第65話_神輿は軽い方がなんとやら
=三青の視点=
うちの嫁さん達は可愛い。
可愛くて、可愛くて、可愛くて――色々な意味で、とても可愛くて。
だから、ちょっとぐらい現実逃避してみても良いと思うんだ。
そんな僕の意識を刈り取るように、にっこりとイベリスとレモンが微笑んで、ご機嫌そうな声を発する。
「グロッソ帝国は我が治めます♪」「グラス王国はわらわが治めます♪」
「「そして、ミオさんには2つの国の同盟主――盟主――になってもらいます!」」
重なった嫁さん2人の言葉に、甘い現実逃避すら許されず、全身から冷や汗が出たのは……多分、僕の錯覚なんかじゃないと思う。
うん、何というのか、眩暈がする。
「あのさ、はっきりと言わせてもらうよ? ――同盟国の運営に、『無能な御飾り』は要らないと思うんだ。足手まといになるだけだよ?」
はい、嘘です。
本当は、集団の運営には『御飾り』とか『神輿』とかは絶対必要だって僕も理解しているし、それは軽ければ軽いほど便利だって僕も知っているけれど――自分がその立場になるのが嫌だから、あえてお飾りの必要性が分からない愚か者のふりをしてみたのだ。
そうすることでレモンやイベリスが諦めてくれるかもしれないから。
そんな甘い期待と一縷の望みがこもった僕の言葉に、レモンとイベリスが、ぶんぶんと首を横に振る。
「何を寝ぼけたことを言っているんですか、ミオ殿!」
「そうですよ、ミオさん。帝国と王国をまとめる盟主は御飾りなんかじゃ務まりません!」
あ、いい感じに引っかかってくれたかも。
2人とも、少し本気モードで怒った声を出している。
この調子で、僕が不要だという理由をずらりと並べて、上手く話を流しちゃおう♪
「僕が盟主になっても、実質的に『自分から動ける仕事』は何も無いよね? 下手に国の運営に口を出したら政治や経済が混乱するだけだし、僕が動けば動く程、内政干渉だって言われて各国の貴族の恨みを買うだけだし、どう見ても僕の立ち位置は不満をぶち当てるための『槍玉』なだけで、何もしちゃいけない立場なんだから――」
何故だろう、途中で急に、寒気がして言葉が口から出てこなくなった。
僕が政治に参加することのデメリットを否定的な言葉で口にしたけれど……それなのに、にこっとした笑顔がイベリスとレモンから返ってきたから。
あれ? なんか、寒気が強くなったような気がする。
「そんなことを言えるなんて、やっぱり、ミオさんは盟主の重要性を分かっていて、とぼけていますよね?」
「わらわ達の夫は、とても優秀で頭が良いですね。でも、わらわ達の方が一枚上手みたいです♪」
獰猛な獣の瞳が4つ並んでいた。金色、金色、紅色、黒色。その中には、僕の姿が映り込んでいた。……とても逃げられそうにない。
小さなため息が出た。そして気が付いた。
若返る前には28歳だった僕よりも年齢が下だとはいえ、レモンもイベリスも生まれた時から血で血を洗う政治の世界で生きて来たんだ。そんな2人を駆け引きで欺こうとするなんて――うん、根本的に無理だったのだ。
「ミオさん?」「ミオ殿?」
再度漏らした小さなため息に、イベリスとレモンが「嫌ですか?」と言いたげな心配そうな視線を向けてくれる。「拒否権は無いですけれど」という言葉も、こもった視線だったけれど。
うん、2人とも可愛い。
嫁さんにする時点で、何らかのややこしい政治的な部分に巻き込まれるのは薄々感じていた。それでも、イベリスとレモンのことが欲しいと思ったのは事実だし。
素直に諦めて、嫁さん達のために頑張りますか!
