第7話 狂った学校、光速の騎士
何でこれが?
この事は僕達しか知らない筈なのに……。
月乃も同じ気持ちらしく、僕のほうに目を向けて来る。
二人して固まっていると、千智先生が教室に入って来た。
千智先生は僕達の元に近寄ると、
「光君、月乃ちゃん、あれは本当?」
と聞いて来た。
何て答えればいいんだろう?
同棲っちゃ同棲だし、違うっちゃ違うからなあ……。
言いあぐねていると、
「千智先生、私達は同棲何てしてないです!」
と月乃が言う。
千智先生はおかしい……という顔をしながら、
「昨日手を繋いで買い物に行って、そのまま家から出て来なかった、という情報を耳にしたけど……。本当に同棲してないのね?」
と言って来た。
えっ……。
何で知ってるの?
そもそも、誰か見てたの?
僕達の少なからずの動揺を見て、肯定と取ったのであろう。
千智先生は
「やっぱり同棲してたのね」
と言うと、何処かに電話をし始める。
周りの目線が気になるが、気合いで無視して月乃に話し掛ける事に。
「月乃、皆に知られちゃったね…」
「うん…。だけどいつかはばれてただろうし、その時が今だっただけだよ」
月乃の前向きな発言で、少し気が楽になった。
すると電話を終えた千智先生は
「光君も月乃ちゃんも大胆なのね♪流石は遥ちゃんと沙織ちゃん達の子供だわあ♪」
と。
因みに、父さん達と怜さん達と千智先生は学生の頃仲が良かったらしい。
僕と月乃は同時にため息を吐くと、席に着こうとした。
その時である。放送が聞こえた。
ピンポンパンポン
「今日は朝から放送何てしてすまないのぉ。ところがじゃ、それをせざるをおえない状態に陥らせた不届き者が居る。恐らく知っていると思うが、二年二組の瀬川 光じゃ。奴はこの渚高アイドルの月乃ちゃんをあろう事か家に連れ込んだのじゃ」
おいおい…。
かなり出鱈目だよ。
というか、校長がそんな事言う?
そんな校長に対する疑問を浮かべていると、放送の続きが流れた。
「そこでじゃ。今日の授業は止めとする。と言っても、特別な内容に変わっただけじゃから心配はいらんぞ。その内容じゃが、簡単に言えば瀬川 光を儂の所に連れて来るだけじゃ」
……あぁ、僕を校長室に連れて行くのか。
そりゃ簡単だ。
………ん?
誰を連れて行くって?
あれ……僕?
僕の心境を知ってか否か、放送は続く。
「そして見事、瀬川 光を連れて来れたなら、あの有名大学、桜花大学の学校長推薦を与えようぞ」
何!?
あの全国トップ10に入るかと言うほど人気大学、桜花大学の学校長推薦!?
欲しいと思う人が多い筈…。
「我が学校からの推薦枠は2人。丁度いいから2人1組になり、奴を捕まえるのじゃ」
はははっ。
本格的に僕を捕獲するつもりか……。
ん?
そういえば、僕は捕まえられるだけ?
「ふっ、心配するでないぞ、瀬川 光。おぬしが無傷で儂の元に来れたらおぬしを推薦してやろう。もちろん、パートナーも一緒にじゃ。どうじゃ、悪くは無かろう」
この爺さん、人の、それも離れているのの心を読むとは、かなり出来る…。
にしても、まったくもって悪くない。
というか、逆にかなりいい。
でもパートナーねぇ……。
皆、目が血走ってるし、変なのと組むとこっちが逆にヤバそうだな……。
一応、これの原因は僕と月乃が一緒に暮らしてる事だし…。
眉間に皺を作りながら、うーんと唸っていると、月乃が話し掛けて来た。
「ねぇ光ちゃん、一緒に組む?」
「止めたほうがいいよ。僕と組むと皆が凄い勢いで襲いかかってきそうだし……」
僕は大丈夫だけど、月乃が怪我をするのは嫌だし、沙織さんに合わせる顔がない……。
しかし月乃は引き下がらず、
「光ちゃんとだったら大丈夫だよ!第一、光ちゃんって小さい頃からおじいさんから体術習ってたんだから、そう簡単に殺られないよ♪」
と軽々しく言う。
月乃、字が間違ってない?
それともそれで合ってるの?
僕、今日殺されかけるの?
月乃の言葉に冷や汗が流れたが、先程の説明をしようと思う。
僕の祖父、瀬川 皓一は世界各国を武者修行で訪れ、その先々で道場破りをしていたらしい。
その課程で独自の体術を開拓、昇華させたそうで。
そして帰国後、格闘技界に殴り込み、当時はかなり恐れられていた。
そうして格闘技界における地位を獲得後、妻ができ、子が生まれ、孫が生まれた時、
「この子に我が全ての体術の極意を教える!」
と言い張り、5歳から爺ちゃんが行き先不明の旅に出るまでの10年間、徹底的に体術を教わった。
まったく、酷いもんだよ。
素手で熊を倒せとか、素手で猪を倒せとか、終いには自分を倒してその屍を越えて行けとか、色んな修行という名の拷問を受け続けたし……。
まあそんなこんなで、そんじょそこらの人間には負けない。
無論、人間じゃなくても負ける気はしない。
だからと言って、月乃をわざわざ危険に晒す必要はない。
だけど、月乃は絶対僕と組む、と言い張っている。
悩んだが、月乃の目に涙が浮かんで来たので結局僕からパートナーになって、と頼む羽目になった。
僕っていつも月乃の涙に弱い…。
「たぶんパートナーも決まった事じゃろうし、そろそろ開始じゃ。準備は出来たかの?」
準備か…。
よしっ、今から月乃と道順の確認「スタートじゃ!!」
うおぃ!!
