湯をし過ぎて、全員がちょっとのぼせてしまったのは、ミオさんには内緒です。
メイド達に助けてもらいましたけれど、ミオさんのことを話していてのぼせたなんてミオさん本人に知られたら、ちょっと恥ずかしいじゃないですか。
=グスターの視点=
目の前にずらりと並ぶ、豊かな双丘。
思わず自分の胸に手を当てて、ちょっと成長していないか「もきゅもきゅ♪」と確認してみたけれど、悲しいかな、200年前からずっと変わらないミニマムサイズ。
「グスターちゃん、どうかしましたか?」
ラズベリとは、恐ろしくて比べることも出来ない。お湯に浮くって、それなんてエロゲですか? 破壊力が凄まじすぎる。
……うん、「行き詰った時には、物事は逆に考えると良い」って、エルフのばっちゃんが言っていた。
ある意味、グスターには稀少価値があるのだ。
重要だから繰り返す、グスターには稀少価値があるのだ。
そう、希少価値があるのだ。
心の中で3回繰り返したら、ちょぴっとだけ自信が出てきた。
ラズベリには負けるかも知れないけれど、その他の中途半端なライバル達には負けない!
これは、負け惜しみなんかじゃない。
「さべつか」ってご主人様が言っていた、生き残り戦略の1つなのだ♪
今夜は美味しい料理をいっぱい食べて、ご主人様の隣でぐっすりと眠る計画だから、落ち込んでなんていられない。
ご主人様と出会ってからの毎日は、とってもとっても楽しい。
思わず笑顔になってしまうグスターがいる。
だから、グスターは、ご主人様が大好きだ♪




