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第53話_迎撃会議

=三青の視点=


「あなたは星降りの魔神――いえ、あなた(・・・)は!? もしや――昨夜、王城にやってきたメーン子爵家の使者ですかっ!?」

女王様の声に、グスターが真面目な顔で首を縦に振る。

多分、目立ちたがり屋のグスターのことだから、ずっと気付かれなかったことが不満だったのだろう。女王様やその側近に思い出してもらえたことで、得意げに尻尾と耳が一瞬揺れたのを、ご主人様である僕は見逃さなかった。


グスターが言葉を発する。

「ああ、昨日は世話になった。でも今は、そんなこと、どうでも良いと思うぞ。――今、この王都には1匹の悪魔向かってきている。身内で喧嘩をしている場合なんかじゃない!」


ちょっぴっとドヤ顔になっているグスター。

でも、女王様は、その言葉を理解できないと言いたげな、微妙な微笑みを僕に向ける。

「悪魔? あなたや、そこの自称勇者ではなくて、ですか?」

僕らを疑うような視線の女王様。警戒されている雰囲気が半端ない。


でも、グスターはそんなことは気していない様子で、首を軽く横に振る。

「とりあえず、グスター達は敵じゃないぞ? ご主人様ほど詳しくは知らないけれど、『リアトリスが切り札にしていた魔剣』から解放された強力な悪魔が、長年の恨みを晴らそうとしてこっちに飛んできているんだ。ちなみにレベルは800。馬での移動では間に合わないから、転移魔法を使わせてもらった」


その言葉に、女王様が何かを考えるような表情を浮かべてから、口を開く。

「今、あなたが『身内』って言ったということは、異世界の勇者も、星降りの魔神のあなたも、メーン卿達も、わらわに対する敵意は無いと考えて良いのですね?」

穏やかな口調に戻った女王様。

もちろん、まだ僕らのことを警戒しているみたいだけれど。


グスターの代わりにラズベリが口を開く。

「それはわたくしの方から説明させていただきます。メーン子爵領々主のメーン・ラズベリです。突然、王城に現れたこと、女王陛下に深くおわ――「そんなことはどうでも良いのです。緊急事態なのでしょう? でも、メーン卿には会えるのは、楽しみにしていました。情熱的なお手紙をありがとうございます♪」――女王陛下に、わたくしの気持ちが伝わったみたいで幸いです」

ラズベリが女王様に、どんな手紙をグスター経由で送ったのかは知らないけれど、女王様が手紙の内容を皮肉と受け取ったらしいことは、その苦々しい作り笑顔から察することが出来た。

一方で、ラズベリも、ちょっとやり過ぎたかな? と言いたげな微笑みを作っている。


緊迫した空気を先に壊したのは女王様だった。

「それで、メーン卿が説明をしてくれるのでしょう?」

「はい。女王陛下には、お伝えしておきたい重要なお話が3つあります。ですが、今処理しないといけないのは1つだけ。それは『王都に接近中の滅びの悪魔を討伐すること』です。――この説明を続けてもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。聞かせて下さい」

女王様の許可が出た後、ラズベリが悪魔について、情報を整理した上で説明をしていく。


外見や特徴はもちろん、相手がリアトリスさんの剣に封印されていた悪魔で、封印されていた事を怒っていること。「滅び」のスキルを持っていて、「滅びの霧(ペリッシュ・ミスト)」がかなり危険な攻撃であること。身体拘束スキル「宵闇の微笑み」で僕以外の全員が麻痺状態になったこと――等々。


そんなラズベリの説明を横で聞いていると、じーぃっと誰かに見られている気配を感じた。

当然、異世界の勇者だから警備の兵士達に注目されているけれど……何というのか、何とも言えないけれど、ちょっと1人だけ質の違う視線――多分、警戒ではなく「好奇心」という名前の視線――が交じっていたのだ。


それとなく、ちらりと視線を向けると、白髪のキツネ耳娘の興味津々な赤氷瞳(ルビー・アイ)とぶつかった。

メニューの人物鑑定が相手の情報を僕に教えてくる。

どうやら、隣国グロッソ帝国の第4皇女様らしい。17歳でレベルは高くないけれど、『悪魔の囁き』という物騒な名前の、危険察知スキルを持っている。


護衛のキツネ耳の銀髪美人さんのレベルは180。

メニューのマップ上で検索してもグロッソ帝国籍の人間は、所属を隠蔽しているスパイを除けば、護衛はこの人だけ。その事実から察するに相当な実力者だと予想される。


いつまでも見ているのは失礼にあたるから、軽く会釈をして目線を外す。

ちょうど、ラズベリの説明も終わったところだ。


説明を聞き終えた女王様が、ゆっくりと口を開く。

「リアトリスとヴィランとメーン卿の放った3重掛けの氷地獄ノ業火ホワイト・ブリムストーンでも一撃で倒し切れなかった悪魔ですか……にわかには信じたくないですが、何もせずに手をこまねいている訳にもいきませんね。――分かりました。急いで王都前の草原に悪魔を迎え撃つ陣を展開します!」

