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第59話_彼女達が見た未来

=イベリスの視点=


まぁ、色々と思うところはあったが、我に信用できる新しい「戦友」が出来た。

蝶々の羽を持った黒髪黒眼の美少女。ちょっと露出狂なのが玉にキズ。

でも、我が皇帝になるために、その力を利用させてもらうのだ♪


「イベリス~、妾と脳みそを共有していることを忘れていない? 知ろうと思えば、全部、妾に筒抜けなのよ? イベリスの恥ずかしい過去の体験も含めてね♪」

「――っ!?」

「ま、理解してくれれば良いのよ~、恥ずかしい過去を漁るのは今度にしてあげるから。今の妾が露出過多なのは事実だし、妾もイベリスを利用するつもりだから、お互い様だよね♪」

全身の毛穴から汗が噴き出す。これは、不味い。止めなきゃ、うん、止めなきゃ、不味い。

震える声で、ディルに言葉をかける。


「あ、ありがとうございます、ディル。でも、我の記憶を漁るのは、止めて下さいね?」

「ん~、イベリスの今後の行動にもよるわ♪ あ、最後にオネショしたのは――「や~め~て~く~だ~さ~い~!!」――ふふっ♪ 妾達は『戦友』でしょう? 隠し事は何も必要な――「いいえ、親しき中にも礼儀ありですっ!!」――それは先人の建前よ? 本音で語り合わない? ――「そんなことよりも!! 早く、今後のことを話し合いましょう!! 多分、今、我の身体の外は、戦場ですから!! このまま、意識が戻らずに死ぬ可能性だってあり得ます!!」――あ、それは、つまらないわね。でも、この精神世界って走馬燈と同じだから、ほとんど外の時間は止まっているようなものだけれど――「隕石の雨が降る中で、気を失ったんですよ? 早く戻らないと、バラバラになります!!」――そうね、分かった、協力するわ♪」

にっこりとディルさんが微笑む。ああ、何か遊ばれた気分。

心身ともに、ぐったりだ。


「――にしても、酷い有様よね。これから、どうするの?」

ディルさんが周りを見回しながら、言葉を口にした。

そう、隕石を頭に受けた衝撃のせいか――最初から気付いていたのだけれど――赤い部屋の壁が壊れている。それに加えて、いくつかの小窓も、中身が『灰色の砂粒が(・・・・・・)流れる世界(・・・・・)』になって、未来が見えなくなっていた。


「この灰色の未来は――多分、壊れた未来なんでしょうか?」

「そうなんじゃない? 多分、隕石がぶつかったことで、この小窓の中に繋がる未来への道とか(ことわり)が、捻じ切れたんだと思う」

「そうですか……。まぁ、無数にある血塗られた未来の、僅か一部が無くなったに過ぎないんですけれどね……」

「寂しいけれど、妾達の未来は『何も変わらない』、それが事実よ」

ディルさんが、ため息を吐いた。

つられて我も、ため息を吐いていた。


その瞬間だった。

我の目が、空中に浮かぶ赤黒い小窓の群れの奥に、とても目立つ「白い小窓」を発見したのは。


それは真っ赤な海の中に、1つだけ見える真っ白な存在。

我の目線で気付いたのだろう、ディルさんも白い小窓に視線を向ける。

「イベリス、ねぇ、アレ、白いの、1つだけ変じゃない?」

「はい。どんな未来が見えるのか――覗いてみますか?」

「もちろんよ!!」

ディルさんから、どこか興奮しているトーンの高い声が返ってきた。胸が高まっているのは我だけでは無かったらしい。


空中にふわふわと浮かぶ小窓の群れをかき分けて、ディルさんと2人で白い小窓に駆け寄る。期待していた未来は――

「あれ? 白いだけで、何も見えないぞ?」

ディルさんがつまらなさそうに呟いた。思わず、それに苦笑を返してしまう。

「そうですね。でも、待っていれば、何か未来が見えるかも――って!? ディルさん、何をしているんですか!?」

気が付けば、バシバシと、ディルさんが小窓を叩いていた。

「いや、隕石がぶつかって小窓が壊れたのなら、叩けば直るかなと思って――「そんなこと、ありません。もっと壊れたらどうするんですか!?」――でも、直ったわよ? ――「嘘っ!?」」


小窓の中で動き出したのは、純白のウェディングドレスを着て嬉しそうに笑う、我とディルさんの姿。少しぼやけているけれど、背景は、どこも血に染まっていない。そこにあるのは笑顔の人垣。とても幸せそうな結婚式に見える。


でも、我とディルさんの間には、なぜか――異世界の勇者の「ミオ」がいた。


 ◇


「ミオ」って呼び捨てにしても良いのかな?


