第46話_リアトリスとの接触
=三青の視点=
聖女騎士団は41人。
「人、人、人――」
緊張を抑えるために、きっちり41個の「人の字」を手のひらに書いて、一気に飲み込む。
メニューのマップに連動して表示される人物鑑定によると、聖女騎士団は団長のリアトリスさんが率いていることで間違いない。それはつまり、『王城まで行かなくても僕らがリアトリスさんと直接交渉出来る』という大きなチャンスを意味する。
ここは是が非でも、単為生殖の魔法を切り札にして――僕が異世界の悪魔だという誤解を解いて、グラス王国との協力関係を築きたい。それが僕らの明日に繋がっているから。南大陸の、ひいてはこの世界の未来に繋がっていると感じているから。
僕の目の前に現れた、運命の分岐点。
胸がドキドキして止まらない。心臓が、口から飛び出るんじゃないかと錯覚するくらい、暴れている。緊張、萎縮、恐怖、焦り、怯え……複雑な気持ちがごちゃまぜになって心と身体を支配しようとしてくる。
でも今は、それを態度や顔に出してはいけない。もちろん、口に出すつもりもない。
――もうすぐ、夜が明けるから。
◇
「聖女騎士団、動き始めました!」
僕の言葉で、伝達の魔法で繋がっている、メーン子爵家の近衛騎士達の間に緊張が走った。彼女達を落ち着かせるために言葉を紡ぐ。
「皆さん、今回のプランは『はさみうち』です。第一目標は聖女騎士団のリアトリスさんとの交渉ですが、交渉が決裂した場合、戦闘に入ります。その時には、直接戦闘に参加するのは僕とグスターで行います。ですので、皆さんはラズベリの指示に従いながら僕らのサポートをお願いします。くれぐれも無茶なことはしないように、あと聖女騎士団員をむやみに傷つけないように――『敵も味方も命を大事に』でお願いします」
「「「はいっ!!」」」「「了解です!!」」「「「勇者様、頑張ります!!」」」
伝達経由で聞こえてくる声に確信する。若干緊張気味だけれど、彼女達も訓練を積んだ騎士だ。味方でいてくれることが頼もしい。
……っていうか、「異世界の勇者」という僕の肩書き効果が高すぎる。
いくらラズベリのことを心酔している近衛騎士達とはいえ、平均レベル25の彼女達が平均レベル120の聖女騎士団を相手にするというのに、士気は高いし、素直に僕の言うことにも頷いてくれる。僕が男であることやグスターが星降りの魔神であることを知った上で、ラズベリに忠誠を誓ってくれている。
彼女達なら、ラズベリのために喜んで命を差し出すだろう。ラズベリに危険がせまったら、その身を盾に守ろうとするだろう。最後まで、きっと最後の1人まで。
だからこそ、誰も死なせてはいけない。失敗は許されない。
さぁ、気持ちを引き締めていこう。
死神との駆け引きが始まる。
◇
水龍渓谷の狭い街道。
道の両側を切り立った崖に挟まれ、谷底になっている一本道。
僕らメーン子爵家の軍は、300メートル程の距離を取って、聖女騎士団と陣を向かい合わせていた。
どちらもすぐには仕掛けない。
この世界の軍は、鎌倉時代の武士のように、お互いのリーダーが口上を述べてから戦闘を開始する習慣があるらしい。奇襲をかけたり、口上を聞かずに攻撃をしたりすることは盗賊や魔物――いや、それ以下の卑しい行為だと蔑まれる。
そこに交渉のチャンスがある。今回の交渉を開始する糸口がある。
「……リアトリスさん、出てきてくれるかな?」
心の声がぽつりと口に出ていた。
伝達の魔法で自陣のみんなにも聞こえているだろうけれど、誰も返事はしなかった。
そして次の瞬間――万が一、リアトリスさんが出てきてくれなかった場合の策も用意していたけれど――敵陣の中から白い馬に乗った女性が3人駆け出してくるのを見て、杞憂だったと理解した。
メニューのステータス表示によると、団長のリアトリスさん、聖女騎士団第1隊々長のインディゴさん、そして宮廷筆頭魔術師のヴィランさんがこっちに向かっている。それぞれ、赤ワインのような深みのある赤紫色の髪、深い海のような紺色の髪、精製したての金属のような銀色の髪。
