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第63話_笑顔の裏にある覚悟

=三青の視点=


「うふふふっ♪」「ふっふっふ!」

僕の目の前で、紫色の電撃と金色の雷が、バチバチっと火花を散らす。

言うまでも無い、紫色はラズベリで、金色は女王様だ。

でも、その戦いはすぐに終わった。一呼吸の間をおいて、女王様が小さくため息をついたことで。


「わらわは、妻同士で足を引っ張るような『前時代的な(めんどくさい)こと』はしたくないです。そんなことをしたら、ミオ殿はきっとわらわに愛想を尽かすでしょう。それは嫌ですし、皆といる時には心が休まるように、可能な限り仲良くしていきたいですから」

「それでは、ミオさんに愛を囁いて下さいな? それがわたくしと女王陛下が仲良くするための条件です♪」


ラズベリの言葉に、女王様が頷く。

「……分かりました、正直に気持ちを言います。――ミオ殿、すまないのですが、今はまだ、ミオ殿に対して愛情は持っていません。でも、興味が湧いているのは事実です。ミオ殿は、この壊れた世界を変えてくれるのでしょう? わらわの運命も変えていってくれるのでしょう? そして、たくさんの女の子を幸せにしてくれるのでしょう? わらわもその一員として、ミオ殿のつくる未来を、一番近くで感じたいと思うのです。繰り返します。ミオ殿に、愛情は無いです。でも、それは現時点で、なのです。これから未来に向かって少しずつ、ミオ殿と同じ歩調で、愛を育んでいけたら嬉しいです♪」


そう言うと、女王様は僕を見て、恥ずかしそうに、はにかんだ。

その自然な笑顔に、一瞬だけ目を奪われる。こんな顔が出来るなんて、想像もしていなかった。

「……やっぱり、みーたんって呼ばないとダメですか?」

女王様が冗談っぽく言って空気が和んだ瞬間に、ラズベリが会話に混ざってくる。


「ミオさん、わたくし達の単為生殖を普及させる計画には、信頼できる協力者が多い方が良いです。これは世界を救うための第一歩ですよ? お嫁さん、増やしちゃいましょう♪」

優しい笑顔で言葉を紡いだラズベリ。

元々、貴族だから、愛情の有無にかかわらず、必要があれば結婚するべきという考え方なのだろうけれど……決断が早すぎない?


ちらりと視線がシクラとグスターに行ってしまう。

でも、それで気が付いた。

僕の中で、女王様に対して、どんな気持ちを持っているのかということに。

すでに答えが出ているということに。


シクラが、「もう、仕方ないですね」と言いたげな表情で口を開いた。

「ミオさま……この際、2人も3人も一緒です! イベリスさまも、ディルさんも、女王陛下も、みんなまとめて受け入れるのが私の甲斐性ですから――ミオさまも、男の甲斐性、見せて下さい♪」

「グスターも、ご主人様が、妻全員と子ども達をちゃんと愛し続けてくれるなら、反対はしないぞ。群れは大きいほど強いからな」

……。グスターの唇が若干、アヒル状態になっている。

でも、大きな問題はなさそう。みんなに聞こえないように「フォローを楽しみにしている」って小さく言ってくれたから。


目の前には、嬉しそうに笑う女王様。

金色の髪に金色の瞳。ゆるふわの長い綺麗な髪。ちらほらと垣間見せる隠し切れないその本性は、恭順なんて言葉は知らない、絶対的な王者。


そんな彼女が、得意げな顔で言葉を紡ぐ。

「わらわは、はっきりとミオ殿への気持ちを伝えましたよ? お返事を聞かせてもらえないでしょうか? あ、行き遅れ気味のわらわ1人だけじゃ足りないのなら、リアトリスやヴィランも付けますけれど――「陛下、私はダメです!」「……(ボクは愛人くらいの軽い関係が良いな)」」

