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第67話_繋がるパズル

=三青の視点=


イベリスがレモンに視線を向けて、口を開いた。

それは、僕らの話が一段落ついたのを見計らったようなタイミング。

「あの、確認のためにもう一度聞きますが、『単為生殖』を使えば女性だけで子どもを産むことが可能になるんですよね? そんな魔法があることを、帝国の我が聞いても良かったのでしょうか? ……その、今なら、聞かなかったことにもできますよ?」


「大丈夫です。本来は王国外の人間には聞かせられない最重要機密の1つだったのですが、イベリス殿はもう身内です。全部、知っていて欲しいと思って、わらわは話をしましたから」

「陛下がこのように言っているのです。私の方も止める理由がありません」

「……(右に同じくです♪)」

苦笑しているレモンと、リアトリスさんと、ヴィランさんだったけれど、その言葉は本心だろう。

それが伝わったのか、イベリスが笑顔になる。

「ありがとうございます! 一刻も早く、帝国にも導入したいです!」

「それは、イベリス殿が皇帝に成って、わらわと一緒にミオ殿と結婚してからです。なので、必ず皇帝に成って下さいよ? そうしないと、わらわ達は表立って協力することができませんからね?」

「はい、必ず皇帝に成ってみせます! そうすれば、グロッソ帝国とグラス王国は安泰ですね♪」


明るいイベリスの言葉の後、レモンとラズベリが目線を合わせて微妙な表情を浮かべていた。コレを言うべきか迷ったけれど、後から気付くのも酷だと思ったから、僕はイベリスにある可能性を伝えることにする。

「イベリス、落ち着いて聞いてね? 同盟が強化されたら安泰だ……とも言えないんだ。単為生殖が魔族の魔法であるということから予測するに、すでに東大陸では人口減少問題が一部解決している状態だと思う。それが意味することをイベリスは理解できるよね?」

「!?」「っ!」

イベリスとドラセナさんが驚きの声を漏らした。

そして、イベリスがゆっくりと口を開いて僕に問いかけてくる。


「ミオさん、東大陸の国が、南大陸に、攻めてくるんですか!?」

「このままの状態が10年、15年と続いたら、多分間違いなくそうなると思う。時間が経過するごとに、先に人口減少問題を解決した東大陸と、解決できていない他の大陸との間に戦力差が生まれるから。それはつまり、世界規模で東大陸の国々が、他の大陸に侵攻してくる可能性が高まるということを意味していると、僕らは考えているんだ」

小さく息継ぎをしてから、言葉を続ける。

「考えてもみてよ、自大陸の人口は徐々に増えることに対して、他大陸の人口は減る一方。単為生殖を早期に普及できない状態での戦力差を考えたら、火を見るよりも明らかに南大陸の負けが決まってしまう。東大陸の勝ちが決まっている戦があるのに、食指を伸ばさないでいられるか……悪いけれど、そこまで東大陸の国々を信じることは、僕には出来ない」


少し重くなった空気に、グスターが小さく笑って口を開く。

「戦争は物量が勝敗を決めるからな。――資源は2万で十分だ♪」

キレッキレのドヤ顔で決めているけれど、グスター、その迷言は失敗するフラグだから。

うん……うちのグスターは、本当にどこから迷言を仕入れているのだろう? 

実は亜空間に封印されていた時、空間魔法で日本の漫画やゲームを取り寄せて、1人でこっそり楽しんでいたんじゃないかなと最近は思ってしまう。


――といけない。今はこんなことを考えている場合じゃなかった。

グスターの迷言は通じなかったのだろう、レモンがきょとんとした表情を浮かべた後に、真面目な表情を浮かべて、王国の見解を話し始めたから。

「これは単為生殖を教えてくれたダークエルフが教えてくれたのですが、魔族には防御力が高かったり、魔法障壁を張れたりする者が多くいるらしいです。そこで『防御貫通』効果を持つ隕石鉄を王国では集めています。でも、年月が過ぎれば過ぎる程、今のままでは兵が足りなくなるのが分かっています。単為生殖が上手く行くといいのですが、人口を増やすことの他にも、何か抑止力になるものが必要だと思われます」


レモンの言葉に、ラズベリが口を開く。

「抑止力という意味では、最低でも、南大陸内の国々が一致団結していないと、とても東大陸の連合軍には敵いませんよね? ソリウム聖国はこのこと(・・・・)を知っているのでしょうか?」

