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第44話_いつもと変わらない今日を維持する決意

=ローリエの視点=


今朝のルクリア城は、いつもよりも慌ただしいです。

私も、ドレスアーマータイプの戦闘メイド服を着て、兵士達の訓練場にいます。

事の始まりは、早朝の緊急招集。寮住まいの一般兵士も、街住まいの上級騎士も、城の侍女やメイド達も、平等に城の訓練所に集められていました。


ざわつく兵士達の前に、ユーカリ様と一緒に、私も移動する。

若干、緊張していますけど顔には出せない。心情を顔に出すのはメイドとして失格ですから。

ユーカリ様が足を止めた瞬間、ぴたりと兵士達の声が止み、早朝の鳥の声だけが響いた。


「皆に集まってもらったのは他でもない。私達の城塞都市ルクリアは今、強敵に狙われ、存亡の危機にある」

エルフ独特の「ウチ」とか「やねん」といった言葉遣いを使わないユーカリ様。その真剣で現実味のない固い言葉に、場の空気が冷たくなったような錯覚を感じずにはいられない。


ここで兵士達が動揺してざわつかないところを見ると、普段の訓練の成果が出ているのでしょう。とはいえ、執政官のユーカリ様がこんなに人を集めて宣言するのだから、嘘ではないと場にいる誰もが確信しているのは間違いない。

誰もが、ユーカリ様の言葉の続きを待っている。


バトルジャンキーな一部の兵士が、「強敵」という単語に、期待の眼差しでユーカリ様を見つめている。

その中には、数日前にメーン子爵領兵士に加わったオリーブ達4人も含まれています。

……あの子達ったら、レベルが上がって調子に乗っています。それに、感情を表に出し過ぎないようにしなさいとあれほど言ったのに。すべて終わったら、しつけの続きが必要そうですね。


私の視線に、オリーブ達4人がびくっと反応した瞬間だった。騎士と兵士達に、優しい声でユーカリ様が言葉を告げたのは。

「皆は、救国の勇者様が召喚されたことを知っているか?」

問いかけに兵士達がざわつく。「可愛い美少女だろ?」とか「ラズベリ様やシクラ様のお気に入りらしいよ?」とか「狼人族の少女のご主人様だろ?」いう声が私の耳にも聞こえてくる。


やっぱり、表向きは情報を規制していたとはいえ、ミオ様のことはかなり広がっているみたいです。メイド達も噂をしているから、城下町の人間も知っていると思って間違いないでしょう。

とはいえ、ミオ様が男であることは流石に広がっていないみたい。……そりゃそうだ。バラしたら物理的な意味で首が跳ぶのだし、私を含めて、あの場所にいた人間はラズベリ様に絶対の忠誠を誓う人間だけだったから。


「勇者様は、異世界の魔法を知っている。女性だけで子どもを作れる魔法を知っている」

ユーカリ様の言葉で、ざわめきがピタリと止まる。


真面目な表情でユーカリ様が言葉を続ける。

「だが、グラス王国は、有能な勇者様を危険だと判断して処分(・・)しようとしている」

場の空気がしんと静まりかえる。


「それで良いのか? 私たちの希望は失われるのか?」


言葉を区切ってユーカリ様が、にやっと笑う。

「――いや、ダメだろう」


兵士達の瞳に熱が籠っているのが私にも理解できました。


「――相手は、王国最強と言われる、あの聖女騎士団だ」

「「「……っ!」」」「!!」「「「そんなっ!?」」」

広場全体に動揺が走る。そりゃそうだ。普通なら、敵う相手じゃないのだから。聖女騎士団に刃向かうと、反逆罪を問われて一族郎党公開処刑なのだから。


怖気づく兵士達に、ユーカリ様が言葉を続けます。

「数日前までのルクリアの戦力では、普通に戦ったら100回に99回、聖女騎士団が勝つだろう。刃向かうことは無意味だっただろう」


重たい雰囲気が場を包みそうになった瞬間――ユーカリ様が小さく笑う。

「ふふんっ♪ 明るくなれ。私があえて数日前(・・・)と言った意味を理解して欲しい。私達には勇者様がいる。狼人族の勇者様の従者もついている」


一部の兵士達の瞳に、希望の光がわずかに戻りました。

まだ理解できていない兵士達に向けて、ユーカリ様が言葉を発する。

「勇者様のおかげで、聖女騎士団と100回戦ったら120回勝てるようになった」


誰かが言った、不思議そうな「数が多い」という突っ込み。


それを聞いて、ユーカリ様が嬉しそうな笑顔を作る。

「多いと思うか? いや違う。我々には、聖女騎士団と戦わなくても勝てる(・・・・・・・・・)戦が20回もあるんだ!」


そのまま早口でユーカリ様が言葉を紡ぐ。

「今、ラズベリ様とシクラ様は勇者様と一緒に、最前線の水龍渓谷で聖女騎士団を迎え撃とうとしている。ここにいる我々の役目(戦い)は、ラズベリ様達が帰って来た時に、昨日と同じ城塞都市ルクリアを維持しておくことだ。ラズベリ様達が安心して背中を任せられる場所を作っておくことだ」


聖女騎士団と直接の戦闘をしなくても良いという内容に、少しだけ場の空気が緩くなった瞬間、ユーカリ様の言葉が突き刺さる。


「聖女騎士団と戦っている方が楽かもしれないぞ? 昨日と同じ生活を維持すると言っても簡単じゃない。戦闘の余波で民衆は不安がるだろうし、ラズベリ様達が勝たなければ我々の努力は報われないというプレッシャーもある。我々の戦いは並大抵じゃない。だがあえて言う。この街を守ってほしいと。今日も平和であってほしいと。皆の力で未来をつかみ取ってほしいと」


ユーカリ様の言葉に、女性兵士や騎士達が堰を切ったように口々に言葉を発します。

「私は戦う。そして、いつか子どもが欲しい」

「私も」「ボクも」「わたしも」

その声は、大きな渦になって訓練場を包み込む。

「負けられない!」

「いや、勝つんだ!」「そう、未来のために!」

「「「未来のために!!」」」


決意を決めた顔で勇ましい声をあげる兵士達を見ていると、ユーカリ様と視線がぶつかります。

こくりと笑顔で首を縦に振ったユーカリ様を見て、確信できました。


この様子だと、ルクリアは大丈夫そうですね。

私の役目はユーカリ様が謀反を起こさないか監視および抑止すること。兵士や騎士といった城内の人間に不穏分子がいた場合には排除すること。


ラズベリ様は出発するその瞬間まで私に同行しないかと誘ってくれましたけれど、私は水神との戦いでレベルが上がったオリーブ達4人と一緒にこの城に残った。

全てはラズベリ様達が安心して背後を任せられるようにするため。

ラズベリ様達が失敗した時に後始末をするため。


さぁ、ラズベリ様。こちらの用意は万全ですよ。

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