当然、3人ともレベルが210オーバーと高い。
「ミオさん、こちらも出ましょう!」
ラズベリの言葉に頷きを返して、馬を走らせる。
僕の後ろには、グスターとその愛馬『まつかぜ1号』も一緒だ。
……そのネーミングセンスには、あえて突っ込まない。正直に言うのなら、突っ込んだら負けだと思ったから。グスターは、命名した後にちらちら僕を見ながら、きらっきらの瞳で何か期待している視線を送ってきたけれど……とりあえず放置した。
――そんな緊張感のないことを考えているうちに、中間地点にやってきた。
リアトリスさんとは10メートルほどの距離。
対峙するなり、懐かしそうな表情でリアトリスさんが笑う。
「ラズベリ卿、大きくなったな♪」
その言葉に、ラズベリが虚を突かれたような表情を浮かべた後、苦笑する。
「ご冗談を。リアトリス様、私のことを覚えていらしたんですか?」
「いやいや冗談じゃないぞ? ラズベリ卿は6属性魔法使いの将来有望な娘だったからな。――だが、聖女騎士団に軍を向けるような、やんちゃをする愚か者だとは思っていなかった」
すうっとリアトリスさんの目が細くなる。
武人の顔。凄まじいプレッシャー。比喩じゃない。リアトリスさんから発せられる闘気で、びりびりと空気が揺れる。
でも、それを軽く受け流すようにラズベリが小さく笑う。
「王国の未来を考えたら、一時的に反逆者の汚名を着せられても、動かずにはいられなかったのですよ。……そう、王国の未来を考えたら」
意味有り気な言葉に、リアトリスさんが不快そうな表情で小さく眉を寄せる。
「王国の未来だと?」
「はい、異世界の勇者様が『女性だけで繁殖できる魔法』を教えてくれました。この世界を救うためにも、一刻も早く女王陛下にお伝えしたい内容です。リアトリス様、女王陛下との謁見を許可していただけませんか?」
あえて「許可」という言葉を使ったラズベリの言葉は、言外に「分かっているんですよ」という当てこすりも含まれている。
普通、子爵が女王に謁見を申請した場合、2週間程度待たされるらしい。でも、今回、ラズベリは異世界の悪魔の魅惑にかかっていると女王や聖女騎士団には認識されている。正攻法では、謁見は永遠に許可されないだろう。
――というより、王都に滞在中に暗殺される可能性の方が高い。だから、自己防衛のために軍を出したと主張しているのだ。
「女だけで繁殖できる魔法……か」
リアトリスさんが考えるような仕草をした後に、言葉を続ける。
「ふむ。それが本当なら――話を聞く価値がありそうだな♪」
とても良い笑顔。でも、作られた笑顔だ。
ラズベリも同じような笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます。できれば、このまま戦闘を開始するのではなく、どこか落ち着いた場所でこちらの事情も合わせて説明をしたいのですが――「勘違いするな。『本当なら』と言っただろう? どうやって今の話が本当だと証明する? まさか今からこの場にいる誰かを孕ませるわけにもいかないだろう? それに、孕んでも見た目では、すぐには分からない」」
ラズベリの言葉を遮ってリアトリスさんが言葉を続ける。
「何より、今のラズベリ卿には異世界の悪魔の魅惑にかかっている疑惑がある。悪魔に騙されているんじゃないのか?」
リアトリスさんが核心を突いてくる――けれど、この反応は事前に予想していた。
みんなで話し合って用意していた答えをラズベリが口にする。
「それは我が娘、リリーの早とちりです。こちらの少女が、異世界の勇者様ですから、リアトリス様のその目で、瞳で、スキルで、悪魔かどうかご確認下さい」
ラズベリの紹介に合わせて、僕もリアトリスさんと目線を合わせる。
値踏みするような鋭い視線とその迫力に、吹き飛ばされそうな錯覚を起こす。
