第68話_ローリエの憂鬱
=ローリエの視点=
今日の朝9時前に、ラズベリ様に同行していた騎士達が、帰って来ました。
◇
「ラズベリ様は、無事に聖女騎士団を制圧。交渉の末、リアトリス様とヴィラン様の協力を取り付けました」
会議室で近衛騎士団々長の報告を聞いて、城に残っていたユーカリ様や私を含めた幹部組は、ほっと胸を撫でおろしました。
でも、近衛騎士団々長の言葉には、続きがあった。
「――ラズベリ様達は、レッド・カンディルと呼ばれるレベル800の悪魔を退治するために、グスター様の魔法で王城へと向かわれました」
「えっ!? もっと詳しく説明して下さいっ!」
思わず叫んでいた私。
でも、鋭い口調でユーカリ様に止められた。
「ローリエ殿、慌てるのは、絶対あかんで。ローリエ殿には、いつでも『遊撃部隊』を動かせるよう、準備しといて欲しいんや。他の皆も、話は聞いたやろ? ラズベリ様から要請があったら、すぐに動けるようにしとき。なおかつ、城塞都市の警備も忘れないようにするんやで。ちゃんと役割分担を考えてみ? いつも冷静なローリエ殿や、幹部組の皆にしか頼めないことや。――そうやろ?」
真剣な瞳のローリエ様の言葉に、頭が冷静になっていくのを感じます。
流石、長年執政官を務めたエルフ。ラズベリ様の右腕なだけあると思う。
「「「承知しました!」」」
私を含めた幹部達の返事が、綺麗に重なった。
◇
――それから8時間。現在時刻は16時40分を過ぎている。あと2~3時間もすれば日没だというのに、ラズベリ様は帰って来ません。
グスター様の転移魔法を使えば、すぐに帰ってこられるはずなのに……。
王城は、ミオ様は、そしてラズベリ様とシクラ様は、無事なのでしょうか?
=レモンの視点=
ミオ殿の「まだ何か危険なことがあるかもしれないし、正直に言うと、グスターの転移魔法はあと2回しか使えないから、保険という意味で取っておきたい」という提案。ラズベリ殿の「少なくとも、グスターちゃんがルクリアに報告に行くのに1回、帰ってくるのに1回と、合計で2回分の転移魔法が必要ですよ?」という言葉。
それらを総合的に考えた結果、わらわ達は、馬を使って王城に帰ることにした。
正直、グスター殿の伝説の転移魔法が体験できることを楽しみにしていたけれど、それは明日以降になる予定。一応、イベリス殿やディル殿に、「今日の未来」に危険が無いか、念のため見てもらったけれど、そちらの方も特に問題は無かった。
◇
馬に揺られながら考える。
わらわの気持ちがこんなにも弾むなんて、自分でも信じられない。
最初は、ミオ殿を利用できるだけ利用して、それとなく処分しても良いかなと思っていたのに――悪魔のレッド・カンディルを倒した後、手札としてキープしておこうかな程度の考えだったのに――気付けば、ミオ殿と一緒に歩める未来を、とてもとても楽しみにしている、わらわがいた。
『……まぁ、これもご縁と言うものですかね?』
誰にも聞かれないように口の中だけで呟いてみたら、自然と笑顔になっていた。本当に、何というのか、行き遅れ気味だったわらわに愛しき人が出来るなんて――想像もしていなかったのだけれど――人生は楽しいものだ♪
「ん? レモン、どうかしたの?」
わらわの視線を感じたのか、不意にミオ殿がこっちを見た。
何か、嬉しい。声をかけてもらえるだけで気持ちが弾む。
どうして、こんなにも心が温かくなるのだろう?
だから、ちょっと悔しくて。はにかむような微笑みを浮かべるミオ殿に、乙女な気持ちをプレゼントしてみたくなった。
「みーたんの、お嫁さんになれるのが、ちょっと嬉しいだけです♪」
「そっか。ありがと。僕も可愛いレモンがお嫁さんになってくれるのが、嬉しいよ?」
……ああ、心臓が止まるかと、思った。
さりげない感じで「可愛い」とか言われてしまったけれど、落馬したら、どうするのですか?
みーたんは、本当に――クズです(笑)
短いですが、ここで一区切り。次話からは王城に戻った後の話が続きます。




