第47話_聖女騎士団との戦い
=三青の視点=
「それでは、作戦名『はさみうち(改)』を実行します!」
伝達の魔法で自軍に指示を出しながら、僕は聖女騎士団に向かって単騎で駆け出す。幸い、僕が乗っている馬は落ち着いてくれている。名前は「まつかぜ」じゃないけれど、とても良い子だ。
メーン子爵家の近衛騎士やラズベリ達には、無詠唱で身体強化と防御力強化の魔法をかけてある。
とはいえ、防御貫通や即死スキルの前では無意味だから、聖女騎士団員に攻撃されないように迅速に相手を無力化する必要がある。近衛騎士達は戦闘要員ではない。僕とグスターが無力化した聖女騎士団員を捕縛してもらう予定だ。
メニューのマップによると、聖女騎士団からは団員20名とリアトリスさんが陣形を維持したまま馬で駆け出していた。宮廷魔術師の集団は、残りの聖女騎士団員に周囲を守られながら、攻撃魔法を詠唱している。
前衛と後衛を分けた基本的な戦い方だ。
「――させないぞ?」
伝達の魔法経由でグスターの得意げな声が聞こえてくる。
一瞬で宮廷魔術師達の背後に転移したグスターとラズベリ&シクラ、メーン子爵領の近衛騎士20名に、聖女騎士団員が驚愕の反応を浮かべるが、もう遅い。
「「HP吸収(改)!」」
「なっ、これ程の多人数が転移できるなんて――」
僕らの短縮詠唱の直後、聖女騎士団に広がるざわめき。
それをかき消すように広域発動した前後からのHP吸収(改)を受けて、聖女騎士団員達が馬ごと倒れる。
2秒くらい遅れて、魔法耐性の高い宮廷魔術師の集団も膝から崩れ落ちる。
聖女騎士団の人達が大怪我をしていなければいいのだけれど――と思いながらメニューのマップ情報を検索する。軽い骨折をした人が数名いるだけで、ほとんどの団員とすべての馬がHPを0にして気絶していた。
最初のHP吸収から逃れたのは、リアトリスさんと聖女騎士団の隊長2人と宮廷筆頭魔術師のヴィランさんだけ。
リアトリスさんも聖女騎士団の隊長2人も、落馬したはずなのに、足から綺麗に着地したのか装備に汚れ1つ付いていない。
「「HP吸収(単)!」」
僕とグスターの声が重なる。聖女騎士団の隊長2人が倒れた。
「くっ、これ程とは……」
リアトリスさんが悔しそうな顔をするけれど、リアトリスさんがHP吸収を無効化していることの方が僕にとっては想定外だった。
宮廷筆頭魔術師のヴィランさんもHPを1だけ残して必死な顔をして耐えている。――いや、おかしい。ヴィランさんから違和感を覚える。
ヴィランさんはオリジナルの防御魔法、もしくは魔法道具で、HP吸収を何らかの形で軽減しているのだろう。
「聖なる精霊よ、温かき光で我らを包み――」「……(聖なる精霊よ、その光を我に貸し与え――)」
唐突に聞こえて来た回復魔法の詠唱。
でも、それは想定済み。
「――魔法破壊!」
広域発動の回復魔法を唱えていたヴィランさんとリアトリスさんに、詠唱阻害のオリジナル魔法をかける。詠唱阻害と言っても、魔法のコードに強制的にexit関数を横入りさせるだけの簡易仕様だ。そのため圧倒的に自分よりも格下の相手にしか通用しないけれど。
「っ!? 魔法が強制終了された?」「……(なんだ、コレは!? こんなの聞いたことが無いぞ!?)」
未知の魔法に驚いているヴィランさんとリアトリスさん。
でも、その隙を見逃す僕らじゃない。馬上から片手魔法銃でリアトリスさんの肩や脚を狙撃する。連射される魔力の弾をリアトリスさんは避けたり剣で弾いたりしてすべて防ぐ。防がれるのは想定内だけれど、かろうじて、足止めになっていると言える。
グスターの方も攻撃の手を緩めない。
ヴィランさんにグスターが近づいて、当て身を食らわせる――がLPが1減るだけでHPは1のままで気絶しない。もう一度、素早くグスターが当て身を入れる。
でも、ヴィランさんのHPは1のまま。LPは減っているのに。
魔眼でヴィランさんのステータスを見ているのだろう、グスターが警戒した表情でヴィランさんから飛びのく。
「こいつおかしい! 確実に決まっているはずなのに、なんで倒れない!?」
グスターの声と同時に、メニューの鑑定のスキルがヴィランさんの装備品「血吸いの首輪」の存在を教えてくれる。
「グスター、相手を傷つけないように首輪を破壊しろ! LPを犠牲にしてHPを維持する呪われた魔法具だ!」
リアトリスさんを足止めしながら、僕が叫ぶのと同時だった。
「……(ぼ、ボクは負けられないっ!!)」
長杖を支えにしたまま、魔力を解放しようとするヴィランさん。
直後、ぱきんといった乾いた音が僕のいる場所まで聞こえた。
壊れた血吸いの首輪から、鮮血のような魔力の渦が生まれてヴィランさんを包む。
苦しむように地面をのたうつヴィランさん。血しぶきのような魔力の塊がヴィランさんにまとわりつく。
「ぁ、ああっ、あああああああっ!!」
悲鳴が岩盤に反響して谷に響き渡る。メニューの人物鑑定が赤字で警告を表示している。ヴィランさんの状態異常が「魔道具_暴走&浸食」と表示されていた。
「グスター、プランDを応用しろ! 首の魔法具が暴走しているから、アレで魔力の供給を断つんだ!」
「了解だ、ご主人様!」
視界の端でグスターが魔力を吸収する「魔封じの板」をヴィランさんに叩きつけるのが見えた。
