第15話_こいつ何なの!
=星降りの魔神_スプリン・グ・スター・フラワーの視点=
こいつ何!? 本当に何者なのっ!?
妾の星屑落下が効かないなんて、ありえないっ!
さっきので合計100発は隕石を落としたのに、無傷だなんて信じられない。
っていうか、本人とその周囲だけじゃなくて、城下街全体が壊れないように、巨大な魔法障壁を囲むように展開するなんて――隕石を全部受け止めるなんて――馬鹿じゃないの? 半径何キロ? 厚さはどのくらい?
どれだけの魔力を消費するのか考えたくも無いわ!
この力、まさか……神? そうか、アイツは神なのか♪
神なら仕方がないわ。
あれは200年前のことだった。グスターがまだ、やんちゃだった頃、調子に乗って神の使徒に戦争を仕掛けて、返り討ちにあって封印されてしまったことがあった。おかげで、復活するのに、今日まで200年という時間がかかってしまった。
さて、原因が分かったことだし、家に帰って寝るとしよう。
帰ろう。帰れば、また来られるから。
――じゃないっ! 現実逃避している場合じゃないよ、私!
格好付けて、調子に乗って、復活記念にちょっと人間の国に戦争を仕掛けようと思っただけなのに。あわよくば、地方の土着神として再び信仰の対象になれるかもとか夢見ていたのに。美味しいごはんと温かい寝床と金銀財宝が欲しかったのに。
グスターは、何も悪くないのにっ!!
何で、こんな地方の小さな貴族領に、グスターの魔法を防げる知らない子がいるのよっ!!
でも、グスターは負けないっ!
「ふふんっ♪ アンタ、とりあえず、グスターが『魔眼』でステータスを見てあげる! 悔しいけれど、ちょぴっとでも強い相手と戦う時には、グスターは容赦しないの! レベル528のグスターには、死にながら逆立ちしても敵わないだろうけれどね。だから死になさいっ♪」
でも、グスターの目に飛び込んできたのは、非常にまずいステータスだった。
「嘘? こんなの、ありえないよ!!」
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(基本情報)
・名称:ヤマシタ・ミオ
・年齢:16歳
・性別:男
・種族:人族
・レベル:1025
・HP:82472/82500
・MP:76250/76300
・LP:102/102
・STR(筋力):15500
・DEF(防御力):12655
・INT(賢さ):16850
・AGI(素早さ):18800
・LUK(運):9563
(スキル)
・ゼロ>メニュー
>無詠唱
>無限収納
>自動回収
>物品&人物鑑定
・光魔法>鏡
(称号)
・魚好き→ 運3%アップ
・異世界からの召喚者→ 全能力値30%アップ
・童貞をこじらせた魔法使い→ MP5%アップ
・お人好し→ 経験値5%アップ
・人生の敗者→ 経験値15%アップ
・細長い生き物属性 → ???
(負債)
・借金:4100万円
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単体じゃ、200年前に戦った神の使徒の『殺戮の女神』よりも強かった。
……もう、お家に帰りたい。
「でーもー、とりあえず追加で、星屑落下150連発!!」
“諦めたら、そこで試合は終了だよ”
神様のことは大嫌いだったけれど、教えてくれた沢山の言葉は大好きだから、グスターは諦めないのだ! いつ殺るの? それは今でしょ!!
