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第45話_夜明け前

=聖女騎士団団長_リアトリスの視点=


朝日が昇る1時間前。水龍渓谷の王都側の入り口。

少し離れた場所では、団員の多くが鎧を着たまま岩場に体を預けて仮眠をとっている。

ここまで頑張ってくれた馬達も、あともう少しの距離を走破するべく各々の主の近くで膝を折っている。

川沿いの澄み切った空気が私の髪を撫でるのを感じながら、今日これからの作戦を頭の中でおさらいする。


おそらく城塞都市ルクリアは、星降りの魔神が落とした隕石で壊滅し、アンデッドの巣くう廃墟になっているだろう。星降りからの日数を考えて、聖女騎士団の脅威になるような強力な個体はまだ生まれていないと思うが、何万匹ものゾンビやレイスを相手にするのは少し骨が折れる。……なんて考えている頃も、私にはあった。


街道沿いのマラウィーの街で仕入れた複数の最新情報によると、城塞都市ルクリアは壊滅していない。住民もアンデッドにはなっていない。

隕石の落下はあったものの、領主のラズベリ卿と次女のシクラ殿、そしてラズベリ卿の妹とその従者の力で、星降りの魔神を撃退。星降りの魔神はローゼル湖畔の古い神殿に再封印されたらしい。

被害らしい被害と言えば、城塞都市の周辺の水田地帯に被害が出たくらいで、城下町には光り輝く障壁――おそらく城塞魔法障壁――が現れて隕石は落ちてこなかったとのこと。多少の混乱はあったものの、すぐにそれも収まったと聞いた。


……いや、それっておかしいだろ?

発動まで時間がかかる城塞魔法障壁が、奇跡的に間に合ったことはまだ良い。

問題は、伝説の中に出てくる、戦いの女神との壮絶な争いを繰り広げた星降りの魔神をラズベリ卿達が退けて再封印したこと。

ありえない。

いくら何でも、復活直後で弱体化していたことが予測されるとはいえ、魔神を封印することは宮廷魔術師のトップクラスじゃないと不可能に近い。そもそも、リリー殿の話に少し出てきたレベル82のラズベリ卿では、逆立ちをしても魔神に太刀打ちできるはずがない。

それに異世界の悪魔はどこに行った?


「……」

ここまでの情報を整理すると、異世界から召喚された悪魔というのが、おそらくラズベリ卿の妹に擬態しているのだろう。そして強大な力を持つ悪魔が星降りの魔神を退け、再封印もしくは次元の向こうに消滅させた――というシナリオが導き出される。


でも、これは明らかな誤算。マイナスの誤算。

星降りの魔神を退けるような力を持つ、異世界の悪魔の戦力は未知数。城塞都市の住民に不安を抱かせることなく領主の身内という支配階級に滑り込んだその力も未知数。

魅惑の耐性護符は持っているものの、今回の私達の戦力で強硬手段に出て対処できるかどうか――いや、これ以上は考えてはダメだ。


私に同行してくれているのは、第1隊と第4隊の隊長をしているレベル210のインディゴとレベル190のブルー、そしてその部下28名。あとはレベル230の宮廷筆頭魔術師のヴィランとその部下を合わせて10名。私を入れてきっかり41人の隊で対処するのはちょいと厳しい相手になりそうだ。


「いっそのこと、街の外から戦略級の炎の禁呪でこんがり焼いてみるかな~」

なんて物騒なことを呟いてみるけれど、突っ込んでくれる陛下はここにはいない。

その代わりに、激しいプレッシャーを込めた視線が私の横顔に突き刺さる。宮廷筆頭魔術師のヴィランだ。

「……(それは絶対にダメって城を出る前にも言ったでしょ? ボクらの役目は少数精鋭で、異世界の悪魔を確実に倒すことだよ?)」

ギリギリ聞こえる、逆に言うと注意していないと絶対に聞こえない、とても小さな声。


記憶にも残っていない新人宮廷魔術師の1人が「まるで蚊が鳴くようだ」と陰口を叩いて左遷されていたけれど、その比喩力は個人的に悪くないと私は今でも思っている。せめて陰口ではなく本人と私と陛下の目の前で堂々と言ってくれていたのなら、多少は擁護してあげられたのに……。