女王様の言葉を遮った2人の言葉を無視して、女王様が苦笑する。

「ミオ殿、どうしますか?」


「レモンだけで良いよ。いや、言葉が違った。レモンだけが(・・・・・・)良い。レモン、僕ら――僕、シクラ、グスター、ラズベリ、イベリス、ディル――と一緒に幸せな家庭をつくろう? レモンの気持ちが、今はまだ愛じゃないのなら、みんなと一緒に愛を見つけていこうよ」

うん、一度覚悟を決めたら、さらさらっと粉砂糖のように甘い言葉が口から出てくる。そしてその気持ちは嘘じゃないから、僕は「クズ」って言われてしまうのだと思う。

……。

日本だったら絶対に刺されている自信がある。

多分、僕が最初から持っている称号の「細長い生き物(ひも)属性→???」っていうのがステータス補正をしている気がするのだけれど……深く考えると怖いから、今は置いておこう。

とりあえず、ハーレム拡大を許可してくれる嫁さん達には、足を向けて眠れない。


ふと気が付くと、レモンの顔が引きつっていた。

「……えっと、大国の女王であるわらわのことを、いきなり呼び捨てにするんですか? ミオ殿は度胸があるんですね?」

事実、リアトリスさんとヴィランさんは、レモンの隣で困ったような表情を浮かべている。己の主がどんな対応をするかを待っているようだ。


「ダメでしたか? みんなにも、女王様じゃなくて『レモン』って呼ばせるつもりですが?」

僕は空気が読めないから、とぼけることにしよう。

だって、レモンのことは女王様じゃなくて「レモン」って呼びたいし、呼んで欲しい。僕らは家族になるのだから。


そんな気持ちが伝わったのか、レモンが小さく苦笑する。

「まさか。ミオ殿、幾久しく♪ 愛し、愛され続ける、良き妻を目指します」

「ありがとう。こちらこそ末永くよろしくね、レモ――」

名前を言い終えないうちに、レモンが僕に抱きついてきた。それを優しく受け止めながら、言葉を続ける。

「よろしく、レモン」

「うん、みーたん(・・・)も、よろしく」

――気が付けば、レモンの横顔が、朱に染まっていた。

絶対的な王者だと思っていたけれど、どうやらそれは、間違いだったらしい。



レモンを抱きしめた後、ゆっくりと離れて、一息ついた瞬間。


つんつんと服の裾を引っ張られた。

そこにいたのは、少し拗ねた表情のイベリス。隣には、固い表情をしたドラセナさんを従えている。

「我も……我には、その、言ってくれないのですか?」

ずっと「うにゃうにゃ」していたから放置していたけれど、イベリスなりにタイミングを見計らっていたらしい。


可愛かった、そのまま抱きしめたくなるくらいに。

「っきゃぅ♪ ミオさん、いきなりは吃驚します!」

口では真面目な事を言っているけれど、その表情はどこか誇らしげに見える。

「イベリス、驚かせてごめん、可愛かったから抱きしめたくなった」

口が滑った瞬間、ザクザクザクッ!! っと背中に視線が突き刺さった――気がしたけれど、今は、イベリスだけに集中しておこう。うん、そうしないと出血多量で死にそうだ。


「かっ、可愛い……えへっ♪」

とろけた表情のイベリスも可愛い。

うん、うちの嫁さんなんだから、可愛くないことなんて絶対に無いのだけれど、可愛い。

「イベリスも皇女だから、僕と結婚するまでに乗り越えないといけないことが色々あると思う――けれど、僕はイベリスと一緒に歩いていきたいと思う。これからの人生、ずっとずっと一緒にいよう」

「は、はいっ! よろしくお願いします!」

もきゅっ♪ とイベリスが僕に抱きついてくる。

そして、10秒くらい抱きしめた後、ゆっくりと力を抜いた。

「……それじゃ、ディルさんに代わりますね。ディルさんにも、ミオさんの口から『お嫁さん宣言』を聞かせてあげて下さい――ミオ! ミオ、ミオ、ミオ!」


抱き着いてくるディル。イベリスの身体なのに、中身が違うと受ける印象も違うから、不思議だと思う。無意識なのだろうけれど、元気いっぱいなせいで「もぎゅ♪ もぎゅもぎゅ♪」ってなるから破壊力が凄まじい。おかげで僕の方も元気いっぱいに……って違う。

