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第12話_お風呂です!!

=山下三青の視点=


あの後、養殖やそれに伴う視察の細かい打ち合わせをして、お昼ごはんやその後も話をして、夕食の時も話をして、話をして、話をして、話をして、とことん話をして――現在、僕はお風呂に一人で入っています。


陶器製のおしゃれなバスタブは、足を伸ばしてゆっくり入れる大きさ。

洗い場にはタイルが貼られている。壁には、子爵という上級貴族のお城らしく、火と水の魔石を使った温水の出るシャワーが付けられていた。


目を閉じる。

やっと一人になれたという安堵感と、まだラズベリやシクラ、そしてローリエと話をしていたかったという興奮が入り混じった感覚。

とりあえず、明日、養殖池に使う候補地の視察もふまえて、漁師の奥さんだった人達から話を聞くことになったから、移動の馬車の中で、またラズベリやシクラと話をしよう。


養殖地の候補の選定、水温や水質のチェック、養殖する生き物の選定、市場価格の調査、養殖機材の開発、飼料の開発、完全養殖の技術確立、運搬機材の開発、付加価値の広報や宣伝――決めないといけないことや、やらないといけないことが山のようにある。


今も頭の中で、「陶器製のバスタブが作れるのなら、小型の魚や餌になる微生物の屋内養殖も可能だな」とか、「ガラス窓のガラスをもう少し厚く&透明度を高く改良して、水槽を作れないかな」とか考えてしまっている僕がいる。


……いけない、いけない。

休む時にはしっかり休まないと、頭の切り替えがうまくいかずに、逆に仕事の効率が下がるんだ。熱帯魚店を経営していた初期の頃に「24時間戦えますか?」状態で大失敗したから、身体がそれを覚えている。


でも、水産会社に勤めていた経験、熱帯魚屋を3年経営した経験、失意の中、公園の池の掃除や鯉の餌やりをしていた経験――その全てが、これからの僕の事業に生かすことが出来るという確信がある。


運営の形としては、メーン子爵家主導の公共事業だけれど、中身は水産会社の経営と変わらない。

それに興奮を抑えられない自分がいる。

僕は、魚介類&水産業関連のチート知識で、この異世界で生き残ってみせる。

そして、お世話になっているラズベリやシクラを守ってみせる。

絶対に、そう、絶対にだ。


ちゃぷん♪

水音に気がついて目を開けると――ラズベリがいた。


慌てて顔を逸らして見ないようにしたけれど、しゅるりと白い腕が2本伸びてきて、正面を向かされてしまう。目の前に「もももきゅ~」な特大サイズの双丘と桜色の可愛いぽっち。そして、太ももの付け根には……こっちも髪の毛と一緒で紫色なんだな(現実逃避)


ラズベリは僕と目線が合うと、にこっと笑った。

「足を折りたたんでもらえますか? わたくしが入れないですので」

「はい、すみません」

慌てて足を折る。

ゆっくりとした動作でラズベリが湯船に浸かる。

あぅ。お湯に胸が浮かんでいる。湯気は仕事をしていない。


「ミオさんに聞きたいことが3つあったのです」

いきなりというか、そこにいるのが当たり前と言った表情でラズベリが口を開いた。

「き、聞きたいこと……ですか?」

「どうして、ミオさんはシクラのことを責めなかったのですか? 勇者召喚は人攫いと同じことだとミオさんも知っているでしょうに」

「それは――多分、シクラが可愛いからですよ。怒るよりも先に、戸惑いと親愛の情が湧いてしまいましたから――「嘘ですよね♪」」

目の前のラズベリは、にこにこと笑っている。

誤魔化すのは、無理そうだ。


「……本音を言うと、心の中のどこかで、元の世界に希望が見えなかったから『やっと逃げられた』って思ったからだと思います。残してきた借金だけが気になりますが、それさえなければ両手を上げて喜んだと思いますので」

「借金ですか~。起業して失敗したっていう話は、お茶の時間に聞きましたけれど――4100万円、わたくしが出してあげましょうか? 確か、きんの価値は、こちらの世界の方が安いみたいですし」

「それはダメで――「あら、報酬ですよ?」」

言葉が重なった。


「そう、報酬です。行き詰っていたうちの領地経営を切り開くチャンスをくれたのですから」

「……多すぎます。しかも、上手く軌道に乗った後じゃないと、受け取れません」

「そうですか、ミオさんはやっぱり真面目なのですね。分かりました。わたくしが報酬を払える日が来ることを楽しみにしています♪」

「はい。僕も笑顔で払ってもらえるように、頑張ります」


「それじゃ、次の質問です。どうして、ミオさんは私達に協力してくれるのですか? 領地経営なんて知らない、って言って拒否もできますのに」

「そうですね……これは、言い方が悪いかもしれないですけれど、僕の義務ですから。ラズベリやシクラと結婚するのですから、きちんとそれに見合った仕事をしないといけないなと考えています。それが、今回の魚の養殖や輸送や加工、それに伴う水稲のブランド化の確立を手伝うことじゃないかなと考えています。……でも、正直に言うなら、僕の趣味が半分以上混ざっている内容ですけれどね」


「趣味? ですか?」

「はい、元々、魚や水の生き物が好きだった性格もありますが、こっちの世界の未知の水域に興味が湧いたんです。どんな環境に、どんな生き物がいて、どんな利用価値があるのか――水産会社で働いた経験や熱帯魚店を経営していた経験も、多分、生かせそうですし」

