第70話_???
=シクラの視点=
こんなの嘘です。
嘘です。嘘です。嘘です。
「ぅ……そだって……誰か、言って下さいよぉ……」
顔を流れる涙が熱い。焼け焦げそうなくらい、熱い。
それなのに、止まらない。
グスターさんが、私を抱きしめてくれた。
でも、グスターさんの身体も震えている。
こんなの……嘘です。本当に嘘です。
だって、嘘なんです……。
にじむ視界の中、ミオさまのステータス情報だけが、くっきりと見えていた。
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(基本情報)
・名称:ヤマシタ・ミオ
・年齢:16歳
・性別:男
・種族:人族
・レベル:1025
・HP:0(-3400)
・MP:0
・LP:0
・STR(筋力):0/15500
・DEF(防御力):0/12655
・INT(賢さ):0/16850
・AGI(素早さ):0/18800
・LUK(運):0/9563
(スキル)
――「省略」――
(称号)
・魚好き→ 運3%アップ
・異世界からの召喚者→ 全能力値30%アップ
・童貞をこじらせた魔法使い→ MP5%アップ
・お人好し→ 経験値5%アップ
・人生の敗者→ 経験値15%アップ
・細長い生き物属性 → ???
(負債)
・借金:4100万円
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ふと覚えたのは、小さな違和感。
「それ」に気付けたのは偶然だと言ってもいい。
マイナス表示になっていたミオさまのHPが、-3500から-3400に変わっていた。
注意深く見ていると、10秒ごとに100ずつHPが増えていく。ミオさまの自動HP回復スキルが生きているのだろうか?
あ、また100増えた。
「みんな、聞いて下さい!! ミオさまは、まだ生きています!!」
「ずびゅ、ふぇえ? シクラ、それは本当か? グスターの魔眼だと、ご主人様のHPはマイナスになって……って、増えているっ!? マジか! ご主人様、助かるかもしれないぞ!!」
「ちょっ、グスターちゃん、どういうことです!? ミオさんは助かるのですか!?」「「グスターさん、それは本当ですかっ!?」」
お母さまの言葉とイベリス様&レモン様の叫び声が重なり、グスターさんが嬉しそうに頷く。
「ああ。今はマイナスだが、ご主人様のHPが回復している。まだ不安は残るが――このままいけば、多分、ご主人様は目を覚ますハズっ!」
グスターさんが言い切った直後、ミオさまのステータスに変化が現れた。HPの情報じゃない。称号欄にある「細長い生き物属性 → ???」の部分だ。
『この称号を持つ者は、女性に好かれる。なお、LPが0になっても、寄生対象(妻・婚約者・養育者など)が死なない限り、1~5の間でランダム回数の復活が可能。(HPがマイナスになるだけで、再生スキルでHPがプラスになったら活動可能。継続ダメージが再生を上回る場合や病気には無効)加えてこの称号を持つ者は????』
1~5回まで復活できる?
ちょっとありえないけれど――今はそれでも大丈夫。このまま回復を待っていれば、ミオさまが、再生スキルのおかげで無事に意識を取り戻すことができるのだから。
ちょっと気が抜けちゃったけれど、泣いてなんていられない。
グスターさんと視線を交わす。
グスターさんも、魔眼で称号欄に変化が起こったのを確認したらしい。
「うんっ♪」「大丈夫だな♪」
グスターさんと一緒に、思わず頷いていた。
手短に称号のことをみんなに話すと――妻仲間全員の歓声が、謁見の間に響き渡った。
◇
ミオさまのスキルのことを皆に説明して、全員が「ひも」という単語に苦笑しつつ、安堵のため息を吐いた瞬間だった。それはそう、ミオさまのHPが-1800になったのと同時だった。――底冷えのするような、異様なオーラを身にまとった2体の天使が、謁見の間の奥に現れたのは。
天使のレベルは800。とげとげの付いた金属杖を持った馬の顔をしている方が「馬頭」、大剣を持った牛の顔をしている方が「牛頭」という名前。どちらも2メートル以上ありそうな巨大な体躯。
謁見の間の奥にある玉座を挟むように現れた天使に、誰もがいきなりのことで動けないでいると、馬の頭の天使が、こちらに手を向けて――
「聖獄ノ神雷――「瞬間移動!!」――っちっ! 逃げちゃダメなのよ?」
――いきなりの攻撃魔法。
正直、危なかった。
グスターさんの転移魔法が無ければ、倒れているミオさまも、その周りに集まっている私達も、謁見の間の入り口付近にいるリアトリスさん達も含めて、全員が魔法に飲み込まれてしまうところだった。
謁見の間の右奥に固まっている私達を見て、馬の頭の天使が口元を歪める。
その表情に、強敵の出現に、ぞっと鳥肌が立った。
牛の頭の天使が、鞘に入ったままの大剣を肩に担いだまま、言葉を発する。
「馬頭、見ていられないな~。初撃を外すなんて」
いかつい見た目に似合わない、子どものような声だった。
馬頭の天使が、苦笑する。
「牛頭、仕方ないじゃない。ゴキみたいに、すばしっこいのがいるんだから♪」
「その言い方~、わざと外したな? でも――」
牛の頭の天使が、私達の方を一瞥して、言葉を続ける。
「――異世界の勇者に、星降りの堕天使に、滅びの悪魔に、鑑定眼を持つ女の子までいる。ほんと、キミ達、面倒なスキルを持っているよね?」
馬の頭の天使がそれに頷いて、ゆっくりと口を開く。
「あなた達を、このまま放置するわけにはいかないの♪ 200年前みたいに、群れて神様に刃を向けられても困るでしょ? だから、ここで死になさい♪」
「コレは神罰だよ~。逃げようとか、話し合いとか、命乞いとか、ぜんぶ無理だからね?」
そう言うと、軽いノリで嗤い合う2体の天使。
多分、というか確実に、戦闘になるのは避けられない。
レベル800の天使が2体。どうやって、戦えば良いのだろう?
――いや、戦うことよりも逃げることを考えよう。ミオさまの残りHPは-1100。あと110秒だけ時間を稼げば、ミオさまが何とかしてくれるはず。
ここは瞬間移動で逃げるために、ちらりとグスターさんの方へ視線を向けると……見たことの無い、とても怖い顔をしていた。でも、その身体は、小刻みに震えている。
「グスターさん、大丈夫ですか?」
私の言葉に、グスターさんは前を向いたまま口を開く。
「ああ。シクラも、みんなも、気を引き締めろ!! こいつらは――」
グスターさんが、ごくりと喉を鳴らして、言葉を続ける。
「200年前に、全盛期だったグスターとその配下10万人を、たった2人で消滅させた『殺戮の女神』だ!」
「そ、そんなの――」
弱音が口から出そうになったけれど、言葉を飲み込む。
諦めちゃダメ。
第1夫人としてミオさまを支えるって、みんなを守るって、私は誓ったのだから。
ミオさまに釣り合う女になるって、決めたのだから。
こんなところで未来を終わらせる訳には、いかないんだからっ!!
頭を使え。
記憶を辿れ。
想像力を働かせろ。
――頑張って、良い方法を考えるんだ、私ッ!!
※6/30_描写が足りないと思う部分を、若干、追記してあります。やっぱり、急いで投稿するのは良くないみたいです。のんびり行きたいと思います(≡ω)