そんな気持ちは、すぐに違和感でかき消される。

我の中に混じっているディルさんの記憶の残滓が、「ミオ」のことをミオ殿とかヤマシタ殿と呼ぶことを許してくれない。


……うん、本人に言う訳じゃないから、我の中では「ミオさん」と呼ぼう。

ミオさん、ミオさん、ミオさん、ミオさん。

よしっ、リセットOK♪


ミオさんは、妖精族みたいに整った顔立ちで、思わず嫉妬してしまうくらいの美少女だ。

そのくせして、星降りの魔神を撃破したり、滅びの悪魔であるディルさんを殺せる強さを持っていたりする不思議な人物で、ディルさんと我の「血塗られた未来」を、唯一、無に帰すことが出来るチャンスを持っていた(・・・・・)我らの天敵。


我の言葉が、過去形なのには理由がある。

ミオさんは、人を殺すことを恐れて、我らを「人間のうちに」殺せなかった臆病者だから。

幾百、幾千、幾万という血塗られた未来の中――どんな状況を覗いて見ても、ミオさんは「我らが人でいる間」は、我らを殺そうとはしなかった。


でも、今回の戦いが終わってしばらくしたら、我らは「亜神(滅びぬモノ)」に成る。

その後は、ずるずると血塗られた未来の中で、我らとミオさんは敵対戦を繰り広げることになる。


繰り返す。臆病者だけれど、ミオさんは、数少ない我らの天敵だった。

事実、今のミオさんは隠しているけれど、本当のレベルは1000を超えている。幾百、幾千、幾万という血塗られた未来の中――どんな選択をしても、亜神になった我らは必ずミオさんに負けて、一時的に消滅させられてしまう。

最低でも復活まで1年間はかかるような死に方を、我らはする。

でも、再戦の機会は訪れない。ミオさんは、今日からちょうど1年後までに、突然死する儚き英雄だから。


「本当に?」

思わず言葉が口から出ていた。本当に、そんな相手と、我は結婚するの?

大きな戸惑いが渦を巻いて、我の心を翻弄する。

でも、小窓の中の未来は止まらない。


我ら3人は幸せそうに笑うと、帝国式の結婚式で永遠の愛を誓った。

具体的には、言霊を交わしてから、口づけをしたのだ。

「「……」」

気が付くと、我はディルさんと顔を見合わせていた。

「この未来、どう思いますか?」

「う~ん、平和そうな未来なのは別に良いけど、妾は女と結婚するのは趣味じゃないかも? そういう性癖は、今のところ無いし――まぁ、男が激減した今の時代なら、そういうのに走るのもアリかもしれないとは思わなくもないんだけれど――」

どこか言い訳がましいディルさんの言葉。

何となく分かる。ディルさんは、血塗られた未来の中で「最後まで我らを人間扱いしてくれるミオさん」のことが嫌いじゃないのだろう。

ここは、からかっても良いのかもしれなぃ――っ!?


我の思考は、途中で途切れた。

小窓の中の世界が、新婚初夜の光景に変わっていたから。

我らは仲良く3人で――

「きゃっ!?」

思わず両手で目を隠していた。

だって、だって、だって!!

「おぉ? 気付かなかったけれど、ミオって、男なのね~♪ たしか妾の魔眼でステータスを見た時には、女だったと記憶しているけれど――ふぇっ!?」

「……(何か、どんどん元気になって……そ、ソレ、は、入らないですよ?)」

「……ぉ~♪」

「……(入るんだ……入っちゃうんだ……我の中に……)」

「……ぉぉ~♪」

「……(ひゃぅぅ~。我、そんなに声を出しちゃ……ダメっ……otz)」

「んふっ♪ イベリス、その、何というか……美味しそうに喰べてるね~?」

「……わ、我は、『しょ』――じゃなくて、『乙女』なので、こ、こんな未来は、多分というか絶対に、嘘です!!」

「でも……(ごくり)」

「……(ごくり)」


はしたないのに、恥ずかしいはずなのに、未来の我は別人みたいなのに……目線が外せない。なんでだろう? なんで我は――


――こんなに、幸せそうな顔をしているんだろう?

――こんなに、温かい目をしているんだろう?

――こんなに、心を許し切っていられるのだろう?