「……参ったよ。条件付きなら、同盟主やるよ」
「ありがとうございます、ミオさん!」
「で、ミオ殿の言うのは、どんな条件なのですか?」
「さっき言った通り、正直、お飾りとして『槍玉にあげられているだけ』なのは嫌なんだ。不平不満は一番上の僕に来ると思う。僕は胃に穴が開くのは、精神的にも物理的にも嫌だから。それなりの避難場所か緩衝地帯が欲しい」
僕の言葉に、イベリスが頷く。
「ええ、そこは我らもサポートします。陰ながらになりますが、バックアップは厭いません。ですよね、レモンさん?」
「もちろんです。梯子を外すような真似はしませんよ」
「2人ともありがとう。あと、気になっているのが1つあって――多分、ソリウム聖国や国内外の貴族に妬まれたり恨まれたりするから、暗殺者とか妨害者が放たれると思うんだけれど……どうしたら良いかな?」
「それは、護衛に任せておけば、大丈夫です」
「わらわも命を狙われることが多いが、リアトリスのおかげで、何とかなっているしな」
楽観的な言葉を口にした2人。少しだけ、甘いと感じるのは――これまで生き抜いてきた経験を持つ2人と、素人の僕との間にある、認識の差のせいだろうか?
それなりで本当に何とかなるのだろうけれど、あえてこの言葉を口にしようと思う。
「何とかなるじゃ、僕は心配だよ。これから、僕らは家族になるのだから。僕は家族全員の命を守らないといけない。イベリスやレモンもお母さんになるんでしょ? 子ども達を危険から遠ざけたいと思わない? それに、2人が健康で元気でいることが子ども達の笑顔にも繋がるんだよ?」
僕の言葉に、イベリスとレモンがハッとしたような表情に変わっていた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「ミオさんは、抑止力って知っていますか? 見せしめって知っていますか? 敵対するモノには、我ら家族に手を出そうという気すら起こらないようにしてあげます!」
「決めました。わらわ達の子ども達に手を出そうとする愚か者には、血の雨を降らせてあげます♪」
「……あんまり物騒なのは、ダメだよ? あと、証拠が無いのに――「大丈夫です。我とディルさんの未来予知で、我ら家族に害をなす未来を持つ相手にだけ、警戒、警告、警備、対処、後始末をしますから♪」――そう……やり過ぎないようにね?――「はいっ♪」」
「イベリス殿の未来予知があれば、わらわ達の安全対策は最強ですね」
「はいっ♪ 過信しすぎて油断するのはダメですが、ディルさんと一緒に、家族みんなの未来を守ってみせます!」
笑顔のイベリスとレモン。統治者としては別だろうけれど、2人は家族としては仲良くやっていけるだろうなと改めて感じた。
◇
「それで、話を元に戻すけれど――僕は、盟主としてどんな仕事をしたら良いのかな? 自分で考えろって言われるかもしれないけれど、イベリスとレモンの領域を侵したら、国内外の貴族の不興を絶対に買ってしまうから、事前に話し合っておきたいんだ」
僕の言葉に、レモンが首を傾げながら口を開く。
「とは言え、ミオ殿もある程度は予想していますよね? 一応、挙げてみてもらえますか?」
「そうだな……同盟主ってことだから、グロッソ帝国とグラス王国の仲介、仲裁、同盟強化、そんなところかな?」
僕の言葉に、イベリスが頷く。
「そうですね。でも、盟主の一番重要な仕事を具体的に言うならば、『我とレモンさんの仲裁役』です。極端に言えば、仲裁役さえしてもらえれば、他の仕事は我らやその部下でも実務的な処理が可能ですから」
「とても面倒ですが、イベリス殿の考えにわらわも同意ですね。妻としての立場と統治者としての立場は、また別ですから。イベリス殿とは妻仲間だから仲良くしていくという前提がありますが――国同士の関係ですと、譲れるところと譲れないところがどうしても出てくるので、ミオ殿は、そこを上手く仲裁願います」
レモンの言葉に、イベリスもこくこくと頷いて、口を開く。
「我らを相手に、客観的な立場で妥協点を提示できる人間は、ミオさんだけですから、ね?」
「……今更だけれど拒否権は――「「無いです♪」」――そうだよね」
頑張ろう。