「……(何か、今、ボクに対して失礼なこと考えていたでしょ?)」

ヴィランが私を睨む。


彼女のことを無口だという人間がいるが、それは間違いだ。

そんな奴は注意力が散漫で、彼女の声が聞こえていないだけ。耳をすませば――ヴィランは、そこそこ話好きだとすぐに分かる。

「……(ねぇ、リアトリス、聞いているの? 戦術級の魔法は良いけれど、戦略級は使っちゃダメだよ?)」

「聞いているよ、ヴィラン。さっき口にした『こんがり』は冗談だ」

「……(リアトリスが言うと冗談に聞こえないから。勝手なことをしたら、陛下に叱ってもらうからね?)」

「ははっ♪ それは困るな」

禁呪を使って「こんがり」させるのは、半分くらい本気の再提案だったから、笑って誤魔化すことにした。私は、別に住民が魅惑にかかっていようがいまいが関係ない。私に抵抗するならアンデッドと同じ対処をするだけ。具体的には、切り捨てるだけ。


城を出る前に陛下や宰相ローズ姉妹、そして宮廷筆頭魔術師であるヴィランと話をした時に、私は遠距離から戦略級魔法で一掃する作戦を強く提案した。手間や団員の安全を考えたら、効率的に対処することが好ましいからだ。

でも、ヴィランの「……(星降りの魔神や悪魔が転移魔法で逃げた時が困る。ここで確実に潰さないと、星降りの魔神や悪魔との変則的な戦争状態に突入するから)」という言葉で、魔神や悪魔との早期直接対決が望ましいという結果に至った。


うん。さっきは不安になったけれど――今回のメインターゲットが星降りの魔神から異世界の悪魔に変わったとしても――作戦は変えない方が良いだろう。


そうと決めたら、私も覚悟を決める。

各団員には防御貫通の魔剣を装備させているし、魔法薬も配布してあるし、もともと悪魔との戦いを考慮した準備も万端にしてある。

「負けないよ、私達は」

私の言葉に、こっちの目の色を伺うような視線を向けた後、ヴィラン・イランが小さく笑う。

「……(まぁ、分かっているなら、別に良いんだけれど)」


「ああ。異世界の悪魔相手に、負けてやるつもりはない」

そこで言葉を区切り、小さく笑う。

「星降りの魔神が弱体化していたと予想しても、それを単独で退けるのだから、悪魔がレベル500~700台なのは確実だろう。戦えるのが楽しみだ♪」

「……(リアトリスも少し焦ればいいのに。脳筋なんだから)」

自分のレベルの2倍以上の相手が待ち構えているのに、焦らないことなんて無い。

顔に出していないだけだ。

出してはいけないと経験から理解しているだけだ。

「褒め言葉だな♪ お返しにヴィランのことも褒めてあげるよ、もやしっ娘」

「……(リアトリス、実はイラついているでしょ?)」

「いやいや、そんなことない?」

「……(嘘つきババア)」

「ヴィランも似たようなものじゃないか?」

宮廷筆頭魔術師のヴィランは、若返りの秘術で今の外見を維持している。

神の奇跡で不老になった私とも長い付き合いだ。

「……(マジで殺していい?)」

「それは、決闘したいという意味か? 肩慣らし程度なら――」


「団長っ、失礼します!」

険悪になりそうだった私達を止めたのは、1人の団員だった。正確には、城塞都市ルクリアの様子を見てくるように斥候に出した、ルッコラという名前の団員。


1時間前に斥候に出したはずなのに、もう帰ってくるなんて――ルクリアまでは馬で片道3時間くらいはかかるはずなのに――何かトラブルでもあったのだろうか? 水龍渓谷には魔物が生息しているけれど、夜は活性が大人しくなるし、例えボス級の桃色(ピンク)ワイバーンが出てもレベル160で夜目スキルを持つ彼女の敵ではないはずなのに。