=三青の視点=
目の前に現れた、グスターという名前の獣耳魔神。
隕石を落とす以外の攻撃をしてこないから、ひたすら魔法障壁もとい鏡を維持しておけば良い楽な相手なのだけれど――このままじゃ、ちょっとまずい。
グスターとのステータスの差が大きいせいで、こっちの攻撃――ラズベリやシクラの魔法、女性兵士達の弓や魔法――が通っていないのだ。「防御貫通」というスキルを持っていたら、レベル差がどんなに有っても防御力を無視して攻撃が通るらしいのだけれど、かなりレアなスキルらしく、ラズベリを含めて誰も持っていなかった。
その代わりと言っては何だけれど、手元には「防御貫通」効果が付与された魔法の剣が5本ある。城の宝物庫から出してきた準家宝級の剣らしい。でも……剣じゃ距離的にグスターに届かない。
「くっ!」
気を抜くと鏡の一部が割れそうになる。
隕石1つ1つは大した脅威じゃないのだけれど、それをまとめて20個とか30個とか振らせてくるから、衝撃と熱が半端じゃないのだ。
事実上、こっちは防戦一方だけれど――
それで良かったのかもしれないなとも感じている僕もいる。
いくら隕石を大量に振らす獣耳魔神とはいえ、人間の少女にしか見えない生き物を傷付けることに僕は抵抗があるから。ラズベリやシクラ、女性兵士達は容赦なく魔法や弓で攻撃しているけれど……その光景だけで、動揺を抑えられない僕がいるから。
――っといけない。集中力を乱すと、鏡の制御が甘くなる。
まだまだ僕のMPには余裕があるけれど、MPが無限という訳ではないし、効率良く運用しないといけない。自動MP回復スキルとか有ったら話は別だけれど、世の中はそんなに甘くはない。
>そんなあなたに提案です。「自動MP回復」スキルを有効化しますか?
あれ? 今、変な声が聞こえたような気が――
>変な声とは失礼な。こっちは親切心で出てきたんですよ?
……すみません。
思わず、幻聴に謝罪を返していた。
いや、幻聴じゃなくてスキルか何かの一つだろうか?
>そうですよ。「メニュー」スキルをオンにしますか?
……いいえ。嫌な予感がするから要らないです。
>メニュースキルをオンにしました。
「えっ、拒否権無いの!?」
僕の呟きと同時だった。
視界の右上に「メニュー」と書かれた半透明の枠が出てきたのは。
>開け、と頭の中で想像すれば開きます。――こんな感じに♪
勝手にメニューが開かれて、出来の悪いニュースサイトを開いた時みたいに、ごちゃごちゃっと視界に色々な情報が広がった。半透明だけれど、視界の邪魔になる。
戦闘中にこんなことをやられると、確実に死ねるくらい邪魔。
いや、今も戦闘中だけれど、隕石を連打するだけのお馬鹿魔神が相手だから、今回は例外。
そうだな、例えばラズベリとの近接格闘中にコレをやられたら、ラズベリの攻撃をかわすのはきつかっただろう。
>で?
「で?」とか言われてしまった。ちょっと悔しい。
……とりあえず、役に立ちそうなボックス――「マップ」「敵ステータス表示」「自己ステータス表示」「無詠唱可能魔法欄」「ログ表示」――だけ残して、残りは小型化させておく。後で時間がある時に中身を整理すれば良いだろう。
急いで、現在開いているボックスだけをザッと把握する。
「マップ」は、屋敷周辺の地図が表示されていて、その上に記号で敵や味方の表示がされている。青い■は味方、赤い×は敵、白い○はその他の人達だろう。頭の中で記号をタッチするイメージを思い浮かべると、記号の上に、名称と属性、HPとMPだけの簡易的なステータスが表示された。「もっと詳しく見る」というボタンがあるけれど、今は押さないで次に行く。
「敵ステータス表示」と「自己ステータス表示」はそのままの意味。敵と自分の現在のステータスが表示されている。敵ステータスの一番上に「星降りの魔神_スプリン・グ・スター・フラワー」と表示されているから、グスターは間違いなく魔神なのだろう。表示可能項目が長すぎるので、名称とレベル、HP&MP、属性、攻撃力&防御力だけの表示に後で切り替えよう。
「無詠唱可能魔法欄」に表示されているのは、鏡だけ。文字通り、僕が無詠唱で発動可能な魔法なのだろうけれど、どんな条件で追加されるのかは分からない。今後、増えていって欲しい。
>追加条件ですか? 詠唱を完全に暗記した上で、一回以上使用できたら、無詠唱で魔法が使えるようになりますよ?
