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第62話_女王、参戦

=三青の視点=


「繰り返しますけれど、今、子ども(・・・)って聞こえた気がするのですが――それも男の子(・・・)って聞こえた気がするのですが、ヤマシタ殿は男性なのですか? ルッコラや他の聖女騎士団員達のステータス鑑定では、女性でしたよね?」

糸のような細い目の奥、女王様の金色瞳(おうじゃのひとみ)が、一分の隙も見逃さないと言いたげに光っていた。

その視線は、まさしく獲物を狙う、肉食獣。


笑みを浮かべた唇が、ソレを確かめるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「そもそも、婚姻を結ぶということ自体が、どこかおかしいと思っていたのです。Yウイルスの蔓延から数年が過ぎた今、女性同士でそういう関係になる者も少なくありませんし、王国も半年前から正式に女性同士の婚姻を認めています。ですが――1人の女性が何人もの女性と婚姻を結ぶという事例は聞いたことがありません」


僕の頭をよぎったのは、男版人間牧場という言葉。

せっかく、伝達の魔法にジャミングを掛けて、ディルとグスターの■■■(自主規制)発言を誤魔化したのに意味が無い。建前上だけ王族に取り込まれて、1ヶ月ごとに相手が変わる強制的な牧場ハーレムを作らされるのは嫌過ぎる。

僕は、シクラやラズベリ達と、いちゃいちゃラブラブしたいだけなのに――多分、それ自体が難しくなる。


そのことに気付いた瞬間、頭から血の気が引いていく音が聞こえた。

真っ白な頭では、女王様に、何と言葉を返したら良いのか分からない。

でも、言葉を発しない訳にもいかない。


「え、えっと――「ミオさんは、男性ですよ?」――えっ? ラズベリ?」

僕が誤魔化すよりも先に、僕の性別をあっさりバラしたラズベリ。

思わず視線を向けていた。

でも、ラズベリは余裕の表情。……。作り笑顔とも言う。

「ミオさん、イベリスさんと婚姻を結ぶことになり女王陛下とも面識が出来た以上、このままずっと黙っていられる訳がありませんよ。子どもができるまで周囲に隠しておくのも気まずいですし、これは良い機会ですから、素直に認めちゃいましょう♪」

ラズベリの言葉に、何というのか、本能的に冷や汗が出た。


今のラズベリ、イベリスの「子どもが可愛い」発言で、ちょっと冷静さを失っていない?

いや、シクラやグスターも、何だか目が怖いし……本気で「捕食モード」もとい「子作りモード」に入っていませんか? できれば、半年くらいは、いちゃラブしたんですけれど……なんてとても言えそうにない雰囲気デスネ。

……。……。……。

……。……。

……。


そうだな、ラズベリが一度口に出した言葉は引っ込められないし、今は動揺を顔に出さないようにして女王様の対応を進めることを優先しよう。決して、「現実逃避」とか「問題の先送り」とか「自分を誤魔化している」というものじゃない――と思う。思いたい。思い込む。


「えっと……色々と理由は有ったのですが、僕はステータスを偽装しています。一応、こんな姿をしていますが、正真正銘の男です」

「ふむ、やはりそうなのですね? それじゃ――わらわとも結婚してくれますか? そしたらイベリス皇女との婚姻を認めましょう♪」


にこっと微笑んだ女王様が言葉を続ける。

「ヤマシタ殿は……いや、この呼び方は何か他人みたいで良くないですね。ミオ、ミオさん、みーたん……うん、『みーたん』にしましょう♪ ――「陛下、さすがにそれは聞いていて恥ずかしいです」――冗談ですよ、リアトリス、そんな痛々しいモノを見るような視線をわらわに向けないで下さい。……こほん、そうですね、ヤマシタ殿のことは『ミオ殿』と呼ばせてもらいます。で、ミオ殿に聞きますけれど、わらわのこと、嫌いですか?」


さっきまでの態度と一変して、キラキラした瞳で言われても、戸惑いしか感じない。

うん、ずっと思考が読めない糸みたいに細い目だったのに、こんな時だけ子犬みたいにうるうるした瞳をされても、ちょっと困る。流石の僕も、「シクラ&ラズベリ」×「イベリス&ディル」で可愛い瞳はお腹いっぱい気味なのです。

とはいえ、きっぱりと断るのも何か角が立ちそうで――ラズベリやイベリス達との結婚生活を1025%くらいの勢いで邪魔されそうなので――かなり気が引ける。


そうだな、とりあえず「お友達から始めませんか?」という便利なオブラートさんに登場してもらって誤魔化そう。

「好きか嫌いかという以前に、女王様のことを僕は知りませんので、まずは、お友達から――「逃げちゃだめですよ、ミオ殿。王族の婚姻は、顔すら知らない相手とすることもあるのですから」――僕は王族ではありませんので――「つれないことを言わないで下さい♪」――ですが――「ミオ殿が血塗られた未来を回避するためにイベリス皇女と婚姻を結ぶと言うのでしたら、わらわとの婚姻も定められた運命なのですよ?」」