「ラズベリ殿、『このこと』とは、何のことですか?」

「単為生殖の件と、東大陸が攻めてくる可能性がある件の2つです」

「……。単為生殖は魔族の魔法です。聖国に話せると思いますか? 必然的に、東大陸が攻めてくることも話せないのが現状です。……正直、ジレンマに陥っています」


苦々しげなレモンの言葉に、リアトリスさんが補足する。

「単為生殖の魔法のことを話してしまうと、聖国に干渉されるのは目に見えていますから。研究の即時中止や魔法書の封印を求められかねません。それは困ります」

レモンとリアトリスさんの言葉に、イベリスが困ったような表情を浮かべる。

「どう考えても、干渉されるのは必至ですね。失礼ですが『魔族は敵だ! 滅ぼさなければならない!』っていう狂信者が聖国は多いですから」


「でも、近いうちにソリウム聖国とは協力関係を作っておかないと……足を引っ張られますよね?」

ラズベリの言葉に、レモンが頷く。

「そうですね。でも、単為生殖が一般に普及出来たら、この外交問題は解決するとわらわは思っています」

その言葉に、グスターが首を傾げる。

「なあ、単為生殖が一般に普及することと、ソリウム聖国が協力してくれることの間に、どんな関係があるんだ?」


「それは――」

説明を始めようとしたレモンが、口を途中で止めてシクラの方を見る。

「――シクラ殿から説明してもらいましょう。シクラ殿は一番若いですが、ミオ殿を支えないといけない妻仲間の1人です。聞き耳を立てているだけじゃ、ダメですよ♪」

「あの、私から説明しても良いんですか? 間違うかもしれないですよ?」

「間違っていたら、わらわやラズベリ殿、イベリス殿が修正します。だから、安心して間違って良いですよ」

厳しくも優しいレモンの言葉に、みんなが頷く。嫁さん同士、支え合ってくれるのはなんだか嬉しい。


ゆっくりとシクラが口を開く。

「えっとですね……それじゃ、始めます。まず、ソリウム聖国の上層部は、単為生殖のことを話したら、『魔族なんかの魔法を人間に使うなんて、とんでもない!』って大反対すると思うのです。ですが、聖国の根本を支えている民が『単為生殖を使いたい。帝国と王国では普通に使っているじゃないか! 聖国だけ何もしないで滅びるつもりなのか!?』って強く言い始めたら、さらには『単為生殖を使わせてくれないのなら、聖国を出ていく!』ということになったら――ソリウム聖国の上層部も単為生殖の普及に協力しないといけなくなると思うんです」

そこで一息ついてから、シクラが言葉を続ける。


「そこまで来れば、あとはもう『単為生殖が使える、魔族がいる東大陸が攻めてきますので、南大陸で一致団結しましょう。そうしないと南大陸が危険です。あ、それとも魔族に負ける未来を選びますか?』という話を持って行けるので、ソリウム聖国も嫌とは言えない状態になります。なにせ、ソリウム聖国は魔族を敵対視していますから、南大陸の中で争って魔族に負ける原因を作る訳にはいかないでしょうし。――私の説明は以上です」

シクラの言葉に、レモンやラズベリがこくこくと首を縦に振る。無事に、及第点だったらしい。

グスターも、レモン達と同じように首を縦に揺らす。

「ふむっ、理解したぞ♪ 単為生殖を一般に普及させれば、当面は丸く収まるのだな」

「そうですね、でもそのためには、お魚の養殖を軌道に乗せることが肝心です♪」

レモンの言葉に、全員の視線が僕に集まる。


なんとなく、ノリで「せ~の」と言ってしまった。

「「「頑張りましょう♪」」」

みんなの声が、気持ちよく重なった。


 ◇


「で、妻の序列はどうしますか?」

ラズベリによっていきなり投げ込まれた爆弾に、場の空気がピキンッと張り詰めた。

いつかというか、近いうちに必ず決めておかないといけないことだけれど――誰を上に持ってくるかとか、何番目に持ってくるかということで、今後、問題が起きかねない。具体的には、レモンやイベリスが一番難しいのだけれど。


