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第16話_隕石の相場

=三青の視点=


「ところで、隕石を回収したのはミオさんの固有ユニークスキルですか? 後ろで見ていた感じですと、失われし空間魔法の『魔法箱アイテム・ボックス』を応用したスキルみたいでしたが」

抱き付いているラズベリが、僕の背後から、耳に囁くように聞いてくる。

少しだけくすぐったい。


「ええ、そうみたいです。ログに『防衛ボーナスとして無限収納ストレージ自動回収オート・コレクションします』って出ていましたから、僕のスキルだと思います」

「えっと、『無限収納』は勇者様の固有スキルだって聞いたことがありますけれど――『ろぐ?』に『防衛ボーナス』に『自動回収』ですか? 聞いたことのないスキルですね」

「視界の一番下に――」

と、そこで気付いた。


ラズベリを始め、普通の人は、視界にメニューやログなんて出ないはずだ。

事実、僕も「自称・3番目の神」に声をかけられるまではメニューのことに気付かなかったのだから。相手がラズベリやシクラとはいえ、ログやメニューのことを口にしたら変に思われるかもしれない。


あと、うっかり口に出しちゃったけれど……。

無限収納があったら、僕一人で大量の物品の輸送が可能だよね? 保冷の魔道庫や、お魚を生かして運ぶ活魚運搬馬車(手間)もいらなくない? 物流革命が起っちゃう? ラズベリやシクラはそんなことしないと思うけれど、下手したら人間輸送倉庫(便利な道具扱い)にされるのかな?


本能的に色々な考えが、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

……いや、えっと、どうやって言い訳をしようかな。多少なら、物品の輸送を手伝うのも大丈夫だけれど、馬車馬のごとくピストン輸送に使われるとかは絶対に避けたい。


とか考えていたら、小さくラズベリが胸元(・・)で笑った。

ラズベリ、いつの間に背中から右脇腹へ移動を完了させていたのだろう? 僕の腕の中でニコニコと笑っている姿が可愛いから、別に良いんだけれどさ。


「ミオさん、言えないことがあるのなら、そんな反応をしちゃダメですよ? まぁ、神様から与えられた『固有スキル』はいざという時の切り札になりますし、大量の物品を運べる無限収納ストレージを持っているというだけでも希少がられますから、あまり他人に教えるのは褒められる行為じゃありませんものね。――とりあえず、ミオさんの手元に隕石が回収されたのなら、わたくしはそれで良いです」

「すみません」

「謝るなんて、やっぱり『秘密があるってこと』じゃないですか! ちょっと怒っちゃいますよ?」

明るい声のラズベリ。それにつられてシクラが笑う。

「ミオさま、後で私にはこっそり教えて下さい♪ お返しに私の固有スキル『神から授けられし鑑定眼』のことも詳しく教えてあげますから!」


「ありがとう、シクラ。考えておくよ。……そういえば、無限収納にたくさん隕石がありますけれど、何かに使えたりするんですか?」

道端の石ころじゃなくて、ちゃんと戦利品アイテム扱いで回収されたのだ。

大抵のRPGでは隕石はレアアイテムの練成に必要な稀少素材だし、こっちの世界でも何かに使えるのかもしれないなと思ったのだ。

……決して、話題を変えることが目的では無い。


それなのに、ラズベリがジト目で僕を見つめてくる。

「ミオさんは、話題の切り替え方が下手ですね」

「そこは、突っ込まないで下さいよ」

「……まぁ良いです。説明してあげます。隕石から採れる隕石鉄は、効果の高い――具体的には『魔法障壁』『防御貫通』『麻痺耐性』の効果が付与される魔法武具の原料になるので、高値で取引されるのですよ」

「それは……『防御貫通』効果が付くのは、すごく大きいですね」

「そうなんです。かなり高価になりますけれど、隕石鉄の矢尻や隕石鉄の銃弾を使えれば、空に浮かぶ星降りの魔神を倒すことも可能でした」

……良かった。手元に隕石鉄の矢や銃弾が無くて。

っていうか、こっちの世界にも銃があるんだ。レベル差があっても攻撃が通るってことは、背後から撃たれないように気をつけよう。


「ちなみに、隕石鉄が高価って、どれくらいの価値があるんですか?」

僕の言葉の直後、シクラがもぎゅぎゅっと腕に力を込めた。ラズベリとばかり話していないで、自分も話に混ぜろという意思表示だろう。

「シクラ、知っているの?」

「もちろんです♪ 品質にもよりますけれど、隕石鉄の含有量が『30~40%程度』の隕石で1キロが金貨30~40枚とされています」

「えっ?」

日本の物価に換算して、キロあたり450万~600万円。かなり高くない?