はっきりとそう言い切ると、女王様の瞳が、すうっと細くなる。


そして、滔々(とうとう)と語り始めた。

「そんな驚いた顔をしないで下さいよ。正直に言います。現状でわらわの中にミオ殿への愛がある――と言えば嘘になります。でも、立場上、同盟国とはいえ数年前まで敵対していたグロッソ帝国にミオ殿をタダで渡す訳にはいかないのです。イベリス皇女と結婚したいのなら、わらわや最低でも他の王族がミオ殿と結婚しないと、政治や軍事のバランスが取れないのです」

「僕は、そんな理由じゃ結婚はできな――「はっ!? そんな理由? 笑わせないで下さいッ!!」」

僕の言葉を途中で遮った女王様は、とても怖い瞳をして、言葉を続ける。


「ミオ殿は自分の価値を知っていますか!? この世界ではとても希少な若い男性。しかもリアトリスに圧勝できる高レベルの勇者。人格は、まぁ女ったらしのクズ(・・)の才能が有りそうですけれど――今のご時世なら丁度いいでしょう。それに、分かりますよ、そこのラズベリ卿やシクラ殿だけじゃなくて、城塞都市ルクリアに帰れば多くの女性兵や民がミオ殿のことを慕っていると」

言葉を区切って、困ったような表情で、くすりと女王様が笑う。


「聖女騎士団の中にも、ミオ殿に尊敬のまなざしを向ける者がいましたからね。そういう『周りの人間を惹きつける力』がミオ殿にはあります。それは統治者やリーダーとして欠かせない資質。星降りの魔神のグスター殿や滅びの悪魔のディル殿を妻にしてしまうところからも、只人ならぬ力を感じます。他にも例を挙げていきたいところですが、キリがないですので、このくらいにしておきますが――国防のため、政治のため、王国の未来のため、この大陸の平和のためにも――多様な観点から、ミオ殿がイベリス皇女と結婚するのであれば、わらわも同時に娶らなければならないのです。理解できますよね?」


その表情を例えるならば、獰猛な獣の微笑み。女王様の「威圧する波動(オーラ)」スキルには抵抗したとログに流れたはずなのに、女王という存在の迫力を感じずにはいられなかった。


――と思った瞬間、沈黙を崩すように、くすくすとラズベリが笑い出した。

「ぅふふっ♪ 女王陛下は、とても可愛いらしい、女の子なんですね♪」

「「「?」」」

みんなの顔に疑問符が並ぶ。


でも、そんなことは気にしない様子で、ラズベリが言葉を続ける。

「失礼ですが、女王陛下。ミオさんには、そういう『脅し』は逆効果ですよ?」

「脅しじゃないですよ? 事実を並べただけですから」

不思議そうな表情を浮かべた女王様に対して、ラズベリが言葉を返す。

「女王陛下は『臆病者』なのです。ミオさん、女王陛下は『理論武装しないと愛の告白もできない、か弱い女の子』です。それをわたくしの方から、フォローさせて頂きますわ」


笑顔を浮かべたラズベリの表情は、小さな子どもを見守る母親のようにも見えた。

それが癇にさわったのだろう、女王様がはじけるように言葉を口にする。

「わらわは臆病者でも、か弱くも無いです! そもそも23歳の大人です!!」

強めの口調で言い切った女王様だったけれど、その視線は困惑で揺れていた。


ラズベリが、勝ち誇るような瞳で言葉を紡ぐ。

「それじゃ、ミオさんに『素直な気持ち』を伝えましょう? 大人なんですもの、こんな人生を決める大事な場面で、1つの言い方で伝わらないのなら、別の言い方で気持ちを伝えましょうよ?」


その言葉に、女王様が目を細める。

若干、頬が引きつっているのは気のせいではないはずだ。

「1つ聞かせて下さい。なぜ、ラズベリ卿は上から目線なのですか? わらわは女王で、あなたは子爵ですよね?」

「そうですね……あえて言いますと、わたくしたちは女王と子爵である前に、『ミオさんの妻』ですから。上下関係なんてありませんよね? あ、もしかして、女王だからと言って、わたくしたちを排斥するつもりですか?」

ラズベリの顔が、そんなことはありませんよね? と言いたげに妖艶さを含んだ笑みに変わる。


それは、女王様がラズベリ達を排斥しようとするのなら、どんな手段も厭わないと感じさせられる、絶対的な強者の笑みだった。


……うん、胃が痛い。

※明日に続きます。

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