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第41話_エルフ執政官の帰還

※冒頭、執政官視点で時間が少し遡っています。

=メーン子爵領執政官_ユーカリの視点=


部屋の隅に吊るされたハンモックに包まれながら、目を閉じていつものおまじない(眠りの言葉)を口にする。

「ウチはエルフや。祖先は高貴なる世界樹の守り人やねん。人間相手に本気になるのはあかんで。ドライでクールに、シャープな感じで淡々と生きるんや」


自分に言い聞かせる言葉は、ウチがプライドを保つための簡易儀式。

今のウチは、ローゼル湖畔の貴族に代々150年以上仕えている執政官。

エルフの長老達の命令で、人族に仕えることに最初は抵抗があった気もする。でも、ローゼル湖畔に眠る「憧れの御方(めがみ)」を密かに見守るために、ウチは人族に交じって執政官になる道を選んだ。

あくまでもドライに。クールでシャープで淡々と執政官の役務を果たしてきた。


――さて、今夜のおまじないも済んだことだし、眠りにつくことにしよう。


 ◇


執政官の役目を果たすため、ウチは数日前からメーン子爵領の北にある、エルフの森林都市「エーデルワイス」へ税の徴収の交渉にやって来ている。


とはいえ、相手は顔なじみのエルフの長老(ばあさま)達。

難しい話はスムーズに終わって、気が付けば世間話をしながら、普段口にできないラズベリ様に対する愚痴を聞いてもらっていた。


そんな時だった。乱暴にドアが開け放たれ、1人の若い女エルフが駆け込んで来たのは。

最長老のエルーカ様が、非難の声を上げる。

「何や? 騒々しいで――「みっ、南の空に星が降りましたねん! その数、約1500個以上ですわ!」――何やとっ!?」

部屋にいる長老達全員に動揺が走る。

1500個以上の隕石を降らせられる存在、そんなの長老達や母様が語ってくれた昔話に出てくる星降りの女神(めがみ)_スプリン・グ・スター・フラワー様しかいない。

ウチが代々、ローゼル湖畔の領主に仕える理由そのもの。真っ先にお出迎えすることが出来なかったことが無性に悔しい。


198歳のウチは直接会ったことは無いけれど、抗争の絶えなかったホワイト・エルフとブラック・エルフを1つにまとめた「平和の神様」で、世界樹の上に住まうハイ・エルフ様にも尊敬される偉大な存在。

人族、魔族、獣人族、天使族と数々の種族を配下に従えた、聡明な女王だったと今でも語り継がれる有名人。ウチを含めて、子どもの頃に「星降りの女神様ごっこ」をして遊んだことのないエルフはいないだろう。

狼の耳に天使の羽、大鎌を持って最前線で敵を薙ぎ払うその御姿は、いくつもの神話に登場する。時に正義、時に神々に刃向かった大罪人として。


気が付けば、両手を強く握りしめていた。身体が熱くなっていた。

呼吸をすることさえ忘れていて、思わず水の中でもないのに、息継ぎをしてしまった。


長老達も興奮している。

「ヌシ様が復活したんか!?」

「ヌシ様が」「ああ、ヌシ様」「ヌシ様が!」

長老達が口々に歓喜の声を上げる。中には、感極まって泣いている人もいる。

年を取ったら涙もろくなるのだろう。


でも、その時のウチは暢気に考えていた。憧れの女神様に謁見して一言お褒めの言葉とサインを貰えたら良いなぁ、程度に考えていたのだ。

長老達の次の言葉を聞くまでは。


「皆の者、ヌシ様の元へ赴き、もう一度、北大陸の愚かなる神々へ反旗を翻そうや!」

「「「おぅ!!」」」

エルーカ様が、威勢の良い他の長老達の返事に頷きながら、壁の一部を横にスライドさせる。


いつの間に作っていたのか、壁の中に侵攻経路に当たる東大陸と北大陸の詳細な地図が描かれていた。

兵力を表す凸もたくさん用意されている。スプリガンにレプラコーン、ドワーフにケンタウルス……妖精族の長老達は、今日のこの日のために秘密協定を結んでいたようだ。血の気が多いこと極まりない。


――と、今、責めるのはそこではない。

「長老の皆さん、『おぅ!!』じゃないですやん! 北大陸の神々に反旗を翻すなんて、200年前と同じことを繰り返すんですかぃ!?」

この脳筋ババアども。

「……なんや、ユーカリ。いくら同族とはいえ、年長者に脳筋ババァは無いやろ?」

渋い顔でエルーカ様がウチを見てくる。

え? あれ? ウチ、口に出していないはずやん?


