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第42話_グスターのおつかい

=グスターの視点=


「風に♪ 風に~♪ 風になるっ♪」

「風に♪ 風に~♪ 風になるっ♪」

グスター作詞作曲のオリジナルソングを、1人で輪唱しながら羽ばたいていると――街道を筋骨隆々の改良馬に乗って、こっちに向かって走ってくる高レベルの集団が目に入った。


魔眼で鑑定すると聖女騎士団という称号が確認できる。

……っていうか、馬のレベルも高い。馬のくせしてレベル20~30もある。流石、聖女騎士団の専用馬と言うところだろうか? 多分、名前は松風かな♪


でも、今のグスターには関係ない。


「逃~げ~ろ~♪」

ご主人様の命令通りに街道から距離を取って、王都に向かって突き進む。

聖女騎士団の探索スキル持ちがこっちに気付いたみたいだけれど、グスターの音速(嘘)の翼の前では、何もできないのだ♪


 ◇


標高2000メートルを超える険しい『アロエ山脈』を飛び超えて、その麓にある王都についたのは夜中だった。山脈には長いトンネルが掘られているのだけれど、出入り口と内部の数か所に関所があるから厄介だし、馬車で1日の距離を歩くのは時間がかかるから、上空を飛ぶことにしたのだ。


「たのもぅ~♪」

閉ざされた城門の前にいる衛兵に声をかけ、ラズベリから書いてもらった手紙をチラ見せしつつ城内に入る。あ、もちろん天使族ということは内緒にしないといけないから、翼と頭の輪っかは仕舞って狼人族に擬態している。

リリーの情報や星屑落下の情報が入っていたらしく、ラズベリの手紙を持ったグスターはスムーズに謁見の間に通された。


 ◇


「おもてを上げよ」

黄金色の髪に糸みたいに細い目つき。こいつが女王様なのか。

魔眼の鑑定では23歳と出ているけれど、持っている迫力はレベル400前後の中級悪魔くらいある。魔眼で見たところ、「威圧する波動(オーラ)」というスキルが関係するのだろうなと思う。

でもまぁ、グスターには関係ないけれど。


にしても、やっぱり王城ともなると謁見の間って広いな。

礼儀に反するからきょろきょろと周りを見渡さないけれど……ぐふふっ、いつかこの城はグスターとご主人様がもらう♪ そして玉座の周りに金銀財宝の山を築き上げるのだ。


「ん?」

――っといけない、いけない、涎が出ていたのかも。

女王に不思議そうな顔をされてしまった。


真面目モードに頭を切り替える。

グスターだって、少しの時間なら化けの皮を被れるのだ。

「報告します。星降りの被災地の領主、ラズベリ・メーン子爵からの親書を持って参りました」

無言で歩み寄ってきた聖女騎士団の副団長の女騎士に、ラズベリの手紙を渡す。

女騎士が女王の両隣に立っている、双子のオレンジ色の髪の女性の片方――魔眼の情報によると、グラス王国の宰相らしい――に手紙を手渡す。

封蝋を確認した上で、宰相が手紙を開ける。

目を通すと、宰相は表情を変えずに女王へ手紙を手渡した。

「ん? これは……」

女王の表情が変わる。

あ、なんとなく分かる。嫌な予感ってやつだ。


女王が視線を部屋の中にぐるりと巡らせた後、口を開く。

「この者を捕らえなさい!」

「「「「「はっ!」」」」」


……やっぱりな。

ラズベリ! 手紙に何って書いたんだ!?


 ◇


一呼吸つかないうちに、兵士達に囲まれてしまった。

一瞬、このまま瞬間移動で派手に逃げようかなという考えが頭をよぎる。この状況、「あばよ~、とっつぁん♪」とか言ったら美味しいかも。うん、とてつもなく言いたいっ!


でも、それはいけないと思い留まった。ラズベリに「瞬間移動は切り札だから、帰る時は、誰もいない場所で転移して帰って来てね?」と釘を刺されているのだ。


くそぅ……ラズベリ、こうなることを予測していたな?


でも、グスターは素早いのだ!!

最初に斬りかかってきた人族の女兵士の攻撃を受け流して片手剣を強奪する。斬りかかってきた他の兵士達を受け流し、蹴り倒し、大怪我をさせないように気を付けながら武器破壊をして――さりげなく窓際までやってくる。


「窓から逃げようとか考えないでね? 窓の外は、何もなくて、そのまま15メートル下の地面に真っ逆さまよ?」

聖女騎士団の団員だろう。ひときわレベルの高い――と言っても120程度だが――女騎士がグスターに警告した。

「ふふっ♪」

思わず笑ってしまった。レベル120程度なら、15メートルの高さから落ちると命にかかわるらしい。魔法具を使って擬態したグスターの今のレベルが128だから、次回があればバレないように気を付けないといけないな。


片手剣を後ろ手に振って窓のガラスを大きく割る。

「ちょ、私の言葉を聞いていなかっ――」

女騎士の言葉の途中で、無詠唱の光球(ライト)(改)を発動させる。


コレは出かける前にご主人様が改良してくれた護身用魔法の1つ。

普通の光球の数十倍の光を生み出すとともに、術者やその仲間の目は保護してくれるという優れもの。何をどうしたらこんな改良が出来るのか分からないけれど、ご主人様はちゃちゃっと改良していた。余談だけれど、護身用魔法はあと3つある。どれも、非殺傷だけれど、えぐい威力を持つものばかりだ。


