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第26話_公共漁業を始める前に

=ラズベリの視点=


ミオさんが、グスターちゃんに説明したことを頭の中でまとめてみます。


異世界からやって来た勇者だということ、わたくしやリリーが悪魔と勘違いしたこと、リリーが聖女騎士団を呼びに王都へ向かったこと、明後日やってくる聖女騎士団から逃げること、逃げる先はグロッソ帝国の吸血姫伯爵の城だということ、3ヶ月したらまたここに帰ってくること――最低限必要な説明は出来たと思いますし、洩れは無いと思います。


それじゃ、後は3人で色々な話をしてもらうことにして――わたくしは、ローリエ達が待っている部屋へ移動しますか。

公共漁業と契約の話を、オリーブ達としないといけませんから。


=ローリエの視点=


とりあえず、オリーブ、アジュガ、サフィニア、バジルに餌を与えて黙らせておきます。

結局、そこそこの紅茶と新米メイドの手作り麦クッキーを食べさせることになったのだけれど――クッキーを、まるでパンを食べるみたいに大量に口に入れて食べるのは見ていてさもしい(・・・・)と感じる。


細胞が活性化する超再生の副作用で、お腹が空いていたのは分かるけれど――もう、いいです。結構です。注意しても聞いてくれないから、ライチに命じて夕食用のパンを先に持って来てもらいましょう。

スープも付けてあげますよ? これでも、私、飼い犬(・・・)には優しいのです。

躾は後で、しっかりさせて頂きますが。


 ◇


はぁ~、まったく、頭が痛い。

ラズベリ様も、本当に面倒な人達を雇うことにしたものだ。

お給金を弾んでもらわないと割に合わないかも。


そうだな、特別ボーナスは、ミオ様とのお買い物が良い。

ああだ、こうだ、こっちがいい! とか言ってミオ様を振り回すのだ。

そして、疲れたら流行りのカフェで、「あ~ん」をしてもらう。

想像するだけで――


……。

乙女の妄想は何だか悲しくなるな。

ミオ様は、シクラ様の旦那様になるのだから。

……。

シクラ様の近くにいれば、「お戯れ」してくれるチャンスもあるかな? かな? かな?


――あり得ない。

ぺったん長身メイドだから、ミオ様に特殊な性癖が無い限り、相手にしてもらえない。

うぅぅっ、泣きたくなってきた。


「ローリエさん! スープ、お代わり!」

「パンが無くなったデス!」

「ボクもスープ、お代わり下さい」

「……まだ……食べたい……」


ぅふふっ♪ この人達は、躾けがいがありそうですね。


=ラズベリの視点=


部屋のドアを開けると、ローリエが冒険者の4人にお説教をしているところでした。正座をして、しゅんとした顔をしているオリーブ、アジュガ、サフィニア、バジルの4人。


「ラズベリ様、すみません、お見苦しいモノをお見せしてしまいました」

「良いのよ、ローリエ。この娘達のことは、あなたに任せるとわたくしが言ったのだから」

「はい、ありがとうございます。……でも、この4人にお話があるのではないですか?」

「そうね。オリーブ、アジュガ、サフィニア、バジル。4人とも、気分を入れ替えて席に着いてもらえるかしら?」


わたくしの言葉に、助かったと言いたげな表情で4人が息を吐いて、席に着きました。それを確認してから、わたくしも席に座ります。

「さて、それじゃ、早速だけれど――公共漁業の話をする前に――契約から始めていい?」

「ああ、そういう話だったものな♪」

オリーブが笑顔を作ります。

「契約は、湖でも伝えた通り、給金は1人につき1ヶ月金貨3枚。働きによっては追加ボーナスも考えているわ。で――「追加ボーナスもあるのか!? マジで!?」――こほん。まだ、話の途中よ?」

「あ、すみません……」

いけない、委縮させるつもりは無いのです。

深呼吸をして、意識して笑顔を作って、言葉を続けます。

「反省してくれれば、それで良いわ。――話を続けるわね。そちら4人の義務は、許可なくメーン子爵領から逃亡したり、機密情報を漏えいしたりしないこと。それだけでOKよ」


「ん? ずいぶん緩くないか?」

オリーブが首を傾げる。

「ええ。でも、コレで良いのよ、信頼しているから」

嘘です。まだ信頼はしていません。契約は――緩い方が、応用が効くのです。「機密情報の漏えい」も、わたくしのさじ加減で白にも黒にもなりますから。

「……あやしい……裏があると……思う……」

バジルが首を横に振ります。勘が良いですね、ですが――

「それじゃ、止めておく?」


わたくしの言葉に、バジルが首を横に振りました。

「……死にたくは……無い……でも……説明が……欲しい……」

「簡単なことよ。協力して欲しい、逃げないで欲しい、情報は漏らさないで欲しい。――なにせ、大きな公共漁業だから。情報が漏れると、口を出してくる人間は多く出てくると思うから、信頼できる駒が欲しいだけ」

「……駒が……捨てられる……可能性は?」

「働き次第。サフィニアとバジルはローゼル湖の近くの漁村出身なのよね? 冒険者ギルトにも顔が効くみたいだし、交渉役やまとめ役をお願いしたいのだけれど?」

「……なぜ……新顔の……私達を使う……? 手元にいる……騎士や兵士を……使えば……良いのに……」

「それだと、わたくしに無理矢理やらされているという軋轢が生まれるからよ。地元出身者が上に立つ方が、経験上、話が早いの。それに、協力してもらえれば、あなた達のレベルが効率良く上がるわよ? レベルが上がれば、わたくしが手放す理由が出来にくくなるわ。優秀な人材はいくらいても困らないから――結局は、あなた達次第よ♪」


「……分かった……契約しても……良いかと……思う」

バジルの言葉に、オリーブ、アジュガ、サフィニアも首を縦に振ります。

「それじゃ、交渉成立ね。契約の書類を用意してあるから、署名をお願いするわ」

ライチに合図をして、書類を持ってこさせます。


オリーブが最初に契約書を手に取ります。

「契約内容に間違いは無さそうだな」

「……大丈夫……間違いない……」

バジルの言葉の後に、4人が署名したのを確認します。

「それじゃ、改めて――オリーブ、アジュガ、サフィニア、バジル、よろしくね♪」

「こちらこそ」「よろしくデス」「お願いします」「……よろしく」


「それじゃ、公共漁業の概要を説明させてもらうわ」

昨日、ミオさんと一緒に話したことを、まずは説明するつもりです。

もちろん、全部は話せません。というか、ほとんど話せません。


今はまだ、他に解決しないといけない問題が山積みですから。

聖女騎士団と王国を誤魔化すこと、リリーを説得すること、新しい水神を調査すること――1つずつ頑張りましょう。

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