大岡越前のような名捌きは無理だとしても、2人が仲良くできる程度には頑張らないといけない。表舞台に立って目立つのは嫌だけれど、嫁さん同士の仲が悪くなるのはもっと嫌だ。
実質、2人の傀儡であることには変わりないから実務的な処理は丸投げ出来るだろうし、ここで同盟主を引き受けなくても何らかの形で仲裁をやることは同じだろうし、何よりも『裏でこそこそ糸を引いている』と他人に思われるのは2人にとっても僕にとってもマイナスであり、危険である。
覚悟を決めて同盟主を引き受けるか。
そう決めた瞬間だった、神妙な表情でグスターが口を開いたのは。
「あのさ、イベリスとレモンは帝国と王国をまとめて、1つの国にはしないのな?」
グスターの言葉に「国を1つにまとめた方が良いんじゃないか?」という意味を感じたのか、イベリスがちょっと驚いたような表情を浮かべた後、小さく頷く。
「そうですね。グスターさんの言うように、無理に1つの国にまとめてしてしまうと、それぞれの国内が混乱してしまいます。どちらの政治手法を主軸に置くかとか、どちらに首都を置くかとか、役職はどちらの国から多く登用するかとか……1つ1つがトラブルの火種になりかねません」
イベリスの言葉に、レモンも続く。
「そうなると、確実に国が混乱して、ソリウム聖国に付け入られる隙が生まれてしまいます。機に乗じて独立宣言しようとする馬鹿も出てくるでしょうし、無理に1つにしようとすると、歪みが生じて、安定までに時間も必要になります。――それはわらわ達、家族がのんびりする時間が減ってしまうことを意味します。それは嫌ですよね?」
「それはそうだが――」
納得いかなさげな表情のグスター。
イベリスやレモンの言葉に一応頷いた後に、言葉を続ける。
「――グスターは気が付いたんだが……こういう事は言いたくないんだが、ご主人様を盟主として代表者にするのなら――ご主人様が死んだ後に、問題が起こるぞ? 知っているかもしれないが、グスターも昔は盟主だった。たくさんの部下がそれぞれの国をまとめていて、それらの国々がグスターを盟主に同盟を組んでいた。――で、グスターが神に刃向かって封印された後はどうなったか? シクラにこの大陸の歴史を簡単に教えてもらったが、この南大陸に限っても、グスターが盟主として治めていた国々は、グスターが封印された後は小競り合いを繰り返して、周辺諸国と呼ばれる小国群の1国を除いて、最後には王国と帝国と聖国に飲み込まれたというじゃないか」
心配そうなグスターの表情に、イベリスが頷きながら口を開く。
「グスターさん、大丈夫ですよ。将来的にミオさんが亡くなられるとしても、領土は我とレモンさんのそれぞれの子どもに継がせれば良いですから。そして、子ども達に監視役兼教育係兼補佐役を付けるのです。少なくとも帝国はディルさんが永遠の命を持ちますので、子ども達を監視できますし、王国もグスターさんやリアトリス殿が永遠の命を持ちますから、子ども達の後継人となってサポートすれば大丈夫でしょう。基本、今の妻仲間で争うようなことを我らはしませんし、子どもたちの教育はしっかりできます。――協力してもらえますよね? 年下好きのリアトリス殿?」
いきなり話を振られて、リアトリスさんは戸惑うような表情を浮かべた後、苦笑した。
「イベリス皇女様、そこで私に話を振りますか。私の場合、男の子なら、喰べて傀儡にするかもしれないですよ?」
冗談っぽくそんな言葉を口にしたリアトリスさんに、イベリスが笑顔を返す。
「傀儡にするのは、嘘ですね。ディルさん経由で過去のあなたの記憶を読ませてもらいましたが、リアトリス殿は教育者としてとても優秀ですから。それに、190年も聖女騎士団に所属して、王の隣で政治を見て来た実績がありますし、王を補佐する資質は十分ですよ」
「私は貴族とはいえ、只の武人だ。政治なんてめんどくさいことはしたくない」
「本当にですか?」
「……イベリス皇女様、その言葉の真意を私に分かるように教えていただけますか?」
「とぼけるのなら、はっきりと言いましょう。リアトリス殿が歴代の王が愚王にならないように陰から見守っていたのも、聖女騎士団団長として最前線に立つのも、愛していた王達との間に子どもを残さなかったことも、全てはグラス王国のため。あなたは、どんなことがあっても王国を護ることを厭わない。違いますか?」