「それだけですか? 嘘付きさんは嫌いですよ?」

にこにこっとした表情のラズベリ。軽く催促しているような顔だった。

多分、僕はラズベリに対して何かを誤魔化すということが、無理なんだろうなと思った。母親に嘘をつけない子どものように。


「……さっきも言いましたが、匿ってもらう以上、何かしらの対価を返さないと落ち着かないんです。それにメーン子爵家が安泰でないと、僕の異世界生活の基盤が危うくなりますので……その、ラズベリに、捨てられるのは、嫌なんですよ」

僕の言葉に、ラズベリが納得したような表情で笑う。

とても自然な、でも悪戯っぽい笑顔だった。

「正直な人は、わたくしは大好きですし、捨てたりなんかしませんよ♪ それじゃ、最後の質問です。Yウイルスのことは、どうするつもりなんですか? 何となく見ていて分かりますけれど、ミオさんは1年後に自然発火現象で死ぬつもりはないんですよね?」

「ええ。養殖の成功や、僕が介入することでどれだけメーン子爵領が発展していけるのかをこの目で見たいですし、ラズベリやシクラともずっと一緒にいたいですから。それにミクニ先生の記録を見れたら、治療法のヒントになりそうなものが多分、有りそうですし――色々と治療法の実験してみたいなと考えているんです」


「実験って……大丈夫ですか? ミオさんが怪我したり、病気になったり、死んじゃうような危ない実験は嫌ですよ?」

「はい。僕も自殺願望は有りませんから」

「本当に、本当に、気を付けて下さいね? あと、協力出来ることがあったら言って下さいね?」

「良いんですか?」

「領地経営の立て直しにアドバイスをもらったのに、わたくしだけもらってばっかりだと貴族の名がすたります。多少の資金援助とか、王国図書館の閲覧許可の推薦状を書くことくらいしかできないですけれど、それで良いですか?」

「もちろんです、ありがとうございます」

「それじゃ、真面目な話はここでお終いにしましょう」

そう言って言葉を終わらせるラズベリ。


おかしいな、温かいバスタブの中にいるのに、何となく寒気がした。

「――ぅふふっ♪ 身体を洗いっこしましょうか」

「いや、それは――「ダ~メっ♪」」


……結論から言うと、逃げられませんでした。


おっぱいは()こんなにも柔らかい()モノなんですね()


超、字余りだ。

そのおかげで、自分が錯乱しているのが、分かってしまった。

いや、だって、うん、仕方ないな。


ラズベリがいけないのだ。


 ◇


お互いの身体を洗いっこしてから、もう一度、湯船に浸かる。

ラズベリが僕の向かい側で嬉しそうに笑っている。

「ぅふふっ♪」

「?」

「楽しいなぁ、って思っていました。ミオさんといられる時間が」

「それは――ありがとうございます」

「ミオさんは、わたくしのことを女として見てくれていますから♪」

「否定は、しません」

「それなのに、欲望に負けていません」

そう言って、ちらっと水中にある元気な子(・・・・)に目線を向けた後に、ラズベリがじぃーっと僕の瞳を見つめてくる。

ちょっと真面目な表情。その紫氷アメジストは、吸い込まれそうなくらいに綺麗だ。

「欲望に負けそうですよ。くらくらしていますから――」

「でも、わたくしのこと、大切にしてくれているんです。……だから、大好きです」

ラズベリが笑顔になった。自然と僕も笑顔に変わっていた。

「僕も、ラズベリのことが大好きです」

なんだか、素直に言葉に出せたことが、とても嬉しい。


=ラズベリの視点=


お風呂から上がった後、自分の部屋のベッドの上で、思わず溜め息が出てしまいました。


最初の予定じゃ、こんなはずじゃなかったんです。

単に聖女騎士団がやってくるまでの時間稼ぎが出来れば良い。

積極的に身体を捧げるつもりは絶対にありえない。


――そんな気持ちでしたのに、ミオさんに女として見られることが嬉しいわたくしがいます。このままじゃ、近いうちに一線を越えてしまいそうです。暴走したわたくしが、ミオさんを襲うという形で。


「はぁ~、わたくしも、まだまだ女だったのですね……」

ベッドに寝そべりながら天井を見ます。

最初はミオさんをからかう(・・・・)つもりで冗談半分だったのに、洗ってもらった後からずっと身体の火照りが鎮まらないのです。お腹の奥がキュンキュンして止まらないのです。

いっそのこと、ミオさんの所へ誘惑しに行こうかしらとさえ思ってしまいます。


お風呂での反応から察するに、真面目すぎるミオさんが出会って数日で『そういうこと』をしてくれる確率はとても低いですけれど、あの可愛い顔を見ているだけで安心できるのです。


ミオさんと一緒に寝ることを想像するだけで笑顔になってしまう、わたくしがいます。

ミオさんは優しくて無垢ゆえに、穢したくなります。


……いけないことを考えてしまいました。わたくしは、魅惑チャームにかかってしまっている。

貴族の当主は健全な領地運営のためにも魅惑にかからない耐性護符を持っているというのに、それを突破してくるのだからミオさんは怖いです。

油断しては、いけないんです。欲望に身を任せては、いけな――


こんこん♪

ドアをノックする音。もしかして、ミオさんですか?

気がつくと小走りでドアを開けていました。

「ミオさ――こほんっ!」

言葉を区切ります。ミオさんじゃなくて、沈んだ表情のシクラだったからです。


「こんばんは、お母さま」

「こんばんは。珍しいですね、シクラが夜にわたくしの部屋に来るなんて」

「……2人きりでお話がしたいのです。良いでしょうか?」


少しだけ、気まずい空気が流れました。

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