「ミオさまがそんな顔をする理由も分かります。でも、普通なら、たまにしか空から降ってこない希少金属なのですよ? メーン子爵領で年間15キロ以上採集できたら、良い方なんですから」

「年間15キロ……あの、シクラ、本当に? 15トンの間違いじゃなくて?」

「はい、15キロで合っていますけれど?」

きょとんとした表情のシクラ。

でも、その隣にいるラズベリは、それ(・・)に気付いて真剣な表情に変わっていた。


「やっぱり、星降りの魔神(・・・・・・)の名前は伊達じゃないみたいですね。――ミオさん、どのくらい『燃え残り』が有るんですか?」

「……概算ですけれど、1キロ程度の塊が3800個以上、5キロ程度の塊が3200個以上、10キロ以上の塊が158個、無限収納にあります」

僕の言葉に、シクラは抱き付く腕に力を入れて現実逃避(石像のように固まり)、ラズベリは驚きの声を上げる。

「キ、キロですか!? 50グラムとか500グラムじゃなくて!?」

「はい……『隕石屑(いんせきくず)』ってアイテムが大中小、数えたくない程あるので、多分それがグラム単位の隕石だと思うのですが……あのグスターという獣耳魔神、城下街ごと壊そうとしていたのか、この部屋から見える範囲外にも隕石を大量に降らせていたんですよ」


「それは!」「お母さまっ!!」

僕の言葉に、ラズベリとシクラが息を飲む。

一瞬遅れて、その理由に気が付いた。

「あ、でも大丈夫です。城郭を囲むように防御用の魔法を張りましたから、街に被害はありません。城郭の外は……どうなっているのか、保証は出来ませんが……」

「ほ、本当ですか? ミオさま」「ミオさん、街は無事なのですね!?」

シクラとラズベリの言葉に頷きを返す。

「はい。でも、すみません、流石に城郭の外は守れそうにありませんでした。多分、水田や溜め池がぐちゃぐちゃです……」


小さな沈黙が流れた。

……やっぱり、街の外でも被害が出たら不味かったのだろう。

でも、アレ以上は流石に僕も守り切れない。


とか考えていたら――

「「良かったです!」」

シクラとラズベリの言葉が重なった。

思わず聞き返していた。

「良かった、ですか?」

「ええ、ミオさんの言う通りです。城壁の周りの水田は、メーン子爵領の水田面積の1%にも満たないので、多少被害が出ても大丈夫なのです。農民には見舞金を出せば良いですし、ため池や用水路は土属性の魔法使いがいればすぐに復旧可能でしょうし」

「……それじゃ、あまり罪悪感を覚えなくても……いいですか?」

「もちろんです! ミオさんはこの街を救ってくれたんですよ!?」

「ミオさまが気に病むことは何もありませんっ!」

そう言って、もぎゅぎゅ~っとシクラが僕に抱き付いて来る。

何だか、ほっとして身体の力が抜けた。


「2人にそう言ってもらえると、気持ちが軽くなります」

僕の言葉にラズベリが小さく笑って、ぎゅ~っと一度抱き付いてから、身体を離した。

そして後ろに控えていた女性兵士やメイドさん達に視線を向ける。

「さて、みんな後片付けをしましょう! メイドは屋敷内の被害確認。兵士は分担して街の内外に被害が無いか確認&住民への説明――『魔神発生とそれを撃退したことの通知』――をお願い。星降りが原因で街が混乱しているかもしれないから、武装はしっかりとしておくこと! 緊急以外は、今夜中にまとめて、明日の朝食時にわたくしに報告すること。以上!」

「「「「「はいっ!」」」」」

メイドや女性兵士達が部屋を出て行ったのを見送ってから、ラズベリが僕とシクラを見る。


「さて、わたくし達は、自分達が出来ることをしましょうか」

「自分達が出来ること、ですか?」

僕の言葉にラズベリが、にこっと微笑む。

「そうです。でも、場所を変えましょう。……そうですね――わたくしの部屋で話をしましょうか♪」

そう言うと、ラズベリは僕の右手を引いた。


=星降りの魔神_スプリン・グ・スター・フラワーの視点=


満天の星空。空に浮かぶ赤い月。グスターは湖のほとりにいた。

風で揺れる水面に星の光は吸い込まれ、波の音が耳に心地良い。


「ふぅ、本当に、さっきの『アレ』はなんだったんだ?」

思い出しても身震いがする。全身が粟立つ。恐怖を感じる。


なんなのよ、アイツ。

人間の姿をしていたけれど、人間じゃない。

魔族でも魔王でもない。


高すぎるステータスは――やっぱり魔神? 魔神なのか? でも、神の使徒ですら傷をつけたグスターの鎌が折られる(・・・・)なんて、普通の魔神じゃない。


「……とりあえず、お家に帰ろう」

呟きながら、家に向かおうとして気が付いた。

「――って、グスターのお家、もう残ってないんだった……」

グスターのお家は、殺戮の女神の攻撃で、グスターごと消滅してしまったのだ。

あれから200年。頼れる仲間(下僕)達も、多分、散り散りになっているだろう。


……どうしよう? そうだ、ローゼル湖に行こう!

確か、あそこの「水神」がグスターの「手下の手下」だったから、多分、少しの間なら泊めてくれるかも! っていうか、美味しいごはんくれるかも!?


「あーさり、はっまぐり、しーじみさん♪ 待ってろよ、ぎょかいるぃ!!」


自然と揺れる尻尾をもっと振って、転移魔法陣でローゼル湖に向かうことに決めた。


……でも、その時のグスターは知らなかったのだ。この選択が、水棲モンスターの性奴隷につながる道だったなんて。

あ、グスターの身に危険はありませんので、あしからず……。


1/27_「無限収納&アイテムボックスの稀少性の描写」と「隕石の稀少性の描写」を追加・変更しました。

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