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第17話_とても大切な4つの話

=三青の視点=


今、僕はラズベリの部屋にいる。

別に、いかがわしいことや、いけないことをしている訳ではない。


部屋にいるのは、僕、シクラ、ラズベリ、そして気絶から復活したローリエ。

もちろんローリエはいつものメイド服をきちんと着込んでいる。無表情なのは相変わらずだけれど、平然としてお茶をいれてくれた。……何と言うのか、ローリエは凄いな。

流石プロのメイド。僕なら、恥ずかしくて、絶対に手が震える自信がある。


「さて、それじゃ大切な話を始めましょうか」

ローリエが全員にお茶を配ったのを確認してから、ラズベリが口を開く。

「まずは、確認したいのですけれど――ミオさん、今回の隕石の全部とは言わないです。3分の1だけ、メーン子爵家に無償で譲ってもらえないでしょうか?」

ちょっと真面目な領主の瞳。でもそこに怖さは無い。

「3分の1だけで良いのですか? 流れ的に僕がスキルで回収してしまったとはいえ、さっき聞いた話だと隕石ってかなり高価な素材ですよね。全部お返しするのが筋じゃないでしょうか?」

僕の言葉にラズベリが苦笑する。

「いいえ、それはダメです。ミオさんがいなければ、今頃、わたくしも、シクラも、城のみんなも、城下街の住民も、生きていなかったでしょうから。だから、お礼という意味でも3分の2は持っていて下さい」

「でも――」

「あら、ミオさんは3分の2じゃ足りない(・・・・・・・・・・)のですか? ここでミオさんに渋られてしまうと、そういう意味にわたくしは受け取りますよ?」

悪戯っぽくラズベリが笑う。これは――受け取り拒否は難しそうだ。

「そうですか……そうですね。素直に受け取っておきます」

「交渉は成立ですね、ありがとうございます。隕石の受け渡しは、後で城の宝物庫でお願いします」

「分かりました。後で必ず、お渡ししますね」


「それじゃ、2つ目の話です。ミオさんは、シクラのこと好きですか?」

真っ直ぐな瞳。真剣な声。誤魔化しや冗談じゃなくて、僕の本気の答えが聞きたいといった表情だった。

ちょっと恥ずかしいけれど、覚悟を決めた今なら、躊躇わずに口にできる。

「好きです」

「結婚してからも、シクラのことを大切にしてくれますか?」

「……はい。そういう約束でしたし、シクラが僕のことを望むのなら、シクラを悲しませるようなことは、絶対に――とは軽々しく口に出せませんが――可能な限り、しません」

僕の言葉に、優しい笑顔を浮かべてから、ラズベリが口を開く。

「ありがとうございます。そう言ってもらえて、母親として嬉しく思います。シクラは、ミオさんのこと好きですか?」

「もちろん、大好きです!」

キラキラした子猫のような瞳。ちらちらと僕の方を見てアピールしてくるのが、何だかとてつもなく可愛らしく感じる。

「良かったです」

そう言って笑うと、ラズベリが言葉を続ける。


「3つ目のお話です。とても大切な話なのですけれど――ごめんなさい、ミオさん。あなたとわたくしの婚約を破棄させて欲しいのです」

「えっ?」

自分の耳が信じられなかった。話の流れ的に、おかしな言葉が聞こえたような?

そう、今、何と言うのか……何かが聞こえた気がするような、しないような。

「婚約破棄、お願いします」

ラズベリが頭を下げた。

このまま放置したら、椅子から降りて土下座しそうな勢いで。


「その……訳を聞いても良いですか? ラズベリの気持ちが変わってしまって婚約破棄をすることは仕方ないにしても、その理由くらいは僕も知っておきたいですから」

頭は混乱しているはずなのに、出てきた言葉は、かなり冷静なものだった。

泣くわけにもいかないし、怒る気持ちも湧かなかった。ただ、単純に「知りたい」という気持ちだけが強かった。

「はい。単刀直入に言います」

すぅっとラズベリが深呼吸をした。

シクラはその隣で、僕らの行方を真面目な顔で見守っている。


ラズベリの口から僕を否定するどんな言葉が出てくるのかなと少し心配だったけれど、聞こえてきた内容は意外なものだった。

「ミオさん、シクラを連れてグロッソ帝国へ逃げて下さい」

「逃げるんですか?」

「はい。ミオさんは今、命を狙われています」

ラズベリの瞳は真っすぐに僕を見ている。

事実の確認をするために、ショックから立ち直れない頭を無理やり働かせて、質問を返す。

「さっきの獣耳魔神(グスター)に狙われているんですか?」

「いいえ。王国最強の騎士団、聖女騎士団に、です」

聞きなれない名前が出てきた。

でも、ラズベリの表情は真剣そのもの。嘘では無さそうだ。

とはいえ、状況がいまいち掴めない。なぜ僕は、名前も知らない相手から逃げないといけないのだろうか?