慌てた表情で駆け寄ってきたルッコラに、事情を説明するように視線を送る。

発言が許可されたことを察したルッコラが若干緊張した声で言葉を紡ぐ。

「す、水龍渓谷の出口に、メーン子爵家の紋章が入った旗を掲げた騎士団が陣を展開しています。その数、約50名です。騎士のレベルは20~30台が殆どですが、人物鑑定により、レベル93の当主ラズベリ様とその次女でレベル69のシクラ様、加えてレベル180とレベル128の護衛が付いていることが確認できました」

「へ~、レベル180にレベル128? 美味しそうだな♪」

思わず口に出た言葉と笑み。

ルッコラが、びくりっと固まった。


「……(リアトリス、嬉しそうだね)」

「だってレベル180と128だよ? ストレスの発散相手&肩慣らしに良さそうじゃない?」

「……(八つ当たりされる相手に同情するよ。で、ルッコラは、メーン子爵の騎士団と接触したの?)」

ヴィランの声に、ルッコラが困ったような顔を作る。

「あの? すみません、何とおっしゃったんですか?」

その言葉に、ヴィランが不機嫌そうに口を紡ぐ。


ヴィランは声が小さいくせに、相手に聞き返されるとすぐに拗ねるという悪い癖がある。ヴィランの代わりに私がルッコラと話を続ける。

「ああ、すまない、ヴィランは声が小さいからな。ヴィランは、メーン子爵やその騎士団と接触したのかと聞いたんだ」

「接触はしていません。出立前に『メーン子爵領の生き残りと遭遇しても、魅惑にかかっている危険性があるから絶対に接触するな』と団長がおっしゃっていましたので」

「それで良い。で、確認するが、メーン子爵家当主のラズベリ卿がいるというのは本当か?」

「はい。人物鑑定スキルで確認しましたので、間違いありません」

この世界のスキルレベルはMAX50だ。スキルレベル35以上の人物鑑定を隠蔽できる魔道具はこの世に存在しないから、人物鑑定レベル42のルッコラが視た情報は間違いないだろう。


「魔族が化けていたり、悪魔が化けていたりという雰囲気はしなかったか?」

「いいえ、人員は人族もしくは獣人族ばかりです」

「名前を偽装している可能性は?」

「私の鑑定レベルなら偽装を看破することが可能ですが、ラズベリ卿もその次女のシクラ様も名前を偽装している様子はありませんでした」

「……それなら、ラズベリ卿が影武者という可能性は限りなく低いな。――いや、おかしい。さっきラズベリ卿のレベルはいくつだと言ったか?」

「93です」

ヴィランと顔を見合わせる。リリー殿の情報よりも11高い。というか、ありえない。

「ヴィラン、どう思うか?」

「……(異常ですね)」

「???」

不思議そうな顔をしているルッコラは放置して、頭の中で考える。


聖女()騎士団から聖女騎士団に昇団する基準は何か? それは「レベル99の壁」を越えられるか、ただそれだけ。多くの人間がこの壁を越えられない。6属性魔法使いという希少な才能を持っていた若き日のラズベリ卿が、レベル99になったのに聖女騎士団に入れなかった理由もコレ。

だから、元聖女準騎士団員だった6属性魔法使いのラズベリ卿がレベル93だったとしても珍しいことではない。――が、引退して子どもを(・・・・)2人も産んだ(・・・・・・)人間にしては高すぎる。


子どもを産むことは体力が必要だ。1つの命が新しい命を生み出すという神聖な行為ゆえに、女は子どもを産むことでレベルを10~50%消費してしまう。レベル10ならレベルが1~5下がり、レベル99ならレベルが9~50下がるというように。

そのかわり、高レベルの親から生まれた子どもは、少ない経験値でもレベルが上がりやすいという神の祝福を受けている。そのせいで図に乗るガキんちょ共もいるわけだが……と、思考がズレた。


子どもを2人産んだラズベリ卿はレベルが最低でも9+8分は下がったはずなのに、そこからまたレベル93まで経験値を積むというのは……正直あり得ない。

レベル82からレベル83に上がるだけでも、経験値がレベル10からレベル40に上がるのと同じくらい必要なのだから。一般的なレベル10の女性がレベル5から再びレベル10に戻るのとは天と地どころか、天界と魔界くらい――次元が――違うのだ。


