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第5話_悪魔の証明とYウイルス

=山下三青の視点=


――とか考えていたけれど、衝撃はやってこなかった。


ラズベリさんが、ぎりぎり、本当にぎりぎり1ミリ位の位置で寸止めしてくれたから。

「あなた、なぜシクラを助けようとしたのですか?」

僕を睨んだまま、ラズベリさんが聞いてきた。


シクラが身をよじりながら言葉を発する。

「お母さま、止めて下さいっ! ミオさまは勇者さまなんですっ!」

「止めません。シクラ、あなたはこの女の(・・)悪魔に操られているんですよ?」

冷たい声のラズベリさん。でも、僕が気になったのはそこじゃ無かった。

「「女ですか?」」

思わず僕とシクラの声が重なっていた。

悪魔に間違えられていたけれど、まさか性別まで間違えられていたとは――泣きたくなる。


僕らの間に流れた微妙な空気に、ラズベリさんがムッとしたような反応する。

「わたくし、何か間違ったことを言いましたか? そこにいるのは、女の悪魔ですよね?」

「……あの、僕は――「わたくしはシクラに聞いているのです。悪魔には聞いていません!」」

ぴしゃりという擬音がぴったりと当てはまるような声で、ラズベリさんに遮られてしまった。

僕の腕の中でシクラが小さくため息をつき、そして息を吸い込んだ。

「……お母様、ミオさまは勇者さまで男性です」

「男性? まさか。こんな美少女が、男なわけがありません」

……うぐぅ。ラズベリさん、ちょっと酷いよ。

心に消えない外傷トラウマが1つ刻まれた。タイ焼きが恋しい。


「ミオさまは、本当に男の人なんです!」

シクラが食い下がる。シクラには頑張って欲しい。男であることを証明しろって言われて、衆人環視の中でズポンを脱ぐことになるのは嫌だから。

「シクラはどうやって確認したのです?」

「それは――出会った瞬間に、ミオさまが私の胸を凝視していたから間違いありません!」

ぅえぇっ!? シクラにバレテタ? ちらりと一瞬だけ見たはずなのに、バレテマシタ?

絶対にロリコンだと思われた……恥ずかしくて、死ねる。


「それだけですか? いいえ、今大切なのはそこではありません。男だろうと女だろうと悪魔であることは間違いないのですから。悪魔は、倒さねばなりません!」

「ミオさまは悪魔じゃありません」!

「それをシクラは証明できるのですか?」

「ミオさまは、この部屋の魔法陣から召喚されました。これは、異世界から勇者(先生)を招いた実績のある魔法陣です。だから、ミオさまは勇者さまなのです!」

むっふ~、論破完了! といった得意げな声色でシクラが笑う。後ろからじゃシクラの顔は見えないけれど、多分、ドヤ顔をしているのだろうなと分かってしまった。

――いや、可愛いだろうから別にドヤ顔程度は良いんだけれど、その論理の方がちょっといただけない。

事実、ラズベリさんが溜め息をついていた。


「魔法陣から召喚されるのは、勇者様だけとは限りません。むしろ、召喚陣の魔力を踏み台にして悪魔や彷徨う悪霊などが実体化することが多いんです。それに、百歩譲ってそこの少女もとい男の子が勇者様だったとしても――尋常じゃない魔力の説明が付きません。あの魔力は、人ではありえません。危険過ぎます」

「勇者さまだから、規格外なだけですよ、お母さま。ミオさまはレベル1025もある凄い人なんです!」

シクラの得意げな言葉に、場の空気とラズベリさんとリリーさんの顔が、一瞬だけ凍りついて――すぐに和んだ。

「シクラ、あり得ないわ」「ふふっ、それはあり得ないですよ」

リリーさんとラズベリさんの言葉が重なる。

レベル1025がどれだけ規格外なのかは僕には分らないけれど、リリーさんとラズベリさんの反応から察するに、多分、馬鹿げた冗談かシクラが話を盛ったように聞こえるくらい高い数字なのだろう。


空気が柔らかくなったこのチャンス、僕も会話に切り込みたい。

少し気になった事実があるから、それとなく聞いてみよう。

「なぜ、悪魔はこんなにも嫌われているんですか?」

「……何も知らないというのですか? 昨今のYウイルスの発生源は、異世界から召喚された悪魔の陰謀だったと、世界中に知れ渡っているんですよ?」

ラズベリさんが冷たい視線で僕を見る。でも、大丈夫。棘々しいけれど、さりげなく会話がスタートできたことの方が今は肝心だから。


この中世ヨーロッパ風の異世界に、光学顕微鏡で観察できる細菌よりも小さくて、電子顕微鏡じゃないと見ることができない「ウイルス」という概念があったことに驚きを感じたけれど、ウイルス発見の経緯を説明してもらうのは今じゃない。

