第64話_嫁さんたちは仲が良い
=三青の視点=
「――っ!?」「本気ですか!?」「イベリス様!?」
驚きの声をあげたのは、レモンとラズベリとドラセナさん。
「良いんじゃないか?」「良いことですよね?」
良く分かっていない感じなのは、グスターとシクラ。
「必要があれば、全力でバックアップしますよ?」「……(右に同じく)」
獰猛な瞳でイベリスに協力する気満々なのは、リアトリスさんとヴィランさん。
そして僕は――
「イベリス、それが一番、良い方法なの?」
――戸惑いながら、イベリスに確認していた。多分、真顔になっていたと思う。
現皇帝が健在なのに「たった3ヶ月で第4皇女が皇帝に成り上がる」と宣言した、その意味が分かってしまったから。
具体的には、下剋上しかない。
「上位の者はどんな手を使っても蹴落とす。下位の者は文句が出ないように圧し潰す」というイベリスの覚悟。多分、血を流さずに実現することは難しい。
僕の視線を感じたのか、イベリスが仕方なさそうに苦笑して、ゆっくりと頷く。
「そんな顔はしないで下さいよ、ミオさん。何かを得ようとするのなら、犠牲は必要です。なるべく血が流れないようにはします。でも、その上で、ミオさんとの幸せな未来を邪魔するモノは、全て排除します。――この覚悟は、多分、他のみんなも同じだと思いますよ?」
「そうですね♪ イベリスさんと同じ立場だったら、わたくしも同じことをしますわ」「そうだな。グスターも同意だ!」
当たり前だ、と言いたげな表情で言い切ったラズベリとグスターの声に、シクラとレモンが続く。
「そう言われますと……そうです♪」「わらわも同感です」
すんなりと納得した嫁さん達に少し驚いていると、ラズベリが苦笑しながら口を開いた。
「ミオさん、考えてもみて下さい。わたくしたち妻の中の誰かを娶る時に、色々と邪魔してくる『他人』がいたら、ミオさんはどうしますか? 例えば、妻を定期的に他の男と寝かせろとか言ってくる馬鹿がいたら、どうします?」
「……今、理解した。決まっている、この命に代えても即刻、全て薙ぎ払うよ。そんなことを言ってくる人間には、地獄を見てもらう」
小さく生まれた、息の詰まるような重い沈黙。
しまった、ちょっと失敗した。みんなを怖がらせてしまったかもしれない。
と思った瞬間だった。
「「「きゃ~♪」」」
いきなりラズベリとイベリスとレモンが嬉しそうに叫んだ。
その隣でシクラとグスターも、によによしている。
「ど、どうしたの……? いきなり大きな声を出して」
「だって、だって!」
「ミオ殿が!」
「かっこいいんですもの♪」
ラズベリとレモンとイベリスの言葉。思わず、身体の力が抜けてしまう。
どうやら、さっきの言葉が女性陣のツボだったらしい。
頬を染めて、こくこくと首を縦に振るシクラと、嬉しそうな表情のグスターも口を開く。
「ミオさま、素敵です!」
「グスターも惚れ直したぞ!!」
そして順番に口を開いていく。
「この命に代えても――」
と言ったのはラズベリ。
「即刻――」
と言ったのはイベリス。
「全て薙ぎ払うよ――」
と言ったのはレモン。
「――地獄を見てもらう!!」
と言ったのはグスター。
「……えっと、私の言う分が無くなっちゃいました。グスターさん、途中を飛ばさないで下さいよ!」
と言ったのはシクラ。
……うちの嫁さん達は、いつの間に、こんなに仲が良くなったのだろうか?
◇
3回も、そう、3回も、同じ言葉を繰り返させられた。
うちの嫁さん達は本当に仲が良すぎる……otz。イベリスが帝国で皇帝を蹴落とすことよりも、僕の言葉を繰り返させる方が重要だと言って、みんなで結託して聞かなかったのだから。
完全に緊張がほぐれた状態で、イベリスが言葉を発する。
「さて、それじゃ、ミオさんの強い要望がありましたので、仕方ないですが話を戻しますね」
「……仕方ないんだ?」
思わず口から出た僕の言葉に、イベリスが可愛い笑顔で頷く。
「はいっ♪」
シクラもそれに追従して、瞳をキラキラ輝かせた。
「ミオさま、もう1回、私達に言ってくれるのですか?」
「それは勘弁して下さい……」
ぐったりした僕の反応に、みんなが笑う。
そして、ゆっくりと、イベリスが口を開いた。
「――ということで、我が皇帝に成るという内容でしたが、その1番の目的は『家族のことには、誰にも口出しをさせないため』です。我が皇帝になった後、女王のレモンさんと同時に結婚すれば――2国のトップが揃う我ら家族に、表立って邪魔が出来る人間は、ほぼいなくなります」
家族。……うん、我が家はどこのマフィアになるつもりですか?
