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第29話_リリー王都へ

=メーン子爵家長女_リリーの視点=


ライラ伯爵領を夜中に出て――グラス王都に到着したのは夜だった。

我ながら無理をしたと思う。普通なら2日以上かかる道のりを、夜もぶっ通しで馬を走らせて1日強で来たのだから。

途中、ライラ伯爵領で新しい馬を借りることが出来たのも大きかったと思う。馬用の疲労軽減や体力回復のポーションも使ったけれど、馬に負担が無いわけではないから。


とりあえず、王城の兵士に取り次ぎを頼む。

すると――高レベルの悪魔が召喚されたという事案と、次期子爵である長女の私自身が家宝の青色水龍剣ディープ・アクア・ドラゴンを持ってやってきたことが原因だろう。――すぐにレモン女王陛下と面会することが許された。


謁見の間に入ると、レモン女王陛下の横には、聖女騎士団団長のリアトリス様も控えていた。

ワインレッドの落ち着いた瞳に、同じ色彩のセミロングのサラサラな髪。

頭を下げるまでの数秒間しか見ることが出来なかったけれど、この人がレベル230の生ける伝説。神から祝福され、不老の奇跡を得た存在。190年以上、聖女騎士団をまとめてきた雲の上の人。私の憧れの存在でもある。


「おもてをあげなさい」

「はっ!」

レモン女王陛下の声に顔を上げる。

光の魔石をふんだんにつかったシャンデリアの明かりに照らされる、金色の髪に金色の瞳。ゆるふわの綺麗な髪や、すぐに細くなったキツネのような目つきから、どこか凄みがある印象を受けるのは、仕方がないことだと思う。相手は、グラス王国の若き女王として君臨する23歳の才女なのだから。

そんなレモン女王陛下が口を開く。

「それで、メーン子爵城に悪魔が召喚されたと聞いたのですが?」

「はい。3年前の勇者召喚に使われた封印されていた(・・・・・・・)魔法陣から、悪魔が召喚されました」

「3年前の勇者――たしか、ミクニ・アキラを召還したのもメーン子爵城でしたよね。わらわも覚えていますよ、Yウイルスを特定した功労者ですから。でも――勇者召喚の禁呪の魔法陣は破棄するように(・・・・・・・)厳命していたはずですが?」

レモン女王陛下の威圧感が場を包む。

冷や汗が出るのを必死でこらえる。ここで顔に出したら、悪魔を召喚してしまったシクラの命が危ない。


「はい。魔法陣は破壊した上で、厳重な封印をしていたのですが――召喚を止められませんでした。おそらく、悪魔が異空間から干渉したせいかと思われます」

「……そう。過ぎたことを問い詰めても仕方無いですわね」

ほっとため息が出そうになるのを飲み込む。

まだ、油断してはいけない。

「それで、聖女騎士団の派兵を要請するとのことですけれど、その悪魔はどのくらい強いのです?」

「メーン子爵家当主、レベル82の6属性魔法使いの氷地獄ノ業火ホワイト・ブリムストーン無効化(・・・)されました」


「6属性魔法使い? もしかして、ラズベリのことか?」

レモン女王陛下ではなく、リアトリス様が私に聞いてきた。

「はい。私の母です」

「そうか。少ししか一緒にいられなかったけれど、少女だったあのラズベリが――いや、今は子爵だから『ラズベリ卿』と呼ばないといけないな。でも、彼女がこんな大きな娘を持つ母親になっていたなんて……私も年を取ったな」

懐かしそうな表情のリアトリス様。とても優しい顔をしていた。


「リアトリス。思い出話はその程度にしておきなさい。わらわ達の話が進まないですから」

「はい。陛下、すみません」

「それにしても、氷地獄ノ業火ホワイト・ブリムストーンを受けても無傷とは、なかなか高レベルなのですね?」

「――いえ、お言葉を遮るようで恐縮なのですが、無傷ではなく無効化(・・・)です。魔法の発動すら、させてもらえませんでした」

「何っ!? それは本当か!?」

リアトリス様が焦ったように聞いてきた。うん、その気持ちは分かります。私だって、最初は理解が追い付かなかったから。


「はい、本当です」

私の言葉に、リアトリス様の表情が険しくなる。

「しかし、禁呪を無効化するなんて、魔王ですら聞いたこと無いぞ? ……幻術を使って座標をずらせば可能か? いや、魔力無効化のフィールドを凝縮させてピンポイントで当てる方が実戦的か? でも、それを実現するにはかなりの演算能力が――」

「リアトリス。考えるのは後にしなさい。それで、あなたは、どうやってそんな相手から逃げてきたのですか?」

「それは――」

正直、言いたくはない。でも、言わないと話が進まない。

「――当主である母が、悪魔の魅惑チャームにかかったふりをして、隙を作って私を逃がしてくれました」

小さな沈黙が生まれて、大きな沈黙に変わった。


「そうか……魅惑は……良くないな」

リアトリス様の言葉に、レモン女王陛下も頷く。

「急がなきゃ不味いですわね。悪魔の魅惑や所業には、普通の人間が長時間耐えられるものではないですから。――分かりました。聖女騎士団を派兵します」

「ありがとうございます」

「リアトリス、何名くらい派兵するのが妥当だと思います?」

「そうですね、最近は国境での諍いもありませんし、国内の治安も安定しています。ですので、少し多めの人員で早めの制圧を目指した方がいいかと思います」

「具体的に言いますと?」

「120人中、40名を連れて行きます」


小さく、くすりと、レモン女王陛下が笑う。

「わらわの予想より、多いですわよ?」

「相手は、氷地獄ノ業火ホワイト・ブリムストーンを無効化できる高レベルの悪魔ですよ? 操られているのが数人だけ(・・・・)とは限りません。下手すると城下町の人間も含めて操られている可能性があります」

全部(・・)斬るのですか?」

「ええ。後から刺されるのは、趣味じゃありませんから」

「そう、なるべく殺さないようにしなさい」

「どうでしょう? 長期間の魅惑の影響は、暗示のように残ってしまいますからね」

そう言うと、リアトリス様は、にっこりと笑った。


その笑顔で鳥肌が立った。

なぜ、鳥肌が立ったのだろう? と考えた次の瞬間、私は悟ってしまった。

メーン子爵領はもう終わりなのだと。


城の人間は――いや、城塞都市の人間も含めて――全員、聖女騎士団によって殺される。抵抗の有無や、魅惑にかかっているか否かに関わらず。

魅惑にかかったシクラと、魅惑にかかったふりをしているお母様を、聖女騎士団の剣が逃すことはないだろう。


目の前が、真っ暗になった。

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