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第40話_第4皇女グロッソ・イベリス

=グロッソ帝国第4皇女_グロッソ・イベリスの視点=


「ん?」

それはベッドの上で、まどろみの中にわれが包まれようとした瞬間だったかもしれない。

常時展開している探索サーチの魔法が、高レベルの騎士達がどこかに出かけるのを察知した。珍しい。聖女騎士団長のリアトリス殿まで、城の外に出ている。――暗視(ナイト・ビジョン)の魔法で部屋の時計を確認すると、ちょうど24時きっかりだった。

こんな夜中に出立するなんて、よほどの緊急事態なのだろう。


むくむくと膨れ上がる好奇心のせいか、我の狐耳と白色の尻尾が無意識のうちに、ぴこぴこ動いた。お姉様や宰相達に見られたら、「皇位継承の血を持つ者にふさわしくない行為だ!」と叱責されることだろう。

あの人達は、「威厳」や「品格」という言葉を「見栄」や「虚勢」と勘違いしているから。


……余計なことを考えてしまった。他人(・・)の悪口は良くない。

ベッドから身を起こして、深呼吸をする。その後、サイドテーブルの上に置かれた、精巧な銀細工の施された呼び鈴を鳴らして、隣の部屋に控えているドラセナを呼ぶ。


すぐにノックが響いて、足音を立てることなく、ドラセナが部屋に入ってきた。

流石、レベル180の従者なだけある。我が安心して仮想敵国(グラス王国)に特使としてやって来られるのも75%くらいは彼女のおかげ。

ドラセナはベッドの横へ真っすぐ立つと、合図をするみたいに、我と同じ狐人族の耳と尻尾をわずかに揺らした。三角形のきりっとした耳にふさふさの尻尾は、よく手入れがされている。白色の毛並みの我と違って銀色の毛並みだけれど、見る者を圧倒する美しさがそこにはある。


「お呼びでしょうか、イベリス様」

「聖女騎士団員がリアトリス殿を含めて41名、城を離れたみたいです。何か情報が入っていますか?」

「星降りの魔神が復活したらしいです。あと、ローゼル湖畔の街『ルクリア』にて、高レベルの悪魔が召喚された模様です。」

「なぜ我に、すぐに知らせないのですか?」

「現時点でグラス王国の国賓である今の私達に出来ることは、何も無いですから黙っていました。明日の朝になればレモン女王陛下から直接教えてもらえるでしょうし、私の口からお伝えしなくても大丈夫だと判断した次第です」

ドラセナから嗜めるような視線を返されて初めて気付いた。いけない、言葉の端に怒気がこもってしまっていたみたい。この状況は、ドラセナの方が正しいのに。


「それは……そうですね。ドラセナ、良い判断です」

「ありがとうございます」

「――にしても、本当に星降りの魔神が復活したとなると厄介ですね。聖女騎士団とはいえ大丈夫でしょうか?」

「リアトリス殿がいるから、大丈夫でしょう」

「あら? 随分と買っているのですね?」

「一介の武人として、尊敬に値する御方ですから」

「ドラセナ……あなた、仮想敵国の人間を褒めるなんて、グロッソ帝国に帰ったら反逆罪モノですよ?」

「ご冗談を。私の知っているイベリス様や皇帝陛下は、そんな器の小さい方じゃありませんから」

「それは、褒めているつもりですか?」

「ご想像にお任せします」

思わず、小さく笑ってしまった。ドラセナは真面目な顔をして、たまに面白い冗談を言う。


「まぁ、良いです。明日も早いですから、ドラセナも仮眠をとりなさい」

「お言葉を返すようですが、私は、あと2~3日、寝なくても大丈夫ですよ?」

「いいえ、睡眠不足で戦闘力が70~80%に下がる方が問題ですから」

「……。グラス王国は、そこまで愚かじゃないと思いますが?」

戸惑うような視線でドラセナが我を見てくる。

人口が減少した今、グラス王国がグロッソ帝国に喧嘩を売るような真似――具体的には、我の殺害や監禁――をするようなことは無いと言いたげな表情だった。


……ちょっと不本意だ。

そんな当たり前のこと、我も分かっている。

「我が言いたいのは『建前』じゃないのです。ただ、何というか『嫌な予感』がするのですよ」

ドラセナが一瞬、驚いたように目を見開いた。

我に仕えるようになって5年。我の言葉の意味をドラセナは理解してくれている。

固い表情になったドラセナが口を開く。

「イベリス様の『勘』は当たりますからね」

その言葉通り、我の「悪い予感」はよく当たる。良い予感は外れるのに、悪いことだけ、よく当たるのだ。


大小様々な戦争や抗争、Yウイルスの蔓延、暗殺未遂に誘拐未遂、血みどろの皇帝継承権争いetc……たった17歳の小娘が、修羅の世界を生き延びてこられたのも、この悪運もとい「悪い勘の良さ」のおかげ。


逃げないと悪い予感がする、こっちに行くと良くない気がする――そんな勘に頼ったおかげで、我は敵の多い世界を今日まで生きてこられた。

なんてね。

正直に言おう。今更、自分自身を誤魔化しても仕方ないから。

我が今、この瞬間まで生きてこられた理由。それは『悪魔の囁き』とも呼ばれる、決して他人には言えない呪われた固有ユニークスキルのおかげだ。


スキルレベル12の我の力じゃ、せいぜい「悪い予感がするから気を付けろ」程度の予知能力しかないけれど、スキルレベルがMAXまで上がると「都合の悪いことが、全て鮮明に予知できる」という呪われた力。

じわじわとスキルレベルが上がるごとに、見える悪夢の凄惨さと逃げ場のない未来予知に狂ってしまうと言われる呪われたスキル。今は大丈夫だけれど、我もこの先、いつ心が壊れてしまうのか、正直怖い。


とはいえ、今は目の前のできることに、対処していくしか方法は無い。


「――ということで、ドラセナには準備して(・・・・)いてもらいたいのです」

我の言葉に含まれる、危機に備えて欲しいというニュアンスを感じ取ってくれたドラセナが首を縦に振る。

「分かりました。いつでも120%の力を出せるようにしておきます」

「よろしく頼みますね」

「はい」

「それじゃ――もう、下がって良いですよ」

「失礼します」

音もなくドラセナが部屋から出て行ったのを見送ってから、ベッドにあおむけに倒れ込む。この胸の奥のモヤモヤは何なのだろう? 何か良くないことが、起こる気がする。


狐耳をぴこぴこ動かしながら、本気モードで『悪魔の囁き』を発動させる。


この城から今すぐ逃げる選択肢は、体感81%の悪い予感だ。

この城から動かない選択肢は、体感53%の悪い予感だ。


あぁもぅ、逃げ道なんて無いじゃない。50%を超える悪い予感は、皇位継承権争いが勃発した時の「暗殺未遂事件」以来の危険度だ。

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