「聖女騎士団、ですか? いえ、その前に――なぜ僕が狙われているんです?」

僕の言葉に、ラズベリが視線を下に逸らした。

「……ミオさんが命を狙われる理由ですが、正直に言います。わたくしが悪いのです」

「ラズベリが、悪いのですか?」

俯いたままラズベリが、うめくように力無く言葉を紡ぐ。

「強大な力を持つミオさんのことを……異世界から召喚された悪魔(・・)だと判断して、リリーが王国へ行くように差し向けました。……ミオさんに口づけして誘惑するフリをしている間に、リリーに家宝の魔剣を持ち出させて、聖女騎士団へ連絡を取るようにしたのは……わたくしです。誘惑や婚約することで時間稼ぎをしようとした、わたくしが――全部悪いのです」

弱々しいラズベリの言葉に、目の前が、一瞬だけ、真っ白になった。

これまでの、ラズベリの笑顔や温もりが、全部、援軍を呼ぶための嘘だったなんて――

「ごめん……なさい……」

ラズベリの振り絞るような声で、我に返った。

そして気付く。沈黙はいけないと。

正直に告白してくれたラズベリを、追い詰めることになってしまうから。


「……そう、ですか。でも、なぜ」

ううん、ダメだ。「なぜ」と聞いてはいけない。

「すみません、言葉を間違えました」

一呼吸置いてから、頭の中で言葉を選んで口を開く。

「僕に責められるかもしれないのに、こうしてラズベリが言いにくい事を僕に告白してくれたこと、本当に嬉しく感じます。その上で、聖女騎士団と僕がぶつかっても、勝ち目が無いと思うから逃げることをラズベリは勧めてくれているんですよね?」

再び沈黙が流れた。


ラズベリが深呼吸をして、口を開く。

「はい。聖女騎士団は団員120名の、平均レベルが120というグラス王国最強の騎士団です。レベル差を無視する「防御貫通」や「即死攻撃」といった、強大な敵にも対処できるスキルを持った人間が揃っています。それに――ミオさんは「人型の生き物を殺すこと」を極端に怖がっていますよね? 星降りの魔神が相手だった時にも、わたくし達の攻撃が通らないと気付いてからは、ほっとしたような感じでしたから」

「……そうですね、正直に言ったら、怖いという認識になると思います」

「でも、そんな気持ちで聖女騎士団とやりあったらミオさんは確実に殺されます。星降りの魔神のように、周りへの被害を考えずに大魔法を遠距離から連発で唱えられるのならミオさんにも勝ち目はありますが――ミオさんに、それが出来ますか?」

ラズベリに言われて考える。

多分、無理だろう。無差別攻撃なんてできないし、そもそも人間相手に戦うことが精神的にきついから。


でも、そんなことは言っていられないのが現状だ。

この世界で生きていく以上、対人戦闘は避けて通れないだろう。

「……。ラズベリやシクラを守るためなら、僕は誰とでも、戦います」

僕の言葉に、ラズベリが苦笑いを浮かべる。

その瞳は「無理しないで下さいね」と控えめに語っていた。

「ありがとうございます。でも、正直なところ、わたくしとしては聖女騎士団とミオさんにぶつかって欲しくないのですよ。聖女騎士団が勝つのはミオさんがいなくなることを意味しますし、ミオさんが勝つと王国を敵に回すことになりますし、万が一引き分けだった場合には、本格的に討伐隊が差し向けられるでしょうし……絶望か泥沼しか見えないのです」


そう言われると、確かにそうだと思う。

領主というラズベリの立場で考えると、頭の痛い問題だろう。

「だから、ミオさんにはシクラを連れて、帝国のわたくしの知り合いのところに一時避難して欲しいのです。都合の良い話ですが、わたくしを許していただけるのなら、3ヶ月程、ほとぼりを冷ましてから、またメーン子爵領へ戻ってきてくれたら嬉しいなって思っています」

「……僕が戻ってきても良いんですか?」

その言葉のせいで、ラズベリが悲しそうな顔に変わった。

「戻ってきてくれないんですか? 3ヶ月後、シクラと結婚してくれないんですか?」

ラズベリは、じっと僕を見つめてくる。その視線を見る限り、僕に戻ってきて欲しいという気持ちは嘘では無いみたいだ。……っていうか、その隣のシクラの視線がめちゃくちゃ痛い。それは「私、捨てられるんですか?」と言いたげな、絶望しかけた子猫の瞳。


視線でシクラに返事をする。「大丈夫だよ、僕はシクラのこと大好きだから」と。

「ミオさん、帰って来てくれるんですね」

ホッとしたような声で言ったラズベリに、頷きを返す。

「そうですね……養殖とか、生産物のブランド化とか、たくさんやりたいことがありますので戻って来たいと思います。でも、王国や聖女騎士団に対する冷却期間はたった3ヶ月で大丈夫ですか?」