もしも何らかの形でこのようなレベル上げが可能だったとしたら、今頃、グラス王国は引退した聖女騎士団員&聖女準騎士団員だけで南大陸を統一することが可能だろう。


「……(悪魔が、配下のラズベリ卿を強化したとか?)」

ぽつりとヴィランが口にした言葉。

「その可能性が高いな。となると、その意図は――ヴィランはどう思う?」

「……(レベル180と128の奴が怪しい。本当に人間? 魔法でレベルを上げられている? あるいは、レベル偽装の可能性は?)」

「ルッコラ、レベル180と128の相手の詳しいステータスは分かるか?」

「はい。ラズベリ卿とシクラ様のステータスと合わせて、こちらに控えてあります」

そう言って、ルッコラが懐から紙を取り出して、こちらに差し出した。


====

(基本情報)

・名称:ヤマシタ・ミオ

・年齢:16歳

・性別:女

・種族:人族

・レベル:180

・HP:5940/5940

・MP:5042/5042

・LP:17/17


・STR(筋力):2050

・DEF(防御力):2665

・INT(賢さ):2185

・AGI(素早さ):2080

・LUK(運):956


(スキル)

――「省略」――

(称号)

・魚好き

・お人好し

====


====

(基本情報)

・名称:グスター

・年齢:14歳

・性別:女

・種族:狼人族

・レベル:128

・HP:4096/4096

・MP:4224/4224

・LP:18/18


・STR(筋力):1583

・DEF(防御力):1821

・INT(賢さ):1050

・AGI(素早さ):2458

・LUK(運):3


(スキル)

――「省略」――

(称号)

・ドジっ娘

====


眩暈がした。溜め息も出ない。

ラズベリ卿とその次女のステータスは普通だった。

でも、護衛の2人はとても不味い。こんな年齢でこんなレベルやステータスはあり得ない。


無言のまま紙をヴィランに手渡す。

「……!?」

ヴィランが息を飲んだのが分かった。

特にレベル128の狼人族。AGI(素早さ)が2458もあるなんて、聖女騎士団でも私か隊長クラスじゃないと攻撃を捌き切れないだろう。下手な団員だと一方的に切り刻まれるだけだ。


あと、ドジっ娘という称号を持っていて、運が異常に低いのも気になる。

こういうタイプは、悪運が強くて――普段はどんくさいくせして――戦闘中にズッコケながら(・・・・・・・)クリティカル攻撃を偶然(・・)放ってくることが多い。そしてそういう攻撃に限って防御を貫通してくる。

正直、相手にしたくないタイプだ。


もしもこの2人クラスの化け物が、城塞都市ルクリアにゴロゴロいるのだとしたら……根本的な作戦を考え直さないといけない。


まずはヴィランと話し合う必要がある。――が、その前に。

「報告ご苦労。ルッコラは通常任務に戻って――いや、今は少しでも睡眠をとってくれ。夜明けまで、まだ時間があるみたいだから」

「はい。了解しました」

ルッコラが離れたことを確認してから、ヴィランの方へ向き直る。


「どう思う?」

「……(どう思うって、どういう意味?)」

流石にヴィランの顔にも余裕が無い。でも、そんなことは無視して言葉を紡ぐ。

「メーン子爵家当主が、水龍渓谷の出口に陣を張っている理由だ。しかも、比較的少人数で」

「……(ボクらと『何か』の交渉をしたいんじゃない?)」

「なぜ、そう思うんだ?」

「……(メーン子爵家の当主様が直々に出てきているから。聖女騎士団の隊長クラスじゃないと勝てない護衛を2人も連れているし。基本的に交渉したい、でも、交渉が決裂もしくは交渉にならない場合には強硬手段も厭わない……っていう感じかな?)」


「王国の忠実な牙である聖女騎士団に、交渉は無意味だ。陛下しか決定権を持っていないからな。私も聖女騎士団の決定権を持っていなくはないが、陛下の意向を無視することはあり得ない。それを聖女準騎士団に所属していたラズベリ卿が知らない訳がない」