と突っ込みを入れたかったけれど、イベリスの言葉に反応した、ラズベリの声に遮られた。
「ほぼ、と言うことは、邪魔が出来る人間が『少し残ってしまう』ということですね?」
「はい。残念ながらラズベリさんの言う通りです。例えば、聖国の法王は、確実に嫌みを言ってくるでしょう。他にも、各国の大貴族は面白くないかもしれません」
「そうですね……ミオさんが男性かつ異世界の勇者だからということで、ちょっかいを出してきそうな身の程知らずの馬鹿貴族、わたくしにも思い当たるふしがあります」
「ラム・レイシ公爵ですか? アレは確かに、最近は図に乗っていますので、少々目障りですね。痛めつけておきましょう♪」
そう言って、怖い作り笑顔を浮かべるレモンの言葉に、リアトリスさんとヴィランさんが口を開く。
「ご命令があれば、今すぐにでも、存在ごと消滅させてきますが」「……(消し炭も残さず、イケますよ?)」
「どうします? ミオ殿?」
「レモン、なんで、ここで僕に話を振るの? 僕が殺しちゃダメって言うのは分かっているよね? 一応、貴重な男性なのだし」
性格や行動は知らないから別として、遺伝子情報の多様性という意味では、ラム・レイシ公爵を生かしておくメリットは多いと思う。
「はい♪ 分かっていて話を振りました。そうでもしないと、殺しちゃいたくなるんですよ、あの男は♪ わらわにも、リアトリスにも、ヴィランにも、しつこく言い寄って来ていましたから(乾笑)」
「……。それは……」
何とも言えない。レモンもリアトリスさんもヴィランさんも美人だから、気持ちが分からなくはないけれど……いや、僕には分からないや。1ヶ月ごとに入れ替わる面倒なハーレムを持っているのに、さらに他の人まで――嫌がる相手にまで――食指を伸ばそうとするその心が。
僕の苦々しい気持ちが伝わってしまったのだろう、レモンが小さく苦笑する。
「ま、わらわは、法王にも貴族にも文句は言わせないから大丈夫ですよ。内政干渉や過干渉だと言って、全部突っぱねますから♪」
レモンの言葉にイベリスが苦笑いを浮かべる。
「自国の貴族はともかく、法王はあまり強気に突っぱねて、機嫌を損ねられるのは得策じゃありませんね。――ですが、2つの国のトップが1人の男性と婚姻しているのですから、内外ともに帝国と王国に手を出す者はいないでしょう。事実上、帝国と王国の同盟が強化されるので、おのずと聖国もこちらに強くは出られませんし、国内の貴族も下手なことは言わないでしょうし」
「ということは、南大陸の安定が進むのな♪」
嬉しそうに言ったグスターに、イベリスが口を開く。
「はい。ミオさんが両方の国のトップである我らの上に立ち、統治することで――「ちょ、ちょっと待って!」」
不穏な言葉に、思わず会話を遮っていた。
全員の視線が僕に集まる。
「えっと、今、聞こえた言葉が間違いじゃなかったら『僕が統治する』と聞こえた気がするのだけれど……」
「ええ」「そうですね」「違うのか?」
イベリスとレモンとグスターの声が重なる。
何か問題でも? と言いた気な、他のみんなの表情と視線。
それを受け止めつつ、口を開く。
「えっとね、僕は政治とか無理だよ? 元いた世界では、ごく普通の一般市民だったから」
「我とレモンさんが手取り足取り教えますから、大丈夫ですよ?」
「ええ。わらわとイベリス殿が、や・さ・し・く・教えてあげます♪ サポートもしますし♪」
そう言って嬉しそうに笑っているイベリスとレモン。古くからの親友だと言わないばかりの結束した雰囲気の2人だけれど――うん、仲が良いのはとても良いことだけれど――何だかとっても嫌な予感しかしない。
全力で回避させてもらおう。めんどくさいし。
※短いですが更新しました。脳内プロット上では見えている第1章の終わりが、執筆するたびに遠くなっていきます(Tω)/~~