 ◇


そして、小窓の中の未来が切り替わる。

現れたのは、幸せそうな笑顔で2歳くらいの男の子と女の子をそれぞれの腕に抱く、我とディルさんの姿だった。

「!?」「!!」

眺めているだけで自分の子だと分かる。我は白い狐耳の男の子のお母さん。ディルさんは黒髪の女の子のお母さん。

我達は笑顔で何か話をしていて――笑い合っていて――幸せそうな雰囲気で――あっ、子ども達が「おかーさん、だいすき!」って今、言ってくれた。


気付けば、我は泣いていた。ディルも泣いていた。

「……ぐずっ……ぅぇぇ」「ふぇ……ずびっ……」

真っ赤な未来の中に、血で染まる未来の中に、たった1つだけ、こんな未来が隠れていたなんて。反則だ。ずるい。欲しくなる。

絶対に手に入れられないと思っていた、小さな幸せがとても愛おしく感じてしまう。


――と、小窓の中の景色が、途切れて、真っ白な世界に戻る。

「あ、あれ?」

ガシガシとディルさんが小窓を叩く。

「た、叩いちゃダメです! 未来が壊れたらどうするんですか!?」

「でもさっきは、これで直ったよ? それっ♪ ――「パリッ!」」

ディルさんが強く叩いた瞬間、小窓のガラスにひびが入った。


「あ」

「あ」


沈黙が流れる。


「……ディルさん?」

「ぅう……どうしよぅ……?」

「それは、『どんな意味』の『どうしよう』ですか?」

うん、我自身の声に怒気がこもっているのが自分でも分かった。ディルさんが、困ったような表情で口を開く。

「イベリス、この未来……もう壊れちゃったかな?」

ディルさんに問われて、頭の中で考える。


そして30秒考えた後に、希望的な妄想ではなく客観的に判断しても、その言葉を口にして良いと自分に許可することが出来た。

「多分、まだ完全には壊れてはいないと思います。完全に未来が壊れた小窓は、灰色になって、砂が流れる世界に変わるみたいですから」

「ということは、ギリギリセーフね!?」

ディルさんが安堵の息を吐く。

「そう思いたいです。――が、これ以上は、叩かないで下さいね?」

「もちろんよ!! あ、でも……」

少しだけ言い淀むと、ディルさんは、真面目な表情を作る。


そして、おずおずと言葉を続けた。

「それでね、今の未来を、妾達は手に入れても、良いと思うか?」

一瞬、何を言われているのか理解できなかった。

「ディルさんは、これ以外の未来を望むのですか?」

「まさか! 他の未来は、真っ赤に染まっているのよ!? イベリスは、この未来が欲しくないの!? あの未来の続きを見たくないの!?」

「大きな声で言われなくても、我も幸せそうな未来は手に入れたいです。でも……何だか、出来過ぎている気がします。あんな幸せそうな未来、途切れた後に、何が起こるのか――反動が怖いです」


「んじゃ、やめとく? 今まで『血塗られた世界には、もう慣れっこよ♪』と自覚していた妾達が、ドン引きするような未来を選ぶの?」

ディルさんは魔剣として多くの命を屠って生きて来た。我は政敵から身を守るために、間接的にだけれど、数多の命を終わらせる決断をさせた経験を持つ。

そんな我らが怯えてしまう血塗られた未来。あの中で生きることは、色々な意味で怖い。


「まさか。あんな幸せそうな未来を見たら――手を伸ばさずにはいられないです。子どもたちも可愛いくて……そう、子どもたちに、早く会いたいです!!」

そこまで口に出して、自分で気が付いた。

子どもが出来るってことは、その、たくさん「あんなこと」や「こんなこと」をするという訳で……そういうことは、新婚初夜の我の幸せそうな姿は、おそらく本当になるってことで……ぅうっ、子どもに早く会いたいとか言ってしまった……otz


でも、ディルさんはそこに触れずに流してくれた。

「妾も自分の子どもと早く会いたいな♪ あの未来を見る限り、イベリスとの分離も、きちんと出来ていたみたいだし、見た感じイベリスもあまり年を取っていなかった。わりと近い未来みたいだぞ。だから――2人で手を伸ばしてみるか?」


「もちろんです。よろしくお願いします!」

「ふふっ、こちらこそ、よろしく♪」

お互いに笑顔になって、本日2度目の握手をする。不思議なのだけれど、何だか1度目よりも、すっきりした気持ちで握手が出来た。


多分、我とディルさんは、本当の意味で、一心同体になったのだと思う。

我とディルさんは、ミオさんと一緒にいることに未来の可能性をかける、唯一無二の戦友。


最初は、ミオさんに戸惑われるかもしれない。嫌がられるかもしれない。

正直、血塗られた未来では天敵だったということ以外、何も知らないミオさんのことが、異性として怖くないと言えば嘘になる。そして、自分が幸せになりたいがために、好きという気持ちをミオさんに押し付けるのは、人間として間違っているのかもしれないという恐怖も、正直、ある。


……。

拒否されるのが、怖い。

拒絶されたら、どうしたら良いのか分からない。

重たい女だとか、ストーカーだと思われたら……otz


でも、幸せになりたいという気持ちは、あの未来を手に入れたいという気持ちは、嘘じゃない。だから、スタートラインに立つためにも、素直な気持ちをミオさんに伝えよう。真っ白な世界に――未来を変えてくれる可能性を持つ彼の腕の中に――ちょっとだけ勇気をもって飛び込んでみよう。


……ミオさんは、我らを殺せなかった優しい人だから、案外すんなりと結婚をOKしてくれるかもしれない。もしダメって言われたら、その時に、また新しい方法をディルさんと考えてみれば良いだけだ。


だって我は1人じゃないのだから。

ディルさんがついていてくれるし、未来の子ども達も、きっと「おかーさん」達のことを応援してくれていると思う。


この愛はとても歪な「始まり」になりそうだけれど、ミオさんと人生を歩みたいという、胸の奥から湧き出る素直な気持ちは本物だから。


我らは、おかーさんになるために頑張るのだ♪

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