「自分とは何年付き合っていると思うんや? 表情に出ていたで?」

「それは失礼しましたわ。本音が出てしまいましたねん」

「そりゃ、脳筋ババアって思っていたこと、認めるんか? ――余計悪いわ!」

エルーカ様の言葉に、場にいた全員が噴き出す。

一瞬、空気が和んだけれど――ウチは笑う気にはならなかった。


「本当にすんまへん。ですが神々に反旗を翻すのは考え直して――「ふふっ、愚問やわ! ヌシ様の元へ馳せ参じるで!!」――だからウチの話を聞いて下さぃ。勝算はあるんですのん? 星降りの女神様が北大陸の神々と戦うとなった場合、拠点集めや仲間集めはどうするんですのん? 北大陸を攻めるには、東大陸の国々を通らないといけないですやん。現実的に考えて、星降りの女神様が500年以上かけて実現したように輸送経路上の国取りと同盟の連鎖が必要ですやろ? その上、前回負けてしまった北大陸の神々――レベル800の大軍――相手に、今度こそ勝つための策があるんですのん? そんなの、実現させるなんて無理ですわ! そもそも、ヌシ様が星を降らせたということは、何かと戦闘したってことですわ! まずはその相手を確認しないことには、危険ですねん!!」

ウチの長文の絶叫に、一瞬だけしんとした空気に場が包まれる。

「あのぅ……」

若い女エルフがおずおずと口を開く。


「どうかしたのん?」

なるべく怒気が瞳に乗らないように気を付けえて言葉を返す。

それなのに、びくっと女エルフに反応されてしまった。……真に遺憾だ。

「は、はひっ。その、メーン子爵領執政官のユーカリ様にはとても言いにくいのですが――」

女エルフが語ってくれた内容は、すぐには理解できない驚愕の事実だった。隕石の落下予測地点、そこは――よりによって城塞都市ルクリアだった。


「ぅああ……ラズベリ様……シクラ様……リリー様……」

思わず漏れた声に、ウチが心の底から人族の中に溶け込んで執政官になっていた事実に気が付いた。

何でだろう? ウチはもっとクールでドライなエルフだったはず。星降りの女神様の復活で、晴れてお役御免で自由になれるはず。


それなのに、乾いた笑いすら出なかった。

鼻と目から大量の液体が溢れて止まらないのだ。


 ◇


災害復興および戦闘可能なエルフの精鋭800人を引き連れて、城塞都市ルクリアに帰ってきたのは、隕石落下の夜から2日後の朝だった。予想以上に兵をまとめるのに時間がかかってしまったのが惜しまれる。


焦りに支配されそうになっていたウチの目に飛び込んできたのは、隕石でボロボロになった見渡す限りの水田や畑と――不自然なくらいにいつも通りの城塞都市。

水田を復旧している土魔法使いが1人もいないのが不思議だけれど、思わず安堵の声が口から漏れた。

「ああ、良かったわぁ。ラズベリ様の城塞魔法障壁(シタデル・ウォール)が間に合ったんや……」


広域発動の城塞魔法障壁。

発動までに時間がかかるのは難点だけれど、外部からの魔法攻撃や物理攻撃をある程度まで防いでくれる。星降りの女神様との戦闘はあったみたいだけれど、城塞都市や城が大丈夫だということは――ここまで考えて、悪い予感が脳裏をよぎる。ラズベリ様達は無事なのだろうか?


城という建物は無事でも、星降りの女神様に抵抗できるような高レベルの存在は、この領地には居ない。昔、聖女準騎士団に所属していて、6属性の魔法を操るラズベリ様といえども、リリー様やシクラ様を出産した時にレベルが大幅に下がったから、太刀打ちできないだろう。もしも近接戦闘になっていたら……。