でも、顔には出さないように微笑みを返し、声が緊張で震えないように気を付けながら、自己紹介をする。
「異世界からやってきたヤマシタ・ミオです。世間に異世界の勇者だとバレると騒動になりそうだったので、最初は対外的にラズベリの妹として通したいと思っていましたが……どうにも隠し切れそうにないので、勇者として自己紹介させて頂きたいなと考えています。レベル180の若輩者ですが、よろしくお願いします」
僕の言葉に、リアトリスさんがフフッと笑う。
「レベル180で若輩者だと? 私以外の相手なら、謙遜を通り越して嫌みに聞こえるから、今後は自己紹介の内容を変えた方が良いな」
「アドバイス、ありがとうございます。――それで、僕は悪魔に見えるでしょうか?」
「……ヤマシタ殿のステータスは、こちらも事前に把握させてもらっている。人族なのは間違いなさそうだな……。その歳でそのレベルは少し異常だが、異世界の勇者なら若返って召喚されることもあるらしいから、年齢とレベルが釣り合わないのもありえなくないのが事実だ。――とはいえ、その従者までもが高レベルな理由を聞いても良いか?」
僕から視線を外したリアトリスさんがグスターの方を見る。
そして息を飲む。
一瞬、生まれた小さな静寂。驚いたような表情でリアトリスさんは固まっていた。
「……グスター?」
リアトリスさんの口から、声が漏れる。
「ほぇ?」
「お前、グスターなのか!?」
「え? あ、うん。グスターはグスターだが?」
真剣な表情でリアトリスさんに話しかけられて、グスターは不思議そうな顔をしている。
何となく不味い予感がした。でも、僕がグスターに「それ以上話をしちゃだめ」と釘を刺すよりも早く、リアトリスさんの口から驚くべき問いが投げかけられた。
「……。神々に刃を向けた魔神スプリン・グ・スター・フラワー本人で間違いないな?」
その言葉と殺気に、周囲の空気の温度が下がる。
リアトリスさんの両脇の人達も驚いたような表情を浮かべて、いつでも動けるように杖と剣に手をかけていた。リアトリスさん達も伝達の魔法を使って会話の内容を自軍に伝えているのだろう、心なしか聖女騎士団員から受ける殺気も強まった気がした。
「なっ、何を言って――」
嘘をつくのが苦手なグスターに交渉させたらいけない。取り繕うとしているグスターを手で遮って、リアトリスさんに質問する。
「僕の従者の名前は確かにグスターですが、星降りの魔神とは無関係です」
僕の言葉に、リアトリスさんが首を横に振る。
そして、さっぱりとした顔で苦笑する。
「懐かしいな♪ グスターは覚えていないか? 200年前までは、よく一緒に酒を飲んでいたじゃないか?」
「グ、グスターは、お前みたいな奴と酒を飲んだ記憶は無い」
「グスター!」
僕のギリギリの忠告。あまり言い過ぎると、リアトリスさんの予想が正しいと肯定することになってしまうけれど――グスターを止めずにはいられなかった。
でも、リアトリスさんは笑顔を崩さない。
「レベル20のくせしてHPが5000オーバーだった『まぬけ』を私は忘れていないよ? ステータス偽装の魔道具の設定ミスだったらしいが、あれは大爆笑させてもらったし、今でも笑える」
「まぬけって言うな! あの時は――「グスター!」――あぅ」
「本人確定だな? グスターが私のことを覚えてくれているか分からないが、あの当時、街の自警団で門番をしていた『リー』だよ」
勝ち誇るようなリアトリスさんの声。
グスターも、僕も、ラズベリも、何も言えなかった。
「「「……」」」
「あのグスターが星降りの魔神だという認識は、こうして話をするまでは無かった。当時も身なりが良かったし、お忍びの貴族か大商人だと思っていたからな。でも、正体不明の狼人族だったグスターが今も生きていて、このタイミングで出て来たということから、はっきりと理解したよ。グスターが星降りの魔神だと」
ラズベリが小さくため息をつく。