長さ50センチ、幅3センチ、厚み1ミリ以下のとても柔らかい魔法金属性の薄い板は、グスターの手で勢いよくヴィランさんの首に打ちつけられて、慣性のままに丸くなる。
「……(かひゅっ!)」
肺から空気が漏れるような音をさせた後、ヴィランさんが静かになる。
無事に過剰な魔力を封じることが出来たみたいだ。
ほっとしたのも束の間。剣を一薙ぎしたリアトリスさんから、かまいたちのような見えない剣閃が飛んできた。
常時展開していた魔法障壁がそれを受け止めて、淡い緑色に変化する。
リアトリスさんが、少し悔しそうな表情で口を動かす。
「……ヴィランを助けてくれたのか?」
「あのままじゃ、魔法具の暴走で危険でしたから」
「そうか、すまない。恩に着る」
敵対しているとはいえ、やっぱり悪い人じゃなさそうだ。
僕の魔法の銃撃も味方に当たりそうな軌道のものは、避けないで全部打ち落としているし。
「リアトリスさん、少しだけ戦場を整える時間をくれませんか?」
「整えるだと?」
「このままだと、まわりの人達をいつか巻き込んでしまいかねません。捕虜は決して傷つけたりはしませんので――周りの気絶している人達を戦場の外に移動させた上で、僕と『一騎打ち』しませんか?」
一瞬、考えるような表情をするリアトリスさん。
流石に無抵抗で聖女騎士団員を捕虜にさせるのには抵抗があるのだろう――と思ったけれど、リアトリスさんは、すぐに首を縦に振った。
「……今から5分だけ私は目をつぶっていよう。その間に起こることは知らん。――だが、もしも私が目を閉じている間に、私の味方が少しでも傷つけられたら、どんなにレベルが低い相手でも一切容赦できないと思うが、それでも良いか?」
「もちろんです。――みんな、聞いていましたか? 魔封じの縄で縛った上で、撤収をお願いします」
「「はいっ!」」「「「了解です!」」」「「かしこまりました」」
良い返事が返ってくると同時に、メーン子爵家の近衛騎士達がリアトリスさんの周りに移動する。
リアトリスさんは目を閉じておくと言ったけれど、流石に本当に目を閉じてはいなかった。じっと射すくめるように僕を睨んでいる。
その間にも、ラズベリと近衛騎士団々長の指揮のもと、気絶している聖女騎士団員をメーン子爵家の近衛騎士達が迅速に拘束&戦闘の邪魔にならないように回収していく。メーン子爵家の近衛騎士達の方が人数が多いから、スムーズに捕虜の回収作業は進んでいった。
◇
戦場に残されたのは、リアトリスさんと僕だけ。
メーン子爵家の近衛騎士やラズベリ、シクラ、グスターは捕虜になった聖女騎士団員と後方に下がっている。
「……自信があるみたいだったが、こんなにも短時間でうちの団員がやられるとは思わなかった」
そう言って苦笑するリアトリスさん。
「例え話ではなく、ヤマシタ殿達がその気になったら、一国どころかこの南大陸の国々を落とせるな」
「ありがとうございます。でも、僕らの望みはそれじゃないんです。むしろ国々が安定する平和を望んでいます」
「分かっているさ。戦争なんてするのは効率が悪いから、少し頭の回る奴ならそう言うに決まっている。でも、ヤマシタ殿が平和を望むと言っても、私にも立場というものがあるから、ここで引くわけにはいかない」
リアトリスさんと対峙する。
馬が気絶したリアトリスさんに合わせて、僕も馬を降りている。――っていうか、本気のリアトリスさんを相手にするなら、馬に乗っている方が危ないと感じたから、自分から降りて馬はグスターに預けた。
改めてリアトリスさんのステータスを確認する。
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(基本情報)
・名称:サンセベリア・リアトリス
・年齢:222歳
・性別:女
・種族:人族
・レベル:230
・HP:7940/8567
・MP:6302/6832
・LP:24/25
・STR(筋力):3023
・DEF(防御力):4653
・INT(賢さ):3185
・AGI(素早さ):2580
・LUK(運):1203
(スキル)
――「省略」――
(称号)
・神の奇跡を受けた者→ 不老長寿&再生
・救国の英雄→ 全ステータス5%アップ
・グラス王国聖女騎士団々長
・グラス王国子爵→ 運12%アップ
――以下、多数。
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ラズベリやグスターの話を聞いた内容による想像でしかないけれど、人族としては多分、間違いなく最強の部類に入る。
僕の本来のステータス的に負ける要素は無いけれど――200年近く聖女騎士団に所属している人だから、おそらく、何か隠し玉を持っているだろう。称号が異常に多いのも気になる。
油断せずに戦おう。
と考えた次の瞬間、リアトリスさんが魔法薬をポケットから取り出して、あおった。
目に飛び込んで来た情報に、思わず声が口から漏れた。
「ははっ……マジですか?」
リアトリスさんのステータスが、全部2倍に跳ね上がっていた。
「さて、一緒に踊ろうか♪」
不敵に笑うと、リアトリスさんは僕に向かって駆け出してきた。