イベリスの言葉に、リアトリスさんが小さく噴き出す。
「ふふっ、そんな格好良いモノじゃないですよ、私の中にある感情は」
「どんな感情ですか?」
「イベリス皇女様には、内緒です♪」
悪戯っぽく笑うリアトリスさんに、イベリスも同じような顔を返す。
「内緒ですか……ちょっと残念です」
「ええ。とても大切な記憶ですからね。――でもまぁ、私が王子様を喰べられるのは、十年以上も先の話になりそうです。その上で政治の補佐をするかどうかは、王子様が可愛かったら考えましょう」
そこで一度言葉を区切ると、リアトリスさんは、真剣な表情で再び口を開いた。
「まずは本当にヤマシタ殿の子どもが生まれるか、そして男子なら最初の1年間を生き残れるのか――ということが肝心だと思うのです。加えて、Yウイルスに感染したヤマシタ殿が1年後までに生きているかどうかの保証も……っと、すみません。今は口にしたらいけない話題でしたね」
リアトリスさんが、重たくなった空気に気付いて、謝罪の言葉を口にした。
その言葉に、イベリスが首を横に振る。
「いいえ、避けられない未来ですから。ミオさんの寿命のことは、今のうちに話し合っておく必要があります」
そこで声を区切った後、小さく息を吸い込んでイベリスが言葉を続ける。
「我の知っている未来では、血塗られた未来では、ミオさんは今日から1年以内に死亡します。……。血塗られた未来の中では、亜神になった我らと敵対し、我らを封印し、今日からちょうど1年後までにミオさんは突然死してしまうのです」
それは何となく予想していた未来。
でも、シクラやグスターにとっては、信じたくない未来だったらしい。
血の気が引いた顔をして、唇を噛みしめているから。
……でも、僕はある確信を持っていた。
それを口に出してみる。
「でもさ、白い世界の中にいる僕は生きているんじゃないのかな? 多分、今の僕らはイベリスとディルが視た『白い未来』に向かって歩いていると思うんだ。イベリスやディルの未来がそうであったように、僕自身の未来も、多分、大きく変わっていると思うんだ」
僕の言葉に、取り繕った笑顔でイベリスが頷く。
「はい、事実、白い窓の未来では、我やディルさんと一緒に結婚式を挙げています。でも、子ども達がいる未来では、ミオさんの姿は……ありませんでした。今、ディルさんに精神世界の数多くの未来を確認してもらっていますが、まだミオさんの未来の姿は見つかっていないのが現状です」
「そうなんだ。でも、ま、未来に近づいて行ったら、見えるようになるんじゃないかな?」
「……」「……」「……(……)」
なるべく楽観的に考えようと思って口にした言葉だったのだけれど、沈黙が返って来てしまった。
小さな沈黙が、場の雰囲気を包み込もうとした瞬間――
「あ!」
シクラが小さく声をあげた。
「あのっ! 私、気付いたんですけれど――イベリスさんの子どもは男の子で、『おかーさん、だいすき』って言える年齢まで育っているんですよね? 多分、2歳から3歳くらいだと思います。それは、つまり、その子には免疫や抗体が出来ていることを意味します。だから、父親であるミオさまも、抗体が出来る素養を持っている可能性が高いです!!」
息継ぎすらもったいないという早口で、一気に言葉を口にしたシクラの説明に、みんなの声が重なる。
「それは、あり得ますね」「そうだな♪」「「ありえます!」」
ラズベリとグスター、イベリスとレモンの声に頷きを返して、シクラが言葉を続ける。
「それに、イベリスさんの見た未来は、みんな笑顔だったんですよね? っていうことは、絶対にミオさまは生きています!」
それは希望的な観測だとしか言えないけれど――イベリスがにっこりと微笑む。
「はい。みんな幸せそうな笑顔でした。ミオさんは1年後以降も生きていると思います」
全員の視線が僕に集まる。
リアトリスさんやドラセナさんを含めて、みんな美人だから何だか緊張してしまう。
――とかいうふうに、ちょっと冗談っぽいことも考えて軽く現実逃避をしていないと、みんなの期待の視線のせいで声が震えてしまいそうだ。