空気を読まないグスターがきょとんとした表情で口を開いた。

「ん? 嫁になった順で、シクラが第1夫人でグスターが2番目、3番目にラズベリ、4番目にイベリス、5番目にディル、6番目にレモンじゃないのか?」

「グスターちゃん、それだと民が納得しませんよ。国の代表であるレモンさんやイベリスさんが第1夫人になるべきです」

「ぅぅうっ、ミオさまの第1夫人は私だったのに……」

小さく唇を尖らせながら、小さくシクラが呟く。少し冗談っぽく言っているあたりが、何というのか健気で可愛い。


でも、ラズベリは見逃してくれなかったみたいだ。

「シクラ、そこは口に出しちゃいけませんよ」

嗜めるような言葉に、グスターが反応する。

「でも、レモンやイベリスを第1夫人にするとなると、グスター達との結婚式も先延ばしにならないか?」

心配そうな表情のグスターに、イベリスが言葉を掛ける。

「そこは、後で妻の序列を入れ替えることで対応可能ですから、グスターさん達が先に結婚式をすませるのは構いません」

「そっか、うむっ♪ ご主人様との結婚式が延期されないのなら、グスターは何番目でも良いぞっ♪」


嬉しそうに狼耳をぴこぴこさせたグスターに、つられて笑顔になったイベリスが口を開く。

「でも、真面目に考えないといけない問題ですね。第1夫人は我かレモンさんがなることになりそうですが、どちらが上になっても、下になった方の後ろにいる貴族達がうるさそうですし」

「わらわより、イベリス殿が上の方が良いと思います。新米の皇帝は侮られやすいですから、わらわよりも上にいる方が、お互いにとって都合が良いでしょう」

「レモンさん、良いのですか?」

「ええ、それぞれの国は、それぞれの子どもが治めると決めているのです。わらわは何番目の妻でも構わないですよ」

「……ありがとうございます。でも、我は第1夫人の座はシクラさんが最適だと思うのです」

イベリスの視線がシクラに向く。自ずと全員がシクラを見ていた。


いきなり話を振られて、シクラが驚いたような表情を浮かべる。

「ほぇ? わ、私ですか!? な、何でですか!?」

「それはですね――今、レモンさんは我よりも下にいることが都合が良いと言ってくれましたが、我が一番上に立つのも問題なのです。『帝国が王国の上に立った』と思われたら、帝国の貴族は慢心するでしょうし、王国の貴族は面白くないでしょう。なので、我はどんなに高くても第2夫人以降が好ましいです」

「で、でも……私が第1夫人であることが良い理由は、どこにあるのですか? 私、ミオさまを好きな気持ちは誰にも負けませんが……ただの小娘ですよ?」


自信無さげな表情のシクラに、イベリスが首を横に振る。

「こう言ったら失礼なのですが、シクラさんは良くも悪くも公的な立場が一番下です。我やレモンさんは国のトップ、グスターさんは伝説の魔神、ラズベリさんはグラス王国の子爵。我やレモンさんが上に立つとトラブルの元ですし、グスターさんが一番上に立つのも聖国との軋轢や民が不安を抱きかねませんし、ミオさんと結婚することを考えるとラズベリさんの地位は侯爵クラスに上がることが予想されます。そうなると第1夫人の残る候補はシクラさんしかいないのです。侯爵のラズベリさんだと、レモンさんの傀儡だとみられかねません。その娘であるシクラさんも傀儡に見られるかもしれませんが、ラズベリさんよりも数段、マシなのです。――ということで、シクラさんが最適なのですよ」

イベリスの言葉にレモンも続く。

「消去法になってすまないですが、引き受けてくれませんか?」


シクラが、困ったような表情を浮かべた。

「あの、お母さまは第何夫人になるのですか? 今の説明を聞いていると――」

「一番下の第6夫人が妥当ですね♪」

笑顔で言い切ったラズベリに、シクラの瞳が揺れる。

「……お母さまが一番下で、私が一番上だなんて――「シクラ、我がまま言っちゃダメですよ? わたくしは、何番目でも構いませんし、順番が違うことでミオさんの愛が変わるとは思いませんし。ですよね、ミオさん?」」

ラズベリが、ニコッと笑って僕の方を見て来た。うん、ラズベリは可愛いな。そして、そのことを自分で理解しているから、余裕があるのだろう。

「もちろんだよ。みんな可愛い僕の嫁さんなんだから、序列なんて関係無い」

これは僕の本心。

事実、誰が何番目だからといって、差別も区別もするつもりは無い。


僕の言葉に、ラズベリ、グスター、イベリスが口を開く。

「ありがとうございます♪ ということで、シクラ、第1夫人になりなさい。それがみんなのためにもなるのですから」

「グスターは、イベリスやレモンより下で良いぞ♪ 魔神が上だと、怖がる人間がいるのも事実だからな」

「我の中のディルさんも、グスターさんと同じ考えらしいです。妻の序列なんて興味ないと言っていました」


3人の言葉を聞いて、シクラの表情から動揺が取れた。

「……分かりました。ということは、私が第1夫人、イベリスさんが第2夫人、レモンさんが第3夫人、グスターさんが第4夫人、ディルさんが第5夫人、お母さまが第6夫人……という感じで、皆さんも、本当にいいですか?」