「……グスターちゃん、仕方ありません。リアトリス様は誤魔化せないみたいですし、認めちゃいましょうか?」
「……ラズベリがそう言うなら……。リー、久しぶりだな。まさか生きているとは思わなかったぞ。……。酒を飲むときには、今でもパラライズ・バジリクスの干し肉を食べているか?」
「ああ。今でも欠かせないな。最初は魔物の肉なんて美味しくないだろうと思っていたが、グスターに『美味しい魔物の肉もある』と教えてもらってからは、ずっとハマっている」
「そうか。グスターも食べたいから、今度、酒を飲むときにはパラライズ・バジリクスの干し肉を用意してくれ。――いや、酒も合わせて用意してくれ。っていうか、王都の酒場を、聖女騎士団々長であるリーの力で丸ごと貸し切って、グスター達におごってくれ♪」
ちょっと投げやりなグスターの言葉。
誤魔化すのは完全に諦めた、とその声は語っていた。
リアトリスさんが苦笑する。
「おいおい、私が酒場を丸ごと貸切るのか? 王都は物価が高いんだぞ?」
「どれだけグスターがリーに酒をおごったか忘れたのか? 出世払いしてくれると言っていたじゃないか」
「……懐かしい。そんなこともあったな」
「んじゃ、そういうことだから――酒をおごるついでに、うちのご主人様を女王に紹介してくれないか? たしか『王城』という酒場を貸し切りにできれば、グラス王国の女王様も問題なく参加できるだろ?」
グスターの無茶振りに、リアトリスさんが再び苦笑する。
「グスター、魔神のくせして――いや、封印で弱体化したのか? 勇者に倒されて従者をやっているのか?」
話題が変わって、きょとんとした表情をグスターが浮かべる。
狼耳が不思議そうに、ぴこぴこ動いていた。
「ん? ご主人様に倒されたのは事実だが、グスターはご主人様に惚れているから自主的に嫁になったんだぞ♪」
「ちょっ、グスター!」
ここで僕が男だということがバレるのは困る。
これ以上、グスターとリアトリスさんを話させるのは危険だ。
でも、リアトリスさんは、おかしそうに笑い出した。
グスターの嫁という言葉を、ゆりゆりな方向の冗談だと受け取ったらしい。……なんだろう、ちょぴっと複雑な気持ちになる。
「あはははっ、面白い話だ。――まあいい。グスターの言い分もラズベリ卿の言っていることも理解した。女だけで繁殖できる魔法はとても興味深いし、グスターとも酒を酌み交わしたいし、女王陛下に紹介したら面白そうだとも思える」
「それでは、女王陛下に顔つなぎをして頂けるのですね?」
暗闇の中で細い糸を手繰るようなラズベリの声。
言外にまだ気を緩められないと語っていた。事実、僕もそう感じている。リアトリスさんは、まだわずかに殺気を放っているから。そして、残っている殺気を隠そうとしないから。
ラズベリが言葉を続ける。
「ちなみに『女性だけで繁殖できる方法』だけでなく、もっと重要な『女王陛下の耳に直接お伝えしたいこと』があるのです。南大陸が戦火の渦に巻き込まれる可能性を防ぐ話なのですが――女王陛下のもとに、私達を連れて行って下さいませんか?」
ラズベリの言葉に、少しだけ驚いたような表情をリアトリスさんが浮かべる。
戦火の渦というキーワードが気になったみたいだ。
「そうだな……ラズベリ卿がどんな内容の話をするのか、とても気になるし……うむ。本当に陛下に顔つなぎをしたら、女だけで繁殖できる方法や戦火を防ぐ方法を教えてくれるのか?」
「もちろんだ♪」「もちろんです」「約束します」
グスター、ラズベリ、僕の声が重なる。
それを聞いて、満面の笑みでリアトリスさんが口を開いた。
「――だが、断る!」
リアトリスさん、ちょぴっとドヤ顔をしている。
……グスターがしてやられたという顔をしているから、多分、グスターがこの迷言を昔、酒場かどこかでリアトリスさんに教えたのだろう。
200年の時を超える時限爆弾みたいなモノだ。
まったく、余計なことをして!
