第34話_夜食
=ラズベリの視点=
聖女騎士団を無力化する方法を考えた後。
休憩を兼ねて、隣室に控えていた今日の不寝番のメイドに命じてハーブティーとクッキーを持ってこさせます。
「それでは、また何かございましたら、お声かけ下さい」
ライチが退室した後に、シクラが口を開きます。
「夜のクッキーは、太りそうで怖いです……」
「そうなのか? それじゃ、グスターがシクラの分も食べてやるぞ?」
きらりんっ♪ と獣の目をするグスターちゃん。
シクラが物凄い速さで反応します。
「あ、いえっ、グスターさんが太ったら可愛そうなので――自分で食べますっ!」
きょとん? といった表情でグスターちゃんが首を傾げました。
そして笑顔で、わたくしの方を見つめてきます。
「そうか、残念だ……ラズベリ、これ以上おっぱいが大きくなったら困るんじゃないか? グスターが、代わりにクッキーを――「グスター、僕の分を1枚あげるから。それで満足しなさい」――ありがとぅ♪ ご主人様は優しいから大好きだ!」
パタパタ尻尾を振るグスターちゃん。
ちょぴっとだけ、ミオさんは、グスターちゃんに甘いと思うんです。
=三青の視点=
「ミオさん、『あ~ん♪』して下さいな」
ラズベリがクッキーを指で摘まんで、小さい子どもに食べさせるみたいに手を添えて差し出してきた。ラズベリの口が軽く開いているから、何と言うのか恥ずかしいけれど……軽く咥えて――齧る。
「あ、美味しい♪」
思わず漏れ出た僕の声に、ラズベリとシクラが笑顔になる。
「ミオさん、お日様の香りがしますでしょう?」
「今、お城でひそかなブームになっているのです」
もぐもぐと僕が残り半分も食べ終えたのを確認してから、再び、ラズベリが小さく笑う。
「それじゃ、ミオさん、わたくしにも1枚食べさせて下さいな♪」
クッキーを全部食べ終えていたグスターがビシリッと固まっていたけれど、見なかったことにした。シクラは、半分だけの「食べかけていたクッキー」を手に持って、わくわくした瞳で微笑んでいる。これは――多分、ラズベリに食べさせた後に、シクラのクッキーを食べられるのかな?
まぁ、今はとりあえず、ラズベリから対処していこう。
クッキーを摘まんでラズベリの口の前に持って行く。ラズベリが首を傾げて、齧るように半分だけ食べたかと思うと、次の瞬間――指ごと、かぷりと甘く噛まれてしまった。
予想していた通り、にゅるりとした温かいモノが指にチロチロ当たる。
「ん~♪」
噛みついたままで、ちょっと得意げなラズベリ。
あげくの果てに、指に吸いつかれて思考が停止しそうになった。
けれど、ゆっくりと指を引き抜く。
「うふふっ、美味しかったです♪」
口元を手で隠しながら、ラズベリが言った。と同時にシクラとグスターが非難の声をあげる。
「お母さま、悪戯が過ぎます」「ご主人様、グスターのハンカチ貸してやる! よく拭いておかないと、ばい菌が入ったら危ないからな!」
「ちょ、グスターちゃん、ばい菌はいませんよ!?」
「いるっ! 絶対に。ラズベリは、えっちな菌に脳が侵され――「ひどっ! グスターちゃん、言って良いことと悪いことがありま――「2人とも、ケンカは止めてくださ――「喧嘩じゃありません。注意しているだけで――「そもそも、ラズベリがいけないんだぞ?」――ほほぅ、グスターちゃんは、そう言うのですか?」――お母さま!」――シクラ、女には譲れないモノがあるのですよ」――ふふんっ♪ 面白い、ラズベリの本気とやらを見させてもらおう♪」
バチバチっと火花を散らして、きゃいきゃいと軽くじゃれ始めた3人を眺めながら、思わず笑顔になってしまった。何だか、ハーブティーが美味しい。
「ミオさん、何を笑っているんですか?」「ご主人様?」「ミオさま?」
「え?」
あれ? 何でだろ? こっちに飛び火した?
「「「ご主人様は、この中で、誰が一番好きなんだ?」」」
そんなの――決まっている。
「僕は、3人とも大好きだよ?」
当たり前の回答。すらりと言葉に出すことが出来た。自分で言うのもアレだけれど、120点満点だ。
それなのに――何だか、僕に対する視線が厳しい。
「ぁ~」「もぅ……」「ダメだな」
沈黙が部屋を包んで、3人が同時に口を開く。
「ミオさん、30点です」「言葉も出ません」「グスターも、それは流石に引くぞ?」
そして3人が言葉を続ける。
「「「もう一度聞くぞ。ご主人様は、この中で、誰が一番好きなんだ?」」」
……。マインスイーパーが上手になりそうな予感がした。
うん、うちの未来の嫁さん達は、とっても仲が良い。