「ええ、わらわはそれで良い」

「もちろんだ♪」

「我とディルさんも。シクラさんなら、第1夫人だからと言って威張るようなことはしないでしょうし」

「わたくしは気楽にさせてもらいますよ♪」

4人+1人の声を聞いて、ぽつりとシクラが呟く。

「……プレッシャーです。でも、精一杯がんばりますので、よろしくお願いします!!」

子猫が背伸びをするみたいな可愛い宣言に、全員が笑顔になっていた。


 ◇


「ところでイベリス殿、Yウイルスに関しては、帝国ではどのくらい研究が進んでいるのですか? わらわの王国では、ミクニ・アキラ殿という異世界からの召喚者が研究を進めてくれたのですが――結局は、ミクニ殿もYウイルスで亡くなってしまったので……それ以降は、あまり研究が進んでいない状態なのです」

王城に帰る前に、Yウイルスのことについて話をしておきたいと言ったレモンの第一声がそれだった。


レモンの言葉に、イベリスが少し困ったような表情を浮かべる。

「そうですね……帝国でも研究が進められていますが、何より生存者の数が帝国でも1人だけと少なすぎるので、ほとんど何も分かっていないのが現状です。免疫や抗体が出来ている人間は、発症の恐れはなさそうですし、各国の男性を見てみても、共通項は無いみたいですし……。帝国でも、生存した男性の血を引く子どもが何人かは生まれたのですが……生まれた子どもの約半分が男の子で、そこから4分の1だけが抗体を持っているのが現状です」


「そうですか……王国も同じ感じです。希望者を募ってハーレムを作らせていますが、生まれた子どもの約半分が男の子で、そこから4分の1だけが抗体を持っている状態ですから、一緒ですね」

「4分の3の男の子は、1歳になる前後に消えてしまう運命。仕方ないことだと分かっているのですが、とても残酷な話です」

悲しそうな目をするイベリス。レモンも、苦々しい表情で、こくりと頷いた。

「大義には犠牲が付きものと言いますが――この課題は、何とかしないといけません」

「母親達も、1歳を過ぎるまで、とても心配をしています。1歳未満の子どもには、抗体が出来ているのか、出来ていないのか、判別する方法が無いのですから」

イベリスの言葉に、レモンが不思議そうな表情を浮かべる。


「あの? ミクニ先生が編み出した、『抗体検査(アンチボディ・テスト)』の魔法が王国にはありますが……帝国には伝わっていないのですか?」

「え? 我の知っている限りでは、使える人間はいないですけれど……抗体を調べられる魔法があるのですか!?」

「はい。ミクニ先生がYウイルスを発見してから、しばらくして開発したオリジナル魔法なのですが――それなりに機密情報ではあったものの、帝国の諜報機関がYウイルスの知識と一緒に帝国に持ち帰ったと、わらわは思っていましたが――情報が流れて行っていないのですね?」


「はい、少なくとも我は知らなかったです。……あ、でも――現皇帝は、Yウイルスの研究に力を入れているみたいですから、もしかしたら、我の知らない情報を現皇帝は持っているかもしれません。『抗体検査』の魔法も、あえて現皇帝が秘匿している可能性があります」

イベリスの言葉に、レモンが頷く。

「新情報を切り札に、国内の貴族に対して有利に立とうとする――十分、考えられますね」

「帝国に帰ったら、我は皇帝になるために動き出そうと思っていますが、現皇帝からYウイルスの情報を仕入れることも忘れずにしておきますね」

「それが良いと、わらわも思います。でも、情報をすべて引き出そうと欲をかいて、足元を掬われないように気を付けて下さい」

「はい、ありがとうございます。一筋縄ではいかないと思いますが、頑張ります!」

「ええ、全力で頑張って下さい。そうしないと、わらわとミオ殿の結婚も遅れてしまいますから♪」

冗談っぽく、でも、半分は本気の瞳でレモンが笑う。


イベリスは真面目な顔で頷いて――視線を僕の方に向けた。

「でも、現在の状況では、まずミオさんがYウイルスで死なないようにすることが大切です。このままだと、ミオさんは1年後までに死んでしまいます」

正直、余命1年と言われてもピンと来ていない僕がいる。でも、真面目にYウイルスへの対処法をこれからは考えていかないといけないだろう。


そう考えていたら、おもむろにグスターが口を開いた。

「なぁ、リアトリスみたいに、『不老の奇跡』を使える神から加護をもらったら、永遠の命を持つことができるから、死ぬことは無いんじゃないか?」

その言葉にイベリスが首を横に振る。

「それはダメみたいです。聖国に1人、不老の奇跡を持っている生き残った男性がいますが、その他の不老の奇跡を持っていた男性はYウイルスで死んでしまいましたから。不老の奇跡という条件では、Yウイルスへの対処法としては厳しいです」