リアトリスさんが、にこっと笑う。
「ただの自警団所属のリーだった頃なら話は別だが、今の私は聖女騎士団々長だ」
凄まじい殺気を放ちながら、リアトリスさんが言葉を続ける。
「そう易々と、異世界の召喚者と魔神を陛下に近づけさせるわけにはいかない。陛下に会いたければ、私を倒してからにして欲しい」
……格好つけているところ悪いのだけれど。
さっきの迷言のせいでリアトリスさんが怖くなくなった僕がいる。正確には、リアトリスさんに親近感が湧いたとか、緊張が解けたとも言う。
どことなく、グスターと同じ匂いがしたのだ。うん、うちのグスターと同じ匂いが。
だから、自然と言葉が口から出た。
もちろん、声は震えたりなんかしていない。
「僕らは、なぜ戦わないといけないんです?」
「楽しいからかな。私を楽しませてくれたら、陛下に紹介しても良い」
「それは本当――「理由になっていないぞ!?」」
言質を取ろうとした僕の言葉を、少しむくれた表情のグスターの叫びが邪魔をした。
グスターが不機嫌な原因は、交渉が決裂したからではなく、美味しい迷言を取られたせいだろうなと、何となく理解してしまった。
重要だから繰り返す。
女王に紹介してもらえる言質を取るチャンスだったのに、それをグスターが潰した。
ラズベリが「とても良い笑顔」をしているから……後で、確実に「お説教コース」だろう。グスターには同情するけれど、また同じことを繰り返されたら困るから、びしっとラズベリに仕込んでもらおう。僕じゃ、多分甘さが出てしまうし。
そんなことを考えている余裕が伝わってしまったのか、不快そうに鼻で笑って、リアトリスさんが口を開く。
「コレは1つの試験だと思ってくれていい。事実上、ラズベリ卿達が聖女騎士団に向けて兵を動かしたことは、王国に対する反逆行為にあたる。リアトリス卿もヤマシタ殿もグスターも命は惜しくないのだろう? だが、逆に――私を倒せば、誰もお前達を止められる人間はこの王国にいない。だから、ここで決着をつけようじゃないか」
これは、リアトリスさんなりの「優しさ」なのかもしれない……なんて考えてしまった僕がいた。
でも、その考えをすぐに改める。普通の認識ならば、レベル180&128じゃ、聖女騎士団とリアトリスさんに正面から戦って敵うはずがないのだから。あえて言う。正面から戦うと、普通じゃ勝てない。
だからこれは、優しさなんかじゃなくて、抹殺宣言。
心を折るという宣言。必ず倒すという、リアトリスさんの意思表示。
でも、僕らは負けない。
「仮定の話ですが、リアトリスさんが負けたら、僕らと一緒に女王様の所まで来てくれますか?」
「私が負けて、なおかつ私が生きていたら、ヤマシタ殿の言う通りにしよう」
「「その言葉、忘れないで下さいね?」」
僕とラズベリの言葉が重なった。よし、言質は取れた。
苦笑するような表情で――いや、明らかに困ったような顔で――リアトリスさんが言葉を紡ぐ。
「ずいぶんと自信があるのだな? レベル93のラズベリ卿にも、レベル180程度の異世界の勇者殿にも、弱体化したレベル128のグスターにも、私はやられてやるつもりはないぞ?」
「それで大丈夫です♪」
ラズベリが妖艶に笑った。
直後、リアトリスさんの表情がすっと真剣なものに引き締まる。
僕らに、隠し玉があることを察したらしい。
隠し玉と言っても、高レベルのステータスに頼った「ごり押し」だけれど。
「――そうか、分かった。まぁ、いつまでも話をしていても仕方ない。剣で語ろうじゃないか♪」
そう言ってリアトリスさん達3人が踵を返したのと同時に、僕らも自陣に戻る。
伝達の魔法でメーン子爵家の近衛騎士団員に話しかける。
「皆さん、魔法で聞こえていたと思いますが、聖女騎士団にグスターの正体がバレました。今回は作戦名『はさみうち』を実行しますが、相手さんはグスターの正体をもう知っていますので、転移魔法をつかった自重無し強襲コース『はさみうち(改)』で対処したいと思います。皆さんも、そのつもりでお願いします!」
「「「分かりました!!」」」「「はいっ!」」「「「頑張りますっ!!」」」
「それでは、準備は良いですか? 3――2――1――」
カウントダウンを唱えた後、戦場のしきたりに沿って、開戦の合図を――上空に向けで炎魔法の火球を――打ち上げる。
すぐに聖女騎士団からも、応戦する旨の同じ合図が返ってきた。
さぁ、僕達の戦いが始まる。