「……(んじゃ、ボクらとガチで戦うつもりなんじゃない? そして、そのまま王城の陛下に直訴に行くとか?)」

「ありえない」

陛下に直訴とか、しかも兵を連れてだなんて、子爵とはいえ縛り首コースは確実だ。そんなことをする理由が無い。


「……(でも、アッチは『引かない』と思うよ? なにせ当主様が危険を顧みず直々に出てきているんだ。悪魔の命令か魅惑の影響かは知らないけれど、正面からぶつかったら、ラズベリ卿もその護衛も本気で来るのは火を見るよりも明らかだよ)」

「……そうだな。悪魔の影響を受けている可能性が高いな」


さて、どうするべきか?

私や第1隊々長インディゴ&第4隊々長のブルーが揃って前線に出れば、交渉を受け付けずに力で押し切るのは可能だが――ラズベリ卿がどんな言い訳……もとい交渉をするのか興味が無いと言ったら嘘になる。


星降りの魔神や悪魔の情報も欲しいし、ラズベリ卿の陣には人族と獣人族だけで、魅惑を使う悪魔はいないという鑑定だったし、いざとなれば頼りになる魔法具もいくつか持ってきているし……直接、ラズベリ卿の顔を見てみるのも悪い選択肢ではなさそうだ。


「朝日が昇るまで、まだ少し時間があるな。私も仮眠をとることにしよう」

斥候のルッコラみたいに夜目のスキルを持つ人間は別だが、足場が悪い水龍渓谷を通過するには太陽の光が無いと危険だ。

「ヴィラン、私はしばらく寝る」

呟きながら地面に寝そべる。

ヴィランが無作法を非難するような視線を向けてきたが、気にしない。だってここは戦場だから。


「……(ボクは起きてる)」

そんな呟きが聞こえたけれど――私の意識は、まどろみの中に沈んでいった。


=三青の視点=


「相手さんが動く気配は、まだ無いな」

聖女騎士団の斥候が帰った後、団員が動くかなと思ったのだけれど……メニューのマップによると、水龍渓谷の出口に陣を張っている聖女騎士団はまだ動いていない。団長さんのステータスも「睡眠」になっている。


おそらく、日が昇る前に水龍渓谷を超えるのは危険だと判断したのだろう。

ここまではラズベリの予測通り。でも、1つだけ想定外――いや、想定していたけれど、そうなって欲しくないことが現実になっていた。


今回の騎士団の中に、リリーさんが随伴していないのだ。

そのことを話すと―ー

「リリーは王城に囚われている可能性が高いですね」

あまり気にしないで下さい、そんな表情でラズベリに笑顔を向けられてしまった。


正直、リリーさんの印象は名古屋系女子的な感じで苦手だったけれど、ラズベリやシクラの家族なのだから、ひどい目にはあって欲しくない。

「ごめん、僕のマップのスキルが王都まで届けば、確認できたのに……」

「そんなことないですよ、ミオさま」

「そうだぞ。こうして10キロ以上離れた場所にいる聖女騎士団の動きを知れるだけでも十分過ぎる」

シクラとグスターの声を聞きながら、頭を働かせる。

「リリーさんの身を守るためには、聖女騎士団は1人も逃がせない。今はまだ戦闘になっていないけれど、本格的に聖女騎士団に抵抗したという情報が洩れると、リリーさんの身が危険になるから」


「ということはプラン『はさみうち』ですね?」

作り笑顔でラズベリが確認してくる。目元が本気モードだから、ガチで聖女騎士団員を逃さないつもりだろう。

「うん。臨機応変にしつつ、僕とグスターで聖女騎士団の進路と退路を断つよ。無効化した後の聖女騎士団員の対処と、メーン子爵家の近衛騎士の指揮はラズベリに任せるから、油断しないで行動してね」

「もちろんです。シクラと協力して完璧にこなしてみせますわ」

ラズベリの言葉に、全員で視線を巡らせる。自然と、同じタイミングで頷いていた。


不思議と、負ける予感はしない。

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