胸の前で腕を組んで、グスターが言葉を口にする。

「なら、不死者になるのはどうだ? グロッソ帝国には、吸血姫の貴族がいるんだろ? カプッとしてもらうのは――」

「ダメですね。Yウイルスが蔓延した初期に、男性の不死者は、あっさりと灰になったらしいですから」

「不死者は、普通の人間よりもYウイルスに弱いのか?」

「そうかもしれません」

イベリスの返答に、グスターが言葉を続ける。

「あ、そういえば、男の亜神とか魔神は生き残っているじゃないか。神格を持つのはどうだ? 身近な例だと、ローゼル湖の水神は人間の男の姿にも成れたが、ちゃんと生きていたからな」


「えっ!? それは、本当ですか?」「グスターちゃん、本当に?」「わらわも、初耳です」

イベリス、ラズベリ、レモンの言葉が重なる。


3人の反応が嬉しかったのだろう、グスターの尻尾が少しだけ得意げに揺れた。

「ああ。今となってはポックリ死んじゃったが、水神は人間の姿にもなっていたからな。グスターの魔眼で見たが、幻覚じゃなくてちゃんと実体も持っていたし」

「「「それは……」」」

嫁さん達が無言で視線を交わしている。

そして、妖しい笑み(・・・・・)を浮かべた。……あの、寒気がするんですけれど?


ゆっくりとイベリスが言葉を発する。

「――ということで、ミオさんには神に成ってもらいます♪」

「わらわの夫は神様か」

「わたくしの旦那様は神♪」

「なんて素敵な響きだ! ご主人様が神に成れば、グスター達ともずっと一緒にいられるしな♪」

「あ、それ、素敵ですね」

シクラの言葉に、レモンが頷く。


「わらわも不老の奇跡、貰えないかな?」

「わたくしも」

「わ、私も!!」

「グスターも♪」

「「「って、グスターさん(ちゃん・殿)は魔神だから、永遠の命を持っているじゃないですか!」」」

きゃいきゃいと嫁さん達が盛り上がっている。でも、何というのか「僕は、神に成ります」って宣言するのは、どうみても痛い子にしか見えない。

……普通に、免疫や抗体が出来る方法を探そう。永遠の命には興味が無いと言うと、嘘になるけれど。


そんな僕の心の中の葛藤をよそに、シクラが話を進行していく。

「それでは、他に何か話し合っておくことはありますか?」

その言葉にレモンが小さく手を挙げる。

「そうですね、色々と細かい話はあると思います。――ですが、ここで口裏を合わせておかないといけないことは、あらかた話せたと思いますし……あと2時間もしたら日が暮れてしまいます。その前に、城に帰って食事をみんなで食べたいと思いますし、食べながら話せば良いかと思いますが、どうでしょうか?」


「グスターはご飯、賛成だ♪」

「ぅふふっ、グスターちゃんは食欲に忠実なのですね?」

「ああ、ラズベリ。正直、お腹が空いたのだ! 城に帰ったら、すぐ、ご飯にしよう♪」

「あの、我は、お風呂に入っても良いですか? 土とホコリでどろどろなので……」

「なら、みんなで一緒にお風呂に入りますか? この人数なら、一度に入れますよ?」

レモンの提案に、イベリスが驚いたような表情を浮かべる。

「良いのですか? 一応、レモンさんは王国の女王陛下ですよ?」


その言葉に、レモンが小さな苦笑を返す。

「ええ、妻仲間ですから♪ でも、ミオさんは結婚するまでは我慢してください♪」

「当たり前ですよ」

そんな言葉を返しながら――ちょぴっと残念なような、ホッとするような複雑な気持ちになったのは正直な感想だ。恥ずかしいから顔には絶対に出さないけれど。


でも、無事に終わって本当に良かった♪


「それじゃ、グスターの瞬間移動で王城に帰るから、みんな集まってくれ!」

グスターの元気の良い声が、草原に響いた。

瞬間移動、あと2回しか使えないけれど温存はしなくても大丈夫かな。今日は、もう誰かと戦うなんてことは無いのだから。


……ん? なんか、フラグっぽいぞ?


うん、張り切っているグスターや疲れている皆には悪いけれど――馬で帰ることにしよう。

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