急かされるように、ウチは城へと急いだ。


=三青の視点=


食堂で朝ご飯をみんなで食べている時だった。

「ラズベリ様、シクラ様、ご無事ですのん!?」

1人の緑髪の眼鏡美人さんが駆け込んできたのは。

緑色の髪に碧色の瞳。薄く碧がかった銀色の――鑑定スキルによると、ミスリルで出来た――楕円形の眼鏡。色白でつんと跳ねた細長い耳。一目で分かった、エルフだと。


パッと見た感じでは20歳くらいに見えるけれど、メニューの鑑定スキルがそれを否定する。表示されたステータスによると、198歳と出ていた。

初エルフが、明らかなエセ関西弁(・・・・・)を話すというギャップに胸の奥がドキドキしている僕を放置して、ラズベリがうっとおしそうに口を開く。


「食事中よ、ユーカリ。もう少し静かに帰還報告をしなさいな」

「ほんま失礼しました、ラズベリ様。たくさんの星が降ったと聞いて、いても立ってもいられなくてエーデルワイスから帰って来ましたんや。ご無事そうでなによりですわ」

「それはご苦労さま。わたくしの方も色々事件があったし――話をしたいから、ユーカリも一緒に朝食を食べる?」

「はい。もちろんです。――っと、ラズベリ様、こちらの方は、どちら様ですのん?」

そう言って、ユーカリさんの視線が僕に向く。

若干、不審そうな視線で僕を見てくるけれど、初エルフに現実味がまだ無いせいかあまり悪い気持ちはしない。


ラズベリが、そんな僕の心の中を見透かしたように、からかうような視線で僕に合図をしてから口を開く。

「ミオさま、このエルフは執政官をしてくれているユーカリです」

ラズベリが僕を優先したことで、質問を無視された形になったユーカリさん。

その口元が、ひくっと小さく動いたのが目に入ってしまって、何となく理解した。ユーカリさんは見た目通りプライドが高い人なのだろう。ラズベリが僕への説明を優先したことが気に障ったらしい……今のコレが原因で嫌われないと良いな。


「執政官? すごく今更だけれど、メーン子爵領にも執政官が居たんだ?」

本当に今更だけれど、メーン子爵領に執政官がいるとは知らなかった。

僕の持っている小説やRPGの知識で考えると、領主とセットで執政官が存在するのは当たり前なのだけれど、ラズベリもシクラも一切教えてくれていなかったから、メーン子爵領には執政官はいないのだと思っていた。

――うん、ユーカリさんがラズベリ達に嫌われている訳じゃないと思いたい。多分、弄られキャラなのだ。


そんな僕の思考に関係なく、会話は進む。

「ええ、ユーカリは数日前からエルフの森林都市『エーデルワイス』に、里帰りも兼ねて税の交渉に向かわせていたんですよ。帰還予定は明後日だったので、帰ってきたら紹介しようと考えていたところでした」

取り繕うようなラズベリの説明で理解した。ユーカリさん、単に忘れられていたっぽい。……なんというのか同情してしまう。


場の空気を変えるために、ユーカリさんを驚かさないように、ゆっくりと椅子から立ち上がって自己紹介をする。

「ミオ・ヤマシタです。えっと――ラズベリ、僕のことは、どこまで言っていいの?」

「呼び捨てやとっ! 貴様、無礼やでっ!!」

叫びながら腰の片手剣に手をかけたユーカリさんに、ラズベリが冷たい視線を向ける。

「無礼なのはユーカリですよ。その手を剣から離しなさい。ミオさんは異世界の勇者様で、3ヶ月後にはわたくしとシクラの夫になる方です。今後は、そのことをよく考えて発言しなさい」


「夫? え? えっ? ということは男ですのん!? ラズベリ様とシクラ様の……『旦那様』という意味、です、のん?」

真面目でクールそうなユーカリさんが、狼狽える様子を隠そうとしない。

にこっとラズベリが微笑む。

「ええ、そうよ♪」

大人しく成り行きを見守っていたシクラも、頬を赤く染めて、こくりと首を縦に振る。

「そうなんです!」


「はぅぁ……」

小さな悲鳴を上げると、ユーカリさんはよろけた。

控えていたローリエが、そっとユーカリさんの手を取る。

「ローリエ、ありがとぅ……でも、コレは現実なんか?」

「現実ですね」

淡々と言い切ったローリエに続いて、悪戯っぽくラズベリが言葉を発する。

「夢ですよ~♪」

「いいや、今のラズベリ様の言葉で、確信出来ましたわ。現実ですやん、コレ。――こほん! ヤマシタ殿、失礼しましたわ。メーン子爵領の執政官をしているユーカリと言いますねん。よろしゅうお願いしますわ!」


あ、この人、頭の切り替えが早い人だ。

本能的にそう感じて、何だか好感が持てた。見た目通りの有能な秘書タイプなのだろう。

「ユーカリさん、こちらこそ、よろしくお願いします。あと、僕のことは下の名前のミオの方で呼んで下さい。異世界から召喚されて右も左も分からない状態ですが、よろしくお願いします」

「ミオ殿、ウチの方こそよろしゅう」


――こうして、僕達の朝食に、エルフ執政官が加わったのだった。


=ユーカリの視点=


なんでや。

っていうか、なんでやねん。

もいっちょおまけで、なんでやねん!