女王様の視線の先には、背後でずっと黙って話を聞いていた双子の姉妹。

ちょっと気配が薄いというか、何というのか――目立たない美人さん達だ。二人ともオレンジ色の髪なのに。


「宰相および宰相補佐のローズ姉妹は、城塞魔法の発動権と城内の指揮権を一時委託しますので、城塞魔法障壁を張って警戒しておいて下さい。今聞いた説明ですと、おそらく『滅びの霧』の前では城塞魔法障壁ですら紙同然でしょう。ですが、何もしないという選択肢はありません」

「はっ!」「御意のままに!」


宰相と宰相補佐の返事に頷きを返してから、女王様が視線を騎士達に向ける。

「レベル150以下の聖女騎士団員は、武器庫から弓を持って行きなさい。レベル800の悪魔相手に攻撃が通るのは隕石鉄の武器だけです。王都の滅亡に比べたら、安いものだからケチったら許さないですからね? レベル151以上の聖女騎士団員は防御貫通や耐性無効の武器を装備しておきなさい。隕石鉄や魔法で悪魔を打ち落としたら地上戦になるでしょうから」

「「「はいっ!」」」「「「分かりました!」」」


騎士達の返事を確認してから、女王様は宮廷魔術師に声を掛ける。

「宮廷魔術師は魔法の準備をしておいて下さい。空中を飛ぶ悪魔への攻撃魔法はもちろん、怪我人の回復も必須だと考えて欲しいのです。そして――」


女王陛下が言葉を区切って、僕らを見てくる。

「リアトリスとヴィランと、異世界の勇者様に星降りの魔神様達ですが……こういう言い方しかできないのが心苦しいのですが、臨機応変に、お願いできますか? わらわ達の奥の手というか、実質的に悪魔を仕留められるのは、あなた達しかいないと思います。ですので、協力をよろしくお願いします。とはいえ、早速ですが、作戦を具体的に考えていきたいので――「少しだけ、よろしいですか?」」

ラズベリが女王陛下の言葉を遮る。


普通なら、こんなことをしたら不敬罪とかで捕まりかねないけれど――事実、女王様の後ろに控えていた宰相と宰相補佐の2人が、何か言葉を発しようとして女王様に手で止められていたけれど――ラズベリは気にしない表情で言葉を続ける。


「せっかくですが、女王陛下の作戦ですと犠牲者が多く出ることが予想されます。大勢で向かっても、悪魔の身体拘束スキルで、ほぼ全員が麻痺状態になると思われますから。極論を言いますが――簡単に動けなくなるような駒は、悪魔の攻撃の的になるだけで、わたくし達の足手まといでしかありません。ここは少数精鋭で攻めるべきだと思います」

ラズベリの言葉に、宰相の称号を持つローズ・マリーさんが言葉を発する。(ちなみに、名前はメニューの人物鑑定で調べた。妹の方はウッドさんという名前だった)


「少数精鋭の定義は何だ? 聖女騎士団も宮廷魔術師も十分に精鋭だと思うが」

不満を隠し切れないマリーさんの言葉と表情。

でも、ラズベリは一切、気にしていない様子で言葉を紡ぐ。

「失礼なことを申し上げますが、『防御貫通』の武器を持ったレベル151以上の聖女騎士団の方と、禁呪が使える宮廷魔術師の方以外は、今回の戦闘には参加しない方が良いとわたくしは思っています。レベル2桁のわたくしが言うのもおかしいですが、今回の戦いはスピード勝負です。身体拘束スキルを使われる前に、相手を油断させる最小人数で、なおかつ最大火力で、押し切ってしまわないと全滅します」


真剣な表情のラズベリの言葉に、女王様が考えるような仕草をした後に、口を開く。

「メーン卿の『足手まといはいらない』という考えは正しいとも言えます。ですが、レベルが低くても、隕石鉄の武器を使えば悪魔にダメージを与えられますよ? 一気に押し切るという意味では、人数が多い方が有利ではないのですか?」

「いえ、女王陛下、それは違います。今回の戦いは、悪魔に身体拘束スキルを使われたらお終いなのです。悪魔が身体拘束スキルを使ったら、ミオさん――もとい、こちらの勇者様以外の全員が動けなくなりますから。最初から大軍で陣を展開していると、悪魔は警戒して必ず身体拘束スキルを序盤で使ってくると思われます。それを避けるためにも、身体拘束スキルを使わなくても勝てる、そう思わせられる少人数で迎撃にあたる方が良いと思うのです」