謁見の間が白い光の渦に包まれると同時に、外に飛び出す。

お約束の「め、目がぁ~」という言葉に思わず振り返りたくなったけれど、今はそれどころじゃない。

こっそりと空中瞬動スキルを使って屋根に飛び上がって――死角に入ってから短縮詠唱で瞬間移動を発動させる。


さぁ、帰ることにしよう。ご主人様のご褒美が待っている。

「あでゅ~♪」

王城に再開の言葉を残して、グスターは空間を跳んだ。


=グラス王国女王_レモンの視点=


「陛下、大丈夫ですか?」

宰相のローズ・マリーがわらわに声をかけてくれた。

「あまり大丈夫じゃないです。目が、まだチカチカしますから」

視界の中で残像がぐるぐる回る。こんな強力な光魔法、今まで見たことも聞いたことも無い。


「あの狼人族、絶対に逃がしません!」

目元を押さえながら、宰相補佐のローズ・ウッドが怒りの声を上げている。

プライドが高いから、してやられたことを根に持ったのだろう。


「とりあえず、地面でぺしゃんこになってはいないんですよね?」

わらわの確認に、探索スキルと風魔法の伝達(コミュニケーション)を使える女騎士が返事をする。

「はい、今、下の階にいる兵士達と話していますが、地面に着地した形跡すら残っていないみたいです。おそらく、痕跡が消せる隠密系のスキル持ちでしょう」


苦々しいけれど、言葉が口から漏れる。

「……これは、完全に逃げられるでしょうね」

「レベル128の狼人族が相手なら、仕方無いでしょう」

人物鑑定スキルを持つ、ローズ・マリーがぽつりと呟いた。

ローズ・ウッドが驚いたような表情を浮かべる。

「レベル128!? あの娘、まだ成人前っぽかったわよ!?」

「私の言うことが信じられないの?」

「でも、ありえない――「そこまで!」」


姉妹喧嘩を始めそうな勢いの2人を止める。

そしてわらわは言葉を続ける。

「見た目に惑わされちゃダメですよ。普通に考えると、メーン子爵領にアレほど高レベルな者はいなかったはずですから、星降りの魔神の配下でしょう。常識なんて当てはまらないと思って下さい」

ローズ・マリーが首を縦に2回振る。

「あんな者を配下にしているなんて――厄介な魔神ですね。でも、対面した感じですと、陛下の暗殺とかは考えていないような反応でしたね。あくまでも普通の使者でした」

その言葉に、ローズ・ウッドも不思議そうな顔をする。

「目的は何でしょう?」

「さぁ? 案外、本当にこの手紙を届けに来たかっただけかもしれないですよ? ウッドも読んでみますか?」

そう言って、手元の手紙をローズ・ウッドに手渡す。

ローズ・マリーはさっき最初に読んだから、見せなくても大丈夫だろう。


ローズ・ウッドが早口で手紙を読む。

「ええっと――『異世界の勇者様を連れて近いうちに面会に伺います。勇者様のおかげで女性だけで生殖できる魔法が見つかりました。この世界の絶望を終わらせてみせます。 メーン・ラズベリ子爵』――ですって!?」


他の騎士達もいるのだから、出来れば手紙を読み上げるのは止めて欲しかった。

王国でも人口減少対策魔法を秘密裏に進めている今、新しいアプローチが見つかるのは行幸だけれど、隠しておかなければ混乱の原因になる。――とはいえ、口に出して読んでしまったものは仕方ない。


「メーン子爵は、どうやら、召喚されたのは悪魔ではなく、異世界の勇者だと言い張るみたいですね」

わらわの言葉に、ローズ・マリーが苦笑する。

「どうします? 聖女騎士団を送ってしまいましたが」

「わらわが思うに、魅惑を使う勇者なんて存在しないと思います。いたとしても、それは危険だから間引かないといけないです」


「手厳しいですね」

「ん? マリーは反対ですか? いまさら、聖女騎士団を引かせる方法は無いですよ? 伝説にある失われし遠距離通信魔法を復活させられたら、話は別ですけれど」


わらわの言葉にマリーがため息をつく。

「それは無理ですよ。伝達(コミュニケーション)の魔法ならまだしも、遠距離通信魔法だなんて。……分かりました。リアトリス様も馬鹿ではありません。実際に戦ってみて、本当に勇者様であるのならそれなりの対応をするでしょう」

「わらわは思うのですが……そうなると良いですね。あの脳筋相手に、一瞬で殺されない力を『召喚されたて』の勇者が持っていると思えませんが」

「……」「……無理ですね」

「まぁ、良いです。とりあえず、聖女騎士団を何とかして王城までメーン子爵と勇者が王城にやって来られたら、対応を考えようと思います。わらわも謁見しても良いと考えていますし」


ローズ・マリーがうんざりと言った表情を浮かべる。

「本気ですか? 陛下は無茶苦茶なこと言いますね」

「99%無理でしょうけれど、もしも1%が起こったのなら――楽しいと思わないですか?」

わらわの言葉に、ローズ・マリーが苦笑する。

「そうですね」

「あっ、気のない返事はいけないんですよ?」

わらわの言葉に、全員がクスリと笑って場の空気が和んだ。


小さな沈黙を挟んでから、わらわは真面目な顔を作る。

「それでは――さっき逃げた狼人族の追跡の継続と、王城内の警備強化を命じます。各自、必要な手配をして下さい」

わらわの言葉に、ローズ・マリー、ローズ・ウッド、聖女騎士団副団長が頷いた。

「「「はっ! 御意のままに!」」」


部屋を出ていく3人を見送って、小さな笑みがこぼれてしまった。


……笑み? ため息じゃなくて?


ちょっとだけ意外だった。

でも、すぐにわらわ自身の気持ちに気付いた。


「ああ、わらわは楽しみなんですね。勇者がやって来てくれるのが」


勇者よ、99%の無理をねじ伏せて、わらわの前にやって来い。

この世界の絶望を、その力で変えてくれるのだろう?

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