第27話_美味しい晩ご飯
=三青の視点=
グスターが、悲壮な顔で口元を押さえる。
「うぐっ、こ、これはっ!」
下手したら、昼間の記憶を無くした時よりも、ショックが大きそう。
ふるふるとグスターの狼耳が震えている。
「口いっぱいに拡がる溢れんばかりの肉汁。鼻腔に抜ける、まろやかでコクのある香り。柔らかすぎず、固すぎない、絶妙な張りのある究極の食感。そう、まるで舌の上で、楽器を持った牛達が三重奏と四重奏を同時に奏でているみたいだ!」
200年ぶりの牛肉に興奮しているグスターには悪いけれど……ここは注意させてもらう。美味しい晩ご飯をみんなで楽しむためにも、マナーは大切だから。
「グスター、口に物を入れた状態で話さないの。お行儀が悪いよ?」
一応、グスターのご主人様は僕だ。
躾の責任は、全部僕に返ってくる。
「悪い、ご主人様。つい、美味しかったから我を忘れてしまったんだ♪」
そう言いながらも、両手のナイフとフォークで次の肉を切り分けるのを止めないグスター。椅子の横で、尻尾の先っぽだけが、ふりふりと規則的に動いている。
「うふふっ、グスターさん、まだまだいっぱいありますから♪ ゆっくり食べて下さいね」
「ありがとう、シクラ。シクラは良いお嫁さんになるよ、多分だけれど」
「はいっ、ミオさんの正妻は私ですから♪」
――あれ? 今、一瞬、シクラとグスターの間に青色&銀色の火花が散ったような気がするけれど……気のせいだよね? 胃が痛くなるようなこと、僕、嫌だよ?
「ミオさま? どうかしましたか?」
こくりと首を傾げてシクラが僕に聞いてきた。うん、可愛い。3ヶ月後に僕の嫁になってくれるなんて、僕は幸せ者だと思う。
「ご主人様、お腹痛いのか?」
不思議そうな表情でグスターも僕に聞いてくる。うん、可愛い。グスターのご主人様になれた僕は、人生勝ち組だと思う。
「うふふっ、愛されていますね、ミオさん♪」
……otz。
ラズベリの一言で理解した。僕の周りは地雷原だ。
シクラを褒めればグスターが拗ねる。
グスターを褒めればシクラが拗ねる。
どちらも褒めないということは事実上、無理。爆死しろというような状況だ。
僕って、こんなにリア充だったっけ?