「はい。その間に、リリーの説得や聖女騎士団を含めた王国への根回しをして、ミオさんの受け入れ態勢を作ったり、シクラとの結婚式の用意を進めたりしますから」

「それなら、シクラを連れずに僕一人だけで避難すれば大丈夫――「ダメですよ。ミオさんは、こっちの常識を知らないですよね? そんな人が一人で旅に出たら、どんなことになるやら」」

苦笑しながらラズベリが僕の言葉を遮った。

「でも、それは貴族のシクラも一緒では?」

こっちの世界の常識を知らない僕と、上級貴族の箱入り娘が旅に出たら――負の相乗効果で大変なことになりそうな気がする。


そんな僕の視線に気付いたのか、シクラが小さく頬を膨らませる。

「ミオさま、大丈夫です。今回の旅には、ローリエも同行しますから」

「ミオ様、よろしくお願いします。魔物だろうが盗賊だろうが、私の剣にかけて、お守りいたします」

無表情のまま淡々と言うローリエを見て、ラズベリが小さな笑顔を浮かべる。

「レベル1025のミオさんに言うのはおかしいですが、ローリエは結構強いのですよ。いざという時の護衛を兼ねたレベル40の武装メイドですから。――ということで、ミオさんとシクラとローリエの3人と兵士数名で帝国へ一時的に逃げて下さい」

頷くシクラとローリエ。そのやる気に満ちた視線を見る限り――無表情のローリエも瞳だけが明らかに燃えていたから――僕には、多分、拒否権は無いんだろう。


「……シクラは、僕と一緒で良いの?」

「はいっ! 大好きなミオさまがいる場所が、私の居場所ですから」

「3ヶ月で僕は帰ってくるんだよ? ここで待っていたら?」

「ダメですよ。ミオさまの性格、私、知っています。ミオさまは『戻って来る』って言っておきながら、私達に迷惑がかかると思ったら、そのままどこかに行っちゃう優しいけれど冷たい人(・・・・・・・・・・)です。だから、ミオさまが逃げないようにする手綱として、私が同行します!」

……ちらっと心のすみで考えていたことが、ばれていた。

夢見がちな少女に見えて、意外とシクラは鋭いところがあるから侮れない。

良い嫁さんになってくれそうだ。


ラズベリが小さく噴き出す。

「ぅふふっ♪ ミオさんには、いっぱいやってもらうことが残っているのですよ? メーン子爵家領の産業を豊かにしてくれるんでしょう? 魚の養殖に、加工食品に、生産物のブランド化――どれも、かなり期待しています。だから必ず戻ってきて下さい」

その顔は笑っていたけれど、瞳は、どこか無理をしているように見えた。

「……ラズベリは、僕を説得するのが上手ですね」

「お褒めに預かり光栄です。コレでもわたくし、領主ですから♪」

作り笑顔(・・・・)で笑いながら、ゆっくりとラズベリが言葉を続ける。


「それじゃ、ミオさんとシクラとローリエには帝国に逃げてもらうことにして――4つ目の話に入りましょうか。4つ目は……星降りの魔神のことです。シクラ、あの魔神のステータスを()で見ましたか?」

「はい、お母さま。忘れないように、紙に書き出してあります」

そう言って、シクラが一枚の紙を取り出した。


====

(基本情報)

・名称:スプリン・グ・スター・フラワー

・年齢:永遠の180歳(5682歳)

・性別:女

・種族:天使族

・レベル:528

・HP:12500/32500

・MP:3250/66250

・LP:15/203


・STR(筋力):7783

・DEF(防御力):6621

・INT(賢さ):3850

・AGI(素早さ):18850

・LUK(運):3


(スキル)

――「鑑定出来ないほど多数。一部、スキル名の鑑定すら不能」――

(称号)

・堕天使→ 聖・闇属性ダメージ50%カット

・魔神→ 不老不死&HP自動回復&MP自動回復

・星降りの魔神→ 全ステータス30%アップ

・ドジっ→ ???

====


「グスターは、ドジっ娘なんですね」

ステータスの紙を読んで、思わず呟いていた。


「ミオさん、注目するのはそこじゃありません。普通はレベルに驚くものですよ?」

「そうです、ミオさま! そんなにドジっ娘が好きなんですか!?」

なぜか、真面目な顔でラズベリとシクラに怒られてしまった。


いや、好きか嫌いかで言ったら、ドジっ娘は大好きだけれど……それを言ったら、ラズベリとシクラに、もっと怒られてしまうのが分かっている。


とりあえず――笑って誤魔化そう。

1/27、28に本文の修正をかけています。詳細は活動報告を参照下さい。

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