「ログ表示」の説明はいらないかも。ログが表示されるだけだから。
>ちょっと、感謝してくださいよ!? ミオさんったら、全然、メニューのスキルに気付かないんですからっ!
……ログと会話するなんて、何と言うのか、複雑な気持ちになる。まさかとは思いますが、この「ログ」とは貴方の想像――
>ちがいますっ!
異世界召喚も、全て、あなたの想像――
>ちがいますっ!
このまま、消えたり――
>しないですっ!
それじゃ、自己紹介くらいして下さい。
>……仕方ないですね、自己紹介することにします。私の名前は「3番目の神」です。それ以上でもそれ以下でもない存在。これ以上、話すことは無いです!
そっとログを閉じた。
顔は見えないけれど、絶対、ドヤ顔をしていたはずだから。
>ちょっと! なんでログを閉じるんですか!?
閉じたはずのログが、声と同時に有効表示された。拒否権は無いらしい。
これ以上、話すことは無いって言ったのに……典型的な「構ってちゃん」なのだろうか?
>うくっ――そ、そんなことありませんっ! 今のところ話したいことは全部伝えましたし、今日はここまでにしておきます! また来ますからね!
え? もう来ないで下さい。
>ダメです。――それじゃ、お馬鹿な天使が「何か動く」みたいですから、ここらで帰ることにします。死なないようにだけ、気を付けて下さいね♪
神の言葉で、視線をグスターに向ける。
さっきまで空中に浮かんでいたグスターが、今は大鎌を振り上げて目の前に接近していた。
早い。よけきれ――
「もらったぁ!」
それは死亡フラグっていうんだよ、とか思いながら、銀色の刃が僕の首に吸い込まれていくのを眺めるしかできなかった。
――ゴキリっ!
嫌な音を響かせて、根元から折れた。……僕の首がじゃない。
鎌の刃が。
「ちょ、なっ、何なのよ!」
グスターが信じられないモノを見るような視線を僕にぶつけてくる。
いや、何なのよって言われても、僕も正直、驚いている。
何でだろう? 金属の塊がぶつかったはずなのに、全然痛くなかった。
警戒した表情で、グスターが飛びのく。
「きょ、今日のところは、引いてあげるわ! また来るから、覚えていなさい!」
そう言うと、グスターは空中に魔法陣を生み出して、その中に消えて行った。
視界の端でログが流れる。
>「星降りの魔神」から拠点を防衛しました。
>経験値34300を手に入れました。
>防衛ボーナスとして「無限収納」に獲得物品を「自動回収」します。
>熱い隕石(中)を手に入れた。
>熱い隕石(中)を手に入れた。
>熱い隕石(小)を手に入れた。
>隕石(中)を手に入れた。
>隕石(中)を手に入れた。
>隕石(極小)を手に入れた。
>隕石(極小)を手に入れた。
>……
膨大な数の隕石が光の筋になって、僕の横に開いた金色の魔法陣――多分、メニューのスキルの中にあった「無限収納」だろう――に吸い込まれていく。
城壁の外が灼熱の石ころだらけになって火事が起きないか危険だと思っていたから、片付ける手間が無くなって良かった。
……いや、最初の隕石で壊れた部分の修理は必要なんだっけ? あと、城の周りにある水田の被害を考えたら……。何だか、怖くなってきた。
そんなことを考えていたら、右手をシクラに引かれた。
不安そうな表情のシクラ。
なるべく優しい顔になるように気を付けてから、微笑みを向ける。
「終わったね」
「ミオさまっ、怖かったです!」
シクラが僕に抱き付いて来る。もきゅきゅ~な感触が、何だか懐かしい。
シクラを受け止めていると――
「わたくしも怖かったですぅ♪」
ラズベリが後ろから抱き付いてきた。
……こっちの人はわざとだって分かっているんだけれど、背中が「もぎゅぐゅっ」と幸せな感じなので、気付かなかったふりをしておこう。
いや、だって、ほら? 僕も大人ですから。