なんでウチのいない間にラズベリ様とシクラ様が婚約しているんですのん!?

普通、こういうことは執政官の耳にも1つ入れてから決めることやし――なによりも、貴族同士の面倒なパワーバランスの交渉はどうしてくれるんですかぃ!?


……今から考えるだけでも頭と胃が痛くなる。

ミオ殿が勇者であることも男であることも当分隠すとして、もしラズベリ様やシクラ様が身籠った時に王族や上位貴族にどんな言い訳をしたら良いのか……事実上軟禁状態のラム公爵と絶対に接触することが出来ない2人が身籠るなんていうのは、王国に無断で他国の男とそういうことをしたということになり、戦争の火種にもなりかねない。


うん、まぁミオ殿はラズベリ様が選んだ御方だし、結婚式は3ヶ月後だと言っていたし、今は様子を見ようか。


……。


現実逃避とも言う。


=三青の視点=


「ちょっと待って下さぃ……もう何も言えないですやん! お腹いっぱいですわ!」

僕の召喚、リリーさんが王都に向かう流れ、グスターとの出会い、水神の討伐や単為生殖のこと、そしてこれから聖女騎士団の制圧をして女王陛下に直談判に行くこと、単為生殖を諸外国に広めること、あとそれをしないと東大陸の国が攻めてくる可能性が高いこと――をざっくりとラズベリが説明した後の、ユーカリさんの第一声はソレだった。


「そもそもミオ殿が、いくら異世界の勇者様だとはいえ、聖女騎士団に反旗を翻すとか、たった2日で星降りの女神様を嫁にするとか、普通じゃないですやん!?」

「あら? ユーカリ、何も言えないのじゃなかったの?」

「愚痴くらい、言わせて下さぃ。今更、ウチには逃げ道が無いのですから。このまま聖女騎士団に負けたり、女王陛下との交渉が決裂したりしたら、もれなくウチは縛り首コースですやん? さっきまでの計画を聞く限り、万が一の時には、ウチは城に残ってラズベリ様達の逃走をサポートする役割ですやん? 逃げきれないですわ。それなら、聖女騎士団を制圧したうえで、女王陛下との交渉をまとめるしかありませんわ!!」


ユーカリさんの絶叫に、ラズベリがにっこりと良い笑顔を作った。

「ええ。そういうことだから、ユーカリもキリキリ働いて頂戴ね♪」

ごふごふっとユーカリさんが咳き込む。

「……分かっていますねん。現時点でも胃腸がキリキリしていますが――反逆罪で死にたくは無いので、善処しますわ。戦うのなら、確実に勝ちまひょ」

……ああ、ユーカリさん、目が死んでいる。っていうか、そんな死んだ目なのに、僕を恨めしそうに睨んでくるのは止めて欲しい。


「ちなみに、兵士や城塞都市の住人には、どのように伝えてあるんですのん?」

ユーカリさんの言葉に、ラズベリが答える。

「一部の信頼がおける近衛以外は、基本的には何も情報は伝えていないわよ?」

ユーカリさんの眼が鋭くなる。

「その意図を聞いてもよろしいですのん?」

「後ろから刺されるのも、後ろから刺すのも、嫌だからよ。反逆罪に問われるとなったら、裏切ったり逃げたりする人たちも少なからず出るでしょうから。普通に逃げるだけならまだしも、情報が漏えいすると困るから――『処分する』わけにもいかないでしょう?」

ラズベリの言葉に、一瞬、背筋が冷やりとしたけれど――ラズベリが、僕に気を使ってくれているのが分かってしまった。僕が人を殺したがらないのを知ってくれているから。


ユーカリがこくこくと首を縦に振る。

「賢明な判断だと思われますなぁ。しかし、何も伝えないままだと聖女騎士団と戦闘になったときに混乱が生じる恐れがありますねん」

「残念ながら、うちの領地には聖女騎士団員と直接戦えるような騎士や兵士はいないわよ? 聖女騎士団の制圧はミオさんとグスターちゃんに任せるつもりだし」

「そうですのん? でも、ラズベリ様のためなら肉の盾になろうとする忠臣を、ウチはたくさん知っていますで? どこまでの兵士達に情報を開示したのかは知りませんけれど、早まる兵士が出ないとも限りませんわ」