「Yウィルス? それは何ですか?」

シンプルな答えやすい質問。でも、ラズベリさんの顔が歪む。

「――っ! そこまでしらを切り通しますか! 男性にしか発症しないYウイルス。それのせいでこの大陸にいた5000万人の男性は4人にまで激減したんですよ!?」


おおぅ、何だかラズベリさんは怒っているけれど、重要なキーワードが出て来たっぽい。勇者召喚に関係ありそうな感じ。

でも、致死率がすごいから感染したくないな。

「詳しく聞かせて下さい、お願いします。Yウイルスって何ですか?」

ラズベリさんが、白けたような視線で僕を見る。

「……簡単に言えば、男性が女性に性転換してしまうウイルスです。Yウイルスに感染したら、約1年で完全に女になります」

「男性が女性になるんですか? それじゃ、ここにいる兵士の皆さんも、元々は男性だったんですか?」

僕の言葉に、女性兵士達から凄まじい殺気が飛んできた。あ、ヤバい、これはフォローしておかないと後で殴られる可能性or刺される可能性が大だ。

「……そんな風には見えないですけれど。可愛くて美人な方ばかりですから」

慌てて言葉を追加する。

それに気付いたラズベリさんが、小さく噴き出した。

「ぅふふふっ。そんな言葉が返ってくるなんて、あなた本当にYウイルスのことを何も知らないのですね」

「えっ? はい、知りませんけれど……?」

僕の言葉に、なぜかラズベリさんが憐れむような微笑を返してきた。

そして初めて気が付いた。僕はどうやらカマをかけら(嘘をつか)れたらしい。


「あなたが異世界から来たと仮定して、話をします。さっきの話は、その顔から察するに分かっていると思いますが、嘘です。本当はYウイルスに感染した男性は、ある日突然、身体中から火を噴き出して、灰も残らず燃えてしまうんです。水をかけても水や氷の魔法を使っても消えない炎なんですよ」

この言葉が嘘か本当かは分からない。まだカマをかけられている可能性もある。

でも、今は確認する方法が無いから、話を先に進めよう。

「Yウイルスは男性しか発症しないってことは、女性は大丈夫だったのですか?」

「女性には『Y型せんしょくたい』……だったかな? それが無いから発症しないと、ミクニ先生が言っていました」

また、キーワードになりそうな言葉。


「ミクニ先生、ですか?」

「『にほん』という国の『いしゃ』だって本人は言っていました。元々いた世界では病気を治すスペシャリストだったんですって」

「日本からお医者さんが来ていたんですね! その、ミクニ先生と会うことは出来ませんか? もし会えたら、僕が同郷の日本人、つまり人間だと証明できます!」

「不可能です。ミクニ先生は亡くなられましたから。2年前に、Yウイルスに感染して」

「あ――」

それって、もしかして、あれ――?


ふ~っと息を吐いてラズベリさんが小さく、そして少し残酷な顔で、笑う。

「もしもあなたが本当に人間の男性でしたなら、ご愁傷さまです。すでにあなたはYウイルスに感染していますよ、この世界の空気中にはYウイルスが蔓延していますから」

淡々と告げられた事実に、嫌な考えが頭をよぎる。


「な、治す方法は?」

「無いです。運良く生き残った男の人達は、みんな『免疫』がついたみたいですけれど、どうしたら免疫ができるのか解明されていないですので」

「それは――「最先端の研究者だったミクニ先生ですら亡くなってしまった意味が、分かりますよね?」」

僕の言葉に声を被せてきたラズベリさん。一瞬、何も言葉が出なかった。


でも、ここで会話を止めることは出来ない。会話を止めること(イコール)バトルの再開に繋がりそうだから。

事実、ラズベリさんの後ろでは、リリーさんと女兵士の人達が武器を構えている。

「感染から発症までの期間はどのくらいなんですか?」

「個人差がありますけれど、平均して1年です」

「たった1年ですか……」

未知のウイルス、それも致死性の高いウイルスに僕は感染してしまった。

それが意味することは?


……Yウイルスに感染してしまった以上、僕は元の世界に戻ることが出来ない。

仮に僕が元の世界に戻れる方法を見つけたとしても、感染者である僕が日本に戻ると、Yウイルスのパンデミックが地球で起こる可能性が高い。僕のせいで地球の全男性が999万分の1に減る。想像しただけで寒気がした。


僕はもう、元の世界に戻ってはいけない。


目の前が真っ白になるような気がすると同時に、もう一つの事実と可能性(・・・)に気付いて、なんだか凹んでいる僕がいる。


ラズベリさんが言うように、こっちの世界には男がいないのだ、絶望的になるくらい。

僕の会社の女性が「良い男がいな~い」ってよく嘆いていたけれど――そんなのが比じゃないくらい、こっちの世界は男不足なのだ。

それから連想されたことは――「僕が勇者だから、そして世界に男が少ないから、シクラは僕を誘惑しようと頑張ってくれているのだろうな」――という余計な邪推。

その場合のシクラの行動と好意は生き物として当然のことだし、それを向けられる僕自身も嬉しく感じていないと言えば嘘になるけれど……どこか心に引っかかるモノがある。


それが罪悪感なのか、優越感なのか、恐怖なのか、何なのか――今の僕には、まだよく分からない。


でも、何だか泣きたくなった。

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