今は真面目にディルと向き合わなきゃ。


「ディルも、これからよろしくね」

「もちろんよ。ミオは誰にも渡さない!!」

キラッキラの瞳で宣言されても、ちょっと困る。

「家族になるみんなとは、仲良くしようね?」

ディルの頭を撫でながら、やんわりと軌道修正していく。

「……善処する」

「一緒に慣れていこう? 僕らは、みんなで1つの家族になるんだから、ね?」

「うんっ、善処する♪」

白狐の尻尾をパタパタと振るディル。

とりあえず、思いっきり抱きしめてあげることにした。


その瞬間、ディルの狐耳がぴこんと跳ねた。

「あ、イベリスが何か重要な話があるって。……。ミオには、もっと抱きしめて欲しいけれど……イベリスに代わるから、戻ったら、また続きをしてね?」

「うん、分かった」

「ありがと、ミオ、大好きよ」

そう言うと、笑顔でいっぱいのディルの顔が、真面目な表情のイベリスに変わる。

「邪魔してごめんなさい、ミオさん」

そう言って、僕を1回ぎゅっと抱きしめた後――イベリスは、ゆっくりと腕の中から離れて、周りにいるみんなを見回しながら口を開いた。


「ミオさん、皆さん、ドラセナ、大切な話があります。ミオさんとレモン女王陛下が結婚するのは、3ヶ月だけ、待っていただけますでしょうか?」

「家族になるのですから、女王陛下じゃなくて『レモン』で良いですよ」

食い気味に、敬称は付けなくて良いと、レモンが声を発した。

イベリスも頷く。

「分かりました。レモンさんって呼ばせてもらいますから、我のこともイベリスって呼んで下さい」

「承知しました。これからは『イベリス殿』と呼ばせてもらいます。――それで、結婚の時期を引き延ばすことには、何か意図があるのですか?」

すうっと目を細めるレモン。それは警戒する獣の瞳だった。


でも、イベリスの真面目な顔は崩れない。

「はい。第4皇女と女王では、立場上、婚姻のバランスが取れません。このままだと、我は『帝国から王国へ差し出される人質』にならないと、ミオさんとの結婚が許可されないでしょう」


「人質ですか?」「くっ! やはり……」

僕の驚いた声と、ドラセナさんの悔しそうな声に、レモンが頷く。

「ミオ殿、グロッソ帝国とグラス王国はずっと敵対しているのです。今は同盟を結んでいる関係とはいえ、水面下では政治や経済の駆け引きという戦争が続けられています。その状態で、いきなり『皇位継承権を持つ第4皇女のイベリス殿が、グラス王国の勇者に嫁ぎたい』と言い出したらどんなことが起こるのか想像してみて下さい。最低でも、皇位継承権の放棄が婚姻の条件になるはずです」


イベリスが言葉を追加する。

「たとえそれをしたとしても――見方によっては、第4皇女が嫁に行くことで『帝国が王国に(くだ)った』と見えなくもないです」

「……。帝国の貴族、特に現皇帝は嫌がるでしょうね……」

難しい表情で、ラズベリが呟く。

それに頷きを返しながらイベリスが言葉を発する。

「嫌がるどころか、ミオさんやラズベリさん達が、帝国の政治に利用される危険性が出てきます。王国に経済的な譲歩をしろとか、男性であるミオさんを貸し出せとか、帝国の貴族になれとか、無茶なことを言ってくる可能性が高いです」


ゆっくりとレモンが口を開く。

「わらわの知る、現皇帝は近視的な人間です。難癖を付けて、横やりを入れてくるのは間違いないでしょう。でも、さっきイベリス殿は3ヶ月と期間を区切りましたが……イベリス殿には、何か良い解決策はあるのですか?」

「はい。色々とシナリオを考えてみたのですが、一番ベストな方法は、一番簡単なことでした」

そう言って言葉を区切ると、イベリスはにっこりと笑う。


「我が皇帝に成れば良いのです」

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