「うん、僕も1年以内に、抗体が出来る方法を見つけられるという、希望が見えて来た気がする。盟主になるのもYウイルスの治療法を見つけるのも大変だと思うけれど、みんなも手伝ってくれるかな?」
僕の言葉に、嫁さん達全員の声が重なった。
「当たり前です!」「当たり前ですね」「グスターも全力でサポートする!」「我もです」「わらわも!」
それに続いて、リアトリスさんやヴィランさん、ドラセナさんの言葉が発せられる。
「ヤマシタ殿、私も手伝うぞ」
「……(右に同じく)」
「……それがイベリス様の願いなら、私も手伝います!」
◇
さて、それじゃ帰ろうか――という空気になった時、レモンが口を開いた。
「ちょっと待って下さい。ミオさんの寿命の話も出ましたし、ついでに、この場所で『重要な話』を済ませてしまいましょう。宰相姉妹がいないのが痛いですが、こんな見渡す限りの草原、王城よりも機密防止にはちょうどいいですし、イベリス殿も、もうわらわ側の人間になったことですし、今、ここでしか話せないこともあると思います」
その言葉に、悪戯っぽく笑いながらイベリスが言葉を発する。
「レモンさん、失礼ですが、我はレモンさん側ではなく、ミオさんの妻ですよ?」
「知っています。わらわもミオ殿の妻ですから♪」
「そうですか、お揃いですね♪」
「ええ、お揃いです。秘密を共有するのには、これ以上ないくらいの関係です」
「確かに。よろしくお願いします」
にっこりと笑いあう皇女と女王。それをラズベリとシクラが笑顔で見守っている。グスターは、ラズベリの腕の中で、狼耳をもふもふされていた。
ゆっくりとレモンが口を開く。
「それじゃ、話を戻しますね。ラズベリ殿、謁見の間で話していた3つの案件の1つが済んだのです。他の2つの『重要な話』についても教えてもらえませんか?」
ここで言う重要な話とは、単為生殖と大陸間の戦争のことだろう。
他人に聞かれると良くない話だけれど……うん、さっきレモンも言っていたけれど、この草原なら盗み聞ぎされる心配はないだろう。
レモンの視線を受けて、ラズベリがこくりと頷く。
「それでは、話を始めても良いですか?」
「あ、ごめん、ちょっと待って」
「ミオさん? どうかしましたか?」
何か話したら不味いことがありますか? と言いたげな表情のラズベリに、目線でそうじゃないよと返してから口を開く。
「話をする前に、隕石の回収をしておきたいんだ。このまま放置したら回収するのが大変そうだから」
「ミオ殿、隕石の回収って、みんなで拾うのですか? 後で兵にさせますけれど?」
「いや、数十秒で終わるから大丈夫だよ、レモン。僕の固有スキルを使うから」
「???」
「見てもらった方が早いかも。ちょっと待っていて」
そう言って、メニュー欄でずっとOFFにしていた自動回収スキルをONにする。
自動回収スキルは見た目が派手だから聖女騎士団の人達を驚かしかねないし、聖女騎士団の人達から装備品を勝手に回収したりもしそうだったから、OFFにしていたのだ。
そのままONにするのを忘れていたのだけれど、どうも自動回収できる物品にはタイムリミットが決まっているらしく、ログに「>あと5分で回収不可になりますが、大丈夫ですか?」と出ていた。
流石に「防御貫通」効果を武器に付与できる隕石を、この場所に放置するわけにもいかない。後で兵士が回収すると言っても、取り残しとかが出るだろうし、そしてそれを狙ったゴールドラッシュという混乱が起こるのは、得策ではないと思うから。
そんなことを考えている間にも、無数の隕石が光の帯になって僕の周囲に浮かんだ魔方陣に吸い込まれていく。
「お、おお……」「す、すごいです……」
驚かれているみたいだけれど、自重はしない。
便利なことも、強いことも、全て「勇者だから」で押し通すことに決めたし、この場にいる味方になったイベリスやレモンには、僕の力を知っていてもらった方が、今後の政治的なことも有利に使ってくれると思うから。
◇
40秒ほどですべての隕石を回収し終えた。
少し離れた場所にいる、事情を知らない聖女騎士団員と宮廷魔術師の人達が驚いているみたいだけれど、今は関係ないから放っておこう。
「それじゃ、改めて話をしようか」
単為生殖のこと。
大陸間の戦争のこと。
Yウイルスのこと。
話しておきたいことは、たくさんある。