「それは――そうね。ユーカリには何か良い案があるの?」

「エルフの精鋭達の扱いと合わせて、兵士達の指揮をウチに任せてもらえませんか? 城下町と兵士達の混乱を防いでみせますで」

「その自信の根拠は?」

「……ラズベリ様は意地が悪いですねん。ウチが生き残るには、ウチが出来ることは、城下町の住人や兵士達が暴走して足手まといにならないようにするしかないじゃないですやん。ミオ殿と星降りの女神様が全力を出せるように、ウチも全力を尽くしますよ」


その言葉に、少しだけ考える仕草をしてから、ラズベリが首を縦に振る。

「分かったわ。近衛を除いて、兵達のことはユーカリに指揮を任せることにするわ」

「ありがとうございます」

「分かっていると思うけれど――ユーカリ、預けた兵達を使って裏切ろうとは考えないことね。ミオさんは優しいけれど、グスターちゃんは純粋だから、ミオさんの身に何かあったら、この大陸ごと星の雨に沈められるわよ?」


ラズベリの言葉に、ユーカリが苦笑する。

「ラズベリ様、そういうのは冗談でもやめて下さいな。裏切るのなら、とっくの昔に――当主継承の争いの時に――裏切っていますわ。それに、主君を裏切った執政官なんて、この世界に居場所はありませんで」

「それもそうね。信頼しているわ♪」

「ええ……ラズベリ様は人が悪いですねん」

「ユーカリ程じゃないわ」

そう言うと、にっこりとラズベリは笑った。


=ユーカリの視点=


まったく、ラズベリ様には困ったものだ。

いきなり再婚することを決めるし、いきなり聖女騎士団と戦うことを決めているし、女王陛下に直訴までする予定だというし。

最後の2つは確実に斬首もしくは縛り首コースだけれど、ラズベリ様の選択が悪いと言い切れないウチがいる。過去の悪魔発生地に対するグラス王国の対応の中に、気になったモノがあったから。


(ミナゴロシ)


60年前に起こった、悪魔が魅惑を使って町の住人を操っていた事例。

このとき、聖女騎士団は魅惑にかかっていることの有無にかかわらず、住人全員を戦術級炎魔法で問答無用で焼き尽くしたのだ。

もちろん、コレは一般に出回っていない歴史の裏側に埋もれている情報だけれど、エルフの長老達のネットワークと上級貴族の執政官という立場は伊達じゃない。


今回も、ラズベリ様がミオ殿の魅惑にかかったとリリー様が報告するだろうから――下手をしたら戦闘にすら突入しないで、遠距離から戦略級の禁呪で城塞都市ごと薙ぎ払われる可能性がある。


そのことをラズベリ様に伝えたら――

「その可能性は……無くもないわね。聖女騎士団を城の中に迎え入れてから制圧しようと思っていたけれど、街に近づく前に討って出た方が良いかしら?」

「その方がよろしいかと思いますで。水龍渓谷あたりで迎え撃つのはどうですのん?」

「それが良いわね」


ウチの言葉にラズベリ様が頷いた直後、ミオ殿が問いかけてきた。

「水龍渓谷?」

ラズベリ様がミオ殿の方に視線を向ける。

「はい。王都とルクリアをつなぐ街道があるのですが、渓谷になっていて、街道が狭いのです。少数ですが飛翔系の魔物も出没するので、ルクリアと王都を繋ぐ街道では1番の難所と呼ばれている場所です」

「ミオ殿は、地図を見ることができますのん?」

「はい。見れますけれど?」

それなら、話は早い。実際に地図を見てもらった方が良いだろう。

「ライチ、地図を持ってきてや♪ ミオ殿に説明するから」


――駆け足で部屋を出ていくライチを見送って、ミオ殿の方へ向き直る。

「ちょっと待って下さいな。地図が来たら、説明しますさかい」


……さぁ、深呼吸をしよう。

グスター「何? エセ関西弁が気になっただと? 多分、きっと『異世界で独自に発展した文化』なんだ(汗)」

ラズベリ「鹿児島弁でも『おいどん』とか『ごわす』とか、今は使わないですからね」

シクラ「と言うことで、温かい目で見守って下さいね♪」

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