「……。ローズ姉妹はどう思います?」

女王様は判断に迷っているのだろう、後ろに控えている宰相のマリーさんと宰相補佐のウッドさんに話を振る。

「ここまでの話を聞いて、私も納得できました。実際に戦闘を経験した者が言うのですから、それに従うのが妥当だと思います」

筋が通っている、そんな表情のマリーさんの言葉に、隣にいるウッドさんも頷く。

「あたしも、同じ考えです」


2人の反応を見て、女王様がこちらに視線を送る。

「リアトリスは、どう思いますか?」

「陛下、私も兵を厳選した方が有効かつ被害が少ないと思います。なにせ、一瞬で聖女騎士団とメーン子爵領近衛騎士団を合わせた約100人が戦闘不能になったのを、この目で見ていますから。ラズベリ卿の言うように、攻撃に参加する者の数を絞って、滅びの悪魔を油断させるのが得策だと思います」

「ヴィランはどう思います?」

「……(今度こそは、禁呪で仕留めます。足手まといは邪魔です。あの悪魔の身体拘束スキルの前では、宮廷魔術師の回復も無力だったので、隠密行動可能かつ攻撃特化型の人員を選びます)」


リアトリスさんとヴィランさんの言葉を聞いて、女王様が首を縦に振った。

その表情はどこか満足気だ。

「それじゃ、少数精鋭で迎え撃ちましょう。メーン卿、提案をありがとうございます」

「いえ、犠牲が少ない方が良いと思いましたので……」

謙遜するラズベリの言葉に頷きながら、女王様が言葉を発する。


「念のため聞きますが、メーン卿達は全員戦闘に参加するのですか?」

「娘のシクラ以外が参加します」

「えっ? お母さま、なぜ私は参加できないのです!?」

それまで大人しくしていたシクラが、驚いた様子でラズベリに問いかける。

でも、ラズベリは冷静な表情で言葉を続ける。

「シクラは、この中で――いいえ、女王陛下の前ですし悪魔がやってくるまでの時間がありません。回りくどいことは止めて、正直に言いましょう。今回の戦いでは、シクラは足手まとい以外の何物でもないのです」


「お母さま、そんなことはありません。私は禁呪を使えませんが、先日レベルが上がったことで『最高圧力水刃(ウォーター・カッター)』が使えるようになりました。それに、その、鑑定も使えますし、滅びの悪魔の羽を打ち抜いて見せます! 役に立ちます!」

「シクラ、強がりは止めなさい。滅びの悪魔は、禁呪の3重掛けで目立った傷を負わなかったような存在ですよ? 上級魔法程度でどうにかなるような相手じゃないのです。わたくしは、シクラが無理して、目の前で死ぬのは見たくないのです」

「ぅくっ……でも――」

何かを言いかけたシクラの声を、ラズベリが言葉で上書きする。

「悔しかったら、禁呪の1つでも使えるようになりなさい」


「……。ミオさま?」

助けを求めるような視線で、シクラが僕の方を見た。

「ごめん、シクラ。シクラには、いつもそばにいてもらいたいけれど、今回は……王城で待っていてくれるかな」

「……ぅぅ、分かりました。ミオさまがそう言うのなら、仕方ありません。私はお城で女王陛下とお留守番していますので、しっかりと王都を守って下さい」

作り笑顔でシクラが強がった直後、女王様が首を傾げる。

「――ん? わらわは戦場に赴きますよ?」


何気ない様子の女王陛下の一言。

それを場にいる全員が、一瞬理解できなかった。

「皆、何を不思議そうな顔をしているのです?」

「で、ですが陛下……」「危険です」

マリーさんとウッドさんの言葉が重なる。


でも、女王様はケロりとした表情で口を開く。

「何を言っているのです? 悪魔のターゲットはわらわでしょう? そのターゲットが戦場にいないと、悪魔は素通りしていくだけです。わらわは、何か間違ったことを言っていますか?」

「……正論ですけれど、今回の作戦は少数精鋭で行いますから、護衛も限られます。危険過ぎます」

たしなめるようなマリーさんの言葉。ウッドさんも同じ表情だ。


でも、リアトリスさんが反論する。

「いや、滅びの悪魔は、陛下を目指してやってくる。それなら、危険なのはどこにいても一緒だろう。それなら戦力が高い私達と一緒にいる方が安全かもしれない」

「……(もちろん、戦闘には参加させないけれど)」

ヴィランさんの追従する言葉。

その直後、女王様が笑みを浮かべる。

「決まりですね。わらわが悪魔をおびき寄せ、戦場に留まらせる餌になります。護衛に聖女騎士団と宮廷魔術師を数名もらいますが、基本、戦闘の邪魔はしません。それでマリーもウッドも良いでしょう?」

「……それは」

「ですが……」

流石に、マリーさんもウッドさんも黙るという選択肢しか、取れなかったみたいだ。


「ふふっ♪」

女王様は妖しく笑うと、勝ち誇るような笑顔を浮かべた。

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