準備時間短くない?
と言っても、そんなの不必要だけどね。
「じゃあやりますか!」
「ラジャーだよ、光ちゃん♪」
そう言い合い、教室を出ようとした刹那、クラスの大半が
「「瀬川をコロセ!!」」
と言いながら飛び掛かって来た。
月乃を守る為、背後にまわらせ、男子生徒約15人と対峙する。
最初の奴のパンチを躱し、カウンター。
続いて二人が両側から同時に襲いかかって来たが、頭と頭を叩き合わせる。
次は飛び蹴り。
面倒だったので、蹴って来た瞬間、脚を掴むと他の集団に投げつけてやった。
その攻撃が意外や意外、効果覿面で殆ど動かなくなった。
彼等が起き上がらないとも限らないので、ひとまず月乃の手を掴み、廊下へ。
月乃が何も言わないのに気になり、見ると、小刻みに震えていた。
「月乃、大丈夫?恐かった?」
そう聞くも返事はない。
こんな時は爺ちゃんどうしろって言ってたっけな?
うーん……。
あっ!そうだ!
そんな時は「抱き締めて、愛の告白を!」だった!
そうか、そうすればいいのか……って違う!!
1人、漫才をしていても、月乃の震えは止まる気配がない。
こうなったら、爺ちゃんの知恵を使おう。前半だけどね。
そう決心し、月乃に近付く。
「月乃……恐かったよね……ごめん」
そう言い、軽く抱き締める。
月乃は一瞬ビクッとするが、次第に落ち着き、強く抱き返してきた。
嗚呼、月乃の胸が……じゃない!
月乃のいい匂いが……じゃない!!
一度心を落ち着かせ、月乃の頭を撫でてやる。
すると月乃の震えが徐々に止んできた。
ふぅー、一件落着かな?
安堵の色を浮かべていると、今の様子が恥かしくなった。
急いで月乃から離れようとするも、月乃が力一杯くっついてくる。
「月乃、と、とりあえず離してくれない?」
声が裏返ってしまったが、言うと月乃はゆっくり離れた。
「大丈夫?」
もう一度尋ねるととても弱々しく
「うん……」
と頷く。
月乃……恐かったよね……。
ごめん……。
心の中で謝り、もう月乃を怖がらせないようにするには、どうすればいいか考える。
頭をフル回転させ、考えに考えた結果、月乃を抱えて校長室にダッシュが一番ではないか、と。
抱え方は恥かしいけど、俗に言う『お姫様抱っこ』がベストだろう。
脚の稼動範囲が広いし。
そうと決まれば善は急げ(?)だ。
月乃に一言
「ちょっとごめんね」
と告げ、抱き上げる。
月乃は
「えっ!?こ、光ちゃん!?ち、ちょ、ちょっとな、何を!?」
と凄く吃りながら言ってくるが、ここは心を鬼にしなければ。
その状態で走り始まると、月乃は僕の心境を理解したのか、何も言わずにギュッと首にしがみついてくる。
月乃が頼ってきてくれる、という感覚が嬉しくて、校長室までスピードを落とさず走った。
もちろん、途中でかなりの数の人間を蹴散らしましたよ。
月乃に気付かれないように相当な速さでだけどね。
校長室に着いたので月乃を降ろし、ノックなしで突入。
「光ちゃん、ノックしなきゃダメだよ!」
そんな声が聞こえたがスルー。
というか、聞こえてなかったと言ったほうが正しい。
今は校長を一発殴る事しか頭にないのだ。
校長に飛び掛かろうとした所、
「随分と早いのぉ。開始30分ほどで此処まで来るとは、流石は皓一の孫であり、唯一の弟子の光君じゃな」
と言われたので、一時停止。
話を聞いてみる事に。
「何故爺ちゃんの名前を?もしかして知り合いでしたか?」
「知り合いというか、無二の親友じゃ」
えっ、この人爺ちゃんの親友…。
それにしても、僕の周りの大人ってどこらしかおかしい。
これは法則なのかな?
うなだれ、ため息を吐くと、
「まあ、儂等の事はいいじゃろ。話は変わるが推薦じゃな。一応聞くが、おぬし等二人は桜花大学への進学で良かったかのぉ?」
と聞かれたので、ええと言うと月乃もはいと答える。
「じゃあ、来年度の推薦はおぬし等じゃ!」
校長は意気揚々と言い、良かったのと肩を叩いて来た。
その後、クラスに戻ると悲惨な情景だったが、千智先生がホームルームを始めていた。
僕も月乃と共に席に着き、千智先生の話を聞く。
明日の主な連絡をし、今日は早くも学校が終わった。
この日以降、僕は『光速の騎士』と呼ばれている。
全校生からの畏怖の対象になった事は言わずもがなであるが。
やっと書き終わったぁ!
はあはあ…。
冬期休暇の課題を片付けつつ、予習をするという日々…。
満足な物を書くのに時間がかかってしまいました。
以後は計画的にやって行きたいとつくづく思いました。
それでは、感想